いらっしゃいませ。
狩人のお客様。
「鴉刃の魔物」を斃したのですね。
これで、悪夢は打ち破られました。
いずれこの「狩人の墓場」も消え去り、囚われていた者達も成仏することでしょう。
悪夢を彷徨う狩人達も、"王子"となった者達も、獣達も。
そして「鴉刃の魔物」自身や、奴に抱かれていた赤子も。
みんなこの悪夢から解放される。
まぁこの酒場がある間は、空間として成立しますけどね。
ほら、私もまた人ならざる身ですから。
……ご安心を。
私は赤子を求めることはいたしません。
もとより私と奴らは別物ですが……それ以上に、私の同族はもう殆ど滅びました。
その運命を覆すつもりはないのです。
ただ、少しだけわがままが許されるのなら。
人の身に偽って各地を旅して得た、様々な料理の味を皆様にお伝えしたい。
それぞれの料理に込められた意志を、どうか人々に継承されていってほしい。
ただそれだけなのです。
◆
かつて一時期、私はこの辺りを旅しておりました。
人の文化を知り、食べ物を知り、そして意志を知るための旅でした。
その一環として、小高い丘の木の家のご厄介になっていました。
前々からお伝えしている通りです。
暖かい木の家の家主には、奥様がおられました。
なんでも、教会の狩人として西へ遠征した際に出会ったのだとか。
教会の狩人は、西に潜むある血族の族滅を命じられ、その任を果たしました。
その血族は獣の病の根源とされ、そして事実西の地では獣が蔓延っていました。
家主の奥様は、その西の地から生き延びた数少ない一人です。
西の血族は確かに族滅し、狩人と奥様は東へと帰り、そしてあの小高い丘に木の家を建てられました。
あの暖かく牧歌的な景色が、凄惨な悲劇と返り血により傷ついた二人の心を癒したのです。
そんなお二人の大好物が、パパナシです。
この辺りにおける伝統的な揚げ菓子でして、サワークリームやジャムをかけて楽しめます。
あの家で食べるパパナシは、本当に絶品でした。
その味を、この度再現いたしました。
「パパナシ」です。
酒に合うよう「工夫」いたしましたので、おつまみとしても楽しんでいってください。
◆
悪夢は狩り取られました。
私がこの店を閉めてしまえば、空間としても霧散することでしょう。
……ご安心を。
お客様が狩りを全うするまでの間ぐらいは、しばらくこの地で経営を続けます。
また酒が飲みたくなったら、ご来店ください。
尤も、別の世界においてはその限りではないでしょう。
それだけこの悪夢の根は深い。
この世界だけでも、報われてよかった。
一方で。
その実、まだ報われていない人が一人だけ残っています。
「狩人の墓場」の最下層にいる獣、「赤ずきん」です。
もしかしたら、お客様も既に挑まれているのかもしれません。
ですがあの獣は生存本能が強く、狩猟に至らなかったと存じます。
彼女は、もうずっと赤子を求めてさまよい続けているのですから。
自身の赤子を見つけるまで、死ぬわけにはいかないのです。
……彼女は、「赤ずきん」は。
かつて私がお邪魔した、小高い丘の木の家に住んでいた、家主の奥様です。
私が再び旅へ出た後、奥様は家主との子を産みました。
その赤子には、かつて家主が浴びた"血族の返り血"が流れていたのです。
だからなのでしょう。
あの小高い丘の地もまた、悲劇の地となりました。
凄惨な悲劇は多くの狩人をも巻き込み、ある狩人狩りが事態を治めるに至ります。
そして狩人であった家主も悪夢に囚われ、赤子と共に「鴉刃の魔物」に狩られました。
西の悲劇は、まだ終わっていなかったのです。
◆
お願い申し上げます。
狩人のお客様。
どうか、あの燃え盛り血に渇いた獣「赤ずきん」をおくっていただけないでしょうか。
血族の返り血は彼女をも蝕み、獣としての「赤ずきん」は燃えている。
故に並大抵の狩人では太刀打ちできず、そしてあの生存本能故に仕留めることもできない。
ですが
「鴉刃の魔物」が抱く赤子をおくったお客様ならば、話は変わります。
私にもわかります。
お客様は、赤子の意志を受け継いでいる。
彼女がそれに気づかないことはないでしょう。
燃えて苦しみながらなおも生き続ける「赤ずきん」は、お客様からその意志を取り戻そうとするでしょう。
逃げることなく、命をかけて、死力を尽くす筈です。
その条件下であれば、きっと「赤ずきん」もおくれる筈です。
ですが、だからこそ。
どうか気を付けてください。
強い意志を持つ人間は、聖職者よりもよほど恐ろしい獣になります。
「赤ずきん」もまた、その一人です。
今までお客様が斃されてきたどの獣や怪物のものよりも、きっと苛烈で凄まじい狩りになることでしょう。
それでも、私ではなくお客様こそが適任と存じます。
私に、慈悲の葬送はできない。
それは狩人である、お客様だからこその刃です。
◆
行かれるのですね。
どうか、貴方の旅に寄る辺があらんことを……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
やはりお客様に対しては、こちらの方が相応しいでしょう。
またのご来店、心よりお待ちしております。
事が終わった後もお立ち寄りくだされば、またお酒や料理をお作りいたしますよ。
ここはヤーナムの酒場ですから。
・パパナシ
悪夢のヤーナムで酒場を経営する、名もなき店主による揚げ料理。
旅に強い包み紙に包まれた、持ち帰り用の品。
HPを消費することなく、血の弾丸を補充できる。
チーズを練り込んだ生地を揚げたもので、サワークリームとジャムをかけた伝統の菓子。
だが店主の「工夫」により、狩人の生きる力、その感覚を刺激する。
その力は、銃や秘儀などの触媒に向く。
・怨念の魔剣
特に医療教会の狩人が用いる「仕掛け武器」。
燃え盛り血に渇いた獣「赤ずきん」が持つことでも知られている。
本来は教会の最初の狩人、ルドウイークに通じる大剣。
だがこれは「ある血族」の虐殺に加担した狩人のものであり、その返り血により怨念を色濃く纏っている。
変形することはできないが、代わりに赤黒い怨念を刀身に纏い、悍ましい光波を飛ばすことができる。
その刃は悍ましい虐殺の象徴であり、その返り血の怨念は特別な赤子を産むほどに濃いものだった。