ローデイル編最終回ということもあり、今回はやや長め。
それから、ミドラーの劫罰とそのアレンジにも少し触れるので「残酷な描写」注意です。
いらっしゃいませ。
褪せ人のお客様。
商隊騎士の長、オスマンを斃したのですね。
やはり、彼もまたメリエムと志を同じくしていたのでしょう。
もともとオスマンは貴族の生まれ。
貴族といった者達は、何かと美術と縁があるものです。
だからか、オスマンもまた絵画に造詣が深い。
そんな彼にとって、かつての画家が描く絵画は魅力的に映ったのでしょう。
私も気持ちはわかります。
故郷にあった、あの雪景色の絵画なんかはもう美しくて美しくて……。
いずれあの一枚も燃える運命にあるのかと思うと、涙がちょちょぎれそうになっちまいます。
おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
他方で、オスマンは例の詰所にいたという話でしたね?
やはり、倉庫街にある市場への鍵を集めていたということでしょう。
市場への道を、メリエムへ至る道を完全に塞ぐために。
鍵を持ちだされる前に、お客様が最後の一つを入手なされたのは幸運でした。
その幸運を祝って、またお酒をご用意させていただきました。
今回は特製のワインです。
勿論、ワインに合う美味しい料理もお付けしますよ。
◆
かつてこのローデイル宿場街は、多くの人と品が行き交う場でありました。
ある商人は絵画を持ち込み、ある商人は宝石を持ち込み、ある商人は武具を持ち込みました。
そんな品々の中には、食べ物もある。
以前にもお話した通りですね。
街道で繋がるリエーニエの幸が、ローデイルの家庭に彩りを齎したのは想像に難くないでしょう。
しかし一方で、他の街道から持ち込まれた食べ物もここではよく食されていました。
北門から外に出て北の方へ赴けば、風車村ドミヌラが見えてきます。
ドミヌラは広い風車牧場が特徴の村です。
そこで育てられていた羊はあの村の財産であり、村を豊かにする通貨代わりでもありました。
ローデイルからは農具や薬草、祝祭をより豊かにする花などを受け取り、代わりに羊の肉を卸していたのです。
さて。
ドミヌラの牧場は、広々とした景色が特徴です。
風車を動かす高原の風は、羊を育てるのに相応しい涼しさを与えました。
また、黄金樹の祝福が齎した牧草も、羊にとってよい栄養になったことでしょう。
そのような環境で育てられた羊の肉は、旨味の強い上質なものとなります。
そんな臭みのないお肉を、今回は仕入れました。
「羊飼いの肉団子」です。
ローデイルの薬草がスパイスとなる、よい酒のつまみです。
ぜひ、特製ワインと共にご賞味あれ。
◆
お客様が東の倉庫街で拾われたその鍵は、西の市場へ至るためのものです。
メリエムの大狼、エルマスが陣取っていた北門広場で使える筈です。
北門広場から至れる市場は、商人が運営していた場所。
リエーニエやドミヌラ、さらにはリムグレイブ・ケイリッド・火山館から仕入れた品々を並べる場所でございました。
かつては多くの市民がここに足繁く通い、祭りのように賑わっていたものです。
いやぁ当時は本当に色んな出会いがあるもんだから、すぐ素寒貧になったもんですわ。
おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
しかし。
メリエムの父である画家が狂い火を見出した時、市場の運命は狂いました。
画家は劫罰に処され、画家をローデイルへ招いた大商隊は地下に葬られました。
当然、商隊騎士達の殆ども例外ではありません。
エルマスやオスマンはうまいこと逃げ隠れたようですが、しかし捕らえられた者達の中でより悪質と判断された者は、市場へ引っ立てられました。
画家が処されたものと同じ、劫罰に処するために。
今や市場は、劫罰に処された者を並べて晒す、痛々しい処刑場となり果てました。
彼らに与えられた劫罰とは、角人がミドラーに与えたものとは大きく異なり、自ら逆棘を引き抜いて死ぬ自由すらないもの。
ただ脳天から黄金の逆棘を貫くだけに留まらず、その両腕をも逆棘で固定しているのです。
角人が用いた劫罰とは、あえて自ら引き抜く自由を与えることで、間接的に死に追いやるものなのでしょう。
それが角人の本意かどうかは断言できませんが、私にはミドラーの劫罰はそのようなものに思えるのです。
だが一方で黄金樹は死を禁じている。
だからこそ、彼らは今も市場にて苦痛に耐え続けているのです。
◆
大商隊の者達が劫罰に苦しみ、その怨嗟で狂い火に爛れた樹霊や触れ得ざる翁が出没する市場を乗り越えた先。
そこに、小さな修道院があります。
画家の娘、メリエムはそこにいます。
彼女は、修道女だったのです。
メリエムの目的は一つ。
劫罰に処されてしまった父が遺した、未完成の絵画を完成させること。
その絵画は火を知る者のみが完成させられる。
だから、メリエムは狂い火を求めたのでしょう。
……私は狂い火という選択肢を否定するつもりはありません。
それが人間性を持つ者達の選択であるならば、私如きに止める資格はない。
しかしそれは……黄金樹を、世界を完全な混沌へ還す選択肢としての話。
狂い火は世界を終わらせるための、破滅と救済の手段です。
間違っても、絵画を完成させるためのものではない。
褪せ人のお客様。
どうか、彼女を止めてください。
火を世界に完全な混沌を齎すためではなく、新たに何かを起こすために用いるのならば、その末路は不幸な生命を生み出し続ける不完全な混沌しかありえない。
それは私の故郷にいた、とある神の御業……それは失敗に終わってしまった、繰り返されるべきではない災厄です。
いかにあのシャブリリといえど、そのような事態は本意ではないでしょう。
あれは、ただ黄金樹を狂い火で否定するよりも悍ましい、神を冒涜する行いなのです。
ましてや……私の故郷では、絵画とは火に惹かれぬ者のみが描くものとされます。
彼女には、どうしても任せられないのです。
◆
それともう一つ。
よろしければ、彼女を誅した後、どうかその未完成の絵画はそのままにしておいて欲しいのです。
後ほど、私が持ち帰ります。
私も、狂い火とは異なるものですが、火を知る者です。
事が終わった後、狂い火の悪影響が一切出ないような形で「完成」させようかと思います。
絵画を完成させた後、ですか?
そうですね……どうせ黄金樹の手の者がここを訪れることもないでしょうし、いっそ店に飾ってしまいましょうか。
私が誅したいのは神への敬意を忘れた小娘であって、彼女の作品を完成させたいという思いに罪はないと考えています。
その程度の救いはあってもいいでしょう。
ともあれ、まずはメリエムを討ってください。
狭間の地のために、狂い火を正しく信仰するシャブリリのために、かつての神の尊厳のために。
そして……お客様が王としてどのような選択をするにしろ、後の世のために。
彼女への道は、私が開きましょう。
かつての神の尊厳を知る者として……そして「絵画」を知る者の一人として、私も助力します。
向こうでサインに触れていただければ、私の力であのうざってぇ触れ得ざる翁を吹っ飛ばしてやります。
あとついでに、私は褪せ人とは異なり発狂することもないので、露払いにはうってつけでしょう。
ですが。
皮肉なことに、あのメリエムもまた人の子。
私の力は、曲がりなりにも人間性を持つ者を貫くには向かない。
心苦しいですが、彼女についてはお任せします。
◆
行かれるのですね。
どうか、貴方の旅に寄る辺があらんことを……おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
やはりお客様に対しては、こちらの方が相応しいでしょう。
またのご来店、心よりお待ちしております。
事が終わった後もお立ち寄りくだされば、またお酒や料理をお作りいたしますよ。
ここはローデイルの酒場ですから。
これにてお話はおしまい。
メリエムが討たれた後、絵画がどのように「完成」して、どう店に彩りを与えたか。
それを知るのは、実際に店を訪れた方……メリエムを討った褪せ人のお客様だけの特権です。
ですが……我ながら、いい感じの出来になったなぁ。
おっと失礼、呪いとは厄介なものですね。
・羊飼いの肉団子
ローデイル宿場街で酒場を経営する、名もなき店主による料理。
スパイスを効かせて羊肉の旨味を引き立て、特製のワインも付いた持ち帰り用の品。
一時的に、物理攻撃力が大きく上昇する。
風車村ドミヌラで育てられていた羊を用いたご馳走であり、店主の好物の一つ。
この料理があるから、店主は人を高く評価するのだ。
・修道女の追憶
狂い火によって黄金樹に刻まれた
修道女、メリエムの追憶
指読みにより、主の力を得ることができる。
また、使用により莫大なルーンを得ることもできる。
メリエムは父の罪で投獄され、両手を吊るされたまま朽ちることを強いられた。
だがエルマスとオスマンに助けられ、父が遺した最後の絵画を完成させることを自らに任じた。
だがその絵画は、狂い火を必要とするもの。
メリエムは、火に惹かれていたのだ。