篝火「アノール・ロンドの酒場」   作:上代わちき

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二品目「魚のサルマーレ」

 

 いらっしゃいませ。

 狩人のお客様。

 

 「再誕の王子」を斃したのですね。

 これで一つ、悪夢の奥地へ進めるようになったことでしょう。

 

 

 

 先にお伝えした通り、「再誕の王子」は狩人の躯によって作られた"作品"です。

 上位者「鴉刃の魔物」が、既に失われた赤子を得ようと試みた故の産物。

 

 尤も、ここ最近になってその意味は変わったようです。

 

 

 

 「鴉刃の魔物」は、どこからか特別な赤子を手に入れてしまったようです。

 その結果、赤子の器である筈の「再誕の王子」は、特別な赤子と「鴉刃の魔物」を護るための門番に成り下がりました。

 

 もとより悍ましい冒涜の儀式ではありましたが、こうまで貶められると犠牲になった狩人達も報われない。

 お客様の狩りは、ただ宝を求める探索に留まらない、慈悲に満ちた葬送の狩りとなりました。

 彼らに代わり、御礼申し上げます。

 

 

 私では、お客様のような慈悲の葬送はできませんでした。

 むしろ劫罰の如き苦しみを与えるだけ故、手出しできなかったのです。

 

 

 

 私にできることは、ただ一つ。

 この酒場で、お酒と料理を提供することだけ。

 

 本日も、プラムの蒸留酒をご用意しております。

 ぜひ、おつまみと一緒に堪能していってください。

 

 

 

 

 実は私、釣りを嗜みます。

 

 といっても、言うほど魚が釣れるわけではありません。

 ですが、小川の水面を揺らす魚の姿とせせらぎの音が心地よいもので、ついつい釣り糸を垂らしてしまうのです。

 

 

 篝火で暖まりながら、細流と一体になる釣りの世界は、私の大好物なのです。

 

 

 

 とはいえ、どうせなら釣れるに越したことはありません。

 

 以前にもお話した、小高い丘の木の家の家主。

 彼は釣りの名人でして、よく丘のふもとに流れる小川で魚を釣り上げていたものです。

 その家のご厄介になっていた時も、その魚が食卓に並んだのです。

 

 

 

 その家では、魚の身から骨を取り除き、細かく刻んた状態でキャベツに包んでおりました。

 それをトマトスープやブイヨンなどでぐつぐつ煮込めば、魚のロールキャベツの完成です。

 

 キャベツは酢漬けにしてあるものを用いるため、独特な酸味を楽しめます。

 他にはない味となるので、他の国のロールキャベツと区別して「サルマーレ」とも呼称します。

 

 

 

 私は、あの暖かい家で食べたサルマーレが愛おしい。

 それが釣りの成果であるのなら、猶更です。

 なので彼から釣りの極意を教えてもらい、店の品として提供することにいたしました。

 

 

 「魚のサルマーレ」です。

 

 私のサルマーレには他にはない「工夫」を凝らしているので、是非気に入っていただけるかと存じます。

 ぜひご賞味あれ。

 

 

 

 

 それにしても、驚いたでしょう。

 「黒獣」や「再誕の王子」を斃して、奴らが阻んでいた「隠し街ヤハグル」の道を進めば「黄金の都」が広がっていたのですから。

 

 太陽と砂に塗れた黄金の景色は、いいものです。

 私としても、どこか故郷の都市を思い出します。

 

 

 

 この「黄金の都」は、どうやら古代の砂漠に実在していた国が元となっているようです。

 かつてとしては巨大な統治組織であり、道を整備して広範囲に物流網を築いていたようです。

 その恩恵に与っていた都の一つが、ここなのです。

 

 ですが獣の病に飲まれ、現実の都市としては砂の中に消えました。

 悪夢としてヤーナムに紐づいているのは、やはり「鴉刃の魔物」の属性故でしょう。

 

 

 

 ここは常に昼間のように明るく、また当時の営みを粘土板という形で伺い知ることができます。

 ただ宝を得るだけに留まらない、豊かな知識を得られるかもしれませんね。

 

 

 

 ……え、なんでそんな「黄金の都」の一角に、「狩人の墓場」にあったものと同じこの酒場があるのかって?

 いやだってここも悪夢の一部には違いありませんし、それに私もこの酒場も時代や空間に囚われないのが強みですし……。

 

 おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。

 

 

 

 

 太陽が顔を見せるこの「黄金の都」の景色は、とても素晴らしいものです。

 通常のヤーナムでは見ることのできない景色に、きっと出会える筈です。

 

 ですが、先に進むならば今まで以上に注意を要するでしょう。

 

 

 

 この黄金と砂の都には、得体のしれない悪意が潜んでいます。

 それが「鴉刃の魔物」によるものであることは、言うまでもないでしょう。

 炎を操る獣憑きや帯電した恐ろしい獣には、気を付けてください。

 

 また「メンシスの悪夢」を一部取り込んでいるようで、そこからほおずきなどが迷い込んできているようです。

 そして、メンシス学派由来のあの特徴的な"檻"こそが、この都における最大の脅威となるでしょう。

 

 

 

 「鴉刃の魔物」は、「メンシスの悪夢」から流れ着いたその"檻"に特別な意味を込めたようです。

 本来意志を律するものとされたその檻は、この都においては意志を閉じ込めるものとなり果てました。

 

 その"檻"に囚われているのは、悪夢を永遠に彷徨い続ける狩人達。

 彼らは知らず知らずのうちに、あの「鴉刃の魔物」の尖兵となり果てています。

 

 

 

 その目的は、特別な赤子を抱く「鴉刃の魔物」の守護。

 奴の居城たる「砂漠の塔」への道を、塞ぐことにあります。

 

 ですが都の奥にある「砂漠の塔」には、きっと狩りに役立つ宝が眠っている筈。

 

 

 

 挑むのであれば、蒸留酒やサルマーレの持ち帰りをお勧めします。

 いずれも、「工夫」を凝らして狩りに役立つ力を宿してあります。

 

 きっと、よい助けになりますよ。

 

 

 





・魚のサルマーレ

 悪夢のヤーナムで酒場を経営する、名もなき店主による魚と野菜の料理。
 店主の「工夫」によりいつまでも温かい、持ち帰り用の品。

 一時的にスタミナの上限と防御力が上がる。

 みじん切りにした魚の肉をキャベツで包み、トマトスープで煮込んだロールキャベツ。
 サルマーレは肉のひき肉を用いることもある料理だが、店主はあえて魚を用いた。
 酸味のある独特なキャベツの味は、ヤーナムの住民にとって食べ慣れたものである。
 だがここまで美味しく仕上げられるのは、「工夫」を得意とする店主だけだ。



・狩人の檻

 奇妙な六角柱の鉄檻。

 装備することで「狩人の檻」の使命を帯びることとなる。

 この檻は意志を律し、また夢の上位者と交信するための触覚だった。
 だが鴉刃の魔物は、狩人の意志を幽閉する独房としてこれを用いた。
 檻に閉じられた狩人は特別な赤子の守り人となり、これに近づく者を狩る使命に囚われる。
 (これを装備していると、自動で召喚される)
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