インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍 作:妖刀
まあ、アイオワも手に入れることができたし、そこら辺は満足でした。
っと逸れましたね。さてさて今回の銀龍は簪を背負って出撃した航。飛ぶ先にいったい何があるのか。
では本編どうぞ!
あれから飛んだ機龍は超高速で進むが、それに簪が付いていけてないのか、少し苦しそうな顔をしている。
「速、い……!」
「少し速度落とそうか?」
「いや、大丈夫……。航、急いで……!」
轟っ!と音を響かせ、機龍は加速する。重装型でありながら、高機動型と同様の加速力を出せるため、これまでと感覚が大きく違うことに戸惑いを覚えたが、それ用のプログラムが組まれてるのか、割と安定した姿勢を保てる。
「それにしても右手も少し変わったけど……」
「3式機龍みたいなドリル、入ってないね……」
「応急処置のようなものだし、仕方ないさ」
そう。機龍の右腕は先ほどの損傷により、主任の手によって若干形状が変化したのだ。だがしかし、形状が変わったのは主に右肩で、それは3式機龍改の物に酷似してるが、肘から先は元のままのため腕が変形したりはしない。
少し残念に思ったが、もうそろそろ作戦空域に入るため気を引き締める。
「航、これが終わったら……」
「えっ」
「んん、何でもない。さあ、行こ……?」
何が言いたかったのか。航は少し気になったが、これが終わればその時に聞けばいいと思い、気を引き締め直して治そうとしたとき、光弾の雨が2人に向けて降り注がれた。
「うおっ!?」
「きゃあ!」
航は即座に急制動を行い、その雨をやり過ごす。簪がそれに振り回されたが、どうにか落とされずに済み、一体何があったのかその方向を向くと、約3km先の光景に航は絶句した。
「おいおい、何だよこれ……」
「キィイァァァアアアアッ!!!!!」
彼らが見たもの。それは
「簪、行くぞ!」
「うん……!」
轟っ!と音を響かせ、2機は銀の福音の元へと駆け、2機同時によるミサイルの雨を銀の福音めがけて放った。
時は戻って箒と話した千冬が去ったころ。箒は再び部屋の片隅にうずくまる。だがしかし、再び扉をノックする音がしたが、箒はそれを無視するようにうずくまる。ノックは何回も行われるが、ついに扉の開かれる音がし、誰が来たのかと思って顔を上げると、そこにいたのは目の前で腕を組んで経っている鈴の姿だった。
「入るわよ」
「鈴……」
「あんた、いつまでうずくまってるつもりなのよ。行くわよ」
「行くってどこに……」
「どこにって、そりゃあ福音のところによ」
「なっ……!?」
鈴が何言ってるのか分からなかった。最新鋭の機体2つ使って倒せない敵を倒しに行くのかと、彼女が正気なのか疑ってしまった。
「何驚いてるのよ。私、セシリア、ラウラはすでに同意済みよ。あとはアンタが来れば専用機が4機。これで中破の福音を仕留めきれるわ」
「中破……?」
「航が片翼もぎ取ったそうよ。その代わり片腕やられてたけど」
「航が……」
先ほどまであれほど憎悪があったのに、今は不思議なほどその感覚が無い。箒はそのことに困惑しながらも、ただ今の自分が嫌に感じていた。
「私は……行きたくない……」
「なっ!?どういう意味よ!」
鈴は箒が賛成しないことに驚きを隠せず、うずくまる箒にどういうことかと怒鳴り返すと、箒がぼそぼそと話し始めた。
「紅椿に乗れば私は狂う……。もう、怖いんだ……!」
箒は覚えていた。紅椿に乗って以来、傲慢と入れるほどに自信が増大し、そして援護に来た航を傷つけ、さらに彼に怪我を負わせたことを。まるで自分が自分でないような気持ち悪い感覚に、箒は自分の手の震えが止まらない。
パァン!
鈴が箒の頬を打ち、箒は驚いた顔で鈴を見つめる。
「うじうじしてんじゃないわよ!泣いてたら一夏が治るの!?」
「治るわけないだろう!そもそもそんなことがしたいなら勝手にしろ!私は……」
「箒。あんた、それで納得してるの?アンタ、自分のやったことぐらいケリつけなさいよ」
「……」
「はぁ……。あっそう、わかったわ」
膝をを抱いて俯く箒を見て、鈴は冷めた目で見降ろす。
その時、パァンと勢いよく扉が開く音がし、ラウラが中に入って来た。
「福音の場所を見つけたぞ。ここから40キロ先の沖合上空に目標を見つけた。手痛くやられてるからか光学迷彩まで使える状況じゃないようだ」
「そう、分かったわ。じゃあ行きましょ」
箒に興味を無くした鈴は彼女に背を向けて部屋を後にしようとする。ラウラはそれでいいのか聞いたが、鈴が諦めたように首を横に振る。
「ホント、大変な姉を持ったことだけは同情するわ」
そして扉を閉じ、2人はその場を離れていくがその時、箒が勢いよく扉を開けて、彼女たちを追いかけた。
「ま、待ってくれ!」
「何?もうそんなに時間が無いんだけど」
めんどくさそうに言う鈴だが、箒の目を見た時、小さく笑みを浮かべた。彼女の目が先ほどと違うのだから。
「わ、私を……」
海上200m。そこで制止していた銀の福音は、膝を抱くように身を丸め、頭から伸びている片翼で、体を包んでいる。片翼になったことによって変化したバランスを調整し、何時でも動けるようにする。
「……?」
だが銀の福音は何かを感じたのか、ゆっくりと顔を上げる。そのとき、その顔めがけて超音速で放たれた弾が直撃。そのまま大爆発を起こした。
「初弾命中!そのまま続けて砲撃を行う」
5キロ離れた場所から砲撃を行ってるラウラは、砲戦パッケージ“パンツァ―・カノニーア”を装備したシュヴァルツェア・レーゲンを駆り、2発3発と砲弾を当てていく。だがしかし、銀の福音も即座に起動して上下左右と複雑な軌道を描きながらラウラの元へと駆ける。
その距離が500mを切り、もうラウラに手が届くと思われた時だ。上空から放たれたレーザーが銀の福音の背中に直撃し、そのままバランスを崩す。
「油断大敵ですわよ!」
はるか上空400mにいるセシリアは、高機動パッケージ“ストライク・ガンナー”を駆使し、射点を素早く変えながら狙撃し、的確に関節部などに攻撃を行う。その隙にラウラも場所を移動しながら砲撃し、着々とダメージを与えていく。
「目標変更」
銀の福音は、空からチマチマと攻撃してくるセシリアに照準を定め、高速でそちらに向かう。ラウラの砲撃を躱しながらだが的確に距離を詰める。しかし、それらを拒むものが現れた。
「私たちが!」
「いるぞ!」
光学迷彩を解き、挟み込むように現れる箒と鈴。双天牙月と空裂が同時に振われるが、銀の福音はその場で体を倒して無理やり躱し、そのまま海面に向けて飛ぶ。だが羽を広げ、3人巻込める形で弾をばら撒き、足の遅いと思われるラウラめがけて再び飛ぼうとした。
「させませんわ!」
だが一足先にセシリアがそれを拒み、それに続くように箒と鈴が飛ぶ。そして足の速い紅椿が二振りの刀を振るい、攻撃を仕掛ける。前の時とは違って振りに鋭さがあり、銀の福音も躱すのが精いっぱいな状況だが、一瞬の隙を見つけて腹に蹴りを浴びせて無理やり距離を開ける。だがしかし、それは箒の作戦だった。なんせ後ろががら空きなのだから。
そして後ろに回り込んでいた鈴は、福音めがけて双天牙月を振り下ろす。
「もらったわ!」
「近接防御。“スライサー”展開」
そのとき、銀の福音の両手に大型のコンバットナイフが展開され、振り下ろされた双天牙月をナイフをクロスさせて受け止める。大きな火花が散ったが、パワータイプかつ大型ブレードの攻撃を、ナイフで受け止められたことを驚く鈴。
ヒィィン……
「っ!?」
その時、双天牙月の刀身にナイフが食い込み始め、そのままナイフをひねって一部を削り取る。流石にそれを見せ焦ったが、鈴は即座に崩山を起動させる。
「このぉぉぉ!」
そして至近距離からのパッケージ“崩山”から放たれた衝撃砲を銀の福音にぶつけ、ひるんだすきに鈴は福音から離れる。そして改めて刀身を見たら、ナイフの当たってた部分だけが見事に削られ、あまり下手なことに仕えなくなってしまってる。
「あれが福音の近接……。地味にめんどくさいわね」
近接コンバットナイフ“スライサー”。これは刀身が超振動を起こすことによって切れ味を上げるが、軍用機とあって、その振動数はとても高く、下手なブレードとかなら一発で切れるほどだ。
銀の福音は一夏と箒の2人の時は使うまでもないと判断し、機龍の時は大きすぎて下手に使えば折れかねないと判断し使わなかった。だがしかし、この4人なら問題ないと判断し、使うことにしたのだ。
「こいつ、私と一夏が仕掛けたときは手を抜いてたっていうのか……!?」
「だがその余裕もないということだ!一気に仕掛けるぞ!」
怒りの形相になる箒だが、ラウラの掛け声とともに鈴と2方向から近接攻撃を仕掛ける。そして離れるとすぐにセシリアの狙撃とラウラの砲撃が入り、片翼の銀の福音は光弾を四方八方にばらまくが、どうしてもカバーできない部分が出来てしまい、そこに箒が両手で突きの体勢を作り、そのまま突っ込む。
「もらったぁぁあああ!」
箒はその片翼を雨月で貫き、手放すとそのまま腕を頸に回して銀の首を福音を締め上げる。
絶対防御は面白いもので、身体に重大なダメージがある場合発動するが、締め上げると言った技には発動しないのだ。技の見た目とかもあって普通では使われない絞め技だが、今回ではとても使え、そのため引き剥がそうともがく銀の福音だが、箒は意地でも離そうとしない。
「La……!!」
「落ちろぉ……!」
とても乱雑に、急加速や急制動を行って振り払おうとする銀の福音。他のメンバーはそれを狙おうにも、箒がいるため誤射を恐れて撃つことができず、それに業を煮やした箒が叫んだ。
「私のことは構うな!そのまま撃てぇ!」
「~~~!後で文句は言わないでくださいまし!」
そしてセシリア、ラウラが箒ごと銀の福音に向けて攻撃を始める。だがしかし福音もそれが分かってたのか、何発か当たると、すぐに箒を盾にするように動き出し、ラウラの放った弾が箒に直撃すると、そのまま首から手を離してしまう。
「くぅぅ!まだだぁ!」
しかし箒は刺さったままの雨月を掴み、そのまま羽を切り裂く。おかげで1/3ほどの羽が斬りおとされ、攻撃手段と速度を大きく失った銀の福音は、まともに残った武装がスライサーと、10もない僅かに残ってる砲口だけになってしまったため、一気に後ろに距離を開ける。
いくら軍用機とは言え、専用機4機を相手するとなっては多勢に無勢だろう。だがそんな思考をしてる間に居合いの姿勢で箒が再び近づき、そのまま銀の福音の右腰から左肩へと斬りあげられる。
「逃がさんぞ!一夏の仇だぁ!」
そして箒はほぼゼロ距離から空裂を袈裟斬りの要領で振り、エネルギー刃を減衰が起きない状態で直撃させる。スライサーで防御するも、威力を殺しきれないためにそのまま後ろに弾き飛ばされた。
「こっちを忘れるんじゃないわよ!」
「La……!?」
だがしかし、すでに後ろには鈴が待ち構えており、青龍刀による連撃をくらってからそのまま崩山を至近距離で当てる。だがこの瞬間、セシリアとラウラも同時に弾を直撃させており、その場で大爆発が起きた。
「La……」
そして煙の中から、銀の福音が力なく落ちて行き、そのまま海へと没した。
「やった、か?」
「そうみたい、ですわね」
先ほどまであった大きな反応は消え、銀の福音を倒したという結果がそこに残った。それを面々は完全に理解できてなかったが、分かるや、それは大きな歓声へと変わった。
それぞれ喜びの声を上げる面々。その中、鈴は箒の元へと寄った。
「何よ箒。ちゃんとやればできるじゃない」
「う、うむ。そうだな……」
「……あとで一夏や航に謝っときなさいよ?」
「ああ、わかってる……」
「まあ、ちゃんと謝ればあの2人は赦してくれるから」
そう言ってニカっと笑う鈴。それにつられて箒も小さく笑みを浮かべた。
これで終わった。あとは搭乗者を回収して帰投すればいい。そうすればすべて終わりだ。
そう、そう思ってたのだ。
そのときだった。海中にて高エネルギー反応が発生し、それを感知した専用機たちはいっせいに足元の海を見た。
「この反応……。まさか、
そして、海が爆ぜた。
再び姿を銀の福音の姿はまるで天使の様だった。エネルギーで作られた巨大な翼は、見る物全てを魅了するほどであったが、装甲の隙間から白い蒸気のようなものを噴き出し、彼女たちからしたらそれは悪魔の翼のように感じた。
「キュイァァァアアアア!!!」
「っ!全員、散開しろ!これは不味い!」
その言葉で一斉に動き出す一同。銀の福音は軽く周りを見渡すが、最初に目を付けたのは箒だった。そして音を置いていくほどの速度で動き出し、一瞬で箒の武器が届くほどの間合いに入り込んできた。
「なっ……!?」
「ヴァリアブル・スライサー、起動」
銀の福音がスライサーを振るった時、その刀身が崩れたかと思うと、そのまま何メートルも伸び、光の様になった刃が箒の足元を狙う。
「箒!避けろ!」
「っ!?」
ラウラの声に気付き箒はすぐに上に上がるが、間に合わなかった左足が巻き込まれ、機体の脛の途中から下が丸ごと斬り落とされた。
「あああぁぁっ……!」
箒は悲鳴を上げ、錐揉み状態で墜ちていく。そのまま水面に着水すると思われたが、どうにか姿勢制御を行い、箒は水面ギリギリで体勢を保てた。そして同時に斬られた足を確認すると、刃は足の裏ギリギリを通り、どうにか生身が斬りおとされずに済み、安堵の息を吐く。
「あ、足が……ある……よかった、あった……」
だがしかし無傷とはいかず、足の裏の皮がズタズタになってしまっている。その痛みが今になって走り、箒の顔が苦痛に歪んだ。
だがしかし、警告音が鳴ったため空を見上げると、そこには光の豪雨が待ち受けていた。
「なっ……!?」
箒は急いでその場を離れようとしたが、面制圧によって一瞬で墜落し、そのまま海に叩き付けられる。
「箒!」
「気を付けろ!その刃、触れたら死ぬぞ!」
箒は心配する彼女らに向けて、目一杯の声で叫んだ。だがしかし、銀の福音は、弾幕を使って専用機たちの攻撃するタイミングを潰し、そして音速で突っ込んでヴァリアブル・スライサーを振ってくる。
「こいつ!何が遠距離型よ!バリバリに近接可能な万能型じゃない!」
「鈴さん!援護しますわ!」
鈴が押され、セシリアは即座に引き金を引くが、弾が当たる前には銀の福音は照準から消え、そしてセシリアの真正面に現れる。
「はやっ……きゃああああ!」
それに反応しきれなかったセシリアは、そのまま片手で首を掴まれ、一気に絞め上げられる。どうにか離れようともがくセシリアだが、万力のような力には全くの非力だった。まるで先ほどの絞められたことの仕返しの様だが、相手が誰とか全く気にせず、ただ敵を殺すと言わんばかりだ。
「やめ……て……」
そしてグルンと目が上を向き、必死に掴んでいた手はだらりと垂れ下がる。
「「その手を離せ!」」
その時、上空から鈴が双天牙月を振り下ろし、下の方からラウラが2門のレールカノンから弾を放つ。だがしかし、砲撃は片翼で受け止め、鈴には半ば意識を失ったセシリアを投げつける。おかげで躱すことができず、まともにぶつかった鈴が次に見たのは、自分に向けて放たれた光の豪雨だった。
「きゃあああああ!!!!」
まともに浴び、連鎖的な爆発によって巨大爆炎と爆風に晒された鈴とセシリアは、そのまま海へと落ちていく。
そして銀の福音は、次の目標をラウラに定めた。
翼を大きく広げたかと思うと、そこから光の雨がラウラ目掛けて降り注ぐ。ラウラは逃げようとしたが、機体の重さと弾幕の広さがあって逃げられず、とっさの判断で前面にある2枚の物理シールドを展開した。
「くぅ……!あああ!!」
光の雨に押しつぶされ、2枚の物理シールドが砕け散る。ラウラはそのまま弾を浴び続け止んだ頃には、ラウラがいた小島が消滅し、ラウラもともに海に没していた。
「ギュアァァアアアアアア!!!!」
銀の福音は吼え、そしてあたりを見渡す。ただそこにはほぼ戦闘不能になったと思われる専用機たちが死屍累々としており、興味を失った銀の福音は、大きな翼を広げ、どこかに飛び立とうと強く羽ばたかせる。
「ま…待て……!」
「キィィ?」
だがそのとき、海の方から視線を感じて見下ろすと、そこにはようやく動けるようになった箒がおり、彼女は殺さんと言わんばかりの目で銀の福音を睨みつける。
「ギュィィァ……」
それを見た銀の福音は嗤ったかのような声を上げ、そのまま箒めがけて
それからどれだけ甚振られただろう。雨月も半ば切り裂かれ、空裂もヴァリアブル・スライサーによって刀身に亀裂が入る。そして銀の福音本体から噴き出してる白い蒸気に触れれば装甲がボロボロになり、刀身が1度も通らない。ただただ自分の手がふさがれ、気づけば詰みと言える状態になっていた。
だがしかし箒は諦めず、残った空裂を横薙ぎに振るが、銀の福音はそれを難なく躱し、そしてヴァリアブル・スライサーが振られ、それが空裂も切り裂く。
「しまっ……!」
「ギュァァァアアアア!!!!」
そしてそのまま、箒めがけてヴァリアブル・スライサーが振り下ろされた。間に合わないと察した箒は目をつぶり、ただ彼女の瞼の裏には、好きな男性の姿が思い浮かんだ。
(あぁ、もう一度一夏に会いたかった……)
もう間に合わない。ただ彼女は運命を受け入れようとしたが……。
「キィ……!」
その時、銀の福音めがけて大量のミサイルが飛んできたのだ。これが自分に向けられたものだと察した銀の福音は即座にその場を離れる。そしてそれは、箒に1発も当たることなくすり抜け、近接信管で逃げた銀の福音の周りで大量に起爆して、爆圧で身動きが取れないようにしていく。
そして箒の隣を、銀色の龍が駆け抜けた。
「機龍……!」
銀の福音の速度に劣らぬ速さで駆ける機龍は、腕部レールガンを連射し、とりあえず彼女たちの元から離す。そして再びロケット弾とミサイルを放ち、銀の福音も光弾を放ってお互いの間にたくさんの爆発の光がきらめいた。
それに見とれていたとき、機龍が突撃する前から切り離されていた簪が、ボロボロになった箒の元へと現れた。
「篠ノ之さん、大丈夫?」
「たしか、更識だったな。一応大丈夫だ。だが他の皆が……」
「なら今は航に任せて、皆を回収しないと」
「ま、待て!アレは第1形態とは違う!油断したら機龍だって……!」
「大丈夫。航は負けないから」
それを聞いてキョトンとする箒。そして簪に押されて、そのまま墜落したメンバーを回収に向かうことに。
そして簪はチラッと機龍を見た。
銀色同士がぶつかり合う空。だがその戦いは、優雅とは程遠く、龍と堕天使が争い合っていた。
――あれ。ここってどこだ?俺は銀の……あれ…俺、何してたんだっけ?――
一夏は空を見上げた後、周りを見渡す。波一つもない鏡のように澄んだ水の上に立ってることに疑問を持ったが、それも自然と消え、ただ目的もなく歩いていく。
―――ラララ…ララ……―――
――声?――
どこからするんだろう。歩き続けた一夏は声のした方へと向かう。
するとそこにいたのは白いワンピースを着た女の子だった。女の子は楽しそうに歌いながら回っており、不思議な感じがしたが、何か楽しそうな雰囲気を出していた。
ただ一夏は近くにあった流木に腰を下ろし、踊ってる彼女をただ眺めていた。
――俺、何か忘れてる気がするけど、何だっけ。まあ、今はここでのんびりするか――
一夏は少女を眺めながら、今持ってる考えを放棄しようとした。だがそのとき、後ろから金属同士がこすれる音がし、そちらの方を向く。するとそこには、自分と同じぐらいの背をした鎧がいた。
ただ背丈や後ろから流れてる髪から女性と判断したが、一夏は何も疑問に思わず彼女を見つめる。その時、彼女の口が動いた。
―――貴方は、力を欲しますか?―――
彼はどんな顔をしてるのだろう。楽しんでるのだろうか。怒ってるのだろうか。
ただ彼の背中は、私たちを助けてくれた時と重なって見えた。
航、負けないよね?私、お姉ちゃんに不幸な知らせは届けたくないんだから。