リア充異端審問会   作:茶漬四郎

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2人の当事者

 シオン達が話し合った最後の候補者はみおの言った通り学園の外にある夫婦池にいた。

ここは大きめの池と一回り小さい池が繋がっており、寄り添っているように見えるからそう呼ばれている。

「知ってます?噂ではここには金のザリガニがいるんですよ?」

よっちゃんイカをエサに竿を振る雪のように白い少女は、海藻で濁ったように見える水面に反射した陰で来訪者が誰なのか見抜いた。

「二人して何か用ですかぁ?」

釣り針に新しいエサを取り付ける。

「フブちゃん」とシオンは一歩、木製のデッキを鳴らして踏み出した。

ピクリ、と反応した彼女は「どったの?」と振り返る。

「リア充はシオン達の敵なの、自由意志だけど。敵になっちゃうの!」

「え」と戸惑いを隠せずに「ハイ」と即答する。

「フブちゃんもそうなっちゃうかもしれない!」

「ええ!?白上、シオンの敵?」

「そう!フブちゃんが敵になっちゃうかもしれない!Willの方!」

「ええ!??」

「シオンはフブちゃんと敵対したくない!」

「そりゃあ白上だって…」

コイツ、また適当なことを。

「…だから正直に答えてね。」

「うん」と頷くフブキは思わず釣竿を握る手に力が込められる。

「ワタナベと連絡とってる?」

フルフルと体ごと揺れては「誰ェ?それ」と小声になる。

たった一言の言葉での抵抗にシオンはガチリと副会長の肩を掴んだ。その様子はまさに真意をつかみ取ろうとする気迫に満ちていた。身内には強い委員長であった。

フブキは巻き戻しの利かなくなったテープの様にしきりに「シオン、シオン」と名を呼びながら段々と涙声になって行った。

「白上…白上怖いよ!急にきて敵だなんて言われて!つーかワタナベって誰。」

まるで悪ガキが小動物に意地悪をするような様子にあなたは苦言を呈した。

「あーあ、また泣かせた。ホント。マリンと言い、人泣かせるの上手いよね。」

思い出したくない過去の出来事を掘り返されたのと、事実を否定しようとして、あくびをする猫のように「ねえー」とシオンは声を高く上げる。

あなたの仲介で落ち着きを取り戻したフブキとシオンは水面を眺めながら事情を説明しだした。先ほどのフブキは本気で怖がっていないことは二人にはわかっていたが、上級生とは言えどうしても遊びたくなってしまう。一通り説明を終えるとフブキは「ハイ」っと、よっちゃんイカの端切れを二人に手渡した。

モゴモゴと酸味が舌の上に広がる。

「そもそも白上、そのワタナベの連絡先知らないもん。」

その回答が全てであった。好感度や本気度を測るのに連絡先を交換しているかが大きな焦点となる。よってワタナベは白上にとってその土俵にすら乗っていないという結論になった。みおとノエルの時もその部分から考えればよかったと後悔したが、さすがに個人が登録している連絡先を直接聞くのはプライバシーの侵害を大きく犯しているので、聞くに聞けないだろうという形で収まる。

「白上もみおも受験生だし、そういう関係になるなんて今は考えられないよ。」

真っ当な意見である。秋ともなれば受験が終わっている生徒がちらほら出て来る季節だ。自分の人生について一息つくタイミングでもあるので、いわゆる断捨離の時期でもある。

ここでシオンとあなたは考えをまとめると、ノエルとみおの二人は手元にスマホがなかった為ワタナベにメッセージを送ることはできなかった。フブキに関しては連絡先すら知らなかったので、3人とも候補から外れることになる。

あなた達がその場を去ろうとした時、何んとなくシオンはフブキに振り返った。

「フブちゃん、金のザリガニなんてどうするの?」

「ふぇ?」

「次の文化祭に展示するの?」

「いんや、自慢するの。」

埃より軽い動機を背中に坂を下る二人は、校舎へと戻る道中にアキラとノエルのコンビと遭遇した。この珍しい組み合わせに舌を巻くも、どうやら羨ましい状況ではないらしい。アキラは気まずそうに目を配り、ノエルは表情に影を落として曇らせている。先ほどまでの彼女とは打って変わったその様子にあなたは興味本位で尋ねていいのか悩むほどだった。

「まあ、一緒に行こう。」とアキラの先導で他の3人は後ろに続く。

乾いた風が吹く度に肌には埃が張り付き、目にゴミが当たる。その最中、彼は「ギャルゲー理論」が正しかったとつぶやくのだった。

この日の3人は細い糸を手繰るように理論を展開してワタナベのリア充計画を阻止しようとしていた。部活中にメッセージが届きしかもそれがきっと想い人からの重大なやり取りなのだという飛び過ぎた考えの元行動してきたのである。彼らの選択肢は全て、ハズレしかない枠の中で当たるかもしれない物を選んだだけに過ぎなかった。ただ話し合いで得た破片のような結論は、藁の様に掴む人間を待っているようで憎たらしい。

「ギャップ萌え」これは外すことのできない要素だとアキラは口にする。

一応ころねも含めた候補者4人たちを一言で表すと「ギャップ萌え」という表現はあまり適切ではないと思われた。

「そう?」とシオンが間に挟む。

「確かに皆まんま、ではないさ。意外性もあるけど。」

次の案を考えた時、アキラは「ギャルゲー理論」を当てはめたのだ。年下、年上と候補者が出てきた時、やはりもう一つの同い年が誰かであるのかを条件に当てはめて考えるべきだというのだ。もっと言えば連絡先を自然に交換できるクラスメートで、「ギャップ萌え」と「コミュ力」に該当する人物。

その答えはもう目の前にいたのであった。

頭髪が後退してももじゃもじゃ頭を風になびかせ、ニヤニヤしているワタナベが対面しているのは、格闘技を嗜み部活間を自由に行き来できるほど社交性の高いマネージャーも兼任する女子だった。ボーイッシュでシャバ声をカン高く笑い、所作が所々女の子っぽい生徒。

それはあなたがベランダで駄弁っていた少女、大空スバルであった。

パクパクと驚き口を動かす塩っ子とシオンをよそに、ノエルは淡々と思い出したように話し始めた。

「だんちょ、思い出したんです。あの日、ワタナベ先輩がダンクして足をつった日、みんな来てて…。『みおしゃのマネージャーはこのスバルだ!』なんて言ってたんです。」

見る見るうちに顔を真っ赤に変色させた彼女は、嫉妬と怒りに満ちた形相へとその柔らかい顔面筋を変貌させる。

「潰さないと」

「何を!?」

「ノエちゃん辞めて!」

橋姫のような表情を露わにして握りしめる竹刀がミシミシと音を鳴らせた彼女は、今にもそれを砕いてしまいそうだった。

 この夫婦池についての説明をもう少しさせていただくと、その愛嬌のある名称からか一部界隈では夫婦円満、恋愛成就のパワースポットとして人気がある。その由来については大小二つの池が合わさっていたからであると言われているが、その見た目はとても神秘的とは言えない物だった。

池の水は確かに澄んでおり、沢の水となって近くの農地へと流れていく。周りの木々は無造作に植えられており、自然を感じる以外の物がないのである。

ここにはもう一つの顔があった。

それは神影という都市伝説の舞台であるということだ。どういうものかというと、過去は神聖な存在であったものがその信仰や神域を失い、ここに集うという内容だ。それらの正体は夜間に見かけた野生動物であるというのが通説だが、火の無いところに煙はたたないように何かを引き付ける目に見えない物があるのかもしれない。

4人がその後に対峙するワタナベはその何かに感化されたのかもしれないと、全員が思った。

ソレが出現したのは、ワタナベの逢引現場がを見ていたあなた達が当事者であるスバルにバレたところから始まる。

何が原因で彼らが隠れているのが分かったのかは不明だが、突如スバルが目の前に現れて「お前ら何やってんだよ。」と呆れ顔で声をかけてきた。

さっきまで業務的なやり取りをしていたと思われる二人を見ていた一同が呆気にとられたその一瞬に、ワタナベがグルンと焦点を一点に合わせた表情をこちらに向けたのである。怒りから来るものなのか、邪魔をするなという意思を感じる。

その後の対応を考える間の無く刹那、ゴムの様に弾かれた彼の四肢が一気に距離を詰めてシオン達に飛び掛かってきた。

幸運だったのは、その時に発生した風圧でスバルのショートパンツの隙間からリアルパンツが見えたことだった。その時の反応も声は置いといて、小さく跳ね上がり「女の子」だったのである。これはこれからおこる逃走劇に、天が与えた幸せの先払いだったのかもしれない。

人としての動きをしていないワタナベに対抗できるのは竹刀を持っているノエルだけだった。駆け出した3人はすぐに後ろを振り向いて背後の状況を確認しようとした。彼女は一矢報いろうと対峙している。

地面を蹴る足は雨が降っていないのにアスファルトの寒さを感じる。腰を後ろに重心を取り、速度を制御しながら肺の空気を一気に押し出す。不思議なことに、体格の違うシオンも後れを取っていなかった。

ただ一人遥か後ろで残っているノエルを案ずると、あなた達3人を追いかけるように叫び声がこだましてきた。

「無理いいいい!」

ノエルが追い付いてきた。

「ごめんなさい!無理でした!気持ち悪いい!」

「エッー!?」

「先輩に対して気持ち悪いとは何事だ!」

「もう少し粘って来いよ!」

誰もノエルを労わない。

彼女が追い付けて来たと言うことは、ワタナベと並走するのも時間の問題だとみんなが理解した。同時に金属音をたたく音が近づいてくる。まるで半世紀前のエンジンが稼働するようなタッタッタッタという音は、つま先でローファーを走る走行音だった。

一同は最後に残したブレーキを解除して弓の様に沿った体で転げ落ちる。

塩っ子はシオンを案じて無意識に彼女の腕を掴んでいた。

 

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