インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
午後4時、楯無はほぼ毎日欠かさず行っている航のお見舞いへと訪れていた。
手にはお見舞いの品である果物を果物かごに入れたものを持っており、そして航の病室がある5階へとエレベーターで上がり、そして病院の奥にある個室の扉を開ける前に深呼吸をし、そしえてタッチ式の自動扉を開ける。
「航~今日もやってきたよ~」
笑みを浮かべながらテンション高めに言って、病室のベッドに寝ている航に近づく楯無。だがその笑みも、航の寝顔を見たときに少し悲しそうな表情へと変化し、そして近くにあった簡易椅子に座り、眠ったままの航の頬をや足く撫でる。
ただピッピッと心電図が響くこの部屋で、ただ体温で温かい頬を撫で続けるが、彼は何も反応を示さずにただゆっくりと呼吸をしてるだけ。
楯無はただ、小さくため息を漏らすだけであった……。
目を覚ましたとき、航は海の中に沈んでいた。
「がぼぼぼb……あれ、息できるし喋れる……。てかなんで海の中?」
いきなりのことで慌てたが、呼吸ができると分かるや否や、一気に落ち着きを取り戻して、とりあえず周りを見渡す。
ただ周りに見えるのは真っ青の海とその下のあるごつごつとした岩だらけの海底。そして自分がいるところは上を見るに水深約40mぐらいだろう。昔海もぐったりするのが好きだったから、大体わかるのだ。
だがなぜ自分は水中にいるのか分からず首を傾げると、この時下の方から気泡が上がる。それも1つ2つではなくコポコポと大量に。いったい何があるのかと思い下を見ると、それを見た航は驚きの表情を浮かべた。
「ご、ゴジラ!?」
「グルォォォ……」
そう、水深80~100のところにゴジラがいたのだ。ゴジラは休んでるらしく、体を丸めて、時折岩に肌をこすりつけていた。
この時興味からか、航はゴジラのいる所へと下りていき、近くにあった岩の裏に隠れてその姿をマジマジと見る。
その時だ。まるで自分と目が合ったような気がしたのは。
「っ……!」
その虚ろな目は憎悪に塗れており、時折疲れを感じさせる眼でもある。だがその眼に見られても航は恐怖を感じなかった。
その時上から潜水士が下りてきた。潜水士は2人で、片方は何か手に持っており、2人はワタルはいる岩陰とは違う岩陰に隠れ、ゴジラに気付かれない様に忍び寄っていくのだ。
この時ゴジラは全く気付いておらず、航がいる岩陰へと近づいていく。
いったいあれが何なのか分からないが、航にはとても怖いものに感じる。それは全てを無に帰す恐ろしいもの。
何故それがわかるのかわからないが、ただそれが怖かった航はゴジラを逃がそうとゴジラに近づくが。
その時『ソレ』は起動した。
『ソレ』から出た大量の水泡はそのまま水面へと向かうが、その途中にあった魚や海藻類が水へと化す。
いったい何が起きてるのか。航の頭では理解することができず、ただその光景を見てるだかでった。
「グィォォォ!?」
「ゴジラ!?」
この時ゴジラは苦しいのか、体が海底に倒れ、岸壁に体を何回もぶつける。その時に大きな地響きが起きて落石などが起きるが、『ソレ』を使ってる潜水士のところには関係なく、その時1人の潜水士が水面へと登って行った。
「ギュワァァァァアアアア!!!」
ゴジラは『ソレ』によって苦しんだ。
その断末魔は海水を大きく振動させ、数か所で落石が起きる。航の上にも岩が落ちてきたため、急いでその場から退避し、少し登ったらゴジラは苦しみからか急いで水面へと昇っていく。
そして海面に顔をだし、目の前に映る船を射殺さんとするほどの目で睨み、最期となるであろう声を上げる。
「グォォァァァァアアアアアア!!!!!」
そして断末魔を上げた。その後力尽きたゴジラはそのまま海底へと沈んでいく。そして海底に落ち、泥を巻き上げた後に小さく鳴き、ゴジラは完全に力尽きた。
そしてその巨体が溶けだし、航はあることを思い出した。それは子供がまだ生きてるということを。
だがすでに遅い。巨体はすでに骨と化し、そして骨は海流にのまれどこかへと流れていく。
手に『ソレ』を持ってた人もすでに溶けており、今となってはここは死の海域でしかない。
魚も、海藻も、行きとし生きるもの全てを殺し、海は静かになった。
「だれか……いないのか?」
航は静かになった死の海を移動し続ける。あまりにも静かすぎる光景に恐怖し、体の体温が奪われていくのか震えが止まらない。
「な、何だよ……寒い……」
そして目の前は真っ暗に染まっていく。意識はあるのに。
だがこの時気付いたのだ。自分の意識が無くなるのではなくて、イカ墨をばら撒かれたかのように黒く染まっていくのだ、と。
そしてすべてが黒く染まり、航はその場をクルリと見渡す。360°全てが真っ暗ながら、自分の姿がはっきりと見えることに疑問を持ちながらも、いったい何が起きたのか考えることにした。
『憎イ。憎イ……』
その時声がした。幾つもの声が割れ、それが折り重なった重い声。
それは闇だった。白濁色の2つの光を放つ、全てを飲み込む深い闇。触れてしまえばその深淵へと引きずり込まれ、永遠に帰ってこれない。
『家族殺シタ。人間、全テ殺シタ』
その闇から血の色のような赤い口内が見え、血で汚れた牙が見え隠れする。
『全テガ憎イ。何モ、カモ……』
「何だよ、こいつ……」
航はその闇を怖いながらも見つめる。その時だ目が合ったように感じたのは。
『貴様モ全テ失ウ。家族モ女モ、全テ』
「どういうことだ!」
奴は自分が見えるのか?だが今となってはこの死の海域にいるのは自分とこの『闇』だけだ。
『人間ハ愚カダ。己ガ行ッタ事ガ全テ撥ネ返ル。貴様モ我ト同ジニナル。タダ、何モ守レズ、己ヲ呪イ、全テヲ無二帰ス力ヲ欲スル』
「俺はあいつを、刀奈を護るんだ!」
『己ガ弱イノニ、ドウ護ル?タダ借リタダケノ紛イ物ヲマトモニ乗リコナセズ、タダ迷惑ヲカケテルダケノ分際デ。ダカラ護レズ、力ヲ欲スル。ソレガ貴様ダ』
「違う!俺はそんなのいらない!」
『ダハハハハ!』
「っ……!?な、何が可笑しい!」
航は『闇』が笑うときに感じた憎悪に恐怖した。まるでたくさんの人が蠢くかのような、タールみたいなどろりとした感覚に。
『モウ呪イハ引キ継ガレタ。全テヲ失ッタ貴様ハ最期、泣キナガラ無二還ル。モウ戻レナイ。時ハ動キ出シタ。人間ガアノ炎ヲ手二入レタトキカラ』
そう言って闇は収束し始める。周りが真っ暗でもその形がはっきり見え、闇は龍の形を模し始めた。だがその姿は東洋の青龍のような細長い体ではなく、がっしりとした四肢に大きな体。そしてヘラジカの角の様な背びれに白濁色の目。
その姿はゴジラに酷似していた。だが大きさがどう見てもおかしく、約100mぐらいあるようにも見える。
「ぅ……あ……」
航はその大きさに恐怖した。逃げようにも体が動かず、航はその大きな手に捕まってしまい、そしてその『化け物』の口元に運ばれ、そして大きな口が開く。
この時ワタルは自覚した。自分は食われるのか、と。
“いやだ”や“助けて”と声に出そうにも声が出ない。まるで何かによって喉を潰されたかのように。
そして闇が自分の体に絡み始め……。
『……る』
その時声がした。自分がよく聞く声を。いったいどこから聞こえるのか……。
『……たる!』
その時闇に光が差した。そして光を浴びた化け物はその部分が崩壊する。そして指した光から1つの手が差し伸べられた。
『航!』
自分を呼ぶその声は刀奈に似てた。
航はそれを無我夢中で掴む。その時冷え切った体に温かい体温が伝わる。その暖かさで体は動き始め、縋るかのように手を逃げる力を強める。
『コレハ始マリダ。覚エテオケ』
それを最後に闇はニヤリと口角を上げ、霧散した。そして航はそのまま引っ張られ……。
楯無は航の頭をさすっているとき、航から小さく呻き声が上がったため、手の動きが止まる。
「ぅ……ぁ……」
航の顔はドンドンと蒼白になり始め、ドンドン汗をかき始めた。
「わ、航!?」
今までそんなことがなかったため、楯無は航の手を掴み、それを自分の胸元に寄せる。これで何かできるというわけでもない。だが、もしかしたら……。
楯無は一応のため、ナースコールを押し、1~2分後に医者が現れ、航が呻き声を上げてることに驚きを隠せなった。彼の症状はメガヌロンの毒による肉体の腐敗と壊死。これが肺近くまで達していることから、最悪意識が戻らないという可能性が高かったのだ。
だがこうやって魘されるとなると、恐らく痛みが原因と思われるが……。
「……け、て……」
「「「!?」」」
この時航の口から蚊の鳴くような音でだが、声を出したのだ。
「航!」
楯無は航の手を握る力を強くする。
その時、楯無が首にかけている勾玉が輝き始め、その暖かさが2人を包み込む。
だが……。
「あ……が、ぁ……!」
航は何か苦しいのか楯無の手を振りほどき、行きができてないのか自分の喉を押さえ、そして口から一筋の血が流れる。
そして航が横向きになった際、背中がモゾモゾと動いたのを楯無は見た。そしてゆっくりと延びていた背びれが今まで見たことない速度で生え始め、30秒経つ頃には大きいので30センチの背びれが3列に背骨に沿って幾つも生えて来たのだ。
そして航は横向きになった際にやっと落ち着いたのか、寝息もおとなしいものとなる。
「……ん……」
そして航の瞼がゆっくりと開き、その瞳が楯無を見つめた。
「ぅ……あ……、かた、な……?」
「わか、るの……?」
「ここ、は……」
この時楯無の目には涙が溜まっており、そして航を強く抱きしめる。
「航……よかった……。本当によかった……!」
その痛みに航は顔を一瞬しかめるが、ただなぜ彼女が泣いてるのかが分からず、少し困惑する。
ただ、彼女に抱きしめられるは悪くなく、そこ感触をもう少し味わうのであった。
場所が代わり、ここはフランス、デュノア社。
その社長室へ向かう廊下で男は前を進む女に抗議の声を上げていた。
「マーサ!これはどういうことだ!?」
「どういうことってこういうことよ。あの娘をこの会社で生き残れるようにしただけ。それが何か?」
この黒いスーツを着た男はデュノア社社長、カークス・デュノア。顎髭が少し伸びた肌の色が少し黒い40代の男である。
そしてカークスが話しかけてる赤いスーツを着た相手は、彼の妻であるマーサ・デュノア。ブロントの髪に、赤いルージュが塗られた唇。そしてメイクのせいか、見た目は30代前半に見える。
この時カークスがギャンギャンといろいろ言うためマーサはため息を漏らした。
「もううるさいわねぇ……。いったい何なのよ……」
「だ、か、ら!何故あの歳でここまでの身体能力になる!」
彼が見せた資料には、シャルロットデュノアと書かれた少女の身体能力だ。そしてもう一枚はこの年の少女の身体能力。それを見比べると、シャルロットの身体能力や反応能力は場合によっては国家代表にも匹敵するものであり、歳不相応の能力へと化していた。
「それはあの子の努力結果でしょ。それぐらいわからないの?」
「……っ!なら……、なぜあの子から私の記憶を消した!」
「……何のこと?」
この時マーサの歩みが止まる。
「言い方が悪かったな。何故あの子が私を敵視する?私はあの子をしっかり育ててきたのだぞ。シャルロットが笑顔でいられるように!」
「……ちっ」
「何だその態度『パンッ!』ぐぁぁ!き、貴様ぁ……!」
その時マーサの手には拳銃が握られており、その銃口から放たれた弾は彼の腹部を貫いていた。そしてカークスの腹部は服越しに赤く染まり、彼は痛みからか両膝を着き、マーサを忌まわし気に睨みつける。
だが、マーサは逆にカークスを見下すかのように睨みつけており、その口には不気味な笑みが浮かんでいる。
「貴方は私に従っておけばいいの。私は彼女に男は敵、と教えただけ。だってそうじゃない。今の世の中男は唯のゴキブリみたいな害虫じゃない。……確かに貴方は私を不自由させることなかったわ。だけどそれだけじゃ物足りないの。そもそも貴方、私のこと嫌いだったの?」
「当たり前だ!私は元々お前と結婚する気などなかった!私が愛したのはケィラだ!だから彼女との間に子供を作りその子をシャルロットと名づけた!これで私はケィラと結婚できてればすべて丸まっていたのをお前は壊しーー」
「黙りなさい!」
「ぐぅぅ……!」
そして再び銃弾が2発放たれ、それが足の甲を2か所貫く。それの痛みで完全に床に倒れ、痛む足を手で押さえており、冷や汗を流しながらも先程より鋭い眼つきでマーサを睨みつける。
「権力を欲して何が悪いの!?それが人間の欲じゃない!愛とかそんなの人間が作り出した妄想の粘膜でしかないわ!」
「うるさいぞ、父の妾の娘が!」
「-ーーっ!」
その時マーサは拳銃の引き金を何回も引いた。
この一言だけは言われたくなかった。母親が妾であるが、自分は全く不幸にならずに生きてきた。昔は目の前にいる腹違いの兄とは仲が良くなかったが、お金の荒使いをしても全く何も文句は言われなかったし言わせなかった。
姪を利用して何が悪い。しっかりと管理できてない兄が悪いんだ。
そして拳銃から弾が出なくなるまで引き金を引いた後、そこに残っていたのは己を睨みつけながら死んだカークスの遺体だった。
そしてマーサは携帯を出した後、
「ええ、私よ。社長は事故で死んだわ。……えぇ、だから私が今から社長。これを全社員に伝えておきなさい」
そして通話終了ボタンを押した後、再び別の番号に電話を掛ける。
そして出た相手は……。
『何でしょうか、お母さん』
「シャルロット、指令を出すわ。内容はーー」
ついに目覚めた航だが、彼には帰るべき場所を失っていた。それを知った時、航は何を思うのか。