リア充異端審問会   作:茶漬四郎

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告白の邪魔も青春のうち

 息も絶え絶えに夫婦池から逃げてきたあなた達4人は、全員が人生で初めて校門を視界にとらえた瞬間に安堵した。いつもなら気怠い朝を否応が無しにたたきつける忌々しい存在であり、汗だくにカバンを肩に食い込ませながら遅刻と戦う陰鬱な存在であった。しかしこの時ばかりはセーフハウスにたどり着いたような安心感があったのだった。

ジトリと目を下に伏せたシオンは走り疲れたのか顔を赤くして、あなたから目線をそらした。それから自分の腕を少しさすると一言、「じゃ」と言ってその小さな背中を三人に向けて校内へと姿を消したのである。

唖然として残されたあなた達はお互いに顔を見合わせた。一体どういうことなのか、もしかしてもう飽きてしまったのか。

満足に言葉を交ぜ合わせる間も無く、すぐ近くからワタナベの駆け出す音が風に乗って響いてきた。アキラは即座に顔色を変え、あなたにシオンを見つけるように伝える。

「教室で落ち合うぞ」

その言葉を耳にあなたはシオンの後を追って駆け出した。

紫咲シオンはすぐに見つかった。

彼女はとある一室の入り口から、こっそりと綿毛のような頭部を出して外の様子を観察していた。

「シオンちゃんさあ…」

彼女は女子であれば絶対に安全な場所にいたのである。

「ついてこないでよ、塩っ子」

不機嫌なのか、声に感情がこもっていなかった。

「確かにさー、逃げなきゃって思うけどもさー」

「あっ、石鹸があるー。塩っ子食べる?」

悪ガキムーブに眉間が痙攣する。

「だからって女子トイレに逃げ込むなよ…。」

戦争にだってルールはあるのよ、と付け加えるがシオンには届いていない様子だった。

「へんた~い」

「うるせえ!自分だけ安全地帯にいやがって!」

「だって入れるんだし、しょうがないじゃん。」

彼女はフフンと鼻を鳴らせて答えた。それからいつものように何も考えていない様子でひらめいたことを言い放つ。

「今だけ女子になれば?」

「本当に自認しちゃうぞ。」

その時は冗談だったが、すぐ後に現実のものとなる。結局ワタナベという魔の手から逃れるために、あなたはシオンの協力の元その身を一時的にトイレへと隠れる羽目になった。

シオンと対面したワタナベは彼女のその幼稚な対策に乾いた笑いがこみ上げる。

「ここまでやるか」と内心呟いた。

両者はしばらく見合ったが、やがてシオンがいたずらに出した舌を見てワタナベは一時撤退を決める。静かにあと退りをしながら時折こちらを向いては変顔をさらけ出していた。

「子供だなー。」

お前もな。

危機が去って一安心した彼女は後ろにいるはずの塩っ子に「行ったよ」と声をかける。

後門のトラ、新たな危機が静かに牙を向けていた。

実はシオンが逃げ込んだ時、そこには大神みおがいたのである。

あなたは目が合った瞬間に学園生活の終焉を感じ取った。過失10である現行犯に対してみおはハイライトを失った瞳であなたを見つめるのだ。

それから首根っこを掴み、脱力しきった様子のあなたをシオンの前まで持ってくる。

「シオンたん…助けて…」

「…あ。」

生徒会長は生徒会長であった。

「さすがにこれは見逃せないよな。」

「緊急事態だったの。」シオンは必死に言い訳を考える。

「みおちゃん…塩っ子を許してあげて。」

「大人の階段をのぼりたがる年頃だけどさあ…コレじゃあ大人のエスカレーターを駆け上がってるじゃん。」

「やっぱ無理か。」

「シオン、お前もだぞ。」

「っえー!」

結局二人は「リア充撲滅委員会」としての報告書を出すように言い渡された。その内容は反省文ということで、教員への報告は内密にするという取引が行われたのである。

 

 まるで悪事がばれて怒られた子供のように意気消沈したあなたとシオンの二人は逃げているということを忘れてとぼとぼと自分たちの教室へと帰ってきた。その変わり果てた姿には、出迎えてくれたアキラが二人を見るなり今までの荒い息遣いも忘れて「どうしたんだ。」と目を丸くしたほどだった。

「やつれてるぞ。」

その労いに二人は満足に答えることが出来なかった。

この場にはノエルはいなかった。普通に考えれば下級生なのだからオイソレとは入室できるものではないのだが、真実はワタナベの毒牙が彼女に向けられたというものだった。

その状況を頭で想像したシオンは「犯罪ジャン」とつぶやくと、アキラは「言ってやるな。」と優しく返すのだった。

後輩を囮に使っておきながら何たる言いようだ。

3人揃ったところで冷静に事のあらましを話し合うことにした。まずは大空スバルという生徒についてである。

正義感のある清楚枠な彼女は「リア充冤罪裁判」にも出廷した。その存在は盲点であった。

さらに彼女はマネージャーという側面も持ち合わせていた。この学園は強豪校ではないのでマネージャーといっても役割はメンタル面での話し相手などと言ったものが大部分で、その役割は軽いものであった。だからだろうか、自称女子マネは結構多い。しかしそんな中でもスバルは有能な存在だと認識している。

「ワタナベを恋に落としたしな。」

キランとアキラの歯が光る。

バンバン、と教室のドアが軋むほどの衝撃が連続で鳴り響いた。振り返るとそこにはノエルが目を一の字にして泣きながら室内の3人へ助けを求めている。

迎え入れた彼女に対して心底心配してくれたのはシオンただ一人だけであった。もっとも彼女にとっては、日頃ママと呼んで親しんでいるノエルに立ち場を逆転させて楽しんでいるだけかもしれない。

次の一手を考えるためにとりあえず貴重品を持ち出すように話し合った。

「だんちょ!ロッカー室に置いてきた!」

ようやく息も整い落ち着いてきたノエルに対してこの決断はさらなる混乱と孤独を植え付けた。

「あきらめろ!」

「ひどい!」

それからガサガサと財布やケータイ、学生証や定期入れなどを声を掛け合いながら二年生どもは手に取る。

「んあああ!みんな帰る気満々ジャン!」

「一年遅れて生まれたことを後悔しなさい!」

バタバタと無造作に四肢を暴れさせるノエルを嗜めるようにあなたは言い放った。

「ケータイ!財布!学生証!あっ定期ない。」

各々が迫る制限時間内で慌ただしく動き回る。

定期がないと騒いだアキラが落ち着いた声で何かを見つけた。

「あんパンめっけ。」

それは4つ入りの小さいこしあんパンだった。しかもワタナベの机から拝借している。あなたはノエルへのツッコミを他所に「おう!ないす~」と声をかける。

「バカじゃないの、アンタ!」

シオンは滑舌良く突っ込んだ。

再び教室の扉に動きが起こる。今度はガララと必要限の力で引かれ、その落ち着いた動作からは引手の感情を読むことが出来なかった。

てっきり他の生徒か教師が入室してきたと思えば、4人のうちの誰かが「あ」と短く声を出した。

見るとそこには最後の追いつめに不敵な笑みをこぼすワタナベが立っていた。袋のネズミとはまさに今のシオン達の事であったが、そう判断するのは時期尚早である。

それはまだこの教室には逃げ道が二つ存在していたからであった。一つはワタナベが立っているのとは別にある扉で、黒板がある側とは反対の後方に位置している。一足出れば廊下へと続いており、全力で走れば逃げ切れるかもしれない。

もう一方はベランダに出るという選択である。ここのベランダはその階全体で繋がっており、運が良ければ他の教室へ逃げ込むことが出来るのだ。しかしその逃げ道を選択すると必ず犠牲が出る。

それは4人の立ち位置の問題である。ワタナベから一番離れており、かつベランダに一番近いのはシオンである。他の二人は脚には自信があるために多少位置に不利な条件があっても問題がない。残りはノエル一人である。彼女は教室の中央におり、しかも足がそこまで早くない。

なので必然的に犠牲になるのは彼女であった。

「ノエちゃん、バッバイ。」

「シオン先輩!?」

ノエルの灰色の髪が驚きのあまり宙を舞うのと同じタイミングでワタナベが一歩また一歩と教室へと侵入してくる。いやらしくブレザーがはだける様子にアキラは思わず苦い顔をした。

「お前らよくも邪魔してくれたな。」

「何を?」とシオン。

「コロス」

「だから何を!?」

「シオンちゃん珍しく突っ込む側に回るね。」

「塩っ子うるさい。」

少し芝居かかった彼の立ち居振る舞いに嫌気がさしたのかアキラは冷めた反応を見せる。

「誰も邪魔してねーよ。勝手に青春するな。また一緒にスパチャしようぜ。」

軽い悪口が塩っ子を含めた3人の間で繰り広げられる。「裏切者は他にいる」だの「すかしてんじゃねえ」だのおよそ高校生とは思えない語彙力に男子とはいかに単純な存在なのか思い知らされる。

シオンはそのすきにこっそりとノエルを自分の方へと引き寄せた。ハムスターのようにチマチマを一歩一歩歩く姿は剣道部の部員とは思えず、シオンはギャップ萌えというものをここで見出した。

時期を見てベランダへ逃げ込む採算だったが、その行動はあまり急いでやらなくても良さそうだった。

何者かが、ワタナベを背後から呼びかけたのである。喉仏を鐘のように鳴らすその声の持ち主は大空スバルであった。

 

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