ウルトラマンフォルテ   作:骨切りアギーラ

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第3話

ウルトラマンフォルテが降臨してから約一カ月。

世界は未だ、巨大な異形の存在という「現実」を咀嚼しきれずにいた。各国政府は対怪獣災害の法整備に追われ、日本政府もまた、自衛隊の運用指針の見直しを急いでいた。

 

もっとも当の奏はノイズバス以降、新たな異変が起きていないことに胸をなでおろしていた。かつての焦りは影を潜め、一歩ずつ強くなろうという決意が、彼を落ち着かせていたのだ。

 

だが、平穏とは常に、壊されるためにあるものだった。

 

日曜日の午後。

自宅で何気なくテレビを眺めていた奏の耳に、緊迫したニュースキャスターの声が飛び込んできた。

 

「臨時ニュースをお伝えします。先ほど12時40分頃、〇〇県××市の山中に謎の飛行物体が落下しました」

 

ヘリからの生中継映像に切り替わった瞬間、奏は息を呑んだ。

そこに映っていたのは、これまでの「ノイズ」の被害者たちとは根本から異なる悍ましさを放つ怪物だった。

 

両肩に隻眼の犬のような頭を持ち、中央にはシロイルカに似た不気味な頭。三つの首を持つその獣は、上空のヘリを冷酷に見据えると、口から火炎弾を放った。火球は逃げるヘリの軌道をなぞるように追尾し、一瞬にして鉄の塊を爆炎へと変えた。

 

「……行かなきゃ!」

 

母に気づかれないよう家を飛び出した奏は、震える手でフォルテボイサーを出現させた。

 

「響け、勇気の旋律! フォルテ・シンフォニー!」

 

眩い光と共に、フォルテは〇〇県の山中へと降り立った。

街へ向かおうとする三つ首の怪獣の前に立ちはだかる。だが間近で向き合ったその巨体から放たれるのは、これまで感じたことのない「悪意」だった。

 

怪獣は野生の獣のような俊敏さでフォルテの懐に潜り込み、鋭い爪の連撃を叩き込む。

 

『……速い! それに、何だこの感覚!』

 

「デュワッ!?」

 

フォルテの銀色の装甲が火花を散らす。何より奏を戦慄させたのは、その意思だ。テルプジゴラもノイズバスも、内側に「苦しみ」を抱えていた。しかし目の前の怪物は、フォルテという獲物を追い詰める恐怖を愉しみ、その命を喰らおうとする、冷酷な捕食者の本能を剥き出しにしている。

 

『グッ! この!』

 

腹への蹴りで距離を取ったフォルテは、一気に勝負を決めるべく腕を振るった。

 

『響け、安らぎの旋律……! フォルティシモ・レゾナンス・カノン!』

 

聖歌の合唱と共に放たれた黄金の浄化光線。

だが怪獣は一切怯まなかった。それどころか、自分を包む柔らかな光を鬱陶しそうに振り払い、猛然と突進してきたのだ。

 

『効かない……!? 浄化の旋律が……受け付けられないっていうのか!?』

 

突き飛ばされ、地面に叩きつけられたフォルテ。さらに追い打ちの火球が、喉笛に食らいつく猟犬のごとき執念でフォルテを爆炎に包んだ。

 

「デュアーッ!」

 

無情にも点滅を始める『f』のカラータイマー。絶体絶命の窮地。そこに、一機のドローンが滑り込んできた。

 

「間に合いましたの!」

 

「操縦をオートコントロールに移行。私のドローンとみんなの歌の力を見せる時」

 

この1カ月の間に、四季が自分達が行けない場所で怪獣災害が発生した時の為に、彼女達の歌声を届けるためにカメラとスピーカーを搭載したLiella!専用ドローン、通称『リエラドロン』を開発していたのだ。

 

結ヶ丘女子高等学校の屋上から、フォルテへとエールを送るLiella!。リエラドロンのスピーカーから、彼女たちの輝かしい歌声が戦場に鳴り響いた。それは傷ついたフォルテに、再び立ち上がる活力を与えていく。だが異変に気づいたのは可可だった。

 

「おかしいデス! 怪獣が何の反応も示していまセン!」

 

可可がモニターを凝視しながら驚愕の声を上げた。本来ならノイズを中和し、怪獣を弱体化させるはずの歌声が最高潮に達しても、怪獣は弱体化するどころか、不快そうに牙を剥くだけだ。

 

「待って下さい。この怪獣には過去の2体に見られた特徴――身体に刻まれた歪んだ音符のような刻印がどこにも見当たりません」

 

冬毬の指摘に、メンバーの顔に戦慄が走る。

 

「これまでの個体とは根本的に異なる種なのではないですか?」

 

「そんな……じゃあ、私たちの歌はウルトラマンにしか届いてないっていうの!?」

 

かのんの悲痛な叫び。怪獣は耳障りな歌声を止めるべく、三つの首を同時に動かし、口内に炎を溜める。

 

「危ない!」

 

千砂都の叫びも虚しく、リエラドロンは火球に飲まれ爆発四散した。通信の途絶えたモニターの前で、少女たちは祈ることしかできなかった……。

 

「デュワッ!」

 

僅かに回復したエネルギーで、フォルテは渾身のストレートを怪獣の中央の首に叩き込む。しかし、怪獣は左右の犬の首でフォルテの両腕をガッチリと食い止めた。骨が軋むような嫌な音が響く。

 

『……あ……あああああッ!』

 

奏の悲鳴と重なるように、フォルテの巨体が宙を舞い、再び地面へ叩きつけられた。怪獣はその上にのしかかり、鋭い爪で無慈悲に踏みにじる。腹への強烈な蹴りが入り、奏の意識が遠のいていく。

 

力なく横たわるフォルテを見下ろし、怪獣の口が嘲笑うかのように歪んだ。中央の首が大きく口を開き、至近距離からトドメの火炎が放たれようとした、その時。

 

「ディヤー!!」

 

空から舞い降りた閃光が、悪魔の火球を光弾で相殺した。

眩い光の中から現れたのは、これまでのフォルテとは異なる意匠を持つ、もう一人の光の戦士。

 

『僕以外の……ウルトラマン?』

 

立ち塞がる背中を見上げ、奏は呆然と呟く。

 

現れたのは『ウルトラマンアーク』

 

二人の巨人の共演が、地獄と化した戦場を新たな光で照らし始めた。

 

 

 

膝を突き、肩で荒い息をつくフォルテ。その前に立つ銀色の背中は、あまりにも頼もしかった。

 

ウルトラマンアーク。その戦いぶりは、奏のそれとは一線を画していた。

 

襲い来る三つ首の魔獣の爪を、アークは最小限の動きで鮮やかに受け流す。連射される火球に対しては虹色の輝きを放つ『アークギガバリヤー』を展開し、一切のダメージを許さない。

 

「デュワッ!」

 

バリヤーを解くと同時に、アークの手のひらから光弾『アークテラショット』が放たれた。正確無比な一撃が魔獣の胸元で弾ける。先ほどまでフォルテを圧倒していた怪物は、今やアークの猛攻を前に後退を余儀なくされていた。

 

まともな心を持たないはずの魔獣にも、強者に対する生存本能的な「怯え」が生じたのか。

 

怪獣の両肩にある目が怪しく光り、辺りに靄のような幻覚を振りまいた。アークが視界を遮られた一瞬の隙を突き、魔獣は地中へとその身を隠し、逃亡を図った。

 

静けさを取り戻した山陰。

 

変身を解き、疲労で座り込んでいた奏のもとに、一人の青年が歩み寄ってきた。青を基調としたジャケットが、陽光に映えている。

 

「大丈夫? 疲れているだろうし、少し場所を変えようか」

 

穏やかな、けれど芯の通った声。奏は青年に促され、近隣の静かな公園へと移動した。

 

青年は「飛世ユウマ」と名乗った。彼は宇宙賢者サスカルの要請を受け、奏を助けるために異なる次元から時空を超えてこの世界に現れたのだという。

 

「……スペースビースト?」

 

「うん。あの個体の名前は『ガルベロス』というんだけど、あれはそのスペースビーストの一種で、奴らは生命体の恐怖を食らい、自己を増殖・進化させるためだけに存在する宇宙の捕食者なんだ」

 

ユウマの口から語られる真実に、奏は戦慄した。

「ノイズ」によって狂暴化した精霊たちは、元に戻すことができた。

だが、このビーストには「元」などない。ただ捕食し、蹂躙するために存在している。それを止めるには命を奪う以外の選択肢がないという残酷な現実。

 

「分かり合えない……倒すしかないなんて、そんなの……」

 

打ちひしがれる奏の肩に、ユウマは優しく手を置いた。

 

自身もまた「まずは信じること」を信条とし、多くの異星人と友情を育んできたこと。

けれど、どうしても分かり合えず、心ならずも倒さざるを得なかった存在もいたこと。

ユウマは静かに、けれど力強く奏を見つめた。

 

「神様じゃない僕達に出来るのは、手が届く範囲で……自分の信じる正義を、守ると決めた人を全力で守ることだけだと思う。それが力を授かった者の…ウルトラマン使命なんじゃないかな?」

 

その言葉は、迷いの中にいた奏の心に深く、重く響いた。

 

守ると決めた人。Liella!のみんな。歌を愛する人たち。その笑顔を守るために、自分はここにいる。

 

奏の瞳に、新たな覚悟の火が灯った。

 

その時、奏のポケットの中でスマートフォンが激しく震えた。緊急アラート。逃亡した魔獣が、山を離れた市街地の中心部に再び出現したという知らせだ。

 

「……行きましょう、ユウマさん」

 

「ああ、行こう!」

 

二人は同時に頷き、それぞれの絆を呼び出す。

 

「響け、勇気の旋律! フォルテ・シンフォニー!」

 

奏がフォルテボイサーを掲げ、叫ぶ。

 

対するユウマは、六面体のキューブ『アークキューブ』を起動させ、体内から出現した変身アイテム『アークアライザー』に装填した。

ルービックキューブのように回転させ、絵柄が揃う。

黄金の光の中からウルトラマンアークの幻影が現れ、ユウマを抱きしめるように重なり、融合を果たす。

 

空へと昇る、二筋の光。

 

若き勇者と異世界から来た守護者は、魔獣との最終決戦へと飛び立った。

 

 

 

市街地を蹂躙せんとする三つ首の魔獣の前に降り立つ、二人の光の巨人。

 

アークの動きは、まさに流麗の一言に尽きた。フォルテの攻撃に合わせて絶妙なタイミングでガルベロスの注意を逸らし、隙を作っては的確な打撃を叩き込んでいく。

 

ガルベロスが距離を取り執拗な火球攻撃を仕掛けるが、アークは揺るぎない動作で『アークギガバリヤー』を展開。爆炎を完全に遮断する。

 

『奏くん、聞いてくれ』

 

戦闘の最中、ユウマの穏やかな、けれど緊張感のある声が奏の脳裏に響いた。

 

『スペースビーストは細胞が僅かでも残っていれば、残った細胞から再生・増殖する性質を持っている。完全に倒すには分子レベルで分解・消滅させる、強力な一撃を叩き込む必要があるんだ』

 

ユウマの言葉に、奏は強く頷いた。

 

目の前の怪物は救うべき精霊ではない。

多くの命を脅かし恐怖を貪る存在。

ここで完全に断ち切らなければ、また誰かが涙を流すことになる。

 

『……分かりました。僕のすべてを、この一撃に込めます!』

 

奏の決意に応えるように、フォルテの「f」のカラータイマーが激しく明滅し、白銀の輝きを放ち始めた。

シンフォニー・フェイズが持つ、もう一つの側面。

破壊と殲滅を司る「スタッカート・モード」が、今ここに芽生える。

 

アークは魔獣の幻影に惑わされることなく、正確に本体を見抜き、強烈な一撃を見舞った。

蹌踉めくガルベロス。

トドメの機は熟した。

 

アークが両腕をクロスさせ、虹色のエネルギーを凝縮する。

 

『アークファイナライズ!』

 

同時にフォルテもまた、今までとは異なる鋭い構えを取った。

 

『断ち切れ、悪しき旋律……! フォルティシモ・レゾナンス・スタッカート!』

 

優雅な円を描くカノンとは対照的な、鋭く叩きつけるような打鍵の動作。

フォルテの腕から放たれた白銀の衝撃波を伴う超高出力光線が、アークの放った虹色の光線と絡み合い、巨大な光の濁流となってガルベロスを飲み込んだ。

 

音波振動によって分子構造から粉砕された魔獣は、再生の隙すら与えられず、断末魔の叫びと共に塵一つ残さず消滅した。

 

 

夕焼けが街を赤く染める頃。

 

激戦の跡地から少し離れた場所で、奏とユウマは再び対峙していた。

 

「そろそろ帰る時間みたいだ」

 

ユウマが空を見上げる。

そこには彼を元の世界へと導く、微かな光の歪みが生じていた。

ユウマは奏に向き直り、眩しそうに目を細めた。

 

「君なら大丈夫だ、奏くん。君には、君にしか奏でられない正義がある。自分と、そして君を支えてくれる人たちを信じて進んでいけばいい」

 

「ユウマさん……はい! ありがとうございます!」

 

奏が深く頭を下げ、顔を上げた時には、もうそこに青いジャケットの青年の姿はなかった。

風だけが吹き抜け、戦いの終わりを告げていた。

奏は、自身の左手首に宿るフォルテの力を感じながら、空を見つめ続けた。

 

飛世ユウマ──真の勇者にして、尊敬すべき先達。

 

彼が見せてくれた強さと優しさは、奏の心に消えない道標を刻んでいた。

 

(僕もいつか、あんな風に……)

 

夕暮れの中、奏はウルトラマンとしての決意を新たに、力強く地面を蹴って走り出した。

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