・焦げた守り鈴
いつの間にか荒れ寺に供えられていた守り鈴。
仏師は、お前さんに言いたいことがあるようだと言っていた。
改めて荒れ寺の仏に供えれば、また異なる古い記憶が見れるだろう。
その守り鈴の所以は、誰にもわからない。
すべては燃え尽きたのか、それとも燃え残ったものがあったのだろうか……。
一品目「瓢箪酒」
おや、忍びですか。
……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
いらっしゃいませ。
ここは葦名の茶屋です。
茶屋とは言いましたが、その実お酒が自慢の店です。
この辺りは狂暴な獣が蔓延り、とても物騒です。
山道は猿や犬が潜み、奥に進めばまぼろしが出現します。
ここで行動するならば、警戒が必要となるでしょう。
ですが、ちょうどこの茶屋には鬼仏があります。
東側の座敷にございますので、よろしければご利用ください。
この座敷からは黄金色に染まった山の景色を楽しむこともできますので、是非ゆっくりしていってください。
それから。
ここは、個人的に経営しているお店です。
方々にちょっとしたツテがあるため、特に忍びの方々からお引き立てを賜っています。
おかげで、酒には自信があります。
私の酒は、忍びの方々も楽しめる特別製。
今回も、特別な「工夫」を凝らしたお酒をご用意させていただきました。
よろしければ、一杯いかがでしょうか。
◆
この葦名の地は、源から流れ出ずる水が特徴です。
この清らかな水は、葦名の米……その豊穣を引き出すことができるのです。
こうして、葦名の酒は作られる。
杜氏が作る「竜泉」は、まさしくその最高峰でありましょう。
水の質は、生活の質にもつながります。
人間は水なしには生きていけません。
そして国とは、多くの人間を食わせてこそのもの。
国において人とは民であり、その健康が転じて国の力となります。
源の清らかな水を持つ葦名が如何に素晴らしいかは、推して知るべしです。
ですが。
あえてわかりやすい形として表現するなら。
やはり葦名の酒の味こそが、それを物語るのでしょう。
私は本来、海の外の者。
扱う酒も、大陸由来のものが馴染み深い。
ですがこの度、この国のお酒を勉強させていただきました。
その成果を、この茶屋で提供させて頂いてます。
とりわけ、お客様のような忍びの方向けの「工夫」を凝らしております。
きっと、気に入って頂けると存じます。
「瓢箪酒」です。
お持ち帰り用の品もご用意してありますので、まずは一杯お試しあれ。
◆
この辺りについて、ですか?
ここは「霧の山」。
文字通り、濃い霧に包まれた山でございます。
この茶屋周辺では比較的視界が利くのですが、一歩山道に入れば濃霧に飲み込まれてしまうことでしょう。
その濃霧は尋常ならざるものではなく、故にまぼろしを描くのです。
……お客様なら、もうお気づきかもしれません。
この山は、とある忍びの里に繋がる地でございます。
薄井の森と同質の環境を持ち、故にまぼろしを以て忍びを育てる。
そのような修練所の一つが、この山でございました。
だからこそ、この地には様々なまぼろしが現れ人を襲うのです。
それこそが、何にも勝る修練なのですから。
濃霧は地名をも蝕み、里を隠しました。
尤も、忍びの里が機能していたのは昔の話です。
かつてはあの弥山院と繋がりのある寺が建てられ、人の出入りを厳しく管理しておりました。
あの忍び狩りの組織には謎が多いものですから、あるいは忍びの里と連携していたのでしょう。
葦名が、まだ葦名ではなかった頃のお話です。
ですがある時を境に、弥山院の僧が山の奥へと姿を消しました。
それ以降、山の霧はより濃いものとなり、濃霧の奥から人が帰ってくることはなかった。
……もしかしたら、まだ世に出ていない忍びの道具が眠っているかも。
忍びの任に役立つかもしれませんよ。
◆
このところ、この山に異変が生じているようです。
霧とまぼろしの濃さこそ相も変わらずですが、ここ最近になって濃霧に陰りが見られます。
だからこそ、濃霧に消失したかつての里への道が見えるようにもなったのですが……。
その代わりに、おそらくその里から良くないものが出てきたようです。
時に、お客様は「赤目」をご存知でしょうか。
この葦名には「変若水」と呼ばれるものがあり、その濃く澱んだものを口にした者は時に恐ろしい力を手にします。
それを葦名の者は「赤目」と呼び、そして人の手で制御しようと試みています。
その「赤目」が、濃霧に消失した忍びの里にいたようです。
おそらくは、その忍びの里においても「赤目」に関する実験を試みていたやも。
ともすれば今日の葦名による実験も、もとはといえばここを源流の一つとしているのでしょう。
今回現れた「赤目」は、猿だったもののようです。
従来の個体よりも優れた力と俊敏性を持ち、それを変若水で人為的に「獅子猿」に匹敵する怪物へ仕立て上げようとしたのでしょう。
……それが、ここにまで出てきている。
まぼろしに隙間ができたところを運よく出てきただけなら、結構です。
しかし「赤目」は火を恐れるといいます。
その忍びの里には、何か火に纏わる災厄が眠っているかもしれません。
もしお客様が、その忍びの里を探るというのなら。
火に対する備えを用意した方がよいと存じます。
・瓢箪酒
葦名の山で茶屋を経営する、名もなき店主による酒。
瓢箪にHPを回復させる不思議な酒が入った、持ち帰り用の品。
酒とは振舞うものだが、これは店主の「工夫」により忍びでも楽しめる逸品。
葦名の米と源からの水を用いたこの至高の酒は、驚くほどに悪酔いしない。
忍びの任を阻害されることなく、楽しめるのだ。
・戦いの記憶・赤目の猿
心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶。
今はその残滓のみが残り、
記憶は確かに狼の糧となった。
その忍びの里では、赤目の実験が行われていた。
大抵は亡者の様な者ばかりが出来上がり、牢の闇へ消えていくのみ。
だがこの個体のみが、牢から逃げ出すことができた。
何かに怯えていたようだ。