白井黒子「セルフレジ……ですの?」ドッペルゲンガー「そうだよ」   作:黑須つくる

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美琴「なんであんたがここにいんのよ!」ドッペルゲンガー「仕事帰りだよ」

 放課後のファミリーレストラン。ドリンクバーのメロンソーダをストローでかき回しながら、佐天涙子は実にあっけらかんとした声を上げた。

 

「へぇ、いいことじゃないですか。あの凄惨な事件の結末が『まいばすけっとの店員さん』なんて、なんだか学園都市らしくて平和でいいですよ」

「平和……。まぁ、確かに街を壊して回るよりは数万倍マシなんだけどさ」

 

 美琴は運ばれてきたハンバーグを突きながら、複雑な表情で溜息をついた。あの日、鉄骨を操り巨大な異形となって空を覆ったあの存在。それが今は、レジ袋の有無を確認し、ポイントカードの有無を問いかける「什器」として存在している。そのギャップが、どうしても脳内で火花を散らすのだ。

 

「佐天さん、楽観的すぎますわ。彼女は法的に『道具』扱いなんですのよ? 二十四時間休まず、文句も言わずにレジに立ち続けるサイボーグ店員……。ブラック企業も真っ青の労働環境ですわ」

「でも黒子、ドッペルゲンガー本人は『不老不死の完成形』とか言って、ノリノリでWAONポイント管理してたわよ……」

 

 美琴が遠い目をしながら付け加えると、隣でノートパソコンを叩いていた初春飾利が、興味深そうに身を乗り出してきた。

 

「実はその話、ネットの掲示板でも少し話題になってるんです。『第七学区のまいばすけっとに、神業レベルの処理能力を持つセルフレジがいる』って。スキャン漏れはゼロ、袋詰めの最適解をコンマ一秒で提示して、しかも会計が終わる頃には、その日の夕食の献立に最適な特売品までレコメンドしてくれるらしいですよ」

「……完全にレジの枠を超えてますわね」

 

 黒子が呆れたように呟く。

 

「それにね、御坂さん。操歯さんの判断も、あながち間違いじゃないかもしれません。彼女……ドッペルゲンガーさんは、元々『魂の所在』を求めて彷徨っていた存在ですよね。今の彼女は、イオングループの膨大な物流ネットワークを通じて、数千万人の『生活』という魂の奔流に触れている……。それはある意味、一つの大きな解答なのかもしれません」

 

 初春の真面目な考察に、美琴はフォークを止めた。

 

「魂の奔流ね……。あいつ、私のヤシの実サイダーをスキャンする時、妙に満足げだったのはそのせいかしら」

「ですよ! それに、あのドッペルゲンガーさんにレジを打ってもらえるなら、私もちょっと行ってみたくなっちゃいました。あ、でもその前にイオンカード作らなきゃ」

「佐天さん、目的が変わってますわよ」

 

黒子のツッコミが飛ぶ中、美琴は窓の外に広がる学園都市の景色を眺めた。かつての敵が、日常の風景に溶け込んでいく。それは奇妙で、それでいて、どこか救いのある光景のようにも思えた。

 

「……ま、いっか。次に行った時は、ちゃんとレジ袋いりませんって言わなきゃね」

「あ、御坂さん! 今度は私も連れてってくださいよ。都市伝説のドッペルゲンガーとツーショット、撮れるかなぁ――」

「無理だと思うわよ、あいつ、業務外の接触には厳しそうだし」

 

「おや、奇遇だね。」

 

  ファミレスの賑やかな喧騒を切り裂くように、聞き覚えのある無機質な、しかしどこか妙に「営業スマイル」の気配が混じった声が響いた。

 ガチャン、とドリンクバーのトレイに厚手のグラスが置かれる。そこには、メロンソーダとオレンジジュースを混ぜ合わせたような、形容しがたい毒々しい緑色とも黄色ともつかない液体が並々と注がれていた。

 

「御坂美琴じゃないか、それと友人の皆さん。こんなところでお目にかかるとは。せっかくだからアドバイスしておこう。iAEONアプリを入れるといいよ。まいばすけっとだけじゃなく、イオングループ全体で使えるからね。クーポンも選べるし、何よりポイントの還元率が――」

「ドッペルゲンガー……!? な、ななな、なんであんたがここにいるのよっ!?」

 

 美琴は椅子を鳴らして立ち上がり、思わず周囲の視線を集めてしまった。目の前に立つのは、紛れもなくあの『操歯のドッペルゲンガー』だ。しかし、その格好は『まいばすけっと』の店員エプロンではなく、薄手の黒のへそ出しニットにベージュのジャケットをあわせ、ネイビーのワイドパンツというどこか洗練された、それでいて没個性的な私服姿だった。

 

「仕事帰りだよ。まいばすけっとは24時間営業じゃないしね。労働基準法を遵守するホワイトな職場環境には感謝している。いやはや、これが最近拡大中のTRIAL GO――レジを通らずに決済できるスマートストア――への出向だったら、私は本当にネットワークの一部として、不眠不休で働く羽目になっていたかもしれないね」

 

 ドッペルゲンガーは、手に持った謎の液体にストローを差し込むと、それを無造作に口に含んだ。

 

「くつくつ……。人間の味覚データによれば、この配合はもっとも『背徳的な味』がするらしい。自由時間という概念は実に興味深い。魂の存在しない私であっても、こうしてドリンクバーの配合を変えるだけで『選択の自由』を享受している気分になれる」

「……笑い方が怖いですわ。というか、私服に着替えてファミレスでドリンクバーを楽しんでいる姿、あまりにもシュールすぎますの。お姉様、これってもしかして、新しいタイプの都市伝説になりませんこと?」

 

 黒子が引き気味に呟く中、佐天は目を輝かせてドッペルゲンガーを観察していた。

 

「すごーい! ドッペルゲンガーさん、本当に普通に生活してるんですね! あ、そのアプリ、私も入れていいですか? おすすめのクーポンとかあります?」

「いい心がけだ、佐天涙子。今ならトップバリュの特定の冷食がポイント10倍だ。私の端末からQRコードを提示してあげよう」

「あ、ちょっと佐天さん! 相手は元・学園都市を壊滅させかけた存在なのよ!? そんな簡単にポイントカード仲間にならないの!」

 

 美琴のツッコミも虚しく、ドッペルゲンガーは淡々とスマートフォンの画面を操作し始めた。その指先からは、かつての破壊的な電撃ではなく、ただお得な情報のパケットだけが発信されている。

 

「御坂美琴、君もどうだい。レジ袋有料化の波に抗うより、エコバッグ持参でiAEON。これが現代の『正義』だよ。……くつくつ。さあ、次はどのドリンクを混ぜようか。魂の渇きを、合成着色料で満たすとしよう」

「ちょっと、もうドリンクバーはいいでしょう?」

 

 ファミレスの店内に、さらなる衝撃が走る。ドリンクバーの機械の前で「背徳の配合」に興じるドッペルゲンガーの背後から、聞き慣れた、しかしどこか生活感の滲む声が響いたのだ。

 

「ドッペルゲンガー。遊んでないで、そろそろ帰るわよ。明日の朝食のパンも切らしてたでしょう?」

 

 そこに立っていたのは、白衣の上から無造作にスプリングコートを羽織った操歯涼子。彼女の手には、使い込まれたエコバッグが握られてる。

 

「操歯……!? なんで!? なんであんたたちが一緒にいるのよ!」

 

 美琴が今日何度目かわからない絶叫を上げると、操歯は眠たげな目をこすりながら、至って事務的に答えた。

 

「なんで、と言われても……。この子をあのまま放置して学園都市の闇に還すわけにもいかないでしょう? かといって研究所に置いておけば、上層部がまた『魂の抜き取り実験』だなんて騒ぎ出す。だから、私の自宅に置いているのよ」

「同居……。あの凄惨な戦いを繰り広げた二人が、一つ屋根の下で暮らしているんですの?」

 

 黒子が顎が外れそうなほど驚く中、ドッペルゲンガーは最後の一口を飲み干し、ズズッと音を立ててグラスを置く。

 

「そういうことだ、白井黒子。大家さんや管理会社には『地方から出てきた従姉妹』ということにしてある。戸籍がないから契約上のスリルは満点だが、私の完璧な擬態と操歯の偽造工作があれば、今のところ発覚の恐れはない。……さて、操歯。西友へ行くのか?」

「ええ。帰りに『みなさまのお墨付き』のルイボスティーを買うのを忘れないでね。あれ、コスパがいいから切らしたくないのよ」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 美琴がすかさずツッコミを入れる。

 

「あんた、さっきまであんなに熱烈にイオンアプリを勧めてたじゃない! なんで生活用品は思いっきり競合他社の西友で買ってるのよ!」

 

 ドッペルゲンガーは、感情の読めない瞳で美琴を見つめ返し、くつくつと喉を鳴らし答えた。

 

「御坂美琴。これは『リスク分散』だよ。私はAEONの経済圏を支える端末だが、私生活まで一つの資本に依存するのは非効率だ。西友のプライベートブランドの品質は、私の演算によれば非常に高い評価を叩き出している。労働はイオンで、消費は西友で。これが学園都市を賢く生き抜くサバイバル術というものだ」

「……ただの浮気者ですわね」

 

 黒子が呆れ果てたように呟くが、操歯はそんなやり取りを気にする様子もなく、ドッペルゲンガーの背中を軽く叩き急かす。

 

「ほら、行くわよ。じゃあね、御坂さん。今日は火曜日だから、あっちの店舗も混むんだから」

「じゃあね、御坂美琴、そして友人諸君。……次はまいばすけっとで、もしイオンの株をお持ちなら、オーナーズカードの提示を忘れないように」

 

 ドッペルゲンガーはそう言い残すと、操歯涼子と共に夜の街へと消えていく。かつて学園都市を狂乱の渦に巻き込んだ科学者と、実験の副産物が生んだ怪異。今、二人の背中は、どこにでもいる「少し変わった同居人同士」の買い物風景にしか見えない。

 

「……なんか、戦うのが馬鹿馬鹿しくなってきたわね」

 

美琴が力なく椅子に座り直すと、佐天が目をキラキラさせながらスマートフォンを操作してた。

 

「えへへ、私も今度『皆様のお墨付き』チェックしてみよっと! 西友って、学園都市の駅前にもありましたよね、初春!」

「佐天さん、流されすぎです……! でも、あの二人なら、意外とうまくやっていけるのかも……しれませんね」

 

 窓の外では、学園都市のサーチライトがゆっくり夜空を照らしていた。しかし、その光よりも、遠くに見える「まいばすけっと」の看板の方が、今の彼女たちにはずっと身近なものに感じられるのであった。




さあ、ということで第二話です
ドッペルゲンガーのビジュがほんま好みで……
褐色白髪クール美人(後半ビジュアル)に似合う服装をでっち上げました

「薄手の黒のへそ出しニットにベージュのジャケットをあわせ、ネイビーのワイドパンツ」

これは完全に私の趣味です
マジで一生懸命考えました

ドッペルの私服も今後のテーマにしたいですね

ご拝読ありがとうございました☆
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