篝火「アノール・ロンドの酒場」   作:上代わちき

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 葦名編最終回です。


四品目「茶屋のおはぎ」

 

 いらっしゃいませ。

 忍びのお客様。

 

 圓舜を斃したのですね。

 まずは、お祝い申し上げます。

 

 

 

 圓舜は、優れた槍の使い手でもありました。

 まぼろしを組み合わせたその技量は、今日の忍び狩りとは比べるべくもないものでしょう。

 それを打ち破るのですから、やはりお客様もまた優れた忍びでございましょう。

 

 

 

 一方で、圓舜はそのまぼろしを以て恐ろしいものを封印していたようです。

 即ち、怨嗟の炎……修羅です。

 

 この「霧の山」はまだ無事ですが、「忍びの里」は修羅の炎で燃え盛り灰になることなく苦しみ続けている。

 その源泉は「谷牢」……今となっては「燃える谷牢」と呼ぶべき場所にあるようです。

 

 

 

 炎の根を絶たなければ、いずれこの山も燃え上がる。

 そして、この葦名という国をも飲み込むでしょう。

 

 圓舜による封印は、既に陰りが見えました。

 決定的な瞬間が起こる前に、お客様がこの地を訪れたのは本当に幸運でございました。

 

 

 

 ……必要でしたら、私の手で始末することも考えていました。

 こう見えても、戦う術は備えているのです。

 

 ただ、私の備えはお客様ほど慈悲深いものではありません。

 「赤目の猿」も「古い獅子猿」も、「弥山院圓舜」も「燃える谷牢」の奥に潜む「修羅」も、それに値する大罪人ではない。

 

 

 叶うなら、やはりお客様のような刃を以て苦しみなく葬送するのが理想なのです。

 

 

 

 もちろん、お客様ばかりに苦労を強いる形になるのです。

 私にできることを考えてきました。

 

 今回は、美味しい和菓子をご用意してありますよ。

 

 

 

 

 まだ忍びの里が機能していた頃。

 一時店を預けて、修行に出たことがございました。

 

 諸国を行脚し、新たな料理を覚えるためのものです。

 その最中で、一人の忍びを連れた御子と縁ができました。

 

 

 

 その方は、おはぎが好物でした。

 忍びの里で食したものを、自らの手で再現しようとするほどに。

 

 奇縁が重なり、そのおはぎを食する機会に恵まれました。

 それはもう、絶品でございましたとも。

 

 

 

 

 おはぎは、米を炊いて丸めたものをあんこで包んだもの。

 塩を用いることで、小豆の甘みを引き立てたお菓子です。

 

 塩を入れすぎると味が壊れてしまいますから、その匙加減がその旨味の秘訣でございました。

 

 

 

 私は何度も失敗を重ねては、その度に御子殿が笑っていました。

 同じ失敗を、私もよくしたものだ……と。

 

 

 

 しかし。

 いくつかの国と食べ物を巡るうちに、何とか店へお出しできるだけのものができるようになりました。

 

 こうして、店に並ぶ商品がまた一つ増えました。

 

 

 

 「茶屋のおはぎ」です。

 この山の素晴らしい景色と共に、堪能していってください。

 

 

 

 

 弥山院圓舜は、霧とまぼろしを用いる者。

 その心得を以て、谷牢と忍びの里を燃やす修羅の炎を封印していました。

 

 ですが、その封印は解かれた。

 

 

 かつて厳しくも穏やかな景色があった忍びの里は、全て灰になりました。

 そしてその炎の源泉である「燃える谷牢」は、今も炎が燃え上がっています。

 

 夥しいほどに組まれた木の足場はもうその殆どが燃えつき、それぞれの土牢も炎で包まれている。

 谷底に広がる広い毒沼も、炎と触れることでより脅威となっている。

 さながら物語や伝承で語られる、地獄の如き景色となっている筈です。

 

 

 例の「赤目の猿」は、ここから逃げ出したのでしょう。

 赤目は火を恐れます。

 ましてやあのような恐ろしい炎から逃れようとしたのなら、あの狂暴性も頷けます。

 

 

 

 

 しかしだからこそ、従来の「谷牢」では見えることのなかった道が見える筈。

 圓舜のまぼろしが隠した道から、その炎が燃え上がっているのですから。

 

 その先に、「修羅」がいるのです。

 

 

 

 

 先ほどお話した、御子殿。

 あの方は、もともと弥山院の暗部と一定の縁がある方です。

 

 それ故に、己の運命を決めることができない身分でありました。

 従者の忍びとは、護衛であると同時に監視役でもあったのです。

 

 

 しかし、ある日を境に御子殿は忍びと別れたようです。

 その後についての仔細は帳面にも残ってはいませんが、どうやら人として懸命に生き、そして死んだようです。

 

 ……この上なく、羨ましい生を送ったそうです。

 

 

 

 しかし、忍びの方はそうでもありません。

 御子殿を失った忍びは、掟に従い里へ戻りました。

 掟を破り御子殿を逃がした一方で、己の掟を定めることができなかったようです。

 

 罰として親から左腕を斬り落とされ、谷牢の奥底へ幽閉されました。

 その場で首を落とさなかったのは、親からの慈悲か、それとも谷牢の蟲に食わせるためのものだったか。

 

 

 

 いずれにしろ、そこから災厄ははじまりました。

 隠された谷牢の奥から、尋常ならざる炎が噴出したそうです。

 

 忍びの里はその炎に巻き込まれ、弥山院の圓舜が封印するに至ります。

 

 

 

 かつて忍びだった修羅は、今もなお掟に従い、燃える体を抱えて谷牢の奥で耐えています。

 しかしあの炎は……人の意志を歯牙にもかけないもの。

 

 いずれ慈悲の葬送が必要となります。

 それこそが、きっとあの守り鈴のあるわけでしょう。

 

 

 

 件の災厄から、店を訪れる忍びの方も少なくなりました。

 ですが、せめてこの炎の行く末を見届けるまでは、店を続けたいと考えております。

 

 図らずも、店を続けてきた甲斐がありました。

 

 

 

 

 行かれるのですね。

 

 どうか、貴方の旅に寄る辺があらんことを……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。

 やはりお客様に対しては、こちらの方が相応しいでしょう。

 

 

 またのご来店、心よりお待ちしております。

 事が終わった後もお立ち寄りくだされば、またお酒や料理をお作りいたしますよ。

 

 ここは葦名の茶屋ですから。

 

 

 





・茶屋のおはぎ

 葦名の山で茶屋を経営する、名もなき店主による料理。
 お米を甘いあんこで包んだ、持ち帰り用の品。

 一定時間、HPがゆっくりと中回復し、
 加えて体幹が常に回復するようになる。

 これは店主が、とある御子から習ったもの。
 御子は忍びを連れて、全てから逃れようとした。
 その試みは掟故に失敗し、ただ人の子だけが残った。
 店主にできるのは、かつての御子の願いを伝えることだけだ。



・戦いの記憶・修羅

 心中に息づく、類稀な強者との戦いの記憶。

 今はその残滓のみが残り、
 記憶は確かに狼の糧となった。

 かつてある忍びがいた。
 掟に従い外へ出て、掟を破った。
 だが、如何なる心境か再び掟に従い自ら里の牢へ入った。

 そして、燻っていた修羅の炎が燃え上がった。


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