ウルトラマンフォルテ   作:骨切りアギーラ

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第4話

結ヶ丘百貨店で開催されている『大水晶展』

 

会場は休日を楽しむ家族連れやカップル、そして目玉展示である巨大な紫水晶を一目見ようとする熱心な観衆で、酸欠になりそうなほどにごった返していた。

 

そこにLiella!の3年生5人組の姿もあった。喧騒の中、一際大きな声を響かせているのは平安名すみれだ。

 

「見なさい、あの輝き! まさに私に相応しいギャラクシーな美しさね! ショウビジネスの世界を照らすスターに相応しい宝石が、そこにあるわ!」

 

すみれが自信満々に指し示したのは、ブラジルで発見された極上のアメジスト『パープル・エンプレス(紫の女帝)』

高さ2メートルを超えるその巨躯は、会場の照明を千々に反射し、幻想的な紫の海を壁面に揺らめかせている。

 

「すみれには縁日の色付きビー玉で充分デス。本物の水晶が自分の価値を疑って、ショックで曇ってしまいマス!」

 

「なんですってぇ!? 私のオーラはこの水晶よりも高純度よ!」

 

いつものように賑やかな二人のやり取りを、澁谷かのん、嵐千砂都、葉月恋の三人は苦笑いしながら眺めていた。だが百貨店の豪華なシャンデリアが不自然に揺れ、平穏は唐突に、そして不気味に破られる。

 

『パープル・エンプレス』の内部から、心臓の鼓動のような脈動と共に、ドロリとした黒い靄が染み出したのだ。

 

「ギャーッ! 呪いったら呪いよ! きっと水晶の持ち主の霊が私の美しさに嫉妬して、道連れにしようとしてるんだわ!」

 

「そんな訳ありマスカ! ていうか、呪いならすみれは神社の巫女さんなんだから何とかして下サイ! お祓いデス! 除霊デス!アーメンデス!」

 

喚き散らす可可とすみれは、文句を言い合いながらも、恐怖のあまりお互いの腕をちぎれんばかりにぎゅっと抱きしめ合っている。しかしかのんと千砂都は、その黒い靄から放たれる「音」の正体を鋭く見抜いていた。

 

「ちーちゃん! これって……!」

 

「うん。あの時と同じ、嫌な響き……『カオス・ノイズ』!」

 

「見て下さい、皆さん! 水晶が!」

 

恋が指差す先、宙に浮いた紫水晶の表面に、おぞましく歪んだ音符の刻印が浮かび上がった。水晶は百貨店の巨大な窓ガラスを「パリン!」と景気良く突き破って屋外へ飛び出すと、広場に着地。周辺のアスファルトや公園の石碑を磁石のように吸い込みながら、一気に肥大化していった。

 

出現したのは全身を硬質の紫水晶の鱗で覆われたトカゲ様の巨獣、結晶怪獣『グラシオン』

 

 

 

ニュースで急報を知った奏は人目のない路地裏へ駆け込み、迷うことなくフォルテボイサーを起動した。

 

「響け、勇気の旋律! フォルテ・シンフォニー!」

 

現場へ飛来したフォルテは、着地と同時にグラシオンの懐へ飛び込み鋭い手刀を放つ。しかし、衝撃音は「キィィン!」と高く響き、フォルテの腕が痺れた。グラシオンの背中から剥離した6枚の巨大な水晶片が、意志を持つかのように宙に浮遊し、フォルテの攻撃を完璧に弾き返すのだ。

 

『それなら、遠距離から……! 響け、安らぎの旋律……! フォルティシモ・レゾナンス・カノン!』

 

必殺の浄化光線を放つが、水晶の盾が円陣を組み、プリズムのように光のエネルギーを屈折させ四方に霧散させてしまう。隙を突いたグラシオンが、岩塊のような尻尾を無造作に振り抜いた。

 

「デュワッ!?」

 

重い一撃を脇腹に受け、フォルテの巨体は高層ビルの壁面を削りながら地面を転がった。砂塵の中、胸のカラータイマーが「ピコン、ピコン……」と悲痛な点滅を始める。

 

「フォルテ、負けないで!」

 

「私達の歌を聴いて!」

 

駆けつけたかのん達の手には「スクールアイドルの歌唱エネルギーが対怪獣の有効打になる」というこれまでの経験則に基づき、四季が緊急用に開発した試作型ヘッドセットが握られていた。普段はコンパクトなヘアクリップ状のそれを起動し、変形したヘッドセットマイクを装着する。

 

「いくよ、みんな!」

 

【だから僕らは鳴らすんだ!】

 

5人の少女たちが紡ぐ力強い旋律が、戦場に響き渡る。その音色は、フォルテの意識を深く激しく揺らした。

 

今のままの軽さでは、あの結晶の盾を貫けない。今のままの強さでは、あの重厚な体に打ち勝てない。

 

(もっと、強く。大地そのものを揺らすような、魂の底からの鼓動を……!)

 

奏のイメージがフォルテボイサーと激しく共鳴する。その瞬間、彼の左手首から重厚なドラムのビートのような音が溢れ出した。奏は震える声で、新たなフェイズの名を叫んだ。

 

『揺らせ、魂の鼓動! フォルテ・ロック!』

 

まばゆい光がフォルテを包む。赤と銀のボディは、見る間に濃紺と黒の重騎士のような姿へ変貌した。肩には巨大なスピーカーを彷彿とさせる、衝撃波放出用の重装甲が備わっている。

 

再び襲いかかるグラシオンの尻尾。しかし、ロック・フェイズへと進化したフォルテは、その一撃を片腕で正面から、微動だにせず受け止めた。

 

『重い……けど、耐えられる!』

 

驚愕し身を引こうとする怪獣を、そのまま豪快に掴み空高く投げ飛ばす。宙を舞う巨獣を見上げながら、奏はインナースペースでフォルテボイサーに必殺技の名前を叫び、右拳を強く固めた。

 

『轟け、大地の鼓動……!グランド・ビート・クエイク』

 

力任せに振り下ろされた拳が、アスファルトを砕き、地面を叩く。

 

「ドォォォォォン!」

 

超重低音を伴った衝撃波が、地中を伝ってグラシオンの足元から爆発した。その圧倒的な振動エネルギーは、鉄壁を誇った水晶の盾を内側から粉々に粉砕し、グラシオンの結晶装甲に無数の亀裂を走らせる。

 

『今だ!』

 

フォルテは瞬時に基本形態へと戻り、守りを失ったグラシオンへ手をかざす。

 

『響け、安らぎの旋律……! フォルティシモ・レゾナンス・カノン!』

 

至近距離から浴びせられた黄金の聖歌が、グラシオンに憑依した不協和音を完全に浄化・消去した。巨躯は静かに光の粒子へと還り、現場の広場には、元の清らかな美しさを取り戻した『パープル・エンプレス』がそっと残されていた。

 

 

「はぁ……。結局、呪いじゃなくて怪獣だったじゃない。私の無駄な心配とギャラクシーな絶叫を返しなさいよ」

 

すみれが、煤けたスカートを払いながら不満げに零す。

 

「すみれが勝手に怖がって、可可の腕をアザができるほど掴んでただけデス! 可可は最初から、これは結晶の異常増殖だと冷静に分析してマシタ!」

 

「どの口が言ってるのよ、さっきまで私の胸に顔を埋めて震えてた癖に!」

 

戦い終わり、いつものように騒がしい口喧嘩を再開するすみれと可可。それを見て、かのんたちは「やれやれ」といった様子で顔を見合わせ、晴れ渡った空の下で笑い合うのだった。

 

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