宇宙警察ブレイバー~地味子の女子大生が深夜の土手で行き倒れ青年を助けたら、その人が宇宙の刑事で宇宙犯罪組織との戦いに巻き込まれた~ 作:XX(旧山川海のすけ)
「そんな……! タケハヤさん、そんなこと一言も」
そう言って動揺する裕子に
「聞いて楽しいことじゃないだろ。アブダーのナマの被害者の苦しみなんか」
そう返すタケハヤは全く表情を動かさなかった。
言ってる内容は悲惨そのものであるのに。
「それにもう俺にとっては過去の話だ。タケハヤとして俺はもう7年も生きて来た。それがもう俺になっている」
「……記憶を戻すことは出来なかったんですか?」
裕子はそこを訊ねる。
宇宙のとてつもなく進んだ科学なら、やる方法くらいあるんじゃないのかと思ったからだ。
しかし
「できない。アブダーの記憶消去は脳内のシナプスの繋がりを断ち切るレベルの生易しいものじゃない。霊魂学的見地から、魂レベルで消去している。このレベルになると絶対に蘇らない。何があっても、だ」
タケハヤはそう言い切った。
(魂レベル……)
魂にも記憶というものが刻まれるのかと思ったが、よく考えると憑依現象という心霊現象があるではないか。
もしその手の怪談が実話だった場合、それこそ魂にも記憶が刻まれていることの証明ではないか。
だが、そんなものを消したのだ。
アブダーは。
(絶対に許せない。悪魔の集団。外道衆……!)
裕子は思わず涙した。
よくもそんな惨たらしい真似を。
それも「手軽に生物兵器を作りたいから」それだけの理由で。
(絶対に叩き潰さないと)
彼女は強くそう思った。
「クシナダはそんな俺を励ましてくれて、宇宙警察の宇宙刑事になることを勧めてくれた。そのための道を示してくれたんだ」
その言葉に強い想いがあった。
彼がどれほど、婚約者であるクシナダを大切に想っているかという、強い意志が。
「だからクシナダは絶対に救い出す。絶対にだ」
「……当然です。クシナダさんは私だって大切だと思ってます」
裕子は思った。
出会いこそ色々と問題があったが。
彼女は基本的に優しくて。
賢くて。
そして謙虚だ。
驕っているように感じたことが無い。
そんな女性が、アブダーに攫われて宇宙娼館に売り飛ばされるなんてあっていいはずがない。
そしてふたりは
辿り着いた。
この灯影島に建設されている、巨大なスタジアムに。
(いつこんなものを建てたのか)
裕子は少し気になったが、そこは宇宙。
宇宙の技術なら可能なのだろう。
スタジアムは全体的にローマのコロッセオを思わせた。
ただ、古代遺跡とは違い、電気の照明がある。
入り口を探すと「In」という看板が書かれた場所があり。
そこに1人の黒服に身を包んだ、黒い覆面の男が立っている。
近づくとその男は
「タケハヤ様とそのお連れ様ですね。お待ちしておりました」
恭しく頭を下げながら、そんなことを。
案内人だろうか?
裕子はその案内人と思しきアブダー構成員に何も返さず。
タケハヤからは
「とっととタイマンバトルの会場に案内しろ」
そう一言。
案内人はその言葉に「ええ。ではどうぞこちらに」そう返し。
歩き出す。
2人はその後についていき……
やがて、会場に辿り着いた。
そこは砂の闘技場だった。
ぐるりと円形の石壁に囲まれた土地に、砂を敷き詰めた闘技場だ。
典型的な「一流の闘技者同士の1対1の決闘の観戦」を意識した構造。
石壁の外には観客席があり、そこは黒覆面のアブダー戦闘員でぎっしり埋まっていた。
観客たちが裕子とタケハヤの姿を見て、割れんばかりの歓声が巻き起こる。
そんな観客席にクシナダもいた。
裕子たちが入って来た方向とは逆方向の観客席だ。
そこにガラス製に見えるカプセルに入れられて座らされている。
「~~~~~~!」
クシナダはこちらに気づいて、カプセルをドンドンと内側から叩きつつ何かを言っているが、全然聞こえない。
ひょっとしたら、音を遮断されているのかもしれない。
そのカプセルのてっぺんに宇宙警察証がある。
どうやらそのせいでクシナダはカプセルから出る力を奪われているらしい。
早く助けないと。
だが、その前に……
「やあ、時間ピッタリか。さすが宇宙刑事だな」
裕子らと立ち向かう位置に立つエリート然とした闇の戦士……
このアブダー幹部の男……ムラクモツヴァイを倒さなければならないが。