ウルトラマンフォルテ   作:骨切りアギーラ

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第7話

その博物館は古の記憶を封じ込めた巨大な墓標のように静まり返っていた。しかし特別展示室のガラスケースの先には、全人類の常識を覆す「奇跡」が鎮座していた。

 

数千万年の時を超え、ミイラとして発見された恐竜の巨躯。皮膚の皺、鱗の質感、その一つ一つがかつてこの大地を支配していた王者の威厳を伝えている。

 

「……白亜紀の空気が、この表皮の中に閉じ込められている。タンパク質の変性状態、周囲の土壌成分との置換率。ロマンという言葉では片付けられない、科学の神秘」

 

四季は警備員の鋭い視線も厭わず、レンズのような瞳でガラスに張り付かんばかりの勢いで観察を続けていた。

 

「おい四季、近すぎだって! 警備員さんに怒られるぞ……。けど、すげぇな。本当に生きてたんだよな、こんなデカいのが。もし今目の前で吠えられたら足がすくんじまいそうだ」

 

メイは圧倒的な迫力に気圧されながらも、その力強い骨格に見惚れていた。

 

「メイちゃん、見てっす! この恐竜さん、なんだか今にも動き出しそうっす……。目が合ったら食べられちゃいそうで、ちょっと怖いっす〜! きな子は食べても美味しくないっすよ!」

 

きな子は巨大な顎の骨を見上げて、ぶるぶると肩を震わせている。

 

「オニナッツー! 恐竜ミイラの独占動画……これはバズりますの! 世界中の研究者が泣いて喜ぶマネーの香りがしますの! チャンネル登録者数500億人も夢じゃありませんの!」

 

鼻息を荒くしてカメラを構える夏美だったが、きな子に「特別展示室は撮影禁止っすよ、夏美ちゃん!」と必死に止められていた。

 

だが四季の鋭い観察眼が、ミイラの喉元に浮かび上がった不自然な紋章を捉えた。

 

「……待って。喉の奥、細胞構造の変化を視認。これは不協和音の刻印……! この化石、蘇ろうとしている……?」

 

その瞬間、展示室の照明が激しく点滅した。地底から響くような不気味な不協和音が博物館の壁を震わせ、数千万年の眠りについていたはずの恐竜のミイラが、その瞳にカオス・ノイズの暗い光を宿した。

 

「嘘だろ……!? おい、ミイラが……笑ったように見えたぞ!」

 

メイが叫ぶ。

 

「ヒィィィッ! バズりより命が大事ですのー! 撤退ですの!」

 

夏美が逃げ腰になる。

 

「やっぱり動き出したっす〜! ごめんなさいっす! 食べないでほしいっす〜!」

 

ミイラはみるみるその身体に筋肉を取り戻し、膨れ上がった巨躯が展示室の強化ガラスを木っ端微塵に粉砕した。

 

「グオォォォォォォォン!!」

 

鼓膜を突き破らんばかりの咆哮。博物館の屋根を突き破り、数千万年前の王者が現代の空の下へとその姿を現した。

 

 

 

 

一方、澁谷かのんの実家のカフェでは、Liella!の他のメンバーたちが穏やかな時間を過ごしていた。そこに奏が快活な笑顔で足を踏み入れる。

 

「あ、皆さんお揃いなんですね!」

 

「あ、奏くんいらっしゃい!」

 

かのんが明るく迎えるが、すぐにいつもの光景が幕を開ける。

 

「相変わらず可愛らしいわねぇ! さあ、私の隣でじっくりその美顔を見せなさい!」

 

すみれが奏の肩を抱き寄せれば、可可が横から割って入る。

 

「すみれ! 厚かましいデス! 奏くんの隣は可可の指定席と決まってマス! 離れなさいこのグソクムシ!」

 

「なんですってぇ!? 恋、ちょっとこの子を黙らせてちょうだい!」

 

「まぁまぁお二人とも……奏さんが困っていますから落ち着いてくださいね」

 

苦笑しながら仲裁に入る恋。

 

そんな賑やかな光景を、店の一角から冬毬が冷ややかに、そして鋭く見つめていた。

 

(……前回のノイズ・ジュランの一件、そして今までのデータ。全てはあなたを指し示しています。音宮 奏。その穏やかな顔の下に、何を隠しているのですか?)

 

その時、テレビのニュース速報が流れた。博物館で恐竜のミイラが巨大化し、暴れ出したという信じがたいニュースだ。

 

「ここって……きな子ちゃんたちが行ってる博物館だ!」

 

顔を青くするかのんと千砂都。

奏は一瞬で表情を引き締め、「すいません! 急用を思い出したので失礼します!」と言い残し、脱兎のごとく店を飛び出した。

 

(……やはり。逃しませんよ)

 

冬毬もすぐさま後を追ったが、路地裏に入った瞬間、奏の姿は煙のように消えていた。

 

 

 

 

現場では巨大化した怪獣が街を蹂躙していた。

その姿は恐竜に似てはいるが、スイギュウを思わせる巨大な双角と鼻先の一本角、胴体前面の松かさ状の鱗、そして太く長大な尻尾を備えていた。

 

古代の暴君『ゴモラ』がカオス・ノイズにより『ノイズ・ゴモラ』と化して現代に蘇ったのだ。ノイズ・ゴモラは角を振るわせると、周辺の建物に向かい強力な振動波を放ち、粉々に打ち砕く。

 

「なるほど……あの能力を一種の掘削道具として使い、岩盤を破砕して液状化しながら地中を掘り進む…非常に興味深い」

 

「冷静に分析してる場合じゃねぇ! 逃げるんだよ!」

 

四季の解説にメイが全力でツッコミを入れる。

 

「もう博物館がバラバラっす! きな子の心もバキバキっす〜!」

 

ノイズ・ゴモラが角を震わせ、さらなる超振動波を放とうとしたその時、空から銀色の閃光が降り立った。

 

「シュワッ!」

 

ウルトラマンフォルテ。着地と同時に地面を蹴り、ノイズ・ゴモラの太い首筋に手刀を叩き込むが、硬質な鱗に弾かれる。逆にノイズ・ゴモラは、その尻尾をムチのようにしならせ、フォルテの胴体を強打した。

 

「デュワッ!?」

 

吹き飛ばされたフォルテは即座に態勢を立て直す。

 

『跳ねろ、自由の調べ! フォルテ・ジャズ!』

 

ジャズ・フェイズへとチェンジし、空中に生成した音の足場を駆け上がり、高速の連撃を浴びせる。しかしノイズ・ゴモラは即座に地中へ潜り、足元から巨大な角を突き上げる奇襲でフォルテを追い詰める。

 

(クッ! 硬い! それに凄い力だ! なら、これだっ!)

 

『揺らせ、魂の鼓動! フォルテ・ロック!』

 

重厚なロック・フェイズへと姿を変えたフォルテ。ノイズ・ゴモラの突進を真っ向から受け止め、凄まじい力比べを演じる。

 

離れた場所からは四季が用意したヘッドマイクを通し、きな子たちの歌声が響く。勇気を得たフォルテはノイズ・ゴモラを力任せに投げ飛ばし、強烈な打撃で追い詰めた。

 

『今だ! ……響け、勇気の旋律! フォルテ・シンフォニー!』

 

再びシンフォニー・フェイズへと戻るフォルテ

 

『響け、安らぎの旋律……! フォルティシモ・レゾナンス・カノン!』

 

必殺の光線を放つべく、フォルテが両腕を構えたその瞬間───。

 

激しい地響きと共に、もう一体の───ノイズ・ゴモラよりはるかに醜悪な姿を持つ怪獣が出現した。

上半身は青、下半身は薄紫色の所々歪な風貌をした二足歩行型。頭部には鶏のようなオレンジ色の大きなトサカ、後頭部からはイソギンチャクのような無数の長い触手が髪の毛のように生えている。

 

下顎から4本の牙が生えた爬虫類的な口からは舌が飛び出ている。何より特徴的かつ嫌悪感を呼ぶのは、ヒルやナメクジを思わせる先端部を持つミミズのような尻尾だ。

 

「え……!? 二体目っすか!?」

 

「ひ、卑怯ですの……! 挟み撃ちなんて聞いてませんの!」

 

「待って。あの怪獣には音符のマークが無い。カオス・ノイズに関係なく現れた怪獣? 何のために?」

 

その答えは、全く予想外かつ凄惨な形ですぐに分かることになった。

 

 

 

 

 

新たに現れた魔獣『エルドギメラ』は、必殺の構えに入っていたフォルテを、まるで目障りな虫を払うかのように鋭い爪ではじき飛ばした。

 

『ぐわっ!』

 

死角からの不意打ち。フォルテの巨体は数棟の建物をなぎ倒しながら吹き飛び、砂塵の中に倒れ伏す。エルドギメラはその惨状に一瞥もくれず、標的をノイズ・ゴモラへと定めた。

 

ノイズ・ゴモラも王者の意地を見せ、角を振るわせて超振動波を放つ。だがフォルテとの激闘で体力を消耗し、チャージも不十分なその一撃は、エルドギメラの強靭な肉体を止めるには至らない。エルドギメラは衝撃に耐えながら猛然と肉薄し、その巨爪をノイズ・ゴモラの喉元へ突き立て、力任せに組み伏せた。

 

エルドギメラの醜悪な顔が勝利の悦びに歪んだ直後───さらなる悪夢が幕を開ける。その不気味な尻尾の先端部が、まるで巨大な花の蕾が裂けるように皮膜状に展開。あろうことか、ノイズ・ゴモラの巨体をまるごと包み込んでしまったのだ。

 

「ひいぃぃっ! な、何すか、あれ!? 飲み込んでるっすか!?」

 

「キモイですの! めちゃくちゃキモイですの! 放送事故レベルの映像ですのよ!」

 

「な、何だぁ! ありゃあ!? 嘘だろ、あんなデカい奴を……!」

 

きな子、夏美、メイが悲鳴を上げる中、四季だけが冷徹な観察眼を崩さなかった。

 

「……おそらく捕食してる。ミイラの怪獣に取り憑いた不協和音ごと、自分のエネルギーにするために」

 

ゴキュ、ゴキュ、と内臓を鳴らすような不快な音が響き渡る。

やがて皮膜が収縮し、ノイズ・ゴモラを完全に吸収し終えたエルドギメラの肉体に、異様な変化が生じた。頭部からはノイズ・ゴモラそっくりの三本の角が突き出し、右腕は強靭な尻尾の特性を引き継いだ鞭のような触手へと生まれ変わる。

 

「姿が変わった!? 捕食した怪獣の特徴を……遺伝子レベルで取り込んだの!?」

 

四季が戦慄する中、進化した捕食者は次なるデザート───エネルギーを使い果たし横たわるフォルテへと狙いを定めた。

 

『くっ……!?』

 

絶体絶命。最後の光線を放つ直前に妨害されたため、フォルテの体内エネルギーは不規則に霧散し、立ち上がる力すら奪われていた。エルドギメラの鞭が唸りを上げ、フォルテの装甲を切り裂く。

 

(……ダメだ! このままじゃ確実にやられる。一旦……退かなきゃ……!)

 

奏は朦朧とする意識をかき集め、一か八かの賭けに出た。至近距離からエルドギメラの「目」を狙い、未完成の『フォルティシモ・レゾナンス・スタッカート』を放つ。閃光が弾け、さしもの魔獣も目への攻撃には悶え、頭部を押さえて後退した。

 

(今のうちに……何とか……!)

 

奏は最後の気力を振り絞って宙へ舞った。しかし飛行を維持するエネルギーすら残っていない。市街地から離れた森林地帯へと逃げ込んだ瞬間、フォルテの身体は光の粒子となって崩れ、地上へと墜落していった。

 

その光景を四季は見逃さなかった。

 

(あれは……あそこに、誰かが……)

 

強烈な焦燥感に駆られた四季は、呆然とする三人の手を引いた。

 

「走って。あそこ……光が落ちた場所に、誰かがいる」

 

エルドギメラはノイズ・ゴモラを喰らったことで一応の満足感を得たのか、興味を失ったように地響きを立てて地底へと消えていった。

 

静まり返った森の奥。

 

四季たちが辿り着いた場所には、衣服をボロボロにし、泥にまみれて気を失っている奏の姿があった。

 

「そんな……奏くん!? なんで奏くんがこんなところに倒れてるっすか!?」

 

「何でこの子がこんな所にいるんですの!?さっきの怪獣の被害に巻き込まれたんですの!?」

 

「おい、しっかりしろ奏! 嘘だろ、こんな……こんなに傷だらけで……っ!」

 

変わり果てた奏の姿に、きな子たちはパニック寸前で駆け寄る。だが四季は震える手で奏の脈を確認し、唇を噛み締めて三人を見据えた。

 

「……何かを考えるのは、後にして。今は一秒でも早く彼を病院に運ぶのが先決。私のスマホで救急隊に連絡する……それまで、私たちが彼を守るの」

 

四季の言葉に、メイたちが力強く頷く。

 

夕闇が迫る森の中で、彼女たちは小さな「勇者」の身体を抱きしめるようにして、助けを待ち続けるのだった。

 

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