深夜の土手で行き倒れ青年を助けたら、その人が宇宙の刑事で宇宙犯罪組織との戦いに巻き込まれた件 作:匿名希望
20才の女子大生、
夜間のバイトを終えて、自転車で帰宅しているとき。
道でうつ伏せで倒れている人を見つけてしまったのだ。
場所は川沿いの土手で。
人気は無い。
(どうしよう……?)
女性の身で危ないとは思いつつも、深夜手当が魅力的で。
飲み屋で彼女はバイトしていた。
少しでも安全に帰るために、自転車で全力疾走していたのに。
倒れた人を見つけたからと言って立ち止まるべきなのか?
色々考えた。
給料が良いから夜間の飲み屋のスタッフのバイトを選んで。
襲われたくないから、自転車で全力疾走して。
最短距離だから、夜間に人がいなくなる土手を走ってる。
状況を整理しよう。
今の時間は深夜で、周囲に街灯が少なく、監視カメラがあるかどうか怪しい。
この状況で、土手の草むらに倒れている人。
……この状況で、自分はどうするべきだろうか?
普通に考えたら、見捨てる一択。
襲われたらどうしようもない。
救急車だけ呼んで、自分は立ち去るなんていうのも非難できないだろう。
夜間に女性が1人でウロウロすること自体が危ないのだから。
だが彼女は
「大丈夫ですか?」
自転車を止めて、駆け寄っていた。
彼女には先ほど提示したその2つの選択肢が無かったのだ。
彼女にはある思いがあった。
自分に価値があるのだろうか? という。
彼女には双子の弟がいた。
弟は優秀だった。
九九を覚えたのも弟の方が早かったし、弟は内向的な自分より友達も多かった。
運動も良く出来て、絵にかいたような優等生で。
公立中学校にしか行けなかった自分と違い、私立のハイレベルな中学校に当たり前のように入学した。
両親も、おそらく弟を誇らしく思っていただろう。
両親は自分に愛情を掛けてくれてはいたけれど、彼女の頭には常に優秀な弟の影があった。
弟は全く悪くない。
弟は自分の優秀さを鼻に掛けたりせず、彼女を見下すようなことはしなかったから。
理想の人間である優秀な弟……
そのまま時間が進めば、彼女もいつかは折り合いをつけていけたかもしれない。
しかし。
彼女の弟は、中学1年のとき。
突如、学校行事の勉強合宿会で宿泊していた施設から姿を消した。
理由は分からない。
色々な理由が囁かれたが、結局のところは何も分からなかったのだ。
それからずっと、彼女は思っている。
何故優秀な弟が消えて、弟より価値が無い自分の方が残ったのだ? と。
だから彼女は迷わなかったのだ。
倒れている人間を救うことを。
そこまでして自分を守る価値があるとは思えなかったから。
見捨てるということは出来なかった。
倒れている人物は男性だった。
だいぶ若いと思う。
髪の毛の色は黒。少し天パが入ってる。
そして茶色の革ジャンを着用してて。
黒いブーツと白いジーンズを身に着けていた。
あまり見ない服装だと思う。
「今、救急車を呼びますから」
そう言って彼女はスマホを取り出し、119番をタップしようとした。
だが
「……悪い。救急車は勘弁して欲しい」
倒れている男性はそう言葉を返して来たのだ。
弱弱しい声で。
そして
「……できれば何か食べるものをくれないか? それだけで良いんだ」
そう、続けて来た。
そして首をねじって向けて来たその顔は
彫りが深くて目が大きく。
……何故か、いなくなった弟と酷く似ている気がした。