六月の雨は、油を含んでいるみたいに重たく、東京の街全体を灰色に塗り潰していた。
5時限目、数学Ⅱ。
私は頬杖をつき、教科書を見ているふりをしながら、視線を右隣へと滑らせた。
空席だった。
机の上には、誰かの悪戯書きが彫り込まれた跡だけが残っている。
今日で、三日目だ。
三日前。彼が来なかった一日目の朝、私はどんな顔で彼に会えばいいのか、一晩中悩んだ末に登校した。
前夜の、コインランドリーでの出来事が、どうしても頭から離れなかったからだ。
冷房の冷気と、乾燥機の熱気の中で、彼は私の首筋に顔を埋めて、こう言った。
『お前、いい匂いすんじゃんか。花みてえな匂いと……あと、なんか懐かしい匂いだ』
いきなり女の子の首筋の匂いを嗅ぐなんて、デリカシーのかけらもない。
もしかしたら、他の子にも同じようなことをしているのだろうか。
そう想像すると、胸の奥で、黒い泥のような感情が静かに湧き上がってくる。
けれど、前世の記憶がない彼が、本能的に私を「懐かしい」と感じてくれているのだとしたら。
それは、とても素敵なことなのかもしれない、とも思った。
……なんて。
そんなことを反芻するだけで、カッと顔が熱くなる。
この世界の私は、任務のために表情を自在に操る訓練など、当然受けていない。
ただの、不器用な女子高生だ。
だから、もし彼が今日も、あの屈託のない顔で話しかけてきたら、どう返そうか。
心臓を早鐘のように鳴らしながら、教室の扉を開けた。
そう、思っていたのに。
彼に会うことすら、叶わなかった。
担任は事務的に「風邪だ」とだけ告げた。
張り詰めていた緊張がふっと切れ、心配と、肩透かしを食らったような寂しさが、同時に胸を満たした。
明日になればまた会える。そう思っても、胸に空いた穴は塞がらなかった。
二日目。彼は来なかった。
そして三日目の今日も、窓の外では重たい雨が降り続いている。
……おかしい。
胸の奥に、小さな鉛の塊が落ちたような重さを覚える。
私は無意識に、スカートのポケットからスマホを取り出していた。
メッセージを送れば、すぐに理由が分かるかもしれない。
けれど、液晶画面の上で私の指は凍りついた。
──知らない。
呆然とした。私はデンジ君の連絡先を知らない。
LINEも、電話番号も。
抱きしめられた時の体温や、胸の奥で響くエンジンの音色は、こんなに鮮明に焼き付いているのに。
今の私は、彼の電話番号ひとつ知らない、ただのクラスメイトに過ぎないのだ。
その事実が、たまらなく惨めで、焦燥感を掻き立てた。
*****
昼休み。
私は意を決して、前の席で弁当を広げていた男子生徒に声をかけた。
デンジ君と話しているのを見かけたことがある。
「……ねえ」
「ぶふっ!?」
彼は口に含んだパンを詰まらせそうになり、信じられないものを見るように私を振り返った。
「えっ、あ、レゼさん……? 俺に話しかけてる……?」
周囲の話し声が、ふっと止んだ気がした。
私は転校してきてから、必要以上に誰とも馴れ合わなかった。
そんな私が自分から話しかけたことに、彼は明らかに動揺し、顔を赤くしている。
悪いけど、今はその反応に構っている余裕はない。
「デンジ君の家、知ってる?」
「え? あー……確か、商店街の裏の……」
「詳しく教えて」
私が詰め寄ると、彼は慌ててノートの端を破り、ペンを走らせた。
「こ、これ! 地図書いといたから! 商店街抜けたとこの、ボロいアパート!」
「……ありがとう」
私はその紙切れをひったくるように受け取った。
震える線で描かれた地図と住所を見る。
「彼、一人暮らしなの?」
「ああ、親戚もいなくて一人で住んでるって言ってたぜ。あんなとこで寝込んでたら、誰にも気づかれなくてヤバそうだよなー」
彼が軽口のように言ったその言葉が、私の心臓を冷たく鷲掴みにした。
一人暮らし。親戚もいない。
誰にも気づかれない。
デンジ君は、何も言わなかった。
けれど、その生活がどれほど綱渡りで、孤独なものかは、今の言葉と、彼の浮き出た鎖骨やカサついた肌を合わせれば、十分に想像がついた。
前世の彼は、違った。何度バラバラになっても、血を飲めば立ち上がる不死身のエンジン音を響かせていた。
でも、今の彼はただの人間だ。栄養が足りなければ枯れるし、寒ければ風邪を引く。誰にも気づかれずに、部屋で死んでしまうことだって、あり得る話だ。
『死なれたら、困る』
そんな言い訳が、脳内を反響していた。
気がつけば、私は鞄を掴んで立ち上がっていた。
午後の授業なんて、どうでもいい。
放課後まで待っていたら、手遅れになるかもしれない。
私は唖然とするクラスメイトたちを背に、教室を飛び出した。
*****
傘を開いて外に出ると、雨足は強くなっていた。アスファルトを叩く音が、焦燥感を煽るようにうるさい。
雨足が強まる中、私は校門を抜け、駅とは逆方向、商店街の方へと走り出した。
スーパーマーケットにたどり着き、自動ドアをくぐる。
冷房が効いた店内は、外の湿気とは別世界のように涼しい。
カゴをひったくるように手に取った。
まずはドラッグストアのコーナーへ。
解熱鎮痛剤。冷却シート。成分表を見ても違いがわからないので、一番高くて、即効性がありそうなものを乱暴に選んだ。
次は衣料品コーナー。
男性用の肌着とTシャツをカゴに放り込む。汗だくの彼を着替えさせる必要があるからだ。
迷いはない。ここまでは、戦場の衛生兵みたいに迅速だった。
けれど、食料品売り場の明るい照明の下に来た時、足がピタリと止まってしまった。
スポーツドリンク、ゼリー飲料。
そこまではよかった。
でも、その奥に並ぶ色とりどりの食材たちが、私の思考を鈍らせた。
卵、長ネギ、お米。
それらを見た瞬間、ふと、『少しでも美味しいものを食べさせてあげたい』なんていう、場違いに甘い考えが頭をもたげてしまったのだ。
どのお米がおいしいかな。卵は高いほうが栄養あるかな。
早退までして駆けつけたはずなのに、スーパーの放つ平和な日常の空気に当てられて、私は一瞬で"普通の女子高生"の顔になってしまっていた。
初めての看病。初めての手料理。
そんな甲斐甲斐しい彼女のようなイベントに、心のどこかで酔っていたのだと思う。
その数分の迷いが、どれほど平和ボケした愚かなものだったか。
彼のアパートの扉を開けた瞬間に、嫌というほど思い知らされることになった。
*****
鉄骨の錆びついた外階段を上る。
カン、カン、と響く足音が、雨音に吸い込まれていく。
二階の、一番奥の部屋。
表札はない。ドアの塗装は剥げかけ、郵便受けにはチラシが詰め込まれたままになっている。
生活感があるようで、ない。まるで、いつ消えてもおかしい人間が住んでいるような、儚い佇まい。
ドアの前に立ち、深く息を吸い込んだ。
心臓がうるさい。
敵のアジトに潜入する時だって、こんなに緊張したことはなかった。
このドアの向こうに、彼がいる。私の知らない、無防備な彼が。
インターホンを探したが、壊れて配線がむき出しになっている。
仕方なく、私はドアノブに手をかけた。
ガチャリ。
回った。
鍵がかかっていない。
「……不用心すぎる」
呆れると同時に、嫌な想像が脳裏をよぎる。
鍵をかける余裕すらなかった?
急いでドアを開ける。
瞬間、熱気と、カビと、そして独特の澱んだ臭いが鼻腔を突き刺した。
「……っ、デンジ君!?」
呼びかける声が、無意識に裏返った。
返事がない。
薄暗いワンルーム。散乱したゴミ。その奥に、煎餅布団の塊がある。
動いていない。
微動だにしていない。
嘘でしょ……?
心臓が早鐘を打つ。
靴を脱ぐ時間すら惜しかった。土足のまま駆け寄りたい衝動を必死に抑え、もつれる足で部屋に上がり込んだ。
布団までの数メートルが、永遠のように長い。
もし、冷たくなっていたら。
もし、もう呼吸をしていなかったら。
最悪のイメージが脳内を駆け巡る。
膝を打ち付けるようにして枕元に滑り込み、震える手を彼の首筋へ伸ばした。
「……っ!!」
指先に触れた熱に、指が弾かれた。
熱い。熱すぎる。
これは風邪なんて生温いものじゃない。
体温計なんていらない。触れただけで分かる。40度近い。
彼の肌は干からびた土のようにカサカサで、唇は白くひび割れている。
呼吸は浅く、速く、まるで壊れかけた鞴のような音を立てている。
ドサッ。
握っていたスーパーの袋が、手から滑り落ちた。
中から、呑気に選んだ食材たちが、ゴロゴロと転がり出る。
その光景が、あまりにも滑稽で、残酷だった。
「……バカみたい」
唇を噛み締めた。血の味がするほど強く。
何が『お見舞い』だ。何が『普通の女子高生』だ。
私がスーパーで『どのお米がおいしいかな』なんて迷っていた数分の間も、彼はここで孤独に死にかけていたんだ。
呑気に食材を選んでいた自分の平和ボケした脳みそを、今すぐ壁に叩きつけてやりたい衝動に駆られた。
今の彼は、不死身のチェンソーマンじゃない。
放っておけば壊れてしまう、ただの男の子なんだ。
視界が滲む。でも、泣いている場合じゃない。
乱暴に袋を引き裂いて、スポーツドリンクを取り出した。
キャップをねじ切るように開ける。
デンジ君の首の後ろに手を回し、上体を起こす。
重い。今の私はただの女子高生だから、彼の身体がずっしりと重く感じる。
ぐらりと揺れる彼の頭を、必死に自分の肩で支える。
「……デンジ君、飲める? お願い、飲んで……!」
ペットボトルの口を、ひび割れた唇に当てる。
少しずつ、慎重に傾ける。
とぷ、と液体が口内へ流れ込む。
だが。
「……ごっ、……げほっ、うぇっ……!」
彼は激しくむせ返り、液体を吐き出した。
飲み込めない。嚥下反射が弱りきっている。
吐き出されたスポーツドリンクが、顎を伝ってTシャツを汚していく。
「っ、ごめん……!」
焦ってボトルを傾けすぎたせいだ。
デンジ君は苦しそうに咳き込み、身体をくの字に折り曲げた。
ダメだ。こんな流し込み方じゃ、気管に入って肺炎を起こすかもしれない。
今は確実に、水分を体内に入れないと。
私はペットボトルのキャップに、少量のスポーツドリンクを注いだ。
顎を支えて、上を向かせる。
唇の隙間から、キャップの縁を差し込み、ほんの一口分だけ流し込む。
「……ん……」
ごくん。
喉が動いた。飲んだ。
安堵の息を漏らすと同時に、そのキャップ一杯分のスポーツドリンクが、彼の乾ききった身体へゆっくりと吸収されていくのを見届けた。
二杯、三杯。
根気強く、同じ動作を繰り返した。
焦ってはいけない。一度に流し込めば、また戻してしまう。
キャップに注ぎ、唇に運び、喉が動くのを待つ。
地味で、神経を使う、果てしない作業だ。
けれど、彼の命を繋ぐためには、これしかなかった。
作業に集中しようと努めても、至近距離にある彼の長い睫毛や、私の頬にかかる熱い吐息を感じるたび、心臓が痛いほど脈打ってしまう。
その鼓動が彼に伝わらないよう祈りながら、私は十回、二十回と、ひたすらにキャップを運び続けた。
三十杯目を超えたあたりで、彼の眉間の皺が少しだけ緩んだのが分かった。呼吸のリズムが、ヒューヒューという苦しげな音から、スー、スーという寝息に近いものへと変わっていく。
「……よかった」
二十分近くかけて、ペットボトルの三分の一ほどを飲ませ終えた私は、大きなため息をついてその場に座り込んだ。
緊張の糸が切れ、ドッと疲れが押し寄せてくる。
でも、まだ休んでいる暇はない。
彼が吐き出した水分と、大量の寝汗で、Tシャツがぐっしょりと濡れている。
このままじゃ気化熱で体温を奪われすぎてしまうし、何より不衛生だ。
着替えさせないと。
私は立ち上がり、台所へ向かった。身体を拭くためのお湯を入れる容器を探す。
……ない。
ボウルはおろか、洗面器すらない。
あるのは、焦げ付いた片手鍋と、積み上がった汚れた食器だけ。
「……徹底してるなぁ。ウェットティッシュも買ってくるんだった」
思わず苦笑し、自分のハンカチを水道の蛇口に持っていった。
水を含ませ、固く絞る。
枕元に戻り、彼のTシャツの裾に手をかける。
躊躇している場合じゃない。
シャツをまくり上げ、濡れたハンカチを彼の肌に滑らせた。
熱い。
ハンカチ越しでも、彼の体温が火傷しそうなほど伝わってくる。
痩せているけれど、筋肉のついた胸板。あばらが浮いた脇腹。
汗と汚れを丁寧に拭っていく。
冷たいハンカチが触れるたびに、デンジ君が無意識に気持ちよさそうに身じろぎをする。
首筋を拭っていた時、ふと、あの夜の記憶が蘇った。
『お前、いい匂いすんじゃんか』
コインランドリーで、彼は私の首元に顔を埋めてそう言った。
あの時、私の肌には硝煙の匂いがこびりついていたはずなのに。彼はそれを『花みたいだ』と笑ったのだ。
今、私の鼻腔を満たしているのは、すえた汗と、埃っぽい生活臭。
花のような甘さはどこにもない。顔をしかめたくなるような、ただの病人の臭いだ。
それなのに。
「……全然、嫌じゃないよ」
独り言のように呟いた。
濡れたハンカチが、熱を帯びた肌の上を滑る。
汚いなんて、ちっとも思わなかった。
この匂いが、デンジ君がここで息をして、懸命に生きている何よりの証拠に思えたからだ。
彼が私の匂いを許してくれたように、私もこの人間臭い彼を、まるごと守ってあげたかった。
上半身を拭き終わり、買ってきたばかりの新品のTシャツ袋を開ける。
真っ白で、パリッとした木綿の匂いがする。
ぐったりと力の入らない彼の身体を支え、腕を通す。
意識のない男の子を着替えさせるのが、こんなに大変だなんて知らなかった。
頭を通し、背中を浮かせて裾を整える。
私の額にも、じわりと汗が滲んだ。
清潔な服に着替え、乾いたタオルケットをかけ直すと、彼は随分と安らかな顔になっていた。
ハンカチを洗いに立ち上がる。
そこで初めて、自分のお腹がグゥと鳴った。
そういえば、朝から何も食べていない。
私のお腹が空いているということは、彼はもっと空いているはずだ。
何か、お腹に入れられるものを。
再び台所へ向かい、冷蔵庫の前に立った。
この中には何がある? デンジ君を生かす何かが、少しぐらいは入っているはずだ。
期待と不安を混ぜ合わせながら、勢いよく扉を開ける。
ブーンという低い音。
庫内を照らす冷たい光が、そこにある"無"を暴き出した。
飲みかけの水。
変色したマヨネーズ。
カピカピに乾燥した、食パンの耳が一枚。
それだけ。
たった、それだけ。
「……ふざけないでよ」
低く、震える声が漏れた。
絶望を通り越して、どす黒い怒りが湧き上がってくる。
こんなガラクタだけで、どうやって生きろっていうの。
マヨネーズのボトルを握りしめた手に、ミシミシと力が籠る。容器が歪む。
「……許さない」
明確な殺意が、自分の中で冷たく燃え上がるのを感じる。
「こんなの、許さない……。せっかく見つけたのに。また……こんなつまらない理由でいなくなるなんて、絶対に許さない」
冷蔵庫の扉を、ドンッと乱暴に叩きつけた。
誰に対する怒りなのか分からない。
でも、この貧困とかいうふざけた敵が、私のデンジ君を殺そうとしていることだけは分かった。
ダメ。嫌だ。こんな惨めな場所で、誰にも知られずに飢えて死ぬなんて終わり方、私が認めない。
私のデンジ君を、こんなくだらない理由で奪われてたまるか。
床に散らばったスーパーの食材を、一つずつ拾い上げた。
お米。卵。長ネギ。
指先の震えは止まっていた。
もう、迷いはない。
制服の袖をまくり上げる。
彼をこの世に繋ぎ止めるための、私の戦いが始まった。
*****
「……よし」
買ってきたお米のパックを開ける。
一人暮らし用の小さな片手鍋を、軽く水洗いする。
ボウルなんてないから、鍋に直接お米を入れる。
水道水を流し込む。
六月の水道水は生温いけれど、手に触れる水の感触は鮮明だった。
ザッ、ザッ。
お米を研ぐ音。手のひらに当たる硬い粒の感覚。
それは、武器を組み立てる時の冷ややかな金属の感触とはまるで違う、普通の証だった。
水加減は……これくらいかな。
おかゆにするなら、普通のご飯よりも水を多くする。確か五倍くらいだったはずだ。
私は水を足して、鍋をコンロに置いた。
つまみを捻る。
ボッ、と青い炎がついた。
お湯が沸くまでの間に、長ネギを洗う。
小さなペティナイフを手に取る。
トントントン。
ネギを刻む音。
自分でも驚くほど、その音はリズミカルだった。
ナイフの扱いは手慣れている。それが今は、人の命を奪うためではなく、生かすための料理に使われていることが、なんだか不思議で、少しこそばゆい。
鍋が沸騰し始めた。
火を弱め、蓋を少しずらして乗せる。
吹きこぼれないように。焦げ付かないように。
時々、お玉で底からゆっくりとかき混ぜる。
お米が水分を吸って、ふっくらと花開いていくのが分かる。
出汁の素を少し入れる。
塩をひとつまみ。
味見をする。
「……うん、普通」
特別美味しくはないけれど、不味くはない。
お店に出せるような味じゃないけれど、風邪引きの胃袋にはこれくらい優しい方がいいはずだ。
最後に溶き卵を回し入れ、刻んだネギを散らして火を止める。
蓋をして、少し蒸らす。
換気扇が回っている。
ゴウンゴウンと、コインランドリーの洗濯機みたいな音がした。
部屋の中には、出汁と、お米の炊ける優しい匂いが充満している。
さっきまでの、澱んだ病気の臭いはもうない。
鍋の前に立ち尽くし、その匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
私の記憶の中には、爆発音と悲鳴しかない。
そんな私が、こんなに穏やかな匂いの中に立っている。
デンジ君のために、心を込めてご飯を作る。
ただそれだけのことが、こんなにも満ち足りた気持ちになるなんて知らなかった。
「……柄じゃないな」
自嘲気味に笑う。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
雨音はまだ続いているけれど、部屋の中は温かい湯気と、彼の安定した寝息で満たされていた。
*****
鍋の蓋を開けると、ふわりと白い湯気が立ち上った。
とろりとした、ごく普通の、黄金色のおかゆ。
お盆代わりの古雑誌にそれを乗せて、彼の枕元へと戻った。
背後で衣擦れの音がして、デンジ君が身を起こしたところだった。
熱で潤んだ瞳が、ぼんやりと焦点を結ぼうとして、私を捉えている。
幻覚を見ているような顔だ。
無理もない。三日間放置された自分の部屋に、クラスメイトの女が立っているのだから。
「……あ、起きた?」
努めて明るく声をかけた。
彼は、私の顔と、手元のおかゆを交互に見て、眉間に深い皺を刻んだ。
「……なんだそれ」
「おかゆ。……お腹、空いてるでしょ?」
「……レゼが作ってくれたのか?」
「うん。勝手に台所借りちゃった。ごめんね」
怒られるだろうか。
プライドの高い男の子なら、勝手なことをされるのを嫌がるかもしれない。
けれど、デンジ君は力なく首を振った。
「……いや。……いい匂いする」
その言葉に、胸の奥がキュッとなる。
私は枕元に座り、フーフーと息を吹きかけて、おかゆを冷ました。
自分の息がかかったものを彼に食べさせるなんて、少し恥ずかしい。
でも、今の彼にはレンゲを持つ力も残っていないように見えた。
「……はい、あーん」
まるで子供扱いだ。
彼は一瞬ためらったけれど、空腹には勝てなかったらしい。素直に口を開けた。
パクッ。
彼が食べるのを、固唾を飲んで見守った。
味はどう? 薄くない? 卵は固まりすぎてない?
彼はゆっくりと咀嚼し、ゴクリと飲み込んだ。
そして、ほう、と白く濁った息を吐いた。
「……うめえ」
掠れた、けれど心からの声だった。
「……マジかよ。これ、ホントにレゼが作ったのか?」
「ホントだよ。……味、変じゃない?」
「いや、すげぇ美味い……。店で食うやつみてぇだ」
彼は目を細めて、天井を見上げた。
「……あったけえ。なんか、胃袋が生き返るわ」
その言葉を聞いた瞬間、私の指先が微かに震えた。
私が作ったものが、彼の命を繋いでいる。
今まで、私の手は奪うためにしか使われてこなかった。
誰かの体温を奪い、呼吸を止め、未来を消すための技術。
それなのに今、私はこの手で、彼を生かしている。
「もう一口、いいか?」
「……うん」
私は無言で、次々と彼の口へおかゆを運んだ。
彼は「うめえ」「卵が入ってやがる」と嬉しそうに呟きながら、鍋一杯分を綺麗に平らげた。
その姿を見ていると、胸の奥が熱くて、痛くて、どうしようもなかった。
こんなに無防備に、私を信じて食べてくれるなんて。
もし私が毒を入れていたら、君は死んでいたんだよ?
そんな危うささえも、愛おしくてたまらない。
*****
食後。
私は彼に水と薬を飲ませ、温くなった冷えピタを剥がして、新しいものを貼った。
ひんやりとしたジェルが額に乗ると、デンジ君は気持ちよさそうに目を閉じた。
部屋の中は静かだった。
雨音だけが、世界を隔てるカーテンのように響いている。
「……レゼ」
半ば夢の中にいるような、とろんとした声で、デンジ君が呟いた。
その瞳は、熱で朦朧としながらも、真っ直ぐに私を見ていた。
「……どうしたの?」
「パンの耳じゃなくてよぉ……あったけえ飯と……美人が隣にいて……」
「……うん」
「……なんか、夢みてえだ」
彼はへらっと笑った。
そして、私の心臓を射抜くようなことを、吐息のように漏らした。
「……あーあ。お前が俺の彼女だったら……最高なのになぁ……」
ドクン。
心臓が、大きく跳ねた。
呼吸が止まる。
「……え?」
「毎日楽しいだろうなぁ……。飯もうまくて……隣にいてくれて……」
夢を語る子供のような、純粋無垢な願望。
それは"私"という人間への、これ以上ない肯定だった。
「……そんな生活が出来たら、世界一、幸せだな……」
最期の言葉は、寝息に溶けて消えた。
彼はそのまま、深い眠りに落ちていった。
規則正しい呼吸音が聞こえ始める。
私は、動けなかった。
彼を目隠しするように、そっと手のひらで目を覆う。
視界を奪わないと、私の表情を見られてしまいそうで怖かった。
涙が一粒、彼にバレないように頬を伝った。
嬉しい。
どうしようもなく、脳髄が痺れるほど嬉しい。
けれど、それ以上に絶望的だった。
私は、彼を騙している。
彼が夢見ている"優しいレゼ"は、本当は大量の人を殺した兵器なのに。
「……バカ」
長い沈黙の後、私は絞り出すように呟いた。
そのまま、彼の手を握りしめる。
この温もりが、私の罪を焼き尽くしてくれればいいのに。
*****
数分後。
そっとデンジ君の手を布団に戻し、立ち上がった。
空になった鍋と、お椀とレンゲをシンクに運ぶ。
彼を起こさないように、水量を絞って蛇口をひねる。
シャー……。
細い水音が、静寂に溶けていく。
スポンジに洗剤をつける。
冷たい水に指を浸し、鍋をこする。
こびりついたお米の粘り気が、水流に流されて消えていく。
私の手は、手際よく動いた。
まるで、ずっとこの部屋に住んでいる住人のように。
……変なの。
小さく笑みがこぼれる。
背後には、眠るデンジ君。
手元には、洗い物。
それは、絵に描いたような"家庭"の風景だ。
私に最も縁遠く、そして心のどこかで焦がれていた時間。
キュッ、と洗い終わったお椀の音が鳴る。
食器は綺麗になった。
私の過去も、嘘も、罪も。
こんな風に洗剤で洗って、水に流せたらいいのに。
そうすれば、私は胸を張って『あなたを愛している』と伝えられるのに。
洗った食器を水切りカゴに伏せ、手を拭く。
そして私は、再び冷蔵庫を開けた。
……やっぱり、ほとんど空っぽだ。
さっき私が詰め込んだお米と卵以外、棚は白く広々としている。
病み上がりには、ヨーグルトやゼリーがもう少し必要な気がする。スポーツドリンクも、あと一本しかない。私自身も、朝から何も食べてない。そろそろ空腹の限界だった。
それに。
振り返り、呼吸を繰り返すデンジ君を見た。
さっき着替えさせたばかりなのに、もう首元のTシャツが汗で張り付いている。
「……読みが甘かったな」
小さく舌打ちした。
スーパーで買った着替えは、もう使い切ってしまった。
これほど酷い発汗は想定外だった。このペースじゃ、朝までにあと二、三枚は必要になる。
それに、私のこの窮屈な制服も、長時間の看病には向かない。
「すぐ戻るから」
眠る彼に小さく声をかけ、財布だけを持って静かに部屋を出た。
*****
近くのコンビニで買い物を済ませ、アパートに戻るまでの時間は、十五分もかからなかったはずだ。
雨はまだ降り続いている。
ビニール袋の中身は、ゼリー飲料と追加の男性用肌着、それに自分用のおにぎりとTシャツとスウェット。
私は足早に階段を駆け上がり、音を立てないようにドアを開けた。
「ただいま、デンジく……」
小声で言いかけて、言葉が喉に詰まった。
「……う、ぅ……」
苦しげなうめき声。
煎餅布団の上で、デンジ君が身をよじっていた。
熱にうなされているのか、荒い呼吸を繰り返しながら、何もない虚空に向かって手を伸ばしている。
その指先は震えていた。
暗闇の中で、見えない何かを必死に探すように。
あるいは、置いていかれることを恐れる子供のように。
「……」
ドサリ、と買い物袋を床に置いた。
私は靴を脱ぎ捨て、彼の元へ駆け寄った。
空を切っていたその手を、両手で強く握りしめる。
「……ここにいるよ」
私の声が届いたのか、彼の眉間の皺がわずかに緩んだ。
握り返してくる力は弱いけれど、すがりつくような必死さがあった。
熱い。さっきよりも熱が上がっているかもしれない。
もし私が戻らなかったら、彼は一晩中、こうして熱い闇の中で手を伸ばし続けていたのだろうか。
「……ホント、甘いなぁ、私」
ため息が一つ、漏れた。
私は枕元に座り直し、握った手を自分の頬に寄せた。
「……朝までだよ」
誰に言い訳するでもなく、呟いた。
「熱が下がるまで。……それだけ」
それは任務でも、罪滅ぼしでもない。
ただの、恋する女の子のわがままだ。
*****
深夜三時。
雨はいつの間にか止んでいた。
私は壁に背を預け、彼の寝顔を見守り続けていた。
時折、彼が苦しそうに咳き込むと、背中をさすり、浮いてきた汗をハンカチで拭う。
狭い六畳一間。カビ臭くて、物が散乱している底辺の暮らし。
なのに、高級なホテルのベッドで寝るよりもずっと心が落ち着くのは、ここに"嘘"がないからだろうか。
いつの間にか、私も眠ってしまっていたらしい。
カクン、と頭が揺れて目が覚めると、カーテンの隙間から白々とした朝の光が差し込んでいた。
チュン、チュン。
雀の鳴き声が、世界が動き出したことを告げている。
「……ん……」
隣で気配が動いた。
デンジ君が、ゆっくりと目を開けた。
その瞳には、昨夜のような熱っぽさはなく、理性の光が宿っていた。
「……デンジ君?」
私は恐る恐る、彼のおでこに手を当てた。
熱くない。平熱だ。
下がった。乗り越えたんだ。
「……レゼ?」
彼は掠れた声で私を呼び、キョトンと周囲を見回した。
そして、目の前にいる私と、差し込む朝の光を見て、驚いたように目を見開いた。
「お前……ずっといたのか?」
「……うん。ちょっと、心配で」
「一晩中?」
「……帰るタイミング、逃しちゃって」
私は照れ隠しに肩をすくめた。
デンジ君は呆然としていたが、次第に状況を理解したのか、顔がみるみる赤くなっていった。
自分がどれだけ無防備な姿を晒していたか、そして私がどれだけ密着して看病していたか、理解したらしい。
彼は赤くなった顔をゴシゴシと擦り、それからボソッと言った。
「……サンキューな」
「え?」
「起きた時、独りじゃなかったの……久しぶりだわ。……すげー助かった」
飾り気のない、真っ直ぐな感謝だった。
その言葉が、私の胸の奥にじんわりと染み込んでいく。
「……どういたしまして」
私が微笑むと、彼は急にソワソワし始めた。
視線を泳がせ、自分の頭をガシガシとかいている。
「あー、その……俺、なんか変なこと言わなかったか?熱のせいで、なんか……変な夢見てた気がしてよぉ」
ああ、なるほど。
夢現の中で口走った言葉を、朧げに覚えているのかもしれない。
その問いかけに、私の心臓がドクンと跳ねた。
昨日の言葉──『お前が俺の彼女だったら……最高なのになぁ』。
言わない方がいい。忘れたふりをするべきだ。
でも、私の中の弱くて卑屈な部分が、鎌首をもたげた。
確かめたかったのかもしれない。
あれは熱に浮かされた戯言で、正気の彼なら『そんなこと言うわけない』と笑い飛ばしてくれることを。
私は、自分が選ばれるはずがないことを確認して、安心したかったのかもしれない。
「……言ってたよ」
「えっ!? な、なに言ってた!?」
私は彼から視線を逸らし、膝の上の自分の手を見つめた。
「……レゼが……彼女だったら、最高なのになぁ……」
最初は冗談めかして言うつもりだった。
でも、言葉にすればするほど、その言葉の持つ意味が私の喉を締め付けた。
ちょっとだけあった演技の自信が、音を立てて崩れていく。
「……とか、言ってた……気がする……」
最後は、蚊の鳴くような声になってしまった。
自分の声が、情けないほど震えているのが分かる。
部屋に、重たい沈黙が落ちた。
朝の光の中で、埃がキラキラと舞っているのが見える。
恐る恐る顔を上げると、デンジ君は石のように固まっていた。
耳まで、いや、首筋まで真っ赤だ。
「……」
「……」
否定して。
『嘘だろ』って、『熱のせいだ』って笑ってよ。
そうすれば、私は『だよね』って笑って、この想いに蓋ができるのに。
「……あー」
長い沈黙の後、デンジ君が深く、深く息を吐いた。
彼は私の方を見ようともせず、明後日の方向を向いたまま、ボソボソと口を開いた。
「……マジか。口に出てたか」
その声は震えていた。
拒絶でも、嘲笑でもない。
ただひたすらに、恥じらっていた。
「……え?」
「いや、だってよ……」
彼は布団の端をギュッと握りしめ、さらに身体を小さくした。
「……あんな弱ってる時に、うめえ飯食わせてもらって……ずっとそばに居てくれたんだぜ?」
「……」
「そりゃ……思うだろ。……こいつとずっと一緒だったら……毎日最高だろうな、って……」
声がどんどん小さくなっていく。
聞き取れないくらいの、独り言のような呟き。
「……だから、まあ……嘘じゃねえよ。……本心、だ」
最後の言葉は、ほとんど吐息だった。
彼は顔を膝に埋めてしまい、真っ赤な耳だけが私に向けられていた。
ドクンッ!!
私の思考回路が、音を立てて焼き切れた。
予想していた"否定"なんて、どこにもなかった。
そこにあったのは、不器用で、無防備で、どうしようもないほど純粋な"肯定"だけ。
──ずるい。
私は口元を手で覆った。
顔が熱い。涙が出そうだ。
私なんかが、こんな風に思われていいはずがない。
私は爆弾で、人殺しで、嘘つきなのに。
なのに、デンジ君は、そんな私の全てを最高だと言ってくれた。
沈黙が続いた。
互いの心臓の音が聞こえてきそうな距離。
このままじゃ、爆発してしまう。
私が。私の心が。
「……っ」
「……っ」
限界だった。
二人同時に、何かを言おうとして、言葉に詰まる。
その時。
グゥゥゥ〜……。
部屋中に、間の抜けた音が響き渡った。
デンジ君のお腹だ。
「……あー!クソッ!腹減った!!」
彼は真っ赤な顔のまま、強引に話題を変えた。
そのあまりの唐突さと、必死な様子がおかしくて、愛おしくて。
「……ふふっ」
私はこらえきれずに吹き出した。
緊張の糸が切れて、笑いが込み上げてくる。
「……なんだよ!笑うなよ!」
「ごめん、ごめんね。……ふふ、そうだね。ご飯にしよっか」
私は涙目で笑いながら、立ち上がった。
昨夜のおかゆはもう空っぽだ。
でも、食材はまだ少し残っている。
私は手際よく新しいお米を研ぎ、残りの卵を使って、簡単な雑炊を作ることにした。
二人並んで、小さなちゃぶ台で朝ごはんを食べる。
お互いに顔を見合わせることもできず、ただ黙々とレンゲを動かす。
出来立ての熱い雑炊が、喉を通る。
「……ふぅ、食った食った」
デンジ君が空になった鍋の底を名残惜しそうに見て、レンゲを置いた。
私はその視線の先にある、部屋の隅の冷蔵庫を見た。
中身は空っぽだ。
この朝ごはんが終われば、彼はまた「あの日常」に戻る。
パンの耳と、水だけの生活。
昨日抱いた怒りが、静かな決意へと変わっていく。
「……ねえ、デンジ君」
「ん?」
私は箸を置き、彼を真っ直ぐに見た。
「いつも、あんなものしか食べてないの?」
私の視線の意味を悟ったのか、彼は気まずそうに頭をかいた。
「……まあな。自立支援の金なんて、家賃払ったらスズメの涙だしよ」
「……」
「パンの耳にマヨネーズ塗って食うのも、慣れりゃあ悪くねえんだぜ?」
彼は強がって笑った。
でも、もう騙されない。
昨日の、死にそうになっていた彼の姿が脳裏に焼き付いている。
胸が、きゅうっと締め付けられた。
「……そんなものばっかり食べてたら、また体調崩しちゃうよ」
「え?」
「デンジ君は気づいてないかもしれないけど……昨日だって、私が来なかったら、本当に死んでたかもしれないんだよ?」
少し強い口調で言うと、デンジ君はきょとんとして、それから少し照れくさそうに頬をかいた。
「……けど、レゼが来てくれたじゃん」
「……今回は、たまたまだよ。三日も学校に来ないなんておかしいって思ったから……。でも、もしこれが休日を挟んでたら、きっと……気づけなかった」
想像するだけで、背筋が凍る。
私は自分の能天気さを呪った。
そうだ。彼が学校に来なくなった初日に、すぐにここに来ていれば。
くだらないことで悩んだりしないで、すぐに駆けつけていれば、彼がここまで苦しむこともなかったのに。
私が迷っていた時間は、彼にとっては命を削る時間だったんだ。
二度と、こんな思いはさせない。
後悔と自責が、熱い塊になって喉元までせり上がってくる。
それを飲み込み、私は顔を上げた。
「……デンジ君」
「ん?」
私は、はっきりと告げた。
「決めた」
「何をだよ」
「明日から、私が君の食事を管理する」
デンジ君がポカンと口を開けた。
言葉の意味を咀嚼するのに数秒かかり、やがて顔が青ざめた。
「はあ!? いやいや、待てって、なんでそんな話になんだよ! 第一、俺には金が……」
「お金なんていらないよ」
「へ?」
私は立ち上がり、彼の目の前で宣言した。
「ただ、食べてくれればいいの。……もう二度と、こんなところで倒れてほしくないから」
デンジ君は瞬きを繰り返した。
信じられない、といった顔だ。
無理もない。無償の施しなんて、彼が生きてきた世界には存在しなかっただろうから。
「……まずは、お昼休み」
「え?」
「屋上に来て。……お弁当、持ってくるから」
デンジ君は「弁当……?」と間の抜けた声を出し、それから恐る恐る尋ねてきた。
「……マジで? ドッキリとかじゃなくて?」
「マジだよ。這ってでも来てね」
私が笑うと、彼は顔中の筋肉が緩んだような満面の笑みを浮かべた。
裏表のない、太陽みたいな笑顔。
「行く! 絶対行く!」
その笑顔を見届け、私はアパートを後にした。
外の空気は雨上がりで澄んでいたけれど、私の心臓はまだ早鐘を打っている。
お弁当なんて、作ったことないのに。
ママに作り方を聞かなくちゃ。
デンジ君は、どんなおかずが好きなのかな。
とりあえず、冷蔵庫にあるもので、最高のものを作ろう。
私の日常に、"デンジ君のためにお弁当を作る"という、新しくて甘酸っぱい予定が加わった。
それは、どんな任務よりも重要で、胸が躍るミッションだった。