イナズマイレブン アレスの天秤 IF「もしも円堂が故障して、雷門に残っていたら」 作:レイメイミナ
Goはまだ再履修できてねぇんだ、すまねぇ
「悪い! 色々バタバタしてたから言い忘れてた!」
場面は変わってグラウンド。円堂は手を合わせ深々と頭を下げた。
「響木監督、持病の悪化で療養か……」
「具合は良いみたいだけどな。まだ復帰は難しいみたいで、雷雷軒も他の人に任せてるんだ」
道成は響木監督がいないことを疑問に思っていたが、円堂の右腕のことに繋がることを危惧して触れては来なかった。あくまでも本人の事情であることに不安と安心が半々となっている中、明日人と氷浦が駆け寄ってくる。
「キャプテン、円堂さん! 聞いてくださいよ!」
「ん、どうした?」
「氷浦が必殺技を編み出したんです! な、氷浦!」
「そ、そんな大層なもんじゃないって……」
「すごいじゃないか、氷浦!」
「いいから見せてくれよ!」
道成は後輩の成長を喜び、円堂はワクワクが止まらない様子で氷浦を持ち上げた。氷浦は躊躇いつつも、のりかを呼んでゴール前に立つ。
「さ、いつでもどうぞ!」
「了解。──『氷の矢』!」
凍てつく一閃のシュートが、鋭くゴールに迫り来る。
「──『ゴッドハンド』!」
のりかもまた、度重なるトレーニングで物にした神の右手で迎え撃つ。ボールは『ゴッドハンド』の中央で受け止められ、見事にキャッチされた。
「……あれ?」
「やっぱ無理か……」
のりかは必殺シュートと聞いて警戒していたが、存外あっさり取れてしまったことに驚いた。
「今のが俺の必殺技、『氷の矢』です。どの距離から打っても減速が起こりづらいし、角度も様々です。カーブもいけます。でも……威力が足りない」
「どんな状況でも一定の威力で打てるってのは、他にはない強みじゃないか」
「そうだ。それにのりかの『ゴッドハンド』もパワーアップしてる。お前の『氷の矢』が弱いってことにはならないさ」
「……ありがとうございます」
二人のフォローを聞いて、氷浦はより一層心に影が差した。自分は大好きな祖母の元を離れてまでここに来た。だというのに編み出した必殺技は「どこからでも打てる」ということだけが強みのパッとしないもの。これが一体何の役に立つのか……そう考えていたところに、一部始終を見ていた小僧丸が現れた。
「いいんじゃないか。使い方は色々あるだろ。例えば混戦状態で俺がシュートを打てないとき、適当なところに『氷の矢』を打てばそこに合わせて俺がシュートを決めれる。豪炎寺さんと染岡さんの『ドラゴントルネード』みたいにな」
「小僧丸! それいいじゃないか!」
「確かに、そういう使い方もあるか」
氷浦は小僧丸のアイディアを作戦に組み込むため、様々なシチュエーションを模索した。それらを共有し、盛り上がる中、また新たに人影が現れる。
「あのー、盛り上がってるとこ悪いんですが、対戦相手の『美濃道三中』の資料を持ってきました」
「おぉ! でかしたぞ、つくし!」
先日、サッカー部に入部してきた新マネージャーの大谷つくしである。学校のマドンナ呼ばわりをされている彼女はその人脈を活かし、雷門中が籍を置いているFF予選・関東Bブロック内のチームについて調べてもらっていた。
「かなり大ざっぱではありますが、聞いたところ攻めよりも守りを重視している学校のようですね……。その防御力の前に他校はすり減らされ、疲弊しきったところに一点だけを投げ入れて勝利するのが基本戦術なのだとか」
「ある意味、基本に忠実ですね」
「突破するのは至難の業だぞ。そこには『壁山』もいるしな」
「ですです。となると今回も要になるのは小僧丸君の『ファイアトルネード』と……」
「明日人の『イナビカリダッシュ』、だな」
美濃道三中との試合で重視すべきことは三つ。ひとつ、相手の基本戦法に引っかからないこと。ふたつ、相手のディフェンスをものともしない鋭い攻撃を行うこと。三つ、サッカー強化委員・壁山塀吾郎の対策を徹底すること。
「きっと氷浦の『氷の矢』も役に立つはずだ。きっちり技を磨いとけよ!」
「はい」
「試合、明後日ですけどね……」
学校での練習が終わり、日が沈みかけた頃。
疲れ知らずの明日人は河川敷を『イナビカリダッシュ』でひたすら突っ走っていた。
「うおおおおぉぉぉっ!!」
実戦で習得した必殺技を仕上げるのはそう難しいことではない。しかし、伊那国が崖っぷちである自覚と、明日人自身の向上心はそれだけで満足することはない。明日人はさらに早く、鋭く相手のドリブルに割り込む能力を引き上げるために技を磨き続けていた。
「ん……?」
そして、その様子を見ていた人物が一人。
ゲームセンターからの帰り、今日一日、ボールに触れることはなかった灰崎凌兵であった。
「お前、こんなトコで何してんだ」
「あ、灰崎! 奇遇だな!」
灰崎の姿に気付いた明日人は『イナビカリダッシュ』のまま砂煙を上げながら接近してきた。灰崎はその姿を見て、先日の敗戦を思い出して顔をしかめた。
「何してたって、特訓に決まってるだろ!」
「ひたすら走るだけが特訓? 笑わせるぜ。ま、リレーのアンカーにはなれるだろうがな」
「走って走って、感覚を掴む。そしてその感覚を馴染ませて、自分のものにしていくんだ。円堂さんに教わった」
「円堂……円堂守、か」
灰崎は円堂のことは鬼道から再三話を聞いてきた。果てしない馬鹿、サッカー馬鹿、馬鹿過ぎて放っておけない馬鹿、とにかく馬鹿だったということしか覚えていない。そして、彼の話をするときの鬼道の複雑な表情も記憶している。
「伝説のキャプテンだの、円堂大介の再来だのなんだの。だが結局言わせてみれば、日本一になった天狗になってたところを、海外の強豪にへし折られた井の中の蛙でしかねぇだろ」
「……つまり?」
「負けたヤツの下でサッカーをしても、その先には行けねぇ。俺からしてみれば、そいつを支持する理由なんざねぇだろ」
灰崎は、刻然とした態度でそう言った。誰も彼も円堂守の話をする。突然現れてサッカー部を乗っ取ったやつも、自分が点を取るための道具でしかないチームメイトも、そして……自分を負かした人物ですら、円堂守の話をしてくるのだ。腹が立った。これはその腹いせのつもりだった。だというのに、明日人は────。
「……だから、なに?」
「は?」
明日人には、一切響かなかった。
「だとしても、円堂さんは少なくとも俺達よりは強いだろ。俺たちは後がない、絶対にフットボールフロンティアを勝ち上がらなきゃいけない。だったら去年優勝した円堂さんに教えてもらうのはこれ以上ない機会だ」
「……」
「それに、世界に行くかどうかなんてわからないし、もしそうなったらそうなったで、目の前の壁に全力で立ち向かうだけだ! そういうときは、お前も一緒にな!」
灰崎は、何も言うことができなかった。明日人の真っ直ぐさは、彼の想像をはるかに超えていた。安い挑発も揺さぶりも、彼には通用しない。
病院に行っても、何の進展もなかった。サッカーでは抜け殻学校との練習試合では個人技で負け、自分を負かしたやつには舌戦でも負ける始末。
「……クソが、今日は厄日だな」
そう言って灰崎は、すぐ足元に転がっていた明日人のサッカーボールに足をかけた。
そして次の瞬間、ボールを明日人に向かって勢いよく蹴り上げた。
「うわっ⁉」
明日人は咄嗟に胸でブロックしようとしたが、あまりの威力に押し負けて吹っ飛ばされる。
「い、いきなりなんだよ!」
「……『円堂さんは少なくとも俺達よりは強い』……、確かにそう言ったな」
「え、そうだけど……」
「それは俺にだって当てはまる。技ひとつで俺を出し抜いた気になってんなら、FF優勝なんて夢物語なんだよ」
「……へ?」
ストレスが溜まりに溜まった灰崎は、最終的に彼の経験値に昇華されようとも、今すぐここで鬱憤を晴らす方向に出た。
「もう出し抜けるなんて思わない方がいい。そのうえで、俺からボールを取ってみろ……!」
「は、は~⁉」
その日、明日人はいつにも増してボロボロで帰ってきたという。そして、明日人が泥のように眠った翌日こそが……フットボールフロンティア予選・第一試合の日だ。
今日の格言!
「世界に行くかどうかなんてわからないし、もしそうなったらそうなったで、目の前の壁に全力で立ち向かうだけだ!」
以上!