イナズマイレブン アレスの天秤 IF「もしも円堂が故障して、雷門に残っていたら」 作:レイメイミナ
ㅤ雷門中。
ㅤ何の変哲もないただの私立中学だが、ここにはとある伝説が残っている。
『イナズマイレブン』。そう呼ばれる彼らは、瞬く間に全国を駆け巡り、フットボールフロンティア優勝を勝ち取った。
ㅤそう、それこそがこの雷門中サッカー部であり、今やほとんどもぬけの殻となっている。そんな中、とある11人がこの雷門中にやってきた。
「どっ、どうもはじめまして!ㅤ伊那国中サッカー部です!ㅤよろしくお願いします、円堂守さん!」
「おう、よろしくな!」
ㅤ伊那国中サッカー部キャプテン・道成が挨拶した相手……頭にバンダナをつけ、やや褐色、そして右腕に包帯を巻き付けている青年。それこそが円堂守である。
「ほ、本物の円堂守だ……」
「すげぇ……」
ㅤ各メンバーからそういった言葉が漏れ出てくるが、円堂は気にも止めず話を続ける。
「話は全部聞いてる。色々やばいんだって?」
「え、まぁ、はい」
「じゃ、さっさと特訓だな!ㅤあ、でもその前にみんなのサッカーを見なくっちゃ。じゃあみんな、今日は自己紹介がてら各々好きにやってくれ!」
「は、話が早すぎる……」
ㅤやや強引とも言えるこの勢いに振り回されながらも、伊那国中サッカー部の練習が始まった。ボールを取り、シュートを決め、時には仲間にパスを送る。そういった自由で、島にいた頃とは変わらぬサッカーをするチーム。その中で稲森明日人は喜びに満ちていた。
「俺、今サッカーしてるんだ!」
「当たり前だろ、何言ってんだ」
ㅤそう言い捨てながらも、笑顔に満ち溢れている明日人を見て、思わず口角が上がる小僧丸。そんな明日人に引っ張られるように、他のメンバーにも笑顔が宿っていく。
「いいチームだな。最っ高にサッカーを楽しんでる」
「うん。でも、例の対戦相手って……」
「ああ、『星章学園』……鬼道がいるところだな」
「鬼道くんがたった半年で帝国学園レベルにまで育て上げたホープ……本当に勝てるの?」
「やるしかねぇだろ。それに、あいつらはぜってぇに諦めたりなんかしない。だろ?」
「ふふっ、そういうところ、本当に円堂くんらしい」
ㅤ円堂守ともう一人、木野秋というマネージャーは、その様子を見ながら練習試合について話し合っていた。
ㅤ星章学園……サッカー強化委員制度により元帝国学園のキャプテン・鬼道有人が派遣された。それまでは全くの無名校だったのが一転し、瞬く間に数々の練習試合で圧勝を見せてきた異端。彼らの活躍を聞けば、誰もがサッカー強化委員を羨むという。
「みんな!ㅤちょっと集まってくれ!」
ㅤ円堂の招集に応じるメンバー達。
「みんなの実力は大体わかった。いいチームだな!」
「あ、ありがとうございます!」
「それで、練習試合の相手が決まった。星章学園だ」
ㅤその言葉を聞いて、場がざわめき立った。
「えっ、そ、そこって」
「あの鬼道有人がいる……」
「フィールドの悪魔もだぞ……」
「みんな落ち着け!ㅤ確かに強い相手だけど、勝てば俺たちはサッカーを続けられるんだ!」
ㅤさきほどまでが嘘のように自信を喪失させていく中、ただ一人だけ目の闘志を絶やさないでいた人物がいた。稲森明日人だ。
「それで円堂さん、勝てる算段はあるんですか?」
「……もちろん、ある!」
「あるの!?」
「さすが円堂さん!」
「それで、その算段っていうのは……」
ㅤ帽子を被った小柄な少年・日和が聞くと、円堂は息を呑んでこう言った。
「……特訓だ!!」
『ズコー!!』
ㅤそんな音が聞こえるほど、驚愕する内容だった。
ㅤそうして連れてこられたのがこの、『イナビカリ修練場』である。
「みんなにはここで特訓してもらう。すっげーキツイけど、その分すっげー強くなれる!」
「無理は禁物にね」
「さぁ入った入った!」
「ここが、イナズマイレブンが使った練習場!」
「豪炎寺さんも、ここで……」
ㅤ各員、思いを巡らせながら地下へと入っていく。しかし、その内部は思いもよらぬ光景だった。
ㅤ高速で追いかけ回してくるスポーツカー!
「ぎゃあああああぁぁぁぁっっ!!」
ㅤ走らねば振り落とされるルーレット!
「やばいやばいやばい!」
ㅤ自動追尾で降り注ぐビーム!
「なんでっ、こんなっ!」
ㅤ四方八方から飛んでくる必殺級のボール!
「こんなのっ、できるわけっ!」
『あるかぁぁぁぁ〜っっ!!!』
ㅤそんな伊那国中の悲鳴を聞いて、円堂は去年のことを思い出していた。
「もう懐かしいって感じ。みんなも最初はこうだったよね」
「ああ、でもそうして俺たちは強くなれたんだ。今はこんなんだけどな!」
「ふふっ、もう、笑えないよ」
ㅤ包帯に巻き付かれた腕を見せながら笑い合う二人。そうして壮絶な特訓は終わりを告げた。
「やっと、おわった……」
「死ぬ、まじ死ぬ……」
「これが、雷門の特訓、か……!」
「みんなお疲れ!ㅤおにぎりあるから食べてってくれ!」
「やった〜……」
ㅤその言葉を最後に、明日人は眠るように気を失ってしまった。
「いきなりハードすぎたみたい、だな……」
ㅤ数日後。
ㅤ最初は振り回されていたイナビカリ練習場にも慣れてきた伊那国中の面々は、試合に向け作戦を練っていた。
「ここで俺がボールを取る。そしたらガガガーっと行って、剛陣先輩にパスをするから……」
「俺がガツンと決めればいいわけだな!」
「大丈夫かよそんなアバウトで」
「大事なのは前に進むっていう気持ちだ!ㅤそれに間には氷浦もいるし、みんなでパスを繋げばきっと決まる!」
「そんなんで決めさせてくれるキーパーだったらいいけどな」
ㅤ円堂はその様子を見守っていると、横からのりかがやってきた。
「あ、あの。円堂さん」
「ん?ㅤどうしたのりか」
「お願いがあって、その……『ゴッドハンド』を教えてくれませんか!」
「おう、いいぜ!」
「え、そんなあっさり?」
ㅤ円堂はイナビカリ練習場の機材を少し弄ったあと、キーパー用の部屋にのりかを連れていった。
「別に秘伝ってわけでもないしな。近くのラーメン屋のおっちゃんも使えるぐらいだし」
「え、えぇ……?」
ㅤのりかは困惑と驚きを見せながらポジションに付いた。
「よし、ここからどんどんボールが出てくるからキャッチしろ!ㅤ腕に気を溜めるイメージでな!」
「わ、わかりました!」
ㅤ必殺級の威力で飛んでくるボールを全力で受け止め、腕に気を溜めるイメージを確立していく。
「ゴッドハンド!」
ㅤ不発。
「ゴッド──!」
ㅤ失敗。
「ゴ──ぶっ!」
ㅤ顔面に直撃。
「まだまだ、荒れ狂う海に比べればこんなもの!」
ㅤゴッドハンドはことごとく不発に終わり、その日の練習は終わりとなった。のりかは諦めることなく、専用に用意された寮でも自主練に励んだ。
「何してんだ、のりか」
「何って、練習だけ──ふごっ!」
「……大丈夫?」
ㅤ明日人が心配しながら近寄ると、木に吊るしてあるタイヤが直撃したのりかはすぐに立ち上がって練習を再開した。
「よし、まだまだ!」
「……よし、俺もやる!ㅤ俺だってディフェンダーだ。相手のシュートも止められないで、星章学園に敵うはずない!」
ㅤやがて、二人で交代しながらタイヤに立ち向かうようになっていく。その光景は夜遅くの消灯時間まで続いた。