篝火「アノール・ロンドの酒場」   作:上代わちき

7 / 16
二品目「リエーニエのゆでタコ」

 

 いらっしゃいませ。

 褪せ人のお客様。

 

 メリエムの大狼、エルマスを斃したのですね。

 

 

 ルーンの波動がここまで聞こえてきて、私に教えてくれました。

 これで一つ、話が進みましたね。

 

 

 

 ……彼の大狼は、もともと羊を護る素朴な牧羊犬だったそうです。

 ただ主である画家やその娘「メリエム」と共に牧場を慎ましく営んでいれば、きっとそれだけで幸せだった筈です。

 

 それを思えば、このような末路を辿ることになるのは心苦しいばかりです。

 

 

 

 その実、私も個人的に大狼の類と縁がありまして。

 どうしても、感傷的になってしまいます。

 

 あの時の娘も、このような末路でした。

 呪いとは厄介なものですね。

 

 

 

 

 他方で、北門広場は開かれました。

 これでメリエムに一歩近づいたのは確実です。

 

 

 

 それを祝して、お酒をご用意させていただきました。

 蜂蜜酒とは別の、辛口のビールです。

 

 今回はこのお酒で、メリエムに一歩近づいた事実と、そして安らかな眠りについたエルマスのために、乾杯しようではありませんか。

 勿論、このビールに合うつまみも用意しておりますとも。

 

 

 ぜひ合わせて楽しんでいってください。

 

 

 

 

 もともと北門広場は、ローデイルの出入り口でした。

 北門から続く石畳みの街道は、いずれリエーニエのレアルカリアに至る。

 

 かつては、ローデイルとレアルカリアの交易が為されていたのです。

 

 

 ローデイルは黄金樹の祝福や調香の薬草が齎した品々を、レアルカリアは魔術が齎した品々を取り扱っていました。

 この宿場街周辺では、大小さまざまな取引が交わされていたのですよ。

 

 そんな取引の中には、当然食べ物のやり取りもありました。

 

 

 

 レアルカリアがあるリエーニエは、美しく広大な湖が特徴です。

 そこで採れる湖の幸は、ローデイルにも運ばれ親しまれていました。

 

 代表的なところですと、ザリガニでしょうか。

 あの身肉は、茹でて適切に塩をくわえれば、よいご馳走になります。

 塩加減にコツがあるため、意外と簡単に調理できませんが、私には「工夫」を凝らす力があります。

 きっとご満足いただけると、そう存じます。

 

 

 

 ……とはいえ、実のところ今回仕入れたのはザリガニではありません。

 ですが、それに勝るとも劣らない素晴らしい食材です。

 

 お客様も、リエーニエを旅したのなら一度は目にしたことがある筈です。

 あのぶよぶよとした、大きく噛み応えがありそうなタコを。

 

 

 

 今回は、そのタコを茹でてみました。

 「リエーニエのゆでタコ」です。

 

 

 それでは、辛口のビールと共に堪能していってください。

 

 

 

 最期まで誉れ高い騎士であったエルマスの魂と、かつてのローデイルとレアルカリアの豊かな交易の歴史に。

 太陽あれ。

 

 

 

 

 メリエムが潜む西の市場は、特別な鍵で封印されているようですね。

 これでは、北門広場から市場へ入ることができません。

 

 メリエムを誅するためには、もう一仕事が必要そうです。

 

 

 

 市場は、もともと商人達が運営していた場所。

 もし鍵があるとすれば、東の倉庫街にあるやもしれません。

 

 東の倉庫街は、ローデイルを拠点とする交易商・行商人のための場所。

 多くの商館が建ち並び、それぞれがそれぞれの商品を管理していた場所です。

 

 

 時には商人同士が倉庫街内で取引を交わしたこともありましょう。

 商人と市民の取引場が西の市場なら、商人同士の取引場になったのが東の倉庫街なのです。

 

 律が壊れ、水の封印が施されて久しいですが、きっと今でもその景色が残っている筈です。

 一度訪ねてみれば、きっとよい刺激になるかもしれません。

 

 

 また、倉庫というだけあって意外な掘り出し物にも恵まれるかもしれません。

 このまま死蔵させてしまうよりも、お客様の旅の助けにした方が有意義というもの。

 かつての彼らも喜んでくれる筈です。

 

 

 

 ……ですが、時にはよくない品が紛れ込むこともあったようです。

 その代表的なものが、狂い火です。

 

 きっと今でも、狂い火に毒された亡者が倉庫街を彷徨っていることでしょう。

 倉庫街へ向かう際は、準備を密にすることをお勧めします。

 

 

 

 

 倉庫街の奥に行けば、騎士の詰所が見えてきます。

 この館は、ローデイル兵のための詰め所ではありません。 

 

 その詰所は、かつての大商隊を護衛した騎士達の屋敷なのです。

 

 

 

 大商隊を護衛する「商隊騎士」達は、持久力に優れた戦士であったといいます。

 その力ゆえに、商人達からの信頼も厚い。

 西の市場へ至るための鍵が倉庫街になかった場合は、彼らの詰所を訪ねるとよいでしょう。

 

 尤も、今や詰所もまた狂い火に汚染されています。

 内部には、狂い火に目を焼かれた商隊騎士の成れの果てが潜んでいることでしょう。

 

 

 

 特に商隊騎士の長である「オスマン」は、持久力だけでなく精神力にも秀でた兵です。

 狂い火を纏う魔剣を帯びてなお、正気を保つ数少ない人なのです。

 

 ですが、オスマンはあの画家と交友を持つ人物であったといいます。

 それはつまり、画家の娘である「メリエム」とも縁があるということ。

 

 

 

 おそらく、我々の敵として立ちはだかるでしょう。

 話が通じたとしても、問答無用で魔剣を抜くかもしれない。

 

 道中で会ったとしても、警戒を怠らないようにした方が身のためと存じます。

 

 

 





・リエーニエのゆでタコ

 ローデイル宿場街で酒場を経営する、名もなき店主による料理。
 プリプリとして汁気もある、辛口のビールも付いた持ち帰り用の品。

 一定時間、物理カット率を大きく高める。

 カーリアへの観光旅行の最中、時空の歪みの果てで店主はとあるならず者と出会った。
 この料理は、そのならず者から習ったものを店主が改良したものだ。



・商隊騎士の追憶

 狂い火によって黄金樹に刻まれた
 商隊騎士の長、オスマンの追憶

 指読みにより、主の力を得ることができる。
 また、使用により莫大なルーンを得ることもできる。

 かつて大商隊の護衛部隊を率いたオスマンは、戦争で牧場を失ったとある画家を隊に迎え入れた。
 その画家が描く絵画を、高く買ってのことだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。