精霊幻想記 剣姫の円舞曲   作:パイタン

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第四章 私が恋心を抱けない理由

 今日も今日とてアマンドの冒険者ギルドに顔を出していた。う~ん、これといって実入りの良さそうな依頼はないなぁ。掲示板を見るも、大した依頼は掲示されていない。

 前回、王様から報奨金として大金を受け取っているので暫くは遊んで暮らせるのだが、体がなまりそうなので仕事は続けたかった。

「他のギルドから何か良さげな依頼とか入ってない?」

 ギルドの受付嬢にそう問いかける。

「そうですねぇ……あぁそういえば、聞きました? リーゼロッテ様と勇者様の婚約の話」

「は……?」

 

◇ ◇ ◇

 

 魔導船の船着き場で待つこと一刻、ロッテが侍女達を伴ってやって来た。

「話は聞かせてもらった、レストラシオンは滅亡する!」

「なっ、なんですってーーー!?」

 コゼットとクロエがいい反応を返してくれる。ロッテは呆れた顔をし、アリアに至っては無反応だ。

「もう、何を言ってるんですか……」

 呆れた表情のままロッテが答える。

「ロッテをあの勇者と無理やり婚約させようとする組織なんて滅んでしまえばいい」

 レストラシオンの王女姉妹が現在行方不明になっており、ユグノー公爵はガルアーク王国の第三王女と、レストラシオンの勇者弘明を婚約させる事で、組織の体裁を保つ目論見らしい。

 そこに勇者弘明が出してきた条件が、ロッテとも婚約するというものだった。人の嫁に手を出そうとは太え野郎だ。

「またそんな事を言って。それではセリア様が困ってしまうじゃないですか」

「セリア嬢はハルトが貰ってやれば何の問題もない」

「そんな無茶な」

 ロッテが苦笑する。

「とにかく、私も同行させてもらうぞ」

「それは構いませんが、幾ら名誉騎士でも勇者様に意見するのは難しいのでは?」

「そこはもう、沙月ちゃんや絵梨花さんの威を借りまくるつもりだ」

「あはは……」

 こうして魔導船に乗って王都まで行き、王城の中をロッテと歩いていると―――、

「シュリナ様、よろしいですか?」

 ガルアーク王国の第二王女シャルロットが声を掛けてきた。

「いかがしましたか?」

「リーゼロッテと一緒に来たという事は、目的は我々と同じで、このお見合いを破綻させる事では?」

 ……我々?

「えぇ、そうです」

「では此方に。構わないわね? リーゼロッテ」

「勿論です。シュリナさんは勝手にくっついて来ただけですので」

 ひっでえ言われよう……。シャルロット王女について行き、とある部屋に入る。

「久しぶり、シュリナさん!」「その節はどうも、シュリナさん」

 部屋の中には、沙月ちゃんや絵梨花女史、その婚約者の晃氏が居た。

 彼女達の話を聞くと、もし坂田弘明が勇者の権限を用いて無理やりロッテとの婚約を成立させようとしたら、此方も勇者の権限を用いて徹底的に破談に持ち込む算段らしかった。

 なんだ、最初からから破綻してるんじゃないか、このお見合い。

 ―――結局、ロッテ自ら拒否した事で、この婚約は不成立となった。人の嫁に手を出そうとするからだ。ざまぁ。

 そんな事を考えていると、リオが行方不明になっていた王女姉妹を連れてやって来たとの急報が入る。

 

◇ ◇ ◇

 

「私からは以上です」

 クリスティーナ王女が行方不明になった理由と、リオに助けられた経緯を説明してそう締めくくった。

「そうか、遂に悲願を達成出来たんだな、ハルト」

「えぇ……」

 私がそう話しかけると、リオが短く応える。その表情は達成感よりもやるせなさが勝っていた。ルシウスを殺したところで叔母様が生き返るわけじゃないからな。

 その後、ルビア王国の裏切り、テレポートの魔道具に対する対処法などが話し合われ、今回の騒動の話は締めくくられた。

 気になったのはルビア王国の裏切りだ。正直ガルアーク王国を裏切るメリットが何もない。だが、六人目の勇者らしき存在と結びつけると―――、

「ハルト、少しいいか?」

 王女姉妹を救出した褒美として、リオには王城内の屋敷が下賜される事となった。その屋敷を見学しに行く途中、リオに話しかける。

「なんでしょう?」

「ルビア王国に行ってシルヴィ王女を攫って来る事は可能だろうか?」

 以前リオから、アイシアと一緒ならどんな建物だろうと気づかれずに侵入する事が可能だと聞いていた。また、寝ている相手をより深い眠りに誘う事も出来るとか。

 つまり、就寝中のシルヴィ王女なら、簡単に攫って来る事が可能という事だ。

「えぇまあ、やろうと思えば可能です」

「すまないが頼まれてくれないか? 陛下には私の方から話を通しておくから」

「分かりました。セリアの様子を見に一度ロダニアに行きたいので、そうですね……二日後の深夜、こちらに連れて来ましょう」

「悪いな、頼む」

「いえ」

 こうしてレストラシオンの一行とリオは魔導船でロダニアに帰る事となった。

「ハルト、この紙とナイフを」

「……これは?」

「陛下がこの紙をシルヴィ王女の寝床に刺してきて欲しいと」

 紙には、『我が国を裏切った報いとして、シルヴィ王女の身柄を預からせてもらう。ガルアーク王国国王フランソワ=ガルアーク』と書かれていた。王様も中々悪辣な事を考える。馬の首かい。

「わ、分かりました」

リオが若干引きつつ紙とナイフを受け取った。そして二日後の深夜、日付が変わって数刻が過ぎた頃、リオが寝ているシルヴィ王女を抱えて城にやって来た。

「わざわざすまないな、ここからは私が引き継ごう」

「いえ、このまま抱えて行きますよ?」

「ハルトはここまででいい。この後彼女を尋問する訳だが、場合によっては拷問に発展する可能性がある。無抵抗な女性が暴力を受けるところは見たくないだろう? 結果は数日後に催されるお茶会の前にでも教えるよ」

「……分かりました、ではお願いします」

「あぁ」

 そう言ってシルヴィ王女を受け取って、城の地下にある尋問室に入り、彼女を椅子に座らせ魔封じの首輪を嵌めて後ろ手に手錠を掛ける。

 そして彼女の身体を何度も強く揺さぶっていると―――、

「……う、ここは?」

 彼女が目を覚ました。私は向かいの椅子に座ってテーブルの上で手を組む。私の隣には調書を取る騎士が一人と、私の後ろに騎士が一人立っていた。

「ここはガルアーク王国城の地下にある尋問室だ」

「……なっ!? 貴様が私を攫ってきたのか?」

「さてな。だがここに連れて来られた理由には心当たりがあるだろう?」

「……くっ」

「私はガルアーク王国名誉騎士、シュリナ=カラスキ。貴女への尋問を担当させてもらう者だ」

「剣姫シュリナか……」

 さようです姫騎士殿。

「さて、今から尋問を始めるわけだが、尋問で済んでいるうちに話して欲しい。私も女性の指を切り落としたくはない」

「……っ」

 いやしないよ流石に。

「では始めよう。ルビア王国の砦でハルトを襲撃したのは何故?」

「……そう指示されたからだ」

「レイス=ヴォルフに?」

「……そうだ」

 予想通り、と。

「何故指示に従った?」

「妹を、エステルをプロキシア帝国に人質に取られている……!」

 これも予想通りと。期待を裏切らない男、レイス=ヴォルフ! 素敵、抱いて! いや勘弁して。

「氷の神装を使う勇者の名前は?」

「……レンジだ」

「姓は?」

「そこまでは聞いてない」

 レンジねぇ……、オーブンみたいな名前しやがって。

「何故その勇者はレイスに従ってる?」

「……レンジが、ルシウスという傭兵と決闘で勝ったら、エステルの解放とレイス達を奴隷にするという条件を出したんだ」

「負けたらレイスの部下になれとでも言われたかな?」

「……あぁ」

「で、ルシウスにそのレンジって勇者がこてんぱんに伸されたので、レイスに従わざるを得なくなったと」

「そうだ……」

「なるほど、私は聞きたい事は粗方聞けたかな。……他に何かあるかな?」

 二人の騎士に問いかける。

「十分ではないかと」

「そうか。それじゃ私はアマンドに帰るから、その調書は陛下に届けておいてくれ」

「承知しました」

 私は部屋のドアを開けて部屋から出ようとして、ふとシルヴィ王女の方に振り向く。彼女は虚ろな表情で、その瞳は何も映していないように見えた。

「……シルヴィ王女、正直貴女には同情するよ。身代金程度で解放してもらえると良いな」

 彼女の瞳から滂沱の涙が溢れ出し、激しく嗚咽し始める。

「うぁっ、あああぁっ、うわああああぁっ……!」

 彼女の慟哭を背に、私は部屋を後にした。

 

◇ ◇ ◇

 

「……レイスが生きてる?」

 これから開かれるリオの屋敷でのお茶会の前、リオ達にシルヴィ王女から得た情報を話すと、何故かアイシアが怪訝な顔をする。普段無表情な彼女にしては珍しい。

 話を聞くと、ロダニアに現れたレイスを追って戦っているうちに、あの男が巨大な骨の騎士になったらしい。その化物を倒したのでレイスは死んだと思っていたとか。

「時系列的にルビア王国でハルトが襲撃を受けたのはその後だから、レイスの死は偽装という事になるな。また良からぬ事を企んでないといいが……」

 私が敵視している事に感づいているのか、奴は徹底して私の前に姿を現さない。だからシルヴィ王女を攫ったりして間接的な嫌がらせをしているのだが。

 そんな事を考えながら歩いていると―――、

「カラスキ卿、少しよろしいでしょうか」

 クリスティーナ王女が話しかけてきた。

「シュリナで構いません、いかがしましたか?」

「ではシュリナさんと。先日アマカワ卿から聞いた彼の秘密についてなのですが」

 顔を近づけヒソヒソと話しかけてくるクリスティーナ王女。う~ん、美少女。ロッテがいなければ求婚しているところだ。

「何の秘密でしょう?」

 リオは秘密の固まりが服を着て歩いているような存在だからな。リオに関する事を全て把握しているのはアイシアくらいだろう。

「その、かつての彼はリオという名で、私と同じ学び舎にいた生徒だったという事なのですが」

「あぁ、ユグノー公爵の馬鹿息子にハメられた件ですか」

「……大変お恥ずかしい限りで。そこで、アマカワ卿のお母君は王族だったと聞きまして、彼の従姉である貴女も王族だと」

 そういえばルシウスにバラされたので、必然的に私が王女だということをベルトラムの王女姉妹に知られてしまったとリオが言ってたな。

「えぇ、そうですよ。私はヤグモ地方にあるカラスキ王国の王太子の娘です。出奔しているので、こちらではその地位は意味をなしませんが」

「剣の修行の為に王女という立場を捨ててまでシュトラール地方にいらしたとか」

 ……本当の理由は中身がおじさんだから、男と結婚するのが嫌だったからです。

「アルフレッドの光の斬撃を真っ向から受け止めた上で彼に勝利した貴女を見た時は本当に目を疑ったものです」

「あぁ、あの決闘見ていらしたんですか」

「えぇ、城の窓からたまたま」

 等と話していると、「皆様こちらへ」とシャルロット王女が我々に話しかけてきた。お茶会が開かれる応接室は三十畳はある広い部屋だった。

 無礼講という事で、皆思い思いの席に座る。勿論私はロッテの隣だ。

 ……にしても男がリオしかいねぇ。絵梨花女史は若い方々だけでどうぞと、参加していなかった。こんなお茶会より婚約者さんとイチャコラしていたいか。

 シャルロット王女がホストとなって皆の会話をスムーズに進める事で、お茶会は和やかに進んでいく。と、シャルロット王女がリオの手料理を食べてみたいという話になり、リオが席を外して厨房へと向かって行った。

 すると―――、

「皆様は将来的に、ハルト様とどのような関係になりたいとお考えでしょうか」

 などとシャルロット王女がぶっちゃけてきたので苦笑する。

「私とハルトは、いとこ同士なので今も将来も関係は変わりませんよ?」

「貴族の場合、いとこ同士での婚姻など珍しくはございません。それにハルト様とシュリナ様は美男美女同士な上、シュトラール地方で一二を争う剣士でもございます。とてもお似合いに思えるのですが」

 随分と推すねぇ……。

「だとしても、私がハルトに恋心を抱く事は決してありません」

 私の前世がおじさんだと知る者達が苦笑した。

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