白井黒子「セルフレジ……ですの?」ドッペルゲンガー「そうだよ」   作:黑須つくる

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白井黒子「セルフレジ……ですの?」ドッペルゲンガー「そうだよ」

 学園都市の片隅に位置する『まいばすけっと』の店内は、夕刻の混雑を反映して、独特の慌ただしさに包まれていた。

 特売の納豆や冷凍食品が並ぶ棚の奥、最新型の自動精算機が並ぶエリア『セルフレジ』というボードの下で、白井黒子は買い物かごを握りしめたまま硬直する。

 

「セルフレジ……ですの!? いえ、セルフの意味がゲシュタルト崩壊を起こしそうですわ。学園都市の最新鋭サイボーグ技術、あるいは魂の模造品と呼ばれた存在が、なぜこのような生活感の塊のような場所で、電子マネーの決済を促しているんですの」

 

 黒子の困惑を余所に、かつて学園都市を震撼させた『操歯のドッペルゲンガー』は、無機質な手つきでレジ袋の束を整えた。その肌は以前よりも血色が失われ、どこか樹脂のような光沢を帯びている。彼女は事務的な口調で、淡々と語り始めた。

 

「そう、セルフレジ。正確には『魂の情報を基層とした自律型自動精算端末』としての再雇用。わたしは人間ではないし、戸籍も存坂美琴は、目の前の光景が信じられず、指先に小さな火花が散るのも忘れて詰め寄った。あの夜、彼女たちが命を懸けて対峙した存在が、今は一九八円の冷凍食品をスキャンしようと待ち構えている。そのあまりの落差に、美琴の脳内の演算処理が追いつかない。

 ドッペルゲンガーは美琴の視線を柳に風と受け流し、センサーの赤い光を自分の指先から照射した。

 

「消滅したのは『魂の憑代』としての肉体。わたしの演算データの一部は、バックアップとして清掃ロボットのネットワークに残留していた。それをAEONグループの技術開発部門が買い取ったというだけの話。今のわたしは、購買行動のビッグデータをリアルタイムで処理しつつ、お客様の『WAON』ポイントを管理することに存在意義を見出している。……御坂美琴、そちらの『ヤシの実サイダー』もスキャンするか」

「……そんな事務的に言われても納得できるわけないでしょうが!」

 

 美琴の叫びが狭い店内に響いたが、店員も他の客も、まるでそれが当たり前の光景であるかのように、淡々と品定めを続けていた。学園都市の日常は、時に科学の進歩よりも奇妙な形で更新されていく。

 

「……お姉様、とりあえずそのサイダーを差し出しなさいまし。このままでは後ろに並んでいる常連の寮監先生に、別の意味で消滅させられてしまいますわ」

 

 黒子の青ざめた視線の先には、厳しい表情で順番を待つ寮監の姿があった。ドッペルゲンガーの生存という怪異よりも、今は現実の恐怖が二人を支配しようとしていた。

 困惑と恐怖に平静さを欠く二人。と、そこに一人の少女が声をかける

 

「話せば長くなるのだけれど、端的に言えばリサイクルの一環ね」

 

 棚の隙間から、白衣の裾がひらりと揺れて、事件の元凶であるはずの操歯涼子が姿を現す。彼女は手にした値引きシールの貼られた惣菜パンを検品するように眺めながら、至って平然とした面持ちで言葉を継ぐ。

 

「清掃ロボットネットワークにドッペルゲンガーの残滓が残っていることに気が付いたのはつい先日の話。それに気づいた私は、あの事件の後、私の夢の中に居座り続けていた彼女の残滓――いわゆる魂のバックアップデータを、インディアンポーカーの技術を応用して無理やり抽出したの。それらをかけ合わせれば、ドッペルゲンガーの人格データを再び再生することができる。この計画には、第五位がクローン技術の研究所紹介という形で協力してくれたわ。けれど、学園都市の主要な研究所に預ければ、またろくでもない兵器転用計画に利用されるのは目に見えているでしょう? だから私は、もっと平和的で、かつ彼女の『自己保存本能』を有効活用できる提携先を探したというわけ」

「それで……なんでよりによってイオンなんですの!? ここは天下の学園都市、もっとこう、宇宙開発とかナノデバイスの権威とか、いくらでも引き取り手はあったはずですわ!」

 

 黒子が詰め寄るが、操歯は動じない。むしろ、その選択が理にかなっていると言わんばかりに、人差し指を立ててみせた。

 

「いい、御坂さん、白井さん。流通業界の王者は、ある意味で軍事組織よりもシビアな情報処理能力を求めているの。二十四時間三百六十五日、全店舗の在庫状況をリアルタイムで把握し、数千万人の顧客が抱える『WAON』ポイントの変動をコンマ一秒の狂いなく管理する……。この膨大なマルチタスクを完璧にこなせる知性は、既存のAIでは不十分だった。そこで、物質を自在に操り、並列演算に長けたドッペルゲンガーの特性が、イオングループの次世代リテール戦略に合致したのよ」

「……リテール戦略って、あんたね……」

 

 美琴は呆れ果て、こめかみを押さえた。かつて自分を追い詰め、巨大な瓦礫の怪物と化したあの存在が、今や「お客様、そちらのクーポンは期限切れです」と淡々と告げるためにその演算能力を費やしている。そのシュールな現実に、戦う気力すら削がれていく。

 ドッペルゲンガー――今は店員番号『DG-001』と書かれた名札を胸に付けた彼女は、操歯の言葉に合わせるように、流れるような手つきで美琴のヤシの実サイダーをスキャンした。

 

「イオンの物流網は、学園都市の闇よりも広大で深い。私の意識は今、この店舗だけでなく、全国の物流センターの自動搬送ロボットとも同期している。暴走する肉体を持たず、ただ純粋な情報として数兆円規模の経済活動を支えること。これは一種の『不老不死』の完成形とも言える。……御坂美琴、お支払いは現金か、それとも電子マネーか。今ならポイントが五倍付与されるが」

「……電子マネーでいいわよ! もう好きにしなさいっ!」

 

 美琴がやけくそ気味にスマートフォンをかざすと、ドッペルゲンガーの指先から微弱な電気信号が走り、決済完了の軽快な音が店内に響いた。その直後、背後から氷点下を思わせる冷気が漂ってくる。

 

「……そこの二人。いつまでレジ前で油を売っているのかしら。寮の門限、まさか忘れたわけではないわよね?」

 

 黒子の背筋が、文字通り凍りついた。振り返るまでもなく、そこには買い出し用のマイバッグを提げ、般若のような形相で立つ常連の――寮監の姿があった。

 

「あ、あわわわ……お、お姉様! ここは一旦撤退ですの! ドッペルゲンガーの再就職祝いは、また後日、命がある時に伺いますわ!」

「ちょ、ちょっと黒子、引っ張らないでよ! あ、操歯さん、また今度ゆっくり説明してもらうからね!?」

 

 逃げるように店を飛び出す二人を、操歯涼子とドッペルゲンガーは無機質な視線で見送った。

 

「……御坂美琴、レジ袋を忘れている。……まあいい、これもまた一つの『日常』の形だ」

 

 ドッペルゲンガーはくつくつと笑いながら美琴が置き去りにした袋を丁寧にまとめると、「忘れ物」と裏に書いたレシートを張り付け、再び次の客へ向けて、その深淵な瞳を向けた。




第一話をお読みいただき、ありがとうございます!
この後もいちおう書いてあるんですが、表に出すにあたり整合性とかいろいろ考えるんで
ゆるゆる出していこうかなと
とあるSSがめっちゃ好きで、超電磁砲4期が出るということで勢いで投稿しました
Gemini(生成AI)によって基本構成されていますが、表現や呼称など細かいところは手直ししております
気になる方はすみません。こういうのは初めてですので、生暖かくごらんください
レールガンTのラストのドッペル救済はされたけど……って感じなんでせめて二次創作では楽しく生きてほしいなと思ってます
もし、気に入った方いましたらコメントくれると励みになります!
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