いらっしゃいませ。
狩人のお客様。
どうやら"檻"を討ち破ったようですね。
これで「鴉刃の魔物」を護るものは、殆どなくなったことでしょう。
「砂漠の塔」にも入れるようになるので、より探索が捗るのではないでしょうか。
一方で、お客様は「狩人の檻」を手に入れたご様子。
それは本来メンシス学派のものですが、この場所においては別の意味を持ちます。
そしてその"意味"は、力を弱めてなお健在のようです。
あえて自ら被ることで、また得られるものもあるでしょう。
それは同時に、別世界の狩人を狩ることにも繋がるのでしょうが……。
まぁでもあいつらそういうの大好きだろーし、気にするもんでもねーよ。
……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
狩人を狩ることは、転じて血に酔う危険を抱えます。
「鴉刃の魔物」は、そういった狩人こそを狩り"作品"へと仕上げます。
「狩人の檻」とは、狩人同士を殺し合わせることを強制するものだったのです。
とはいえ、今のその檻なら自らの意志で脱着できることでしょう。
狩りの成就は報酬を伴い、時には狩りの全うを助けるかもしれません。
一度は試してみるのも手です。
さて。
お客様の奮戦を祝って、当店はまた新たな料理をご用意しました。
ぜひ蒸留酒と共に味わって、狩りの疲れを癒していってください。
◆
この辺りでは、羊も育てられています。
豊かな草原を歩いていけば、羊たちが放牧されている牧歌的な景色を楽しめます。
あの景色は、本当に癒されるものです。
以前にもお話した、小高い丘の暖かい木の家。
その家主も、丘からその風景を楽しんでおられました。
もともとは教会の狩人だったそうで、狩りに疲れた心を癒すためあの木の家を建てたのだとか。
奥様もいらっしゃいまして、比較的若けれど狩人としては引退なさっていたそうです。
一方で、羊とは食べ物を生み出す動物です。
少なくとも人は、そのために羊を育てます。
この辺りで肉料理と言えば、トキトゥーラです。
一口大に切った羊肉をトマトスープで煮込んだ伝統料理ですね。
地域によっては、豚肉も用いるのだとか。
トキトゥーラは、肉をタマネギやニンニクと共に炒めて煮込む料理です。
ママリガに乗せ、目玉焼きやチーズとともに楽しむことができます。
勿論、酒との相性もぴったりです。
「工夫」を凝らしていますから、狩人のお客様の舌にも合いますよ。
「羊のトキトゥーラ」です。
ぜひ、その濃厚な味を楽しんでいってください。
◆
檻の呪いを破ったことで、「黄金の都」の呪いもまた解かれました。
即ち、「砂漠の塔」への道が開かれたのです。
円形状に石積みして建てられたこの「砂漠の塔」は、もともと葬儀のための場所。
とりわけ"鳥葬"のための施設です。
鳥葬とは、遺体の肉を鳥に与える葬儀のこと。
この辺りでは一般的ではない方法です。
ですが、その葬送には「天へ届くように」という願いが込められています。
歴代の狩人狩り達が行う慈悲の狩りも、ここに由来するかもしれません。
とはいえ。
この悪夢において「砂漠の塔」の意義は、反転しています。
「鴉刃の魔物」により、その内部は地獄のような景色が広がっています。
どこからか銀獣が湧いて出てきて、さらに恐ろしい獣が当然のように跋扈しています。
また「狩人の墓場」にもいた「黒獣」が、ここにも潜んでいるようです。
探索を行うなら、準備は密にすることをお勧めします。
それから。
先にも伝えた通り「砂漠の塔」は、葬儀のための施設です。
故にその内部は聖域として定義され、余人が入ることを拒んでいます。
ましてや物理法則が通用しないこの悪夢では、どんな罠があるかわかったものではありません。
もしそれを回避したいなら、お客様が手に入れた「狩人の檻」がヒントになるやもしれません。
今の「砂漠の塔」は、「鴉刃の魔物」のもの。
そして「狩人の檻」は、「鴉刃の魔物」を護るためのものです。
意外と、いい拾い物だったかもしれませんよ?
◆
「鴉刃の魔物」は、上位者と呼ばれる者達の一匹です。
あるいは、その姿の一つでしかないかもしれませんが。
奴らはみな、赤子を失っています。
故に、赤子を求めています。
「鴉刃の魔物」は、それ故に狩人の躯を集めて"王子"を生み出しました。
もとより血に酔い悪夢に彷徨う彼らは、死に場所を失った者達……魔物にとって、彼らの存在は都合がよかったようです。
「狩人の悪夢」という空間は、素材となる狩人を集めるための罠として成立しました。
しかし、その思惑は予想外の形で成就しました。
お客様も時折聞こえるでしょう。
あの赤子の泣き声が。
その赤子は、ある狩人が背負っていた人間の赤子です。
しかしその赤子には、特別な血が流れていました。
その血を有する赤子は、魔物にとって求めていたものに等しく見えていたようです。
魔物は狩人から赤子を奪い、そして今も抱き続けています。
本来の王子であった筈の再誕者はその守り役に堕ち、行き場を失った狩人も檻に囚われて魔物の尖兵になり果てました。
冒涜的ながらも辛うじて成立していたその"穢れた鳥葬"も、もう意味を失ったのです。
にもかかわらず、魔物は未だ本懐を遂げることができずただ赤子を抱き続けるだけ。
もしかしたら。
狩人達だけでなく、奪われた赤子も、そして魔物自身もまた。
死に場所を失った亡者に、なり果てたのかもしれません。
生きる場所も死に場所も失い、それでもなお生き続けてしまうこと。
それを人は、生き地獄と呼びます。
でも私は知っています。
そのような"獣"を狩ることこそが、狩人の役目なのだと。
・羊のトキトゥーラ
悪夢のヤーナムで酒場を経営する、名もなき店主による肉料理。
店主の「工夫」によりいつまでも温かい、持ち帰り用の品。
一時的に攻撃力が上がる。
角切りにした羊肉を炒め、トマトスープで煮込んだもの。
酒と薬に通ずる「工夫」により、防御力を下げることなく一時の獣性に導く。
だがこれが人の獣性を暴くことはなく、むしろ人の形へ律する。
店主の料理は、獣の病への特効薬だった。
・鳥葬の鎌
上位者、鴉刃の魔物が用いた「仕掛け武器」。
変形前は片手で振るう鎌として、変形後は大振りの双剣として機能する。
星に由来する希少な隕鉄が用いられているため、ステップなど、高速にのった攻撃で真価を発揮する。
その武器は獣だけでなく、狩人も狩る武器として考案されたものの一つ。
かつての振るい手は鳥葬の文化を持つ故郷を持ち、その憧憬がある上位者に形を与えた。
その形は、狩人を狩り、その躯で赤子を生み出そうとする魔物に至った。
こうして冒涜的な「鳥葬」は始まった。