イナズマイレブン アレスの天秤 IF「もしも円堂が故障して、雷門に残っていたら」   作:レイメイミナ

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第二話「フィールドの悪魔に勝て!」③

ㅤその後も星章学園による蹂躙は続いた。

 

「星章学園、鬼道!ㅤ止まらない!ㅤ道成と日和を悠々と抜き去っていく!」

「クソ、誰か止めろ!」

「どうしろって言うんですか!」

 

ㅤ万作の言葉に奥入が悪態を付く。仕方なく万作は鬼道の前に出てワンツーマンの勝負を仕掛けた。

 

「イリュージョンボール!」

「なっ、これは──」

 

ㅤ分身のような残像を帯びて回転するボールに気を取られ、万作もまたすぐに抜き去られてしまう。更にはその背後から二名、佐曽塚と灰崎が出現し、万作を越えて鬼道の更に前に陣取った。

 

「これが2つ目だ。行くぞ!ㅤ皇帝ペンギン──」

 

ㅤ鬼道が口笛を吹くと、地中から五体のペンギンが出現。

 

「「2号!!」」

 

ㅤ鬼道が蹴り飛ばしたボールに佐曽塚と灰崎が追随する形で蹴り、ボールはペンギン達と共に舞い上がっていく。

 

「なんと!ㅤこれは帝国学園の必殺シュート、皇帝ペンギン2号だァー!」

 

「オデが守るでゴス!」

 

ㅤ大柄の岩戸……通称ゴーレムが行く手を阻むが、いとも簡単に突破されてしまう。

 

「今度は取るっ……!」

 

ㅤのりかもまた皇帝ペンギン2号のシュートを前に立ち向かんとする。しかしそれを受け止めるにはのりかはあまりにも力不足だった。そもそものこと、そのシュートは軌道を変え、ゴールの左上を狙っていた。正面に構えていたのりかは反応が遅れ、届くはずがない。

 

ㅤしかし。

 

「うおおぉぉッッ!!」

 

ㅤ稲森明日人は、間に合った。

 

ㅤバチンッ!ㅤと強い音が鳴る。明日人は顔面で皇帝ペンギン2号を受け止め、ボールの代わりに明日人がゴールへと叩き付けられた。ボールは場外へと弾き飛ばされる。

 

「これは、雷門中、稲森明日人!ㅤまさかまさかの、その顔面で得点を阻止したー!ㅤなんという体を張ったプレーだ!」

「チッ、なんだあいつ」

「皇帝ペンギン2号を顔面で喰らうなんて、馬鹿なヤツ」

「あぁ、全くだ。実に”雷門”らしい」

「は?」

 

ㅤ灰崎は、鬼道が加えた言葉の意味が理解できなかった。灰崎にとって明日人はかなうはずのない攻撃を全力で止めて吹っ飛ばされた、馬鹿で間抜けな人間に見えて仕方がない。しかし鬼道には嘲笑も呆れも感じない……どこか懐かしそうな顔で、明日人を見ていた。

 

ㅤ前半終了のホイッスルが鳴る。

 

「ここで前半終了ーッ!ㅤ雷門中、果敢に攻め、守るも、星章学園の二点リードが揺るがない!ㅤこのまま試合は終わってしまうのかー!?」

 

ㅤ伊那国雷門の面々は未だ前半終了であるにも関わらず、疲れ果て、敗残兵のような暗い雰囲気が立ち込めていた。

 

「勝てるわけない……」

「あんなのにどうやって得点しろってんだよ!」

「クソ、クソッ……!ㅤ俺達のサッカーがまるで通用しねぇ……!」

 

ㅤ全員がその実力差に打ちひしがれる中、明日人と道成は諦めずに勝利の道を模索し続けていた。

 

「みんな諦めるな!ㅤ確かに二点リードは大きいし、実力差もある!ㅤだけど俺達のサッカーが通用しないなんてことはないはずだ!」

「明日人の言う通りだ。みんな、自分の動きを再確認して最適なコースを作ろう。いくら星章学園といっても完璧に隙がないなんてことは無いはずだ。そこを突けば勝機はある!」

 

ㅤ二人の言葉に励まされるも、それだけではこの空気は変わらない。そんな中、円堂は大きく口を開く。

 

「すぅぅ……みんなぁー!!ㅤ頑張るぞぉーっ!!!」

「うわっ!ㅤな、なんです円堂さん、急に……」

「お前らも叫べ!ㅤでっかい声を出して自分を鼓舞するんだ!ㅤ絶対に負けるって思っているときこそ、全力を出し切るんだよ!」

「…………」

「そうだな、どうせ負けるんだ。やれるだけやってみようぜ」

「うん、それがいいよ!ㅤ出せる力、全部出してこ!」

 

ㅤ円堂の言葉にみんなが勇気付けられる。そんな様子を、小僧丸は無言で見ていた。ここにいる中で小僧丸だけが冷静に、そして的確に状況を見据えていた。

 

(このままじゃ勝てない。”このまま”じゃ、な)

 

ㅤ一方、星章学園でもまた、物々しい空気が立ち込めていた。

 

「俺は帰る」

「待ってくれ灰崎。せめて試合の間は──」

「こんなもんに付き合う気はねぇ。張り合いがねぇんだよ、弱いものいじめなんざ趣味じゃねぇ」

「そんな、確かに一方的にこちらが勝ってるのは事実だ。だが鬼道さんにも思惑があって……」

「思惑だぁ?ㅤ俺が知るかよ。お前らで勝手にやってろ」

 

ㅤキャプテンの水神矢は灰崎を必死に呼び止める。しかし灰崎のスタンスはあくまでも変わらなかった。そこに鬼道が現れた。

 

「灰崎、逃げるのか?」

「……あ゙?」

「お前もわかるだろう、あのストライカー。11番だ。ヤツの力は尋常じゃない……お前はヤツを恐れ逃げるんだな」

「ンだと、テメェ……!」

 

ㅤ挑発された灰崎は、怒りのまま鬼道の胸ぐらを掴んだ。

 

「灰崎!」

「殺されてぇのか、ゴーグル野郎……!」

「違うというのなら、プレーで証明してみせろ。ヤツよりお前の方が強い、とな」

「……、チッ!」

 

ㅤ灰崎は鬼道から手を離すと、ドスドスと音を立てるようにフィールドに向かっていった。

 

「すみません、鬼道さん」

「水神矢。お前もキャプテンを名乗るなら、あいつの手綱を握れるくらいにはなれ。あんなじゃじゃ馬を乗りこなすぐらいじゃなきゃ、日本一になんてなれやしないぞ」

「……はい」

 

ㅤ試合後半、キックオフは雷門から。

 

「試合再開です!ㅤ雷門は二点を取り返すことができるのか!」

「前に出るって言って、取れなかったらお笑いだな……」

 

ㅤミッドフィルダーにポジションを変えた万作が小僧丸にパスを出す。小僧丸は変わらず、フィールドの状況を見てパスを送った。

 

「小僧丸!ㅤお前もストライカーなら打ってみろ!」

「クソ、フィールドの悪魔か……」

 

ㅤ灰崎は先程の軌道の言葉から背番号11の小僧丸をマークしており、小僧丸は自由に動くことができない。

 

「灰崎、遊ぶな!」

「遊んでねぇよ!ㅤじゃあなデブ!」

「ハッ、言ってろ!」

 

ㅤ灰崎は離れるといつの間にか星章学園のものとなっていたボールを受け取る。すぐにゴールへと向かおうとしたところ、目の前に明日人が現れた。

 

「シュートはさせない!」

「邪魔だ──なっ、こいつ!」

「はぁっ!」

 

ㅤ脚を巧みに動かしてボールを遠ざけ、激しく食らいつく明日人との攻防になる。しかしシュート以外の力があまり育っていない灰崎とドリブルとワンツーマンに長けた明日人では僅かに力量の差があったのか、最後に勝利したのは明日人だった。

 

「明日人!?」

「ナイスだ!ㅤそのままパスを──」

 

「……いや、駄目だ!」

 

 円堂の声が響く。

 

ㅤフィールドの悪魔をついに打ち破った伊那国雷門。しかし、相手はあくまでもフィールドの悪魔ではない、星章学園は決して灰崎だけのワンマンチームなどではないのだ。

 

「ゾーンオブペンタグラム!」

「なにっ!」

 

ㅤ明日人が送ったパスは円形の結界内で乱反射を起こし、ほどなくして威力が落ち、水神矢の足元に落ちてくる。

 

「キャプテンの水神矢!」

「ディフェンダーのはずなのに、なんで前に!?」

 

ㅤいつ前に出てきたのか、灰崎や鬼道といったマーク対象の影を縫い、ゴール前まで来ていた水神矢。彼は明日人達が呆気に取られているうちにさらに前へと推し進んだ。

 

「わかっただろう、灰崎。お前の力だけじゃ勝てない!」

「うるっせぇんだよ! 保護者みてぇなツラしやがって! 俺がいなきゃなんの決定力も持ってねぇチームの癖によォ!」

「だからこそだ! チームワークを覚えろ!!」

 

 口論を交わしながら水神矢は灰崎へとパスを送る。灰崎はダイレクトに空中へと蹴り上げると、自身も飛び上がり、口笛を吹く。すると地中からペンギン達が飛び出し、高速で回転しながらボールにパワーを注入する、空中で上体を180度回転した灰崎は、そこにオーバーヘッドキックを打ち込む。

 

「オーバーヘッドペンギン!!」

 

 灰崎凌兵。この世でただ一人『皇帝ペンギンを一人で扱える人間』であり、鬼道有人がその才能を見出した天才児である。

 

「こんなシュート、どうやって……」

 

 灰崎のシュートに絶望の顔を浮かべるのりか。しかし、先程決めたことを思い出す。

 

「……違う、持てる力を全部出すんだ! うおおおおーッ! ゴッドハンド!!」

 

 ゴッドハンドは、一度も成功することは無かった。しかし、このピンチにおいて引き出された火事場の馬鹿力が、ついにそれを引き出した。

 

 黄金ではない、深い海色をした神の右手。それがボールをキャッチする為に立ちはだかる。しかし……。

 

「うわああああっ!!」

「ゴォォールッ! またしても決まってしまったァーっ!!」

 

 3-0。現実は、いつまでも無垢な若者を苦しめる。

 




今日の格言!
「お前らも叫べ! でっかい声を出して自分を鼓舞するんだ!」
以上!
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