インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
一夏が目を覚ました時、目に映ったのは真っ白な天井だった。
「俺の知らない天井だ……。ってここどこだよ!」
一夏は勢いよくからだを起き上がらせようとするが、この時いきなり体全体に激痛が走ったため、一夏は再びそこに倒れてしまう。あまりの激痛に体がプルプル震えていたが、それなりに慣れたのか一夏は痛みのせいか冷静になり、改めて今いる部屋を見渡す。
そこは壁も天井もすべて白で基調されており、ただ自分がいるベッドの周りには病院などでよく見る棚とテレビが備え付けられており、そして近くに点滴のパックとそれをつりさげてる金属の棒があった。
「あれ、これって点滴だよな……いったいどこに……あっ」
このとき一夏は自分の手に点滴がされていることに気付く。そして自分の姿も病院服となっていることに気付いた一夏は、ここが航が前入院してる学園敷設の病院なのだとわかり、とりあえず今の現状がどうなってるのかとても知りたかった。
あれから機龍は、航はどうなってしまったのか。あの時一緒に戦ってくれたラウラ・ボーデヴィッヒはどうなったのか。彼にとってはいろいろと大事なことばかりである。
現在彼のいるベッドのすぐ近くには外を覗くことができる窓があり、一夏は頑張って半身を起き上がらせようとするが、痛みのせいで冷や汗が流れ始め、顔はとても引き攣ってしまっている。
「ぐぉぉ……体全体に響く……!」
「ったく、その状態で動こうとすると体に響くぞ」
そのとき、ふいに女性の声が聞こえたため、一夏は声の下法に首を向ける。そこにいたのは銀色の髪に黒の眼帯を付けた、病院服を着た少女だった。
「お、お前は……」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。別にラウラでかまわん」
そう言ってラウラは、病室のドアの近くにあった簡易椅子を手に取って一夏のもとへ行き、そして彼のいるベッドの近くに椅子を置いて彼女はその上に座る。
いったい何の用なのか。一夏は少し彼女を警戒していたが、そのときラウラはふいに口を開く。
「織斑、1つ聞きたい」
「な、なんだ?」
「あの時、本当に機体が勝手に動いたのか?」
ラウラが言ってるのは一夏が勝手に機龍がいる場所に向けて飛んだ時のことだ。あの時一夏は白式を止めようと必死だったのをはっきりと覚えており、一夏ははっきりとした声で答えた。
「あぁ、本当だ」
「……そうか。嘘言ってるのなら一発殴ってやろうと思ったが、その目つきは本当のようだし勘弁してやろう」
その顔をじっと見つめていたラウラに冷や汗をかいていた一夏だが、彼女は小さく笑った後にその顔の距離を離した。
何かえらいラフな言い方のラウラに強い違和感を感じた一夏はなぜこうなったのか少し気になるも、これは聞かない方がいいなと心の中にしまう。
「あ、それと俺のことは織斑って呼ぶより一夏と呼んでくれ。千冬姉と被ってしまうしな」
「むっ、そうか。ならこれからよろしく頼むぞ、一夏」
そういって手を差し出してきたラウラ。一夏はこれが何なのかすぐに察し、こちらも手を差し出して握手をする。
その後は割と仲良くなった一夏とラウラはいろいろと話し合っていたが、この時一夏はラウラに強い違和感を感じたのだ。それはまさに、外国人が「日本には今も侍と忍者がいる」という時の感覚に似ており、恐る恐るながらそれらの知識はどこで得たのか聞いてみると。
「ん?部下が貸してくれた漫画というもので学んだが……」
「なるほど、それか……」
一夏は頭を軽く抱え、ラウラはそれの何がおかしいのかと言わんばかりに首をかしげる。一夏は小さくため息を漏らすと、何がおかしいのか、だいたいであるが説明を始めた。
それらを聞いていったラウラは驚愕とショックが大きいのか完全に頭を抱えており、暗い雰囲気を漂わせている。
その時だ、病室の扉が開き、中に入ってきたのは制服を着た鈴だった。彼女は手にお見舞いの品が入ってる籠を持っており、それのせいで前が見えてないのか少し足取りが不安定だ。
そして彼女は籠を近くにあった簡易椅子に置き、一夏の方を向く。
「一夏ー、起きて……ってなんであんたがいるのよ!」
「んっ?なんだ、鳳鈴音か」
「何よその言い方」
「り、鈴、元気そうだな」
鈴がラウラに向けて睨んでいるため、一夏はこの空気をどうにかしようととりあえず鈴に話しかける。だがこれが功を制したのか、先ほどまで目つきが少し悪かった鈴の雰囲気ががらりと変わり、満面の笑みを一夏に向けた。
あまりの変わりように一夏は少し顔が引きつった笑みになっており、ラウラもキョトンとした表情になっている。
「にしても一夏が無事でよかったわ。病院に運ばれたって聞いた時は居ても立ってもいられなかったわよ。他には怪我した生徒がたくさんいたし。にしてもあんたも割と元気みたいね」
「当たり前だ。軍人ぐらいならこれぐらいの怪我とか何ともない」
今の一夏の姿を見て安堵した鈴は、割とぴんぴんしてるラウラを見てそう言い放つが、そういうラウラはどや顔で真っ平らな胸を張って言い放つ。実際は彼女の中に投与されている、治癒型ナノマシンが作用してここまでの回復力を見せてるのだが、それでも彼女は1日で全快になるほどの回復力を見せており、医者たちは驚きを隠せなったそうだ。
「すげえな……。てかあれから何日たったんだ?すでに外は夕日が差し掛かってるけど……」
「ん?だいたい3日ほどだな」
「おかげですごかったのよ?箒やセシリアが様子を見させろって迫ってきて……」
鈴はそのときの状況を話していく……。
「だからなぜそれができない!」
「そうですわ!おまけになぜ鈴さんだけが見舞いに行ってもいいんですの!?」
あの暴走事件から次の日の放課後、箒とセシリアは病院のロビーで鈴に向かって大声を上げて反論していた。けが人があまりいないとはいえここは病院、鈴は「静かにしなさいよ!」と一喝したため2人はさらに声を荒げそうになったが、ここが病院ということを思い出し、周りからの視線に気づいたのか一気に静かになる。
鈴は小さくため息を吐いた後に、2人を連れていったん病院の外へと連れていく。今は静かになっても、再び声を荒げる可能性があるため鈴はこういう処置を取ったのだ。そして病院の玄関口からでてすぐ左に曲がると、そこからは前の機龍暴走によって崩れた病院の一角が見えた。現在は下に落ちた瓦礫は撤去され、崩壊した壁などはブルーシートなどで被われているが、その傷跡はとても痛々しく残っている。
今ここで大声を出しても誰も気にしないため、その場で話し合うことにする。
この時箒とセシリアは一夏のことを心配しており、彼の様子が気になっていたのだ。だが……。
「なんで入れてくれない!航がつけた傷がそんなにひどいのか!?」
「そんなんじゃないわよ!てかISには絶対防御があるのよ、だからそこまで怪我はしてないって言ってるじゃない!」
「なら入れてくれてもいいではないか!そんなに私を入れるのは嫌か!」
「違うって言ってるでしょうが!一夏の意識が戻ったらちゃんと言うって何回説明したらわかるのよ!」
その後ほぼ繰り返しに近い言い合いをしている2人。
だが途中から航への悪口が混じりはじめ、さすがにおかしいと思い始めたセシリアが制止させようとするが箒は完全にヒートアップしており、セシリアの言葉が聞こえていない。おかげ売り言葉に買い言葉と言わんばかりに言い争いになり始めた。
「あれが航の本性だろ!あの背びれ、前々から思っていたがゴジラそっくりではないか!」
「あんた……それ、本気で言ってるの?」
この時のトーンダウンした鈴は、先ほどとは全く違う雰囲気のためセシリアはいきなりの変わりように息をのむ。だが箒は先ほどと変わらず激情したままで、彼女の変化に全く気付いていない。
「うるさいぞ貧乳!」
「何ですってぇ!?なによこの牛女!」
「なんだと!?」
そして箒と鈴の言い争いはヒートアップしていく。もう途中からセシリアが間に入っても2人を止めようとするが、完全にのけ者にされていて困り果ててしまう。
「なぜお前はあやつを庇う!なにも得がないだろ!」
「そもそもなんで航が一夏を意味もなく傷つけてると勝手に決めつけてるのよ!あいつ、馬鹿力だけど相当なことがない限り相手を傷つけないのよ!?おまけに仲がいい一夏を傷つける理由なんて無いじゃない!」
「だがあいつが傷つけたに変わりはないだろ!」
「そもそもあんた、なんでそんなに航を嫌悪してるのよ!」
「そ、それは……」
「箒、さん……?」
先ほどの勢いはどこに行ったのか、箒の態度が急変してオドオドしたものへと変貌する。いきなりの変化に隣にいたセシリアは驚きを隠せず、鈴もこの状況には眉をひそめた。
「わ、私にもわからない……。昔は全く思わなかったのに、今となっては航に対してそういう感情ばかり……。なんだこの感覚は……?訳が分からない……。気持ち悪いぞ……」
そしてぺたりと座り込む箒。その顔は先ほどまで真っ赤だったのに対し、今は逆に真っ青になっている。いきなりの変化に鈴とセシリアは戸惑いを隠せず、とりあえず彼女を自室に連れていくことにした。
それから今日まで、箒は学園を休んだのだそうだ……。
「箒……どうしちまったんだ……?」
「私だって知りたいわよ。さっきまで顔真っ赤にして怒ってたくせに、今度はいきなり顔が真っ青。もう信号とでもいえるほどだったわ」
一夏は鈴から聞いた箒の様子に強い不信感を持った。いくら暴力を振るうとはいえ、昔はこんなことを全く言わなかった、良く言えばまっすぐな子だった。それが一夏の持っていた箒の印象だ。
だが今聞いた箒の姿は真逆ともいえる、実際彼女が嫌うタイプの人間になっているのだ。いったい何があったのか、自分と離れている間にいったい何が……。
「俺、退院したらちょっと箒と話してみる」
「なっ、本気なの!?」
「俺に確執する理由があるなら俺が聞かないとダメだ。まあ、さすがに箒も俺を殺す勢いで木刀を振るわないだろうから、大丈夫だろ」
そう言ってあっけらかんと笑う一夏。だが鈴はそんな一夏に難色を見せており、少し顔を顰めている。だが一夏はそれに一切気づいておらず、ただ「まあ、大丈夫だろ」と言う。
その後、いろいろと3人で下らないことを話しながら時間が過ぎていくのだった。
そして少し長居しすぎたのか鈴は病室を去り、今は一夏とラウラだけがいる。そしてラウラも自分の病室に戻ろうと一夏のいる病室を去るために扉を開けるが、そのときラウラは一夏の方を無理向く。
「一夏、そういえば航といったな、あのメカゴジラ……機龍のパイロットは」
「あ、あぁ、そうだけど」
「言っておく。あいつ、自分の居場所を壊そうとしているぞ」
「は……?」
いきなり言われて理解ができなかった。そしてどういうことか聞き返そうとしたが、気づけばラウラはすでに病室から去っており、ただ一夏は目が点になったまま扉を見続けた。
「どういう、ことだ……?」
ただ一夏はそうつぶやくことしかできなかった。
あの日、VTシステムに呑まれたラウラはただ、あの戦いを見てるしかできなかった。自身の体の自由は聞かず、ただVTシステムに呑まれたシュヴァルツェア・レーゲンと、目を真っ赤にさせた機龍がぶつかり合う。
ただラウラはそれを止める術も持たず、2機がぶつかり合う様を見ておくしかできなかった。だがその時だ、機龍がめーさーブレードをこちらに突き立て、電撃が来ると同時にVTシステムは機能停止。そしてシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーが一瞬ともいえる勢いで無くなったが、これは絶対防御が発動した結果なのだろう。
そして機体が消えてラウラは強制的に外に排出される。はずだった……。
「こ、これは……!?」
それは不思議な空間であった。上も下もない、ただ何もない空間。これはいったい何なのか、ラウラは四肢をもがいてみると、宇宙のように回転することもなく、思うとおりに体が動くため少し動揺を隠せない。
だが彼女は頭の中でこれが何なのか考えてるうちに、とある答えにたどり着いた。それはISによる共振現象のようなものだ。これは稀にながら起きる現象であり、それによってお互いの心が見えるという作用が確認されているという。
だがなぜそれが起きたかわからない。よりによって相手は機龍のパイロットとは……。
しかしラウラは、航がどういう人間か気になったのか、接触を試みようとする。
そして彼の中を見た。
それはどす黒い闇だった。触れるだけですべてを飲み込まんとする深い闇。
ラウラはいきなり重い感覚に体が沈みそうになるが、どうにか彼、航を探してみる。すると、どこからか声がしたためラウラは、その声が聞こえた方向に移動する、すると……。
「子供……か?」
そこにいたのは1人の子供、男の子だった。彼はワンワンと大粒の涙を流しながら泣いており、時折何か言葉を発している。
父さん母さんはどこに行ったの?なんで死んだの?誰か教えてよ……
「な、なんだこれは……」
とても悲痛な叫び声だった。何で少年が泣いてるのかわからない。
だが一つ思ったことがある
「こいつが、篠栗航、か……?」
その時だ、黒い着物を着た黒髪の女性が、少年を後ろから抱きしめるかのようにしてきたのだ。それは泣いてる子供をあやす母親のように見えたが、ラウラはその黒い女性からとてつもないほどの嫌悪感を感じたのだ。この暗い闇よりも強い嫌悪感を放つ女性は、いったい何者なのか……。
その時だ。女性はチロチロと流い舌を少年の首筋に這いずらせ、恍惚の表情を見せる。
「航ぅ……あんたの親は私よぉ……?あの2人はあのお嬢ちゃんが殺したのよぉ……?」
ねっとりとした話かた。
強い嫌悪感を感じたラウラはつい彼女に声かけてしまう。
「貴様、何者だ……!」
「おやおや、私の前に立って無事にいられる魂は初めて見たわぁ……」
そのとき女性はラウラのことに今気づいたのか、少年を抱きしめたままラウラの方を向く。だがこの時、ラウラは女性の顔を見たとき、強い嫌悪感を感じたのか顔を顰める。
なぜなら、黒い女性の目が、完全な白目だからだ。そして肌も蝋人形のように白く、まるで生気がないようにも感じる。そして背中も不自然な盛り上がり方をしており、人間とは思えない異様な雰囲気を放っている。
ラウラはいつでも反撃できるように構えるが……。
「ふふふっ。あんたのようなガキ、この私には敵わんよ。あのお嬢ちゃんの持つ“アレ”だけは嫌いだけどねぇ……」
彼女の言うお嬢ちゃんとはいったい何者なのか……。ただラウラはファイティングポーズを決めたまま、この場から動くことができない。それを見て興味を失ったのか、黒い女性は少年を胸元に抱き寄せ、そしてやさしく少年の頭をなでる。
「まぁ今は、私の機嫌がいいからここから去りなさい……。じゃないと……」
「っ……!」
それは強い殺気であった。あの機龍以上の殺気。それに怯えてしまったラウラは、急いでこの場から逃げようとする。
「それと1つ教えてあげるわぁ。この子、これから独りぼっちになるからねぇ?」
それと同時に、ラウラはこの場所からの意識が吹き飛ぶのだった。
そして彼女はIS学園の病院で目を覚まし、千冬からVTシステムのことを聞かれ、その後に一夏に会いに行くのだった。
ここは地下隔離病棟。IS学園でもしテロリストなどが現れ、捕獲するも重症などを負っていたら治療されそしてこの病棟に移される。基本的には一般病棟と変わらないが、壁には自傷行為防止用のクッションが敷き詰められており、場合によっては麻酔ガスが噴霧されるときがある。
その中の一室、航はただ壁を見つめていた。その眼は完全に濁りきっており、瞳もいまだ小さくなったままだ。上半身は何も着ておらず、時折背びれが擦れあってギチギチと音を鳴らしているが、今の彼にそんなことはただどうでもいいという思考すらしない。
機龍はすでに学園側に回収され、そこから強制解除の後に即集中治療室に運び込まれた航だったが、肉体的にほぼ傷もなく、レントゲンを撮るも骨折した箇所が見られなかった。ただ、骨折してからそれが完治した後なら多数あったが。
その後はこの暴走の主犯でもあるためこの部屋に入れこまれ、そしてずっと壁を見つめ続けていた。この用意された部屋にはテレビがあるがそれを一切つけることなく、航は抜け殻のようになっているのだった。
これから数日間ここで過ごすことになるが、何もなければ早くとも5日後には出れるが、今の彼にはここで何かするという意欲も見せず、ただ不気味なほど動かない。
この部屋に備え付けられている時計の動く音だけがこの空間に響いていた……。
さっさと原作2巻目を終わらせないといけない(実はまだ2巻中盤)けど、いろいろ積めないといけないという事実。さて、どうしようか……。
てかこの作品、もしかしたら全部で300話は行きそう……。まあそのときは、最後まで応援よろしくお願いします。