とある日のアマンドにある冒険者ギルド。何か面白そうな依頼はないかと掲示板を覗いていたら―――、
「シュリナさーん、指名依頼が来てますよー!」
ギルドの受付嬢から声を掛けられる。
「亜竜?」
「はい、リヴァノフ王国の東端付近で亜竜の目撃例が複数寄せられているらしく、あちらの冒険者ギルドから貴女に討伐して欲しいと」
たまに亜竜が目撃されると、こうして私の元に依頼が来るんだが、半分くらいは空振りに終わるからあまり行きたくないんだよなぁ……。などと考えながら自力で生み出した飛行術でリヴァノフ王国を目指していた。
リオとアイシアから教わった武空術では、まだ音速で飛ぶ事が出来ないからなぁ。要修行だな。
「……情報によるとこの辺りらしいが」
地図を出して確認し、周辺を見渡す。視力を最大限にまで強化して確認するも、鳥が飛んでいるくらいでそれらしき影は見当たらない。
「今回は空振りかぁ……」
あの滝綺麗だな、そのうちロッテを連れてBBQでもしたいな……ん? 滝の近くにある村で、何やら揉め事が起きていた。あれは、日本人か?
日本人と思しき人物が、官憲らしき集団と何やら揉めているようだった。まずいな、このままじゃ殺されてしまうぞ。
私は急ぎ日本人らしき人物の前に降り立つ。「うわっ、空から人が!?」などと周囲の人間が驚く。
「ランクS冒険者のシュリナだ。一体これは何の騒ぎだ?」
「ふんっ、冒険者風情が出しゃばるな、引っ込んでおれ」
貴族らしき男が吐き捨てる。
「……貴方の名前は?」
日本人らしき男性に問いかける。
「あ、アキラ=テシガハラです」
発音が拙い。勇者ではないな。
「貴方と一緒に
「今は用事があって近くの山に」
「そうですか、それで? こいつらに何の因縁をつけられてたんですか?」
「僕達が売った装飾品などが、そちらの貴族の方から僕達が盗んだ物だと言われてまして。違うと言っても聞き入れてもらえなくて……」
私はうんざりしながら貴族らしき男に告げる。
「彼の主張は本当だ、訳あって彼のような存在を他にも知っている。下らない事をしてないで帰れ」
「何を世迷言を。その男は盗っ人だ、貴様こそそこをどけ」
「これ以上そう主張するなら貴様を野盗の類と判断して斬り捨てる」
そう言って抜刀し、刃に青い炎を纏わせる。
「う、うぐっ」
「か、閣下、ランクS冒険者のシュリナといえば、シュトラール地方最強の剣士と噂されてます。空を飛べる事でも有名なので本物かと」
最近ナンバー2に降格しました。
「お、覚えておれよ……」
そう言ってお供の騎士達と帰っていく貴族の男。
「覚えているかは分からんが、千でも二千でも幾らでも兵を連れて来い、全員斬り捨ててやる」
「ぐっ……」
さてと。周囲を見渡すと先程まで周りに居た村人達がいなくなっていた。……なるほど。
「村人もグルってところかな?」
さっきの貴族に与すれば免税してやるとでも言われていたのか……。
「……そうではないと、思いたいんですが」
アキラと名乗った男性がやるせなさそうに答える。
「ところで、何でこんな治安の悪い寒村に住んでるんですか?」
「婚約者と街を歩いていたら、この村の近くの山に突然放り出されまして」
……集団神隠し事件のうちの一件、大学関係者の男女か。
「暫くこの村に身を寄せて貰っていたんですが、住めば都と言いますか、村で起きた様々な問題を解決しているうちに愛着がわきまして。特に僕の婚約者は人を癒せる魔道具を持っているので、僕達はこの村に欠かせない存在になっていたと思ってたんですが……」
ものの見事に裏切られたと。
「
私達の前に、眼鏡をかけた、私のように黒髪を長く伸ばした女性が現れた。口の動きと発生音が一致してない。彼女が勇者か。
「絵梨花……」
絵梨花、ね。私は今しがた起きたことを彼女に伝えた。
「そんな、なんで村の人達が……一生かけて恩を返すとまで言ってくれてたのに」
「先程の貴族に脅されて仕方なく、という可能性もありますが」
そうだとしても、ここまで見事に恩を仇で返すのは大分悪辣ではあるが。
「そこで提案です。絵梨花さん、あなたは勇者、ですね」
「……えぇ、そうですが」
何故分かったのかと驚いた顔をしているが説明を省き話を進める。
「ガルアーク王国という大国があるんですが、その国所属の勇者になりませんか? そうすれば王城で安全で快適な生活を送れますよ。沙月=皇というあなた方と同じ国から召喚された勇者もここで生活してます」
「そう、ですね。どうしようかしら、晃さん……」
「僕は賛成かな。もうこの村にはいられないし、さっきの貴族とのやり取りを聞いていたんだけど、シュリナさんはこの世界ではかなり有名な人らしいから信頼出来ると思う」
「そうっだたのね。では、そのガルアーク王国という国に、私達を紹介して頂けませんか?」
「勿論です。段取りは全て私に任せて下さい」
やった、これで王様から報奨金をたんまり毟り取れるぞ。ケケケッ……。
「この村から一番近い、魔導船の船着き場がある街はありますか?」
「村から西に、勇者の私が走って一時間くらいの所にブラショフという街があります」
「では私が先行しますので、絵梨花さんは婚約者さんを抱えて走って来て下さい。街の入り口で合流しましょう」
そう言って浮かび上がる。
「そ、空を飛んだ!?」「この世界には凄い魔法があるよね……」
いえこの世界でも大分希少です。
◇ ◇ ◇
「さて、距離的にあの街だな。冒険者ギルドは……あそこか」
私はギルドの上空まで飛んで行き、入り口の前に着地する。通行人による恒例の「うわっ、空から人が!?」にももう慣れた。
……炭鉱に着地したら、「親方、空から女の子が!」とか言ってもらえるんだろうか? なんて考えながらギルドに入る。
「ランクS冒険者のシュリナだ。通信の魔道具を使わせてくれ」
そう言ってギルドカードを掲示する。
「かしこまりました、大銀貨六枚になります」
たっか。
「はい、六枚確かに。送信先はどちらまで?」
「ガルアーク王国クレティア公爵領都アマンドまで頼む」
「承知しました、ではこちらの紙に百文字以内で要件をお書きください」
職員はそう言って紙とペンを出してきた。さて何て書こうか。『至急。緊急の案件が生じた為、明日朝一で魔導船一隻をこちらに送られたし。冒険者ギルドで待つ。シュリナ』……こんなところかな?
要件を書き終えた紙を職員に渡す。
「確かに受け取りました」
「よろしく頼む」
さて、ついでに宿もとっておくか。
宿で三人部屋を借りた後、街の入り口で待っていると二人がやって来た。女性に抱き抱えられている為か、婚約者さんの方が若干恥ずかしそうにしていた。
二人を宿に案内して部屋に入ると、私はどうしても聞きたかった事を口にする。
「色々と聞いておきたい事はあるんですが、まず始めに。絵梨花さんがかけてる眼鏡は伊達ですか?」
「いえ、度が入ってますが……」
「勇者になった事で相当視力が上がったと思うんですが……」
「「あっ」」
二人揃って声を出す。流石婚約者同士、息がピッタリですね。
「あ、もしかして婚約者さんの趣味……」
「ぼ、僕にそんな嗜好はありません!」
頬を赤くして反論する婚約者さん。勇者絵梨花はそそくさと眼鏡を外してケースにしまい、窓の外を眺め始めた。
「……凄いわね。今まで気にした事なんてなかったけど、視力10はあるんじゃないかしら」
「マサイ族並みだね……」
最近のマサイ族ってスマホ使うからそんなに視力良くないらしいですよ?
◇ ◇ ◇
「お嬢様、シュリナ様から通信が届いています」
夕食後のお茶を飲んでいると、ナタリーがそう報告してきた。
「読み上げてちょうだい」
「はい、『至急。緊急の案件が生じた為、明日朝一で魔導船一隻をこちらに送られたし。冒険者ギルドで待つ。シュリナ』」
緊急の案件? 何かしら。
「どこから送られてきたの?」
「リヴァノフ王国のブラショフという街です」
リヴァノフ王国……プロキシア帝国の衛星国ね。
「ナタリー、魔導船の船員に明日、日の出と共に出発出来るよう準備するように伝えて。後、クレティア公爵家の紋章を船から外すようにと」
敵性国家に魔導船を飛ばす以上用心にこした事はないわね。
「承知しました」
「アリア、明日、冒険者のような格好をして向かってくれる?」
「かしこまりました」
◇ ◇ ◇
翌日。宿で朝食を摂った後、私は二人を連れて冒険者ギルドを訪れていた。待機スペ-スにあるテーブルの椅子に座って今後の予定を説明していると―――、
「お待たせしました、シュリナ様」
冒険者のような格好をしたアリアが現れた。何でそんな格好? 勇者絵梨花と戦う訳でもあるまいに。
「なるほど、敵性国家でメイド服着て歩いてて官憲に職質でもされたら面倒な事になりかねないか」
「はい。それで、そちらのお二方は?」
「魔導船の中で説明するよ」
二人の容貌を見て何となく察してはいるだろうが。魔導船に乗り、アマンドに到着すると、私は早速ロッテに二人を紹介する。
「なるほど。勇者のエリカ=サクラバ様と、その婚約者であるアキラ=テシガハラ様、ですね。我が国所属の勇者になる事をご希望、との事ですか」
「はい」
二人が揃って答える。
「承知しました。明日、陛下にお会い出来るよう手筈を整えておきます。シュリナさん、お二人に関する陛下への具体的なご説明はお任せ出来ますか?」
「勿論、任せてくれ」
めっちゃ報奨金ふんだくるつもりだし。
次の日、王城にある応接室の一室。私達は国王フランソワと相対していた。連れて来た二人にはリッカ商会の仕立ての良い服に着替えて貰っていた。流石に村人のボロい服のまま国王に会わせるわけにはいかない。
「リーゼロッテとの緊急の謁見はこれで二度目であるが、今度はまた、とんでもない人物を連れて来てくれたものだな」
「恐れ入ります。こちら、勇者のエリカ=サクラバ様と、その婚約者であるアキラ=テシガハラ様です。我が国所属の勇者になる事をご希望されております」
「余としては大歓迎ではあるのだが、事の経緯をもう少し掘り下げて話を聞きたい。構わぬな? リーゼロッテよ」
「勿論です。具体的な経緯の説明はこちらのシュリナさんにお願いしております」
ロッテが私に振ってくる。
「ほう、お主が剣姫の異名を持つシュトラール地方最強と名高い魔剣士か。ハルトの従姉でもあるらしいな。直接会うのはこれが初めてであるが、勇者殿の話も含め、そなたの話も詳しく聞かせて貰おう」
くっくっく。報奨金、金貨五百枚は固いかな?
私は勇者である絵梨花達と出会った経緯を国王フランソワに事細かく説明した。ついでに私よりリオの方が強い事も。
「ふむ、事の経緯は粗方把握した。勇者殿の婚約者の窮地を救い、また我が国に新たな勇者をもたらしたそなたの功績は極めて大きい」
「恐れ入ります」
これは金貨千枚いくかな?
「そこでお主には、名誉騎士の称号を授けようと思う」
……はぁ?
「い、いえ、私のような者には、過分な地位かと。幾ばくかの報奨金を頂ければ十分といいますか……」
「無論十分な報奨を用意しよう。その上で名誉騎士の称号を授けると言っておる」
えぇ~……。
「名誉騎士には通称を与える習わしがあるのはハルトの件で知っておろう?」
「え、えぇ……」
どどめ色の騎士とか止めてくれよ。
「……ふむ、そうだな、『碧の騎士』など、どうであろうか」
「碧の騎士……でございますか」
「お主の碧い瞳にちなんで名付けた。黒髪黒衣の中で、その瞳の色は一際目立つゆえな。お主に相応しい称号であろう」
ま、まんまやんけ。確かに私はヤグモ系では珍しい碧眼ではあるが。
◇ ◇ ◇
「こうしてガルアーク王国名誉騎士、碧の騎士にしてランクS冒険者、剣姫、シュリナ=カラスキ王女殿下が爆誕したのである。肩書きの情報量が多くて笑えてくるわ!」
「あはは……」
リオとロッテが苦笑する。
ここはベルトラム王国と国境を接するガルアーク王国の砦にあるロッテの部屋。ベルトラム王国第一王女クリスティーナをクレール伯爵領都から護送して来たリオと、この後ロッテの屋敷で行われるお食事会の打ち合わせをしていた。
あの一週間後に行われた新たな勇者のお披露目会の際、私の叙勲式も一緒に行われたんだが、その後開かれた夜会で、やれ『ウチの息子はどうだ』『僕との婚約はどうかな』ってしつこい事この上ない。
二度と夜会になんて出るものか……。