イナズマイレブン アレスの天秤 IF「もしも円堂が故障して、雷門に残っていたら」   作:レイメイミナ

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第四話「謎のスポンサー、趙金雲!」②

 雷門中との練習試合から三日後、星章学園はいつも通りのトレーニングに励んでいた。ただひとりを除いて。

 

「こんなところでまたサボりか、灰崎」

「……ゴーグル」

 

 鬼道は自身がそう呼ばれていることに対しなんとも思っていない。ただせめて名前を覚えているかどうかは確認したいと思ったが、今は妙に刺激しないように口を慎んだ。

 

 灰崎が明らかに苛立っているのを鬼道は感じ取った。それもそのはずだ。これまで灰崎は「最強の個」として活躍し、立ち塞がる相手を残らず蹴散らしていった。しかし、この前の練習試合で灰崎はついに敗北を喫したのだ。それも一度ではなく、二度までも。

 

「しかし、ゲームセンターとは。とてもひとりのアスリートとは思えん」

「からかってんのか?」

「違うな。もう少し協力的になってくれと言っている」

「断る。テメェらは所詮俺が点を取るための道具だ」

「そう思っているなら、せめて手入れくらいはしてくれないか」

「……チッ、口の回るヤツだ」

「今日は俺の勝ちだな」

 

 鬼道はそう言うと、灰崎がやっているゲームにコインを投入した。

 

「は?」

「俺の奢りだ。それが終わったら学校に戻ってもらうぞ」

 

 灰崎は鬼道を睨んだ。まさかその為に来たとは、どこまでもムカつくヤツだ……と言うように。

 

「テメェでやってろ。俺は帰る」

「その前に、また行くんだろ? あの病院に」

「…………」

 

 灰崎は、その問いかけに答えることなく立ち去った。

 

 

*

 

 

 数日後。

 

 サッカー部の部室に緊張が走る。今日はついにスポンサー会社の社長との顔合わせの日、伊那国雷門の面々はその人物像を想像したり、これからのことを考えながらその瞬間を待っていた。

 

 そしてついに、訪れる。

 

「待たせたなみんな! この人が俺達のスポンサーになってくれる、『趙金雲』さんだ!」

「ハァ~イ、皆さん、趙金雲デス。本日からよろしくお願いしマス!」

 

 円堂が連れてきたのは、中国の赤い伝統衣装に身を包んだ小太りの中年男性。細い髭に薄く開けられたまぶたから見える三白眼が怪しく光り、長い髪を一本に結っている。

 

(((み、見るからに怪しい…………‼)))

 

 一同は彼が放つ胡散臭さに早くから気付いた。しかし、同時にこの人がいなければ自分達はサッカーをすることもできないと考え、全員が冷や汗を作りながらどう歓迎しようかと考えを巡らせた。

 

「キャプテンの道成達巳です。此度はスポンサーになってくださり、誠にありがとうございます」

「いえいえ、ワタシは楽しくスポーツに勤しむ少年少女を見るのがダイスキなだけデスので」

 

 最初に切り出したのはキャプテンの道成だった。金雲と握手を交わし、その友好の意思を示した。

 

(キャプテン、流石!)

 

「まぁまぁ、硬い挨拶はナシだ! 今日はみんなの親睦を深めて、フットボールフロンティアに備えるいい機会だ。パーっとやろうぜ!」

「それもそうデスネ。今日はお近づきのしるしとして、皆さんに我が故郷から土産を持ってきました」

 

 そう言って金雲が持ってきたのは、大量の桶。そして、その蓋を開けると……。

 

「サ、我が故郷、本場の包子(パオズ)デス! たんと召し上がれ!」

「「「おぉ~‼」」」

 

 中身は桶いっぱいに詰まった中華まん……もとい包子であった。部室中に広がるその特有の香りが、昼食のお弁当だけでは足りない男子中学生達の食欲を掻き立てる。当然、ただ一人の女子であるのりかも例外ではない。

 

 明日人がひとつ手に取って頬張る。

 

「ん~! うんまっ!」

「それは良かったデス」

 

 日和はこれは見事に付け込まれているな……と明日人に呆れつつ、自分もひとつかじってはその味を堪能した。こうして先ほどの警戒ムードから一変、金雲は瞬く間に伊那国雷門に迎え入れられることとなった。

 

「お食事中悪いのだけど、せめて換気はしてくださるかしら」

 

 そんな明日人達に割り込む人影がひとり。件の生徒会長、御門杏奈であった。

 

「この部室、ただでさえ古いんだから」

「げっ、生徒会長!」

「おやおや、御門杏奈サン。あなたもおひとついかがデスカ?」

「それはサッカー部への差し入れなのですから、部外者の私が受け取るわけにはいきません。みなさんで召し上がってください」

 

 彼女は未だにサッカー部への壁を強く感じる、と円堂は感じ取った。まるで会って間もない頃の前生徒会長、雷門夏未のように。今でこそ彼女は自分達に試練を与え、鍛えてくれたんだと感謝しているが、杏奈の場合は明確な敵意として、サッカー部を排そうという意思を持っているようだ。

 

「つれませんネェ」

「それよりも、もっと大事なことがあったはずですが」

「おっと、忘れていまシタ」

 

 金雲はひとつ息をすると、改めるように正面を向いた。その隣に杏奈が立ち、持っているプリントを確認する。

 

「本日、趙金雲監督の就任により、雷門中サッカー部は正式にフットボールフロンティアに出場する権利を得ました。それと同時に、初戦の相手となる『美濃道三中』との試合日程も決定しました」

「というわけデ、我々は試合当日までに美濃道三中を分析し、対策を練らなくてはなりません」

 

 淡々と続く連絡事項の中に気になる箇所があることを奥入は見つけた。

 

「ま、待ってください! あの、『趙金雲監督』とは……?」

「……言ってなかったんですか」

「スミマセン、失念しておりまシタ」

「え、いや、だって金雲さんはスポンサーで……」

「ハイ。それと同時に監督としても皆さんをサポートいたしマス」

 

 金雲から飛び出た衝撃の発言。それを前に、伊那国雷門メンバーは驚きのあまり言葉を失った。

 

「話を戻します。試合の日程ですが──」

「明後日デス」

「……え?」

「明後日デスよ。美濃道三中との試合は」

「ほ、本当なんですか。杏奈会長」

「はい。FF初戦、美濃道三中との試合は明後日行われます」

「い、いやいや! いくらなんでも早すぎますよ!」

「中学のスポーツ大会などそんなモノでは?」

「身も蓋もない!」

 

 突如決まった監督。そして、あまりにも早すぎるフットボールフロンティア初戦。

 

 伊那国雷門は、振り回されながらも、目の前の壁を越えるしかない。その背後にはもう、何もないのだから。

 

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