篝火「アノール・ロンドの酒場」   作:上代わちき

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三品目「羊のトキトゥーラ」

 

 いらっしゃいませ。

 狩人のお客様。

 

 どうやら"檻"を討ち破ったようですね。

 これで「鴉刃の魔物」を護るものは、殆どなくなったことでしょう。

 「砂漠の塔」にも入れるようになるので、より探索が捗るのではないでしょうか。

 

 

 

 一方で、お客様は「狩人の檻」を手に入れたご様子。

 それは本来メンシス学派のものですが、この場所においては別の意味を持ちます。

 そしてその"意味"は、力を弱めてなお健在のようです。

 

 

 あえて自ら被ることで、また得られるものもあるでしょう。

 それは同時に、別世界の狩人を狩ることにも繋がるのでしょうが……。

 

 まぁでもあいつらそういうの大好きだろーし、気にするもんでもねーよ。

 ……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。

 

 

 

 狩人を狩ることは、転じて血に酔う危険を抱えます。

 「鴉刃の魔物」は、そういった狩人こそを狩り"作品"へと仕上げます。

 「狩人の檻」とは、狩人同士を殺し合わせることを強制するものだったのです。

 

 

 

 とはいえ、今のその檻なら自らの意志で脱着できることでしょう。

 狩りの成就は報酬を伴い、時には狩りの全うを助けるかもしれません。

 一度は試してみるのも手です。

 

 

 

 さて。

 お客様の奮戦を祝って、当店はまた新たな料理をご用意しました。

 

 ぜひ蒸留酒と共に味わって、狩りの疲れを癒していってください。

 

 

 

 

 この辺りでは、羊も育てられています。

 豊かな草原を歩いていけば、羊たちが放牧されている牧歌的な景色を楽しめます。

 あの景色は、本当に癒されるものです。

 

 

 以前にもお話した、小高い丘の暖かい木の家。

 その家主も、丘からその風景を楽しんでおられました。

 

 もともとは教会の狩人だったそうで、狩りに疲れた心を癒すためあの木の家を建てたのだとか。

 奥様もいらっしゃいまして、比較的若けれど狩人としては引退なさっていたそうです。

 

 

 

 一方で、羊とは食べ物を生み出す動物です。

 少なくとも人は、そのために羊を育てます。

 

 この辺りで肉料理と言えば、トキトゥーラです。

 一口大に切った羊肉をトマトスープで煮込んだ伝統料理ですね。

 地域によっては、豚肉も用いるのだとか。

 

 

 トキトゥーラは、肉をタマネギやニンニクと共に炒めて煮込む料理です。

 ママリガに乗せ、目玉焼きやチーズとともに楽しむことができます。

 

 

 

 勿論、酒との相性もぴったりです。

 「工夫」を凝らしていますから、狩人のお客様の舌にも合いますよ。

 

 

 

 「羊のトキトゥーラ」です。

 ぜひ、その濃厚な味を楽しんでいってください。

 

 

 

 

 檻の呪いを破ったことで、「黄金の都」の呪いもまた解かれました。

 即ち、「砂漠の塔」への道が開かれたのです。

 

 円形状に石積みして建てられたこの「砂漠の塔」は、もともと葬儀のための場所。

 とりわけ"鳥葬"のための施設です。

 

 

 鳥葬とは、遺体の肉を鳥に与える葬儀のこと。

 この辺りでは一般的ではない方法です。

 

 ですが、その葬送には「天へ届くように」という願いが込められています。

 歴代の狩人狩り達が行う慈悲の狩りも、ここに由来するかもしれません。

 

 

 

 とはいえ。

 この悪夢において「砂漠の塔」の意義は、反転しています。

 

 「鴉刃の魔物」により、その内部は地獄のような景色が広がっています。

 どこからか銀獣が湧いて出てきて、さらに恐ろしい獣が当然のように跋扈しています。

 また「狩人の墓場」にもいた「黒獣」が、ここにも潜んでいるようです。

 

 

 探索を行うなら、準備は密にすることをお勧めします。

 

 

 

 それから。

 先にも伝えた通り「砂漠の塔」は、葬儀のための施設です。

 故にその内部は聖域として定義され、余人が入ることを拒んでいます。

 

 ましてや物理法則が通用しないこの悪夢では、どんな罠があるかわかったものではありません。

 もしそれを回避したいなら、お客様が手に入れた「狩人の檻」がヒントになるやもしれません。

 

 

 

 今の「砂漠の塔」は、「鴉刃の魔物」のもの。

 そして「狩人の檻」は、「鴉刃の魔物」を護るためのものです。

 

 意外と、いい拾い物だったかもしれませんよ?

 

 

 

 

 「鴉刃の魔物」は、上位者と呼ばれる者達の一匹です。

 あるいは、その姿の一つでしかないかもしれませんが。

 

 奴らはみな、赤子を失っています。

 故に、赤子を求めています。

 

 

 

 「鴉刃の魔物」は、それ故に狩人の躯を集めて"王子"を生み出しました。

 もとより血に酔い悪夢に彷徨う彼らは、死に場所を失った者達……魔物にとって、彼らの存在は都合がよかったようです。

 「狩人の悪夢」という空間は、素材となる狩人を集めるための罠として成立しました。

 

 しかし、その思惑は予想外の形で成就しました。

 

 

 

 お客様も時折聞こえるでしょう。

 あの赤子の泣き声が。

 

 その赤子は、ある狩人が背負っていた人間の赤子です。

 しかしその赤子には、特別な血が流れていました。

 

 

 その血を有する赤子は、魔物にとって求めていたものに等しく見えていたようです。

 

 

 

 魔物は狩人から赤子を奪い、そして今も抱き続けています。

 本来の王子であった筈の再誕者はその守り役に堕ち、行き場を失った狩人も檻に囚われて魔物の尖兵になり果てました。

 

 冒涜的ながらも辛うじて成立していたその"穢れた鳥葬"も、もう意味を失ったのです。

 にもかかわらず、魔物は未だ本懐を遂げることができずただ赤子を抱き続けるだけ。

 

 

 

 

 もしかしたら。

 狩人達だけでなく、奪われた赤子も、そして魔物自身もまた。

 

 死に場所を失った亡者に、なり果てたのかもしれません。

 

 

 

 生きる場所も死に場所も失い、それでもなお生き続けてしまうこと。

 それを人は、生き地獄と呼びます。

 

 でも私は知っています。

 そのような"獣"を狩ることこそが、狩人の役目なのだと。

 

 

 





・羊のトキトゥーラ

 悪夢のヤーナムで酒場を経営する、名もなき店主による肉料理。
 店主の「工夫」によりいつまでも温かい、持ち帰り用の品。

 一時的に攻撃力が上がる。

 角切りにした羊肉を炒め、トマトスープで煮込んだもの。
 酒と薬に通ずる「工夫」により、防御力を下げることなく一時の獣性に導く。
 だがこれが人の獣性を暴くことはなく、むしろ人の形へ律する。
 店主の料理は、獣の病への特効薬だった。



・鳥葬の鎌

 上位者、鴉刃の魔物が用いた「仕掛け武器」。

 変形前は片手で振るう鎌として、変形後は大振りの双剣として機能する。
 星に由来する希少な隕鉄が用いられているため、ステップなど、高速にのった攻撃で真価を発揮する。

 その武器は獣だけでなく、狩人も狩る武器として考案されたものの一つ。
 かつての振るい手は鳥葬の文化を持つ故郷を持ち、その憧憬がある上位者に形を与えた。
 その形は、狩人を狩り、その躯で赤子を生み出そうとする魔物に至った。
 こうして冒涜的な「鳥葬」は始まった。
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