イナズマイレブン アレスの天秤 IF「もしも円堂が故障して、雷門に残っていたら」 作:レイメイミナ
「さぁ始まりました、フットボールフロンティア! 全国の中学生が集い頂点を求めて戦う祭典です! 昨年からメンバーが総入れ替えとなった雷門中と、今大会初出場ながら『鉄壁要塞』として注目されている美濃道山中の試合。実況は私、角馬金将がお送りします!」
雷門中スポンサード「アイランド観光」と美濃道山中スポンサード「HECOM」が送る、フットボールフロンティア予選第一試合。緊張渦巻く中、両者の顔合わせが行われる。
「キャプテン、会いたかったッス〜!!」
「俺もだよ壁山! 元気してたか!?」
「はいッス! 皆、こんなオイラに良くしてくれて良いチームッス! だから今日は、キャプテン相手でも容赦しないッスよ!」
「臨むところだ! 伊那国雷門の力、見せてやる!」
美濃道山中に派遣されたサッカー強化委員は壁山塀吾郎。雷門中のディフェンスとして、円堂に次いで多くのシュートを凌いできた実績を持ちながら、あの豪炎寺との連携シュート『イナズマ落とし』もその名に轟かせている。
「あの、オイラちょっとトイレ行ってくるッス……」
……壁のように大柄な体格に反してナイーブな性格は、相変わらずのようだ。
「あれが、壁山塀吾郎さん……」
「少し見ないうちに、さらに成長してるな。これは油断ならない相手だぞ」
「はい!」
「……」
メンバーが気を引き締める中、氷浦はただ一人、自身が編み出した必殺技『氷の矢』の実用性を考え続けていた。
事前準備がほとんど取れなかった伊那国雷門は、つくしが追加で集めてきた情報を元に突貫で作戦を立てていた。
「見たところ、壁山くんと同じように体の大きい人で構成されてるみたい」
「ですね。ということはやはり……壁山さんの『ザ・ウォール』やそれに連なる強力なディフェンス技が繰り出されるはずです」
「となると、下手に攻めてもこちらが疲弊するだけ……ってのが、相手の売りだよな」
「ですです。だからといってこちらも守備に回ろうとしても……」
「どの道、体格差でじわじわと押し潰されるって寸法か」
「だァーっ! どうすりゃいいんだよ! こちとらロクに練習もできてねぇし、対策も取れてねぇんだぞ!?」
今日顔を合わせて改めて確認した圧倒的な体格差。特に服部は気圧されてしまっており、どん詰まりの空気が流れていた。そんな中、金雲は突然立ち上がった。
「コホン、それでは、全員守備に回るのはどうデスカ?」
「え……」
「監督、それさっき言いましたよ。体格差で押し潰されるって」
「ワタシがサッカーの試合を見て思ったのは、サッカーとはボールで行う『綱引き』のようなモノだということデス」
「綱引き?」
「だからこそ、一瞬。ほんの一瞬で良いのデス。相手の力を上回る瞬間で一気に引き上げることで……」
「相手のバランスが崩れて、攻めやすくなるってことか!」
「ナイスアイディアです、監督。キャプテン」
「うん、じゃあそれでいこうか。皆! 序盤は消極的に、相手の動きを観察して隙を見て戦うんだ!」
監督のひと声でようやく方針が固まったところで、ついに試合が開始される。美濃道山のキャプテン・岩垣のキックオフから始まる。…………かに思えたが。
「さぁ始まりました、フットボールフロンティア! ……しかし、これは!? 動かない! 両チーム共に動かない!」
消極的なパス回しによりボールは美濃道山側のまま前に出ることがない。観客がどよめきを見せる中、伊那国雷門もまた同様に進んでボールを取ろうとはせず、試合は早々に膠着状態へ。
「動きがない……誘うか?」
「こっちの防御を警戒して攻めてこないな。これは困った」
「あからさまな温存……ならば仕方あるまい」
両チームが受け入れたこの状況を、観客も実況も固唾を呑んで見守った。いつ動くのか、勝敗はどうなるのか、探るように。
「動きません……前代未聞の展開です! 流動性が高いスポーツであるサッカーで、ここまで状況が膠着することがあったでしょうか!」
「監督、良かったんですか!? こんなの雷門じゃ……」
「雷門らしさにこだわる必要はないぞ、つくし」
「え、円堂さん」
「あいつらは伊那国のサッカーをすればいいんだ。だから、俺たちはこの状況をじっと見守る。それだけだ」
「で、ですが、このまま動かないままじゃ埒が開きませんよ」
「お相手は、相当に慎重派デスねぇ。やはり彼の方針なんでしょうか」
「壁山……」
そして緊張状態の中、前半十分が経過した頃……ついに動き出した。
「よし、行くッス! オイラ達の力を見せつけるッスよ!」
「「「応ッ!」」」
壁山が送るパスを皮切りに、それまで不動だった美濃道山が急激に動き出した。
「きっ、来ました! ついに美濃道山中が前進! 膠着していたフィールドが一斉に動きを見せました!」
「なっ……!」
「連中め、痺れを切らして突撃してきたぞ!」
「問題ありません! 我々からすれば、自ら弱点を差し出してきたようなもの!」
「俺が……!」
明日人がいち早く飛び出したのを確認し、小僧丸も走り出す。
「ボールを取る! 行くぞ──『イナビカリダッシュ』!」
イナズマを描く神速が颯爽とボールを奪い去り、明日人が突き進む。
「奥入!」
「了解です! 届け──」
「はっ、奥入! 後ろ!」
奥入がボールを受け取った瞬間、背後から美濃道山の平田が静かに接近。大柄にも関わらず幽霊のような佇まいから奥入は反応に遅れてしまった。
「えっ──」
「──『フランケンシュタイン』……!」
「うわあっ!」
突如現れたツギハギの巨人に襲われるイメージが、奥入からボールを奪い去ってしまった。そのボールはそのまま宇郷へと明け渡される。
「やらせるか!」
万作が宇郷に突っ込み、鋭くドリブルをカットする。空中へ渡ったボールは服部に渡り、日和を通して明日人に渡る。
「くっ……!」
しかし、そこにはすでにおっとりとしたDFの盛上が待ち構えていたのだ。
「──『エンシェント・オブ・モアイ』!」
地面からせり出した無数のモアイが明日人を吹き飛ばし、盛上は地面に落ちるボールだけをトラップ。これで再びボールは美濃道三のものへ。
「誘われていたのはこちらの方だった……。明日人君! 君の『イナビカリダッシュ』だけが頼りです! 僕たちが全力でサポートします!」
「させるかよ!」
明日人を取り囲むように配置された三人の鉄壁の防御が明日人を一歩も動かそうとはしない。明日人はファウルのリスクから突破することができず、周囲の観察に徹した。
(どうする、『イナビカリダッシュ』は助走がいるから今は使えないし、このまま三人の惹きつけに徹するか? ……いや)
一度は巡った消極的なプラン。しかし、それは自分のしたいサッカーなのか。断じて否だと、明日人は己を焚き付けた。
「みんなは絶対に取り返してくれる! 氷浦、俺に向かって『氷の矢』を打ってくれ!」
「んなこと言ったって、すぐに奪われて──」
「いいから打つんだ!」
服部が小柄故の大きな体格差を利用したかく乱でボールを奪った後、氷浦にボールを預けた。
「やりましょう、氷浦先輩! 稲森先輩はサッカーバカだけど、ここまで僕らを導いてくれたんです!」
「服部……。わかった、どうなっても知らないからな!」
服部の言葉を受け取った氷浦は、半ばヤケになってボールに凍てつく冷気をまとわせ、鋭い一本線に乗せて加速をかけた。
「──『氷の矢』!」
「ロングパスの必殺技! だがそんなことをしようが、我らの防御の前には無意味だ!」
明日人をブロックするうちの一人、前野が『氷の矢』の射線上に飛び上がり、持ち前の筋肉でボールを受け止めてしまう。
だが次の瞬間、前野の眼前には、前に向かって走り出す明日人の背中が映っていた。
「何⁉」
「今だ、『イナビカリダッシュ』!」
イナズママークを描く走りが、前野からボールを奪い返した。
明日人はわざと相手の陣形を崩してでも取りたい「チャンス」を演出することで、自分が付け入る隙を生み出した。金雲監督の言葉を、若干湾曲しつつ実践したのだ。
「ありがとう氷浦! もう一回頼む!」
「もちろん!」
明日人が送ったパスにダイレクトで『氷の矢』を放つ氷浦。その放物線に乗る人物がひとり……小僧丸だった。
「やっと来たぜ、『ファイアトルネード』!」
凍てつく冷気は炎の竜巻へと変わり、さらに強力なシュートとなってゴールを狙う。
「あ、あれって……豪炎寺さんの『ファイアトルネード』ッス⁉」
壁山も、見ている観客もみな騒然としていた。自分の知らない人物が、馴染みのある技を使ってきたのだから当然だ。壁山は『ファイアトルネード』に助けられてきた日々、豪炎寺との『イナズマ落とし』の特訓の日々を想起する。そして、それに応えるための最大の手段を行使した。
「──『ザ・マウンテン』‼」
情熱と正確さを秘めた必殺シュートは、同じ情熱のこもった鉄壁によって相殺された。
描いてる途中の作者「なんか、壁山入った美濃道三強くね……?」