深夜の土手で行き倒れ青年を助けたら、その人が宇宙の刑事で宇宙犯罪組織との戦いに巻き込まれた件 作:匿名希望
裕子は幸い食べ物を持っていた。
明日の朝に食べようと思って買ったパンだ。
これを食べられてしまうと、明日の朝食べるパンが無くなる。
だけど
「食パンですがこれで良ければ」
5枚切りの食パン1斤。
未開封。
それを迷わず彼女は差し出した。
「すまない」
弟の面影を持った男性は、そのパンの包装を破り
中のパンを直接触らないように気を遣いつつ2枚抜き出し。
そのまま、水もないのにムシャムシャと食べてしまう。
「助かった。ありがとう」
残り3枚になった食パンの袋を返しつつ、男性。
パンの袋を受けとりながら
「こんなところで倒れてどうしたんですか?」
そう訊ねる。
すると男性は眉根を寄せた。
……迷いの表情だ。
一体、どういうことなのか?
倒れていた理由を口にすることがそんなにマズいことなのか?
気にはなったが
「それじゃ私はこれで」
男性はパンを食べたことで回復したように見えた。
最初は本当に衰弱したように見えていたのに、パンを2枚食べた途端、声に張りが出て来た気がする。
「ああ、助かった」
男性は爽やかな笑顔を浮かべる。
絵にかいたような好青年。
自分の弟も成長したらこういう男になったんだろうか?
そんなことを考えながら自転車を発進させ。
彼女はそのまま帰宅した。
彼女が住んでいるのは賃貸のワンルームマンションで。
日中は管理人が居る安全性の高い物件だった。
家賃も生活費も仕送りして貰っているのだが、彼女はこうして深夜に食い込む時間帯まで飲み屋でバイトをする生活を送っている。
……別に彼女は浪費家というわけではないのだ。
(次に借金を申し込んで来たら断らないと)
流石に分かる。
友人の1人が嘘を吐いているって。
彼女は友人に金を貸していた。
最初は「バッグをひったくられた。生活費が無くなった。お金を貸して」と言って来たのだ。
彼女はその際、持っていた3万円を貸した。
別に嫌われたくないとか、そういう気持ちじゃ無かった。
なんとなく、見捨てることに抵抗があったのだ。
ひったくりに遭ったのは友人の責任では無い。
そんな人を見捨てるなんて、私にそんな価値があるのか?
そういう思考が無意識に働き、彼女はそうしたのだった。
友人は「バイトの給料が入ったら返すから」
そう言ってお礼を言って去っていった。
そして1週間経った後。
その友人が近づいて来た。
借金の返済かと思ったが
「今度は空き巣に入られた。お金ないよ。ぴえん」
……のようなことを言って来た。
また金を貸して欲しいと言う。
そう言われ、彼女は再び1万円を貸した。
友人はお礼を言って去っていった。
空き巣、という言葉の強さでその瞬間は誤魔化されてしまったが。
それでさすがに理解したのだ。
あの子、嘘を吐いているって。
ひったくりに遭った後、間を置かずに空き巣に入られるなんてあるわけがない。
いや、物理的にはあり得るかもしれないが、確率的には恐ろしく低いだろう。
それに……
3万円も借金をしている相手に、さらに借金を重ねるなんて正気の行いじゃない。
あり得ない。
じゃあ、あの子は正気の人間では無いのだろう。
嘘吐きなんだ。
そう思い、彼女は4万円を諦めることにした。
そして浪費してしまった小遣いを補填するために、飲み屋でのバイトをはじめた。
実入りが良いバイトで手が届くバイトがそれだったのだ。
(ホント、馬鹿だな私)
情けなくてため息が出る。
(弟なら……裕司ならきっとこんなことにはならなかったんだろうな)
弟なら……裕司ならこうはならなかったはずだ。
嘘を見抜いて即座に友人と絶縁するか、説教して友人を改心させたかもしれない。
自分には到底できない話だ。
そんなことをワンルームの自分の部屋に戻り、食卓代わりに置いているローテーブルにパンの袋を置いたときだった。
……部屋のチャイムが鳴った。
こんな夜更けに。
(……一体誰?)
困惑。
何か急な要件だったとしてもあり得ない。
明日以降に来ることを考えるだろう。
正直、少し怖かった。
でも
確かめない方が怖かったので。
彼女は部屋の壁に設置されているインターホンモニターを操作して、訪問者の姿を確かめた。
するとそこには……
あのときの、弟の面影を持った青年の姿があった。