リア充異端審問会   作:茶漬四郎

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教師は全てを知っている。

 人間誰しもスピリチュアルにのめりこむもので、タチの悪いことにその事実を他人にはオイソレとは公言しないのです。しかし八方塞がりで何もできなくなると、そういう時こそ超人的な何かに頼ってしまう。特に当事者が次の一手に出すカードが手元に何もなく、あるいは探し出すことのできない場合はなおの事です。

今、紫咲シオンの立っているこの場所も一部の生徒たちからはそう言ったパワースポットとして密かに人気なのです。

ザリガニの釣れる夫婦池にて、リア充撲滅委員会の重鎮であるシオンとあなたの二人は一人の女生徒と向き合っていました。

これはクラスの大半を巻き込んだ「リア充冤罪裁判」がいい思い出になってきたころ、外の風が肌寒くなってきた季節のお話しです。

 

 多くの未成年者には制限がつきまとう。しかし、何も考えずに放課後時間を潰すという行為は彼らに与えられた数少ない合法的な権利なのである

教室のバルコニーでは、湯船につかるオッサンの様に手すりに寄り掛かった大空スバルが黄昏ていた。彼女の焦点の合わない眼はあなたを捕らえると「塩っ子―、お前も大変だな。」と言葉をかける。

「転校して早々色んなことに巻き込まれてよー。ウチラの演武にも参加してもらっちゃってさ。」

チラリと足に目をやる。

「その足、ケガしてなかったか?」

あなたは軽く笑うと、プラプラと足を振るう。

「足の皮がベロ~ってな。」

聞いといて後悔したスバルは顔を苦くゆがめ話題を変えようとしたがうまくいかなかった。

代わりに口を開いたのはあなただった。

「スバルは文化祭何かスンの?」

「いんや、しばらくはいいかな。みんなのサポートに忙しそうだしさ。」

2人のやり取りは教室内から発せられる出どころ不明の目線によって中断された。気のせいかと思ったが、ちょうど室内からあなたを呼ぶ声がしたので、軽くスバルに挨拶をして入って行った。

スバルとの出来事は今後機会があれば深堀していこう。                       

 

 塩っ子のクラスには悪友であるワタナベとアキラの二人がいる。彼らは率先してリア充撲滅委員会非公認活動を行っていた。

秋の文化祭も近くなり、それを冬へのイベントの前哨戦として青春の申し子たちは鼻の下を伸ばしつつも、その鋭い眼光はうまく隠している。

「これは憂うべく非常事態である!」

そう立ち上がったのは骨身の長身で有名なワタナベであった。

「学生の本分は勉学であり、色恋沙汰など副次的産物に過ぎない!」

放課後の教室で黒板の前に立ち演説する彼の額には鉢巻が意志の硬さを強調するようにまかれている。

「故に文化祭やスポーツイベントなどは個人主義を徹底的に排除し、クラスとして全体主義に則った結果論を求めるべきである!よって!」

ワタナベはここで息を整える。

「異性といちゃコラする踏み台にしてはならないのだ!」

彼はバスケ部の人間である。入学したての頃、モテるために入部した。

教室内に残っていたあなたとアキラはパチパチと拍手を彼に送る。それから机に置かれた薄皮のこしあんパンを一つずつ手に取って口に放り投げた。餡と生地が一瞬にして舌の上でとろけた。これはワタナベの昼飯になる予定だった物である。

「あ、ごめん。勝手に開けて食べちゃった。」

「いいよ、もう。」少し諦めているのが面白い。

「お菓子で女子釣ろうとしてんじゃねーよ。」

なんだかんだ言いながら、頑張っているのである。

ヌッと引き戸の窓から人影が現れた。ガラリと引かれたその先にいたのは、犬の耳のように髪を整えた担任教師、戌神ころねだった。

彼女は室内の異様な雰囲気に動じることなく冷めた声で「何してんの」と一言呆れたように口にした。

一瞬固まってしまった3人は語尾も短く「お疲れ様です。」と畏まる。

ころねはその丸い瞳で集会の全貌をつかみ取ろうと努力すると、ワタナベの背後にある黒板に書かれた一面の文字に注目した。細いミミズのようなチョークの筆跡は、広い黒板一面に広がっており、その内容を読み取ろうとすると思わず失笑を誘った。これを書いたものが自分の生徒でなければ軽蔑するようなものだが、思春期の学生と言うこともあって大目に見ることにする。

「なんだ、これ。人間の義務の法則?」

ワタナベ考案の「人間の義務の法則」とは人間の存在意義、男女の違いをおしべとめしべに準えて解説されている。特に重要な部分はインポー・タントと枠組みを組まれていた。

「オイオイ」と最初は動じなかった彼女であったが、最終的には鼻から思わず笑いが漏れていた。

「学校ファンザすな。」

「教師がファンザって言っていいんですか。」とあなた。

アキラも続けて「この3人でファンザは嫌です。」と答えるが、残念ながらお互いの履歴は把握済みである。

ころねはそんな学生たちの心境に目をつむり、ただ一言用件だけを伝えた。

「お前ら早く文化祭の出し物決めろよな。」

このころねが口にした話題は、あなたにとって別の人間から持ち込まれた本日二回目となるものだった。「どうした」と肩を竦めたあなたに二人は同情するように声を合わせる。どうやら珍しく労ってくれるようだ。

同じ日の午前中に生徒会長である大神みおから直接言われたことで、正確には「リア充撲滅委員会」の出し物についてだったが再提出という言葉は何度聞いても肝の冷えるものである。

「両立されるのは大変だと思うけど、頑張ってくれたまえ。」とみおはあなたの事情を知りつつ、労いを込めて個人的な言葉をかける。一部生徒にとっては神様とも崇められる彼女だが、面と向かって顔を合わせるとあなたより一回り肩幅の小さいただ一人の少女だった。

「言っちゃあなんだけど、生徒会ってすることないからさー。」

とホンワカと口元が緩む言い方をする。

「こうやって出し物やるところに顔を出してるってわけよ。」

「みおさんヒマなんすか。」

「んなわけねーだろ、受験だよ受験!」

彼女の呆れたように睨む瞳には闘志がなかった。教室の外から「みおー」と気の抜ける声が彼女を呼ぶ。

教室の外からひょっこり顔を出した声の主は副生徒会長の白上フブキであった。

「次、空きコマでしょー?スーパーにお昼買いに行こうよー。」

単位制であるため、時間割によっては彼女たちのように暇な時間ができる生徒も存在している。この時間帯なら、まだ暖かい惣菜が十分にあるというのだ。

あなたに気付いたフブキは「塩っ子君」と口を丸くさせた。

「優しい先輩が何か買ってきてあげよう。何がイイ?」

「じゃ、コロッケお願いします。」

「ワンパクだなあ。」とみおは感心したように声をかけた。それから時間を確認しようとしたみおはスマホを取り出して驚きの声を上げた。

「バッテリーがもうない!」

「寿命かな。」

「ウチ、充電器さしてから行くわ。フブキ、先に校門で待ってて。」

「おいさー。」

まるで姉を慕う妹のようである。

みおが教室を去る際に、彼女は2点あなたに伝えることを思い出した。一つはシオンの事で「仲良く、よろしくね。」との事だった。もう一点は意外にもワタナベの事だった。

「あの人大丈夫?この前脚攣ってたけど。」

あなたはころねの去った教室で二人に愚痴を交えてその時の情景を語った。ワタナベが「フブさんやっぱかわいいなあ」とぼやく一方で、アキラは「自慢か?」と眉をしかめるのだった。

「お前さっきまでベランダで大空と仲良く話してたじゃないか。」

そう言ってアキラはそっぽを向く。「裏切者だぜ」と小さくワタナベに耳打ちすると、彼はにやけながら小さく鼻で笑った。

「あれはほら、アイツ格闘部ジャン。その打ち合わせをネ。」

「でも隠し撮りされてたぞ。」

そう言ってスマホを操作し、SNSで投稿されたばかりの記事を見せつけた。

「恋の予感かも…だってよ。」

タグ付けされたそれにプライバシーはないのかとあなたはツッコんだ。

 

 この時のワタナベの勇姿はあなたの上司である紫咲シオンの耳にも茶化されながら届けられた。浮かれた一軍男女とその金魚のフンに一矢報いろうとする気迫に満ちたその光景を、興奮ながらも伝えたが、シオンは「ふーん」と口をおちょこにしてその上に鉛筆を乗せる。

「ワタナベって誰だっけ。」

「え、まじ。ほら、細身の。」

「えー。」

「同じクラスの。」

「あー!サッカーしてるでしょ!」

「バスケ部だよ。」

彼女にとってあまり興味のない話題のようだ。悪友のワタナベの事を想うと少し気の毒に感じてしまうのは、お互いのファンザを知り合った関係が故の足枷のせいだろうか。しかしいくら興味がないとは言え、同じ志を持つ者同士、シオンは彼に一定の評価を下したようである。次の日から目を合わすと聞えないほどの声で挨拶をするようになった。

そんなワタナベの化けの皮が剥がされたのはそれからすぐ後の事だった。

秋もしんみり肌に馴染んでいき、日が暮れるのが早くなった頃、ワタナベが恋をしたという噂が流れ始めた。

アキラは即座にあなたを召集に呼びかけ、何故かシオンもついてきた。場所は放課後の教室、前回のワタナベのポジションにはアキラが就く形となった。

「あの鶏助野郎!」と喉の奥を震わせて叫ぶ。短い言葉の間に舌を巻き散らせては、その感情の高ぶりが実に伝わる。

「あんだけ熱弁しときながら自分が一番青春してんじゃねえか!」

彼のチャームポイントである毛虫のような眉毛が、燃えてしまいそうなほど目力が火花を散らしている。あまりの圧に思わずあなたは「いいじゃないか」と口を滑らすと拳が飛んできた。

「テメェがそんな弱気でどうすんだ!」

「そーだそーだ!今のは塩っ子が悪いぞ。」

「おう!よく言った紫咲!」

せっかく名前を呼んでくれたアキラに彼女は眼を合わせない。目が泳いでいるところを見ると、あまり慣れない人間の輪に彼女も苦悶している様子だった。

「一応確認しておきたいんだけどさ。」とシオンは上手く開かない唇を動かす。

「それってどこ情報なの?間違ってたらなんか面倒くさいし。」

それに対してはあなたが答える。

「バスケ部の後輩たちから。」

シオンは「ピャー」と鳴き声を上げ、涙目に口角を上げた。

「裏切られてるじゃん。」

そうなのである。遊び半分とは言え、誰もワタナベに幸せになってほしくないのだ。その事実に気付いた時、同情から一瞬会は静寂に包まれた。

次に出た話題は奴の色恋相手は誰なのかというものであった。ここで討論などせず、本人やタレコミ元に行って確認した方が手っ取り早いのだが、その発想はあまりにも現実的過ぎた。

第一候補者の名を挙げたのはアキラだった。彼が口にした女生徒の名前は「白銀ノエル」である。

曰く、「上にも下にもケツがついている」と言うあまりにも真っすぐとした下衆な感想から来たものであった。

シオンは無言で引いている。

「アイツ、ケツ好きなんだよね。」

しかし同時に正当な理由も挙げて来る。いわゆるギャップ萌えと言うやつである。

学年が一つ下のノエルと言う生徒はおばあちゃんのような言動を度々するおっとりとした人気者で、その感性は度々天から授かりし美貌を台無しにするほどである。しかしひとたび竹刀を握れば一転し、その動きは俊敏なものへと早変わりする。その姿は日常で見る彼女と同一人物だとは思えないほどだ。

「演武の練習で手合わせしたけど、あの子は本物だよ。」とあなたが言うとシオンは横目で「へー」と返した。

「ギャップに弱いんだ。」

想像が容易であるようにノエルは剣道部に所属している。そして彼女らの稽古場はバスケ部と同じ体育館であり、スペースを分割して共同で時間を共有することからワタナベと接する機会が多いと見て取れた。

「ノエちゃんかー。」と彼女は力なく呟き、「なんかやだなー」と第一候補者の選定を締めくくった。

次の候補者の名を挙げたのはあなたである。

口上は「アイツは権力に弱いんだ。」から始まると二人は口をそろえて「ころね先生?」と予想する。

「ないだろ。」

「ないない。」一旦肯定しておきながら、アキラは自らの発言を否定した。

「二人ともヒドーイ。言っちゃお。」

「仮に教員だとしたら保健室の天使じゃないか。」

あなたはコホン、と咳ばらいをし、近くにころねがいないか目配りをして自分の予想を口にした。

「生徒会長じゃないか?」

「ええ!?ミオちゃん!?」

大神みおと言えばいつの間にか生徒会長になっていた女生徒である。おおらかな容姿に万人を受け入れる母性はまさに聖女と言った生徒で人気が高い。しかし油断していると針をド突き刺すような毒舌が飛んでくることもあり、そのやり取りを楽しむ者もいる。

ここでもギャップ萌えがあった。

問題は接点であるが、そこは各学校の生徒会と同じように彼らにはこれと言った活動がない。故にみおは良く他活動に顔を出してはマネージャーのように世話を焼くのである。

つまりどこかで彼女の魅力に触れたのではないか、と言うのがあなたの予想であった。

シオンは仲の良い学友が好意の目にさらされている事実を想像して悶絶している様子だ。

「あとは、そうだな。」とアキラが言うとシオンは眼を見開いて机と叩いた。

「まだいるの?」

「妹、かな。」

「あー」とあなたは納得したが、シオンは困惑したままだった。

「妹属性?いたっけ?」

「ほら、副生徒会長」

「フブちゃん!?」

グルグルと頭の回転が追い付かない。

「男はあーいうのが好きなのさ。」とあなた。

「可愛い、猫系、エロに無知。三拍子揃っているな。」

アキラも納得してうなづいている。

「いや、フブちゃんは白狐なんだけど…。」

「どっちでもいいのよ。」

ワタナベの好みは把握済みなのであった。そこには深い物語があったが、シオンは触れられずに放置することにする。

頭を抱えた彼女は誰にも聞こえないような声で嘆き始めた。

「あのにやけ面でフブちゃんを見ていたらと思うと…。」

「ピュアな男子の行為でイイじゃない。」

「そういう系の同人誌って結構あるよね。」

「二人ともうるさい!」

話し合いに飽きた3人は誰ともなく席を立った。そして気だるいローファーを鳴らして体育館へと、確実な情報を求めに足を進めるのである。

その後ろ姿を、黒い眼で見つめるころねの存在を気づかずに。

 

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