いらっしゃいませ。
忍びのお客様。
「古い獅子猿」を斃したのですね。
やはり、奴は未だに生きていたか。
生きたまま、谷牢で永遠を過ごす……何も為すこともなく。
かつての里に縁ある者としては口出しできることではないですが、御礼申し上げます。
奴は、きっとお客様の刃をずっと待っていた筈。
死なぬとは、ただただ失い続ける事。
かの猿は、もう何もかも虚ろな匣となっていたのでしょう。
それを齎したのは、実験ではなく蟲。
何やら変若水の濃い澱に適応した蟲が、死なずの秘密であるそうです。
その蟲を食んだ者、あるいは寄生された者が、「古い獅子猿」のような死なずとなるのだとか。
不死は恐ろしい淀みを生みます。
私には、赤目や蟲憑きを生み出した……その源が悍ましく見えるのです。
本当に、呪いとは厄介なものですね。
その不死を断ち切ったことを、私は称えるべき偉業であると考えております。
といっても、私は方々に個人的なツテがあるだけの、茶屋の店主。
できることは、美味しい料理を提供することだけ。
是非、ごちそうさせてください。
◆
お客様は「うな胆」をご存知でしょうか。
葦名衆が神棚に供える、雷払いの妙薬です。
うなぎは、矮小なれとも竜の眷属……とされています。
この地において雷は竜と紐づけられて考えられるようです。
故に、竜の眷属の胆を食むことで、雷への耐性を得られるのでしょう。
儀式とは、そういったものなのです。
他方で、うなぎは胆に限らずごちそうでもあります。
夏に食べることで、疲労や夏負けへの備えとなる力を得られます。
今のこの地は夏ではなく、その力は不要でしょうが……私には「工夫」を凝らす力がございます。
うなぎに秘められた力を、より忍びの任に役立つ効能として引き出しましょう。
それから、私は時代に囚われない彷徨い人であることは以前にもお話ししました。
即ち、私には未来の知識がございます。
未来において、うなぎは塩や味噌で味付けするだけでなく、時には甘辛い特製のタレを用いました。
その味を、あえてここで再現してみたのです。
「うなぎの串焼き」です。
ここでしか味わえない、特別な食べ物です。
勿論お持ち帰りの分もご用意できますので、まずはご賞味あれ。
◆
その実「谷牢」にはまだ秘密が隠されているようです。
ですが、おそらく現時点でその秘密を暴くことはできないようです。
「谷牢」に隠された秘密は、忍びの里から流れ出る霧とまぼろしに由来します。
ならば、まずはその忍びの里を目指すことをおすすめします。
「忍びの里」は、葦名がまだ葦名でなかった頃に建てられ運用されていた場所です。
如何なる縁か、弥山院の暗部と一定のつながりがあったようです。
何でもその弥山院は、とある破戒僧の業を受け継いでいるようです。
それ故にまぼろしを操る技術を持ち、その心得を忍び達に伝授したそうです。
こうして、霧とまぼろしに隠れる忍びの里が生まれました。
そのまぼろしは、人の出入りが消えて尚も里に残り続けている筈。
もしかすれば、当時の穏やかな里の景色が未だに残っているかもしれません。
他方で、その里は赤目の実験場としての顔を隠し持ちます。
弥山院による誘導か、それとも人としての欲望故に自然とそうなったか……いずれにしろ、余人には見せない顔があった。
それが「谷牢」の景色であることは、言うまでもないでしょう。
そうして育まれた暗い情念は、まぼろしとして人を襲います。
きっと「忍びの里」は、「谷牢」に勝るとも劣らない危険地帯となっていることでしょう。
◆
「忍びの里」は、隔絶されたとて生活の場所です。
飯を食うための田んぼや畑、外から仕入れた品を捌く倉庫や市……。
実際に足を踏み入れば、かつての生活の痕跡を見ることができるでしょう。
ともすれば、忍びの任に役立つ宝にも恵まれるかもしれません。
一方で。
先に申した通り、おそらくは「忍びの里」も霧とまぼろしに蝕まれています。
お客様は、守り鈴を通してこの地を訪れている様子。
であれば、鈴は貴方に見せたいものがある筈。
あの霧とまぼろしは、お客様にとって障害でしかない。
その根本を断つことで、新たに見えるものがありましょう。
「忍び狩り、弥山院圓舜」。
きっと彼が、お客様が目指すべき類稀な強者でしょう。
店の帳面に曰く、彼こそが霧とまぼろしを司る心得の持ち主です。
もし何らかの事情があったとして、彼ならば里をまぼろしで隠してしまえるだけの力はございます。
ですが気を付けてください。
圓舜は、自ら育てた忍びが用済みとなれば、それを始末することも役目としてきました。
その業は、里が濃霧に消失してなお……いや、まぼろしがその場にあるからこそ色濃く刻まれている。
彼は、何か秘密を守っている。
秘密とは、いつだって甘いものです。
それを暴くのなら、相応の覚悟を要するでしょう。
・うなぎの串焼き
葦名の山で茶屋を経営する、名もなき店主による料理。
うなぎの身を串焼きにした、持ち帰り用の品。
一定時間、雷攻撃によるダメージと状態異常「打雷」になったときのダメージを軽減する。
その他「中毒」「炎上」を治癒し、「怖気」の蓄積も減らし、それぞれの耐性を大きく高める。
本来は塩や味噌で味付けする料理だが、店主はどこからか醤油やみりんなどを仕入れて独特のタレを作り出した。
店主が時代に囚われない、彷徨い人であるが故の料理である。
・戦いの記憶・忍び狩り 弥山院圓舜
心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶。
今はその残滓のみが残り、
記憶は確かに狼の糧となった。
園舜は忍びを秘密裏に育て、用が済めば忍びを始末する忍び狩りの祖である。
だがある忍びの里が尋常ならざる炎に包まれた時、彼は霧とまぼろしを用いて里を封印した。
その偉業と名は忘れ去られ、今や忍び狩りの業が残るのみ……。