いらっしゃいませ。
不死のお客様。
羊頭のデーモンを斃したのですね。
おめでとうございます。
これでこの辺りも少しは安全になる筈。
当店としても一安心です。
今一度、御礼申し上げます。
本来、羊頭のデーモンは種族として弱い者達です。
筋力や生命力では、その実牛頭や山羊頭の方が優れる傾向が見て取れるのです。
しかし私の知る限り、ただ二体だけが他を凌駕する力を有していました。
その片割れが、お客様がこの度斃された個体でございます。
アノール・ロンド市街地へ逃げ込んだもう片割れも、息絶えて久しい。
今回の件で、ついに羊頭のデーモンは絶滅したことでしょう。
どうか、誇ってください。
彼らはただ生きるのに必死であり、故にこそ戦い抜きました。
こと生存において善悪による優劣は存在しない。
相容れないのなら、どちらが正しいかは戦いで決めるものです。
お客様が人間性と自我の喪失を賭けて勝利したというのならば、それは正しい生存競争です。
それがきっと、手向けとなる筈です。
……さて。
お客様が羊頭のデーモンを斃したことで、道が開けました。
それを祝って、一品ご用意しております。
よろしければ、お酒と共に楽しんでいってください。
◆
お客様は、苔玉をご存知でしょうか。
ほらあれ、あの死ぬほど不味い赤色や紫色のアレだよアレ。
なんか黒い森の庭のあいつらぶん殴ったら出てくる奴。
……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
あれらは薬効があり、出血や毒に効きます。
とりわけ花付きの苔玉は、他の苔玉では対処できない猛毒にも効きます。
このもう一つのイザリスは、自然豊かな場所です。
木々が生い茂り、多くの生物が住まう楽園です。
それだけに、トゲや毒を持つ生き物も少なくない。
だからこそ、かつてのこの地では出血や毒に効く苔玉が重宝しました。
しかし得てして、薬と言うものはひどく不味い。
苔玉とて例外ではありません。
だからか、この地では苔玉を少しでも美味しく頂こうと試行錯誤を繰り返してきました。
その代表的な料理が、ゴマやニンニクなどをまぶした素揚げです。
今はなき隣国では海苔を素揚げにしたという話があったそうで、それを参考に苔玉を油で素揚げしたのです。
その料理を、当店でも扱っています。
「苔玉の素揚げ」です。
普通の苔玉にはない、パリパリとした食感と香ばしい風味をお楽しみいただけます。
従来の素揚げでは薬効を弱めてしまうのですが、当店では自慢の「工夫」がございます。
薬効の恩恵はそのままに、美味しく召し上がれます。
よろしければ、お持ち帰りもご検討ください。
◆
お客様が羊頭のデーモンを斃したことで、イザリス市街地の霧が晴れました。
その霧が隠していた道からは「密林の畑」へ至れる筈。
密林の畑は、もともとイザリス市街地の食を支えていた農村です。
本来は少し離れた場所にあるのですが、混沌と呪いによりすぐ近くに流れ着いている様子。
そこでは米を栽培し、さらにはサトウキビやトウモロコシも育てていたようです。
勿論、毒や出血に効く苔玉用の特別な畑もあったことでしょう。
かつては一日中畑で汗水を流し、その疲れをスラーソーで癒しながら互いにジョークを言い合う景色もありました。
あの時のこの地は、本当に活気があって愛おしいものでした。
しかし。
蝕みの老王がこの地を支配し始めた後は、この畑もまた地獄と化したようです。
蝕みの老王は、このイザリスの文明をも憎み、破壊しようと試みたようです。
知識を持つ者、あるいはその疑いがある者を皆殺しにし、そうでない者の殆どは畑仕事に従事させました。
密林の畑とは、強制労働のための牢獄と化したのです。
それだけに、畑周辺には脱走を阻むための壁や罠が張り巡らされている筈。
探索する際は、今まで以上の注意と準備を要することでしょう。
どうか、お気をつけてください。
◆
蝕みの老王による支配は、その実長く続きませんでした。
如何なる意図があったかは、都市に遺された資料を精査している途中なのでまだ判然としませんが……奴は神族でありながら、闇を受け入れていたようです。
ですがその意図通りに事は進まず、蝕みの老王は亡者となり果てました。
今日のこのイザリスに文明的な営みが残っていないのは、それも要因の一つであるようです。
だからか、かつて蝕みの老王による強制労働所だった「密林の畑」もまた荒れ果てています。
異常成長した植物が道を塞ぎ、あるいは新たな道を形成している。
……尤も、従来のイザリスを知るお客様にとっては大した障害ではないかもしれませんね。
ですが、その地に入り込む原生生物やデーモンへの警戒は怠らないようお気を付けください。
どこからか湧いて来たのか、ヒルだまりが彷徨い歩いているようです。
環境が環境故、虫達の姿も見受けられます。
そして何よりも、トカゲのデーモンがお客様にとって最大の脅威となることでしょう。
苔を好物とするこのデーモンは、その地を縄張りとしているようです。
特異な力を持つ個体であるようで、牛頭や山羊頭とは比べ物にならない生命力を有する様子。
そして何より、その巨躯に見合わぬ素早さが特徴の怪物です。
毒の力も持ち合わせるため、対峙する際は苔玉などの対策が必須となります。
どうか密林の畑を探る際は、苔玉を十分持ち込むことをお勧めします。
私としても、お客様が亡者になるところを見たくはありません。
どうか五体満足でのご来店を、お待ちしております。
・苔玉の素揚げ
イザリス市街地で酒場を経営する、名もなき神族による野菜料理。
色とりどりの苔玉にゴマやニンニクをまぶして素揚げにした、持ち帰り用の品。
出血や毒、猛毒の蓄積を減らし、状態を解除する。
その他、それぞれの耐性も強く高める。
自然豊かなもう一つの「イザリス」では、毒の類は厄介な隣人であった。
ならば、確かな薬効のある苔玉に「工夫」を凝らすのは必然であろう。
店主のこの料理は、それをさらに酒と合うよう調整したものだ。
・トカゲのデーモンのソウル
密林の畑に潜んでいた、トカゲのデーモンのソウル。
本来のロードランでは見られない、独特の生物であった。
密林の畑は、蝕みの老王による強制労働所であった。
もう一つの「イザリス」の市民達に、文明を棄てるよう強要した末路だったのだ。
畑では独特の方法により苔玉も作られ、苔を好物とするトカゲのデーモンを引き寄せた。