篝火「アノール・ロンドの酒場」   作:上代わちき

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四品目「羊のケバブ」

 

 いらっしゃいませ。

 不死のお客様。

 

 

 羊頭のデーモンを斃されたようですね。

 その羊肉を見れば一目瞭然です。

 

 デーモンを食することはなくとも、まだ牧場には羊が残っています。

 もうしばらくの間だけは、まだまだお店で羊の料理を提供できそうなのが救いです。

 

 

 

 あの牧場の羊は、この界隈では有名なものでした。

 

 

 羊の毛は、布や皮鎧のよい材料になり重宝します。

 また、羊からはミルクを採ることができて、チーズやヨーグルトといったものの原料になります。

 特にヨーグルトはなかなか面白い使い方ができますよ。

 

 羊の肉は、独特の臭みがある食材です。

 そのまま食べるには苦手な方も多くみられます。

 

 

 ですが、ヨーグルトを使うことで臭みを緩和する調理法があるのです。

 厳密にはいくつか他の調味料も用いるのですが、運のよいことにまだ店にヨーグルトと調味料の在庫が残っています。

 

 

 

 どうでしょう。

 その羊肉、私の方で調理させていただければと存じます。

 

 

 

 

 手帳の中の私は、かつての友と共に「羊飼いの国」を長らく旅しておりました。

 羊飼いの国というだけあって、羊の飼育が文化の中心でした。

 

 どこにいっても羊、羊、羊……。

 地平線まで続く草原を、羊の群れが横断する姿は、実に牧歌的なものだったのです。

 

 

 

 たまに羊と一緒に春の草原でお昼寝して、そのまま牧羊犬に吹っ飛ばされたり。

 

 あのいぬっころ、今度会ったらもふもふの刑にしてやらないとな~。

 ……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。

 

 

 

 ともあれ、そのような国だったので、羊はよく食されていました。

 羊のミルクからヨーグルトを作り出し、肉を味付けして食べていたのです。

 

 そんな羊料理の一つが、ケバブと呼ばれるもの。

 ヨーグルトや香辛料などで下味をつけた肉を切り分け、専用の串に何枚も刺して大きな肉塊を作り上げるのです。

 

 そのまま串ごと回転させてあぶり焼きにして、焼けた外側の肉を薄くそぎ落とします。

 その肉をピタパンなどに野菜と一緒に挟むことで、美味しく食することができます。

 

 

 

 本来ならお時間を頂くところですが、そこは私の方で「工夫」させていただきました。

 

 「羊のケバブ」です。

 どうぞお召し上がりください。

 

 

 

 残りの分は、お持ち帰りとしてお楽しみいただけます。

 それでもまだまだありますから、またいらっしゃった時にもお出ししますね。

 

 

 

 

 おや、それは……「黄金の塔」への鍵?!

 驚きました……それが、あの牧場にあったとは思いもよりませんでした。

 

 その鍵は、塔に出入りする聖女のためのもののようですね。

 聖女達は、塔の中で神族達を安らかな眠りへ導く役割を担っていたのです。

 

 

 ですが、その儀式は絶えて久しい。

 自然、聖女達も役割を失うこととなりました。

 

 行き場を失った聖女達は、シースに引き取られたと聞きましたが……。

 

 

 

 ……いや待て。

 そういえば、牧場は庭園から流れる水を用いていました。

 

 庭園の湖から一部の水が、小川となってあの牧場へ流れるのです。

 そして今の庭園は、シースの手のものが迷い込む危険地帯。

 

 

 ともすれば、そこに奇縁があったのかもしれません。

 

 

 

 黄金の塔は、神聖な場所です。

 そこを暴くことは何人たりとも許されぬことですが……今や「名もなき神」の拠点となっています。

 

 それに、今はアノール・ロンドは棄てられて久しく、世界は起こるべきでないことが起こっている。

 陰の太陽グウィンドリンも、ここに干渉することはない。

 どうして大罪が、大罪のままであると言えようか。

 

 

 

 不死のお客様。

 もし貴方の旅が過酷なもので、より助けを必要とするならば……。

 

 あるいは黄金の塔に眠る宝が、使命を遂げるヒントになるやもしれません。

 

 

 

 

 黄金の塔は、もともと呪いに冒された神族達の寝所です。

 呪いにより名を失った神族は、塔で安らかな眠りに入ることで、その名誉と友を護ったのです。

 本来であれば、私もそうなる筈でした。

 

 しかし、事情が大きく変わりました。

 

 

 

 実のところ、黄金の塔を暴くという大罪は、すでに一度犯されているのです。

 何らかの思惑があるのか、墓王ニトの手のものが、黄金の塔へ入り込んだようなのです。

 それからというもの、塔の内部は地獄のようになったと聞きます。

 

 罰を下そうにも、既に当時のアノール・ロンドは都市としての機能を喪失しつつありました。

 神々の勢力は大王グウィンの城館を護るのみであり、故に墓王ニトへの追及もできない状況でした。

 それどころか、墓王ニトの罪を把握している者すらどれだけいるのか……。

 

 

 結果、黄金の塔は閉鎖されました。

 もうずっと前のことです。

 

 

 

 今や、塔内部で何が起きているかは何一つわかりません。

 どうか、塔に入る際はお気をつけて。

 

 

 





・羊のケバブ

 アノール・ロンド市街地で酒場を経営する、名もなき神族による料理。
 ヨーグルトや香辛料などで味付けしてあぶり焼きにした羊肉を、ピタパンで挟んだ持ち帰り用の品。

 一時的に筋力を高める。

 本来過ぎた力は、母体の生命力を蝕む。
 だが酒場の店主は「工夫」による一時的な薬効として、肉体を傷つけず内なる力を活性化させることができる。
 酒を酌み交わす客への、ささやかな心付けだ。 



・三人羽織のソウル

 アノール・ロンドの市街地に建つ、黄金の塔にいた三人羽織のソウル。
 墓王ニトに仕える眷属の中でも、とりわけ能力に優れた者であった。

 その三人羽織は、火の陰りを見た時、全てに失望して墓王ニトのもとを去った。
 新たな薪の王を作り出すために。
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