ウルトラマンフォルテ   作:骨切りアギーラ

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第6話

結ヶ丘女子高等学校スクールアイドル部の部室。放課後の静寂を破ったのは、鬼塚冬毬がタブレットを叩く、一定のリズムを刻む無機質な音だった。

 

「……やはり計算が合いません。有意差を無視できる範囲を超えています」

 

「何がよ。あんた、さっきからそればっかりね。画面の数字が躍りすぎて、私の美貌が霞むじゃない」

 

隣で退屈そうに爪を磨いていたウィーン・マルガレーテが顔を上げる。冬毬の画面には、幾何学的なグラフと結ヶ丘周辺の地図が複雑に重なり合っていた。

 

「怪獣出現の座標、フォルテの飛来時刻、そして音宮 奏の目撃情報。これらを統計学的に処理すると、彼が現場に居合わせるのは単なる幸運ではなく、九割以上の確率で『必然』です。姉者は彼をラッキーボーイと呼びますが、確率は嘘をつきません」

 

「……はあ? それってあの子がウルトラマンだって言いたいの? 冗談はやめて。あんなに可愛らしくて、ちょっと頼りない子が、あの巨大な光の巨人だなんて。ファンタジーが過ぎるわ」

 

「仮説を検証するには実証が必要です。マルガレーテ、明日の休日、調査に同行していただきます。……これは命令ではなく、真理に近づくための協力要請です」

 

「勝手に決めないでよ!……まあ、いいけど。暇だし。あの子が何をしてるのか、ちょっとは興味あるしね」

 

翌日。巨大なショッピングモールを、怪しいほど不自然に距離を置いて歩く二人の少女。

 

「ねぇ、ホントに尾行するの? 私、他人をコソコソつけ回すのとか性に合わないのよね。もっと堂々とスターらしく歩きたいわ」

 

「クレームは却下です。私情を排しターゲットを冷静に観察する。これは真理に到達するために不可欠なプロセスです。……あ、ターゲットが停止しました」

 

奏はショッピングモールの入り口でそわそわと、誰かを待っていた。やがて、一人の美しい大人の女性が現れると、奏はパッと顔を輝かせて大きく手を振った。

 

「なっ……なにあれ! あんなにデレデレして……! ていうか、中1の癖に大人の女の人をはべらすってどうなの!? 全然『奏ちゃん』じゃないじゃない!」

 

「……不愉快です。調査に感情は不要ですが、あの女性との過度な親密接触は、特筆すべき異常事態として記録します。……胸の奥が、非常に、不愉快ですが」

 

尾行を続ける二人。マネキンのふりをして静止したり、壁に張り付いて忍者さながらの移動を見せる彼女たちの姿は、通行人の目には「奇妙な行動をする、やけに目立つ美少女コンビ」にしか見えなかったが、当人たちは真剣そのものだった。

 

だが、運命は地下街で急転直下する。

 

カオス・ノイズの影響を受け、地下深くに眠っていた古代植物ジュランの球根が、混沌のエネルギーを吸い上げ急速に覚醒。吸血植物ノイズ・ジュランとして開花を始めたのだ。

 

「な、何!?地震なの!?」

 

「いえ、この揺れ方は明らかにおかしいです!気をつけて下さい、マルガレーテ!」

 

 

 

 

 

激しい揺れと共に天井の一部が崩落し、地下街は地上と完全に分断された。瓦礫の煙が舞う中、マルガレーテと冬毬は図らずも奏とその連れの女性と鉢合わせる。

 

「あれ? マルガレーテさんに冬毬さん! どうしてお二人もここに?」

 

「なっ……! 別にアンタをつけてたわけじゃないわよ! たまたま、ショッピングモールの音響設計を確認しに来ただけなんだから!」

 

「アグリーです。我々は……その、地下街の音響特性と人流の統計的相関を調査していただけです。プライバシーの侵害ではありません!」

 

逆ギレ気味に言い訳を並べる二人。マルガレーテは我慢できずに、「そ・れ・よ・り!その女の人は誰よ!」と詰め寄る。

 

奏の隣の女性が困惑しつつも優雅に頭を下げた。

 

「初めまして。奏の叔母です。いつも甥がお世話になっております。奏ちゃん、お友達?」

 

「お……叔母さん?」

 

何のことはない。二人が勝手に邪推していた女性は、奏の母の年の離れた妹だった。母の誕生日プレゼントを選んでもらうために、奏が頼んで買い物に訪れただけだったのだ。何故か急速に安堵する二人だったが、状況は深刻だった。

 

「……どうやら状況は非常に良くないようです」

 

冬毬がスマホのニュース速報を示した。地上には巨大植物の怪獣が出現しているとの事。

 

「どうするの? ここでじっとして救助を待つ?」

 

「災害時には下手に動かないのが常道ですが、今回は怪獣災害です。この地下まで根が侵食してきています。巨大植物が活動を本格化させれば、我々は今度こそ生き埋めです。脱出ルートを探るのが、統計的に最も生存率を高める選択です」

 

重い沈黙が流れる中、奏が毅然とした表情で宣言した。

 

「……行きましょう! 僕が絶対に皆さんを守り抜きます!」

 

「子供の癖に生意気よ。騎士(ナイト)気取りかしら?」

 

マルガレーテはそう言って奏の頬を指でつつき、冬毬も「これは頼もしい。可愛らしい騎士さんのエスコートに期待します」とからかい気味に返す。だが奏の真っ直ぐな瞳に、二人の胸には心地よい鼓動が脈打っていた。

 

他の遭難者たちをまとめ、脱出を開始する一行。冬毬の正確なマッピングにより、瓦礫を避けながら地上を目指す。

 

「……二人とも危ない!」

 

奏が突然マルガレーテと冬毬を突き飛ばした。その瞬間、巨大なトゲ付きの根が空気を切り裂き、そこを薙いだ。

 

(フォルテに変身できれば……!)

 

至近距離に愛する人々がいる手前、変身できない焦りに唇を噛む奏。根が再び奏に襲いかかる。

 

「子供の癖に無理しないの!」

 

マルガレーテが近くの瓦礫を根に投げつけた。

 

「アグリーです。私たちが守られてばかりいると思わないでください」

 

冬毬も続き、他の男性陣も投石や棒で応戦する。根は意外にも脆く、攻撃を嫌がって隙間へと引っ込んだ。

 

疲労が頂点に達しようとしたその時、四季のドローン『リエラドロン』が瓦礫の隙間から滑り込んできた。

 

『皆、無事で良かった。状況を説明する。この植物は古代の吸血植物ジュラン。カオス・ノイズの影響で活性化している。上空からドローンで「炭酸ガス固定剤」を散布し、光合成を阻害して根を弱らせる。それで開けたルートを使い脱出させるから、このドローンに続いて』

 

四季の冷静な誘導が始まった。

 

「オラオラですの! ネットで鍛えたゲームの腕前、舐めないでほしいですの!」

 

夏美が画面越しに絶叫し、触手のように振るわれる根を回避。返す刀で薬剤を撒く。

 

「待ってて下さいね、皆さん! ……でも、これ結構楽しいですね。昔を思い出します」

 

かつてのゲーム廃人の魂を再燃させた恋が、神業的なコントローラー捌きを見せ、ジュランの根を翻弄する。

自衛隊の特殊部隊も到着し、火炎放射器による根の焼却を開始。ノイズ・ジュランは急速に弱りつつあった。

 

ついに脱出に成功した一行。仮説の救護所で簡単な手当てを受ける。本来のジュランならこのまま駆除されるはずだったのだが、植物の生存本能にカオス・ノイズが呼応したのか、黒い輝きを放ち再び活性化。残された根で地面を這うように移動を始める。

 

(……行かなきゃ!)

 

叔母を二人に預け、奏は物陰へと走った。

 

「響け、勇気の旋律! フォルテ・シンフォニー!」

 

地上に現れたフォルテは再び活性化し始めたノイズ・ジュランを抑え込む。反撃の毒花粉を浴び、根で肩や背中を打ちつけられるフォルテに、四季の指示が飛ぶ。

 

『フォルテ、ジュランは本来の性質からして凶悪な種。遠慮はいらない。一気に叩いて』

 

その言葉と重なるように、四季特製ヘッドセットマイクを装着したマルガレーテと冬毬の歌声も響き渡る。

 

【1.2.3.!】

 

2人の息の合ったデュエットに力を貰った奏は、濃紺と黒の重騎士へとその姿を変える。

 

『揺らせ、魂の鼓動! フォルテ・ロック!』

 

重厚なロック・フェイズへとチェンジしたフォルテは、その怪力で巨大なノイズ・ジュランを根こそぎ引っこ抜き、地面に叩きつけた。そのまま馬乗りになり、暴れ悶える巨大植物を抑えつける。

 

『轟け、大地の鼓動……!グランド・ビート・クエイク』

 

マウント・パンチによって直接身体に打ち込まれた必殺の振動波が、ノイズ・ジュランを粉々に粉砕し、脅威は完全に沈黙した。

 

戦いの後、奏は何食わぬ顔で合流した。

 

「奏! アンタどこに行ってたのよ!」

 

「ト……トイレ! 急にお腹が痛くなっちゃって、恥ずかしくて言えなくて」

 

必死に誤魔化す奏。だが冬毬の鋭い観察眼は逃さなかった。

 

(……さっきフォルテが根で特に強く打たれていた左肩。奏、あなたも同じ場所を無意識に庇っている……。計算の狂いはもうありませんね)

 

「音宮 奏……やはり、あなたは」

 

冬毬の静かな独り言は勝利に沸く人々の声にかき消されたが、その眼差しは、夕陽に照らされた奏の背中をこれまで以上に深く射抜いていた。

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