宇宙警察ブレイバー~地味子の女子大生が深夜の土手で行き倒れ青年を助けたら、その人が宇宙の刑事で宇宙犯罪組織との戦いに巻き込まれた~ 作:XX(旧山川海のすけ)
裕子にカプセルを破壊して貰うと同時に。
自由になったクシナダは、傍にあった自分の宇宙警察証を拾い
「電装!」
即座に電装した。
そして2人掛かりでアブダー戦闘員を全員追い払い、そこでようやくクシナダは裕子に礼を言う余裕を得る。
「ありがとうございました!」
だが裕子は
「お礼はいいです! タケハヤさんを助けてください!」
メタルスーツを装着したままクシナダに言う。
倒れ伏しているタケハヤを指差しつつ。
相当な深手である。
放置するとマズいのは明らかだ。
「ええもちろん!」
クシナダは駆け出していき、空中にモニターとキーボードの立体映像を呼び出して。
キーボードを弾いて傷ついたタケハヤを光の粒子に変えてどこかに転送する。
そしてモニターとキーボードを消しながら
「……私の宇宙船の集中治療室に転送しました。これでとりあえず大丈夫なはずです」
念のため、天球に帰ったら精密検査が要ると思いますけど。
そう言いながら
彼女は電装を解く。
合わせるように、裕子も電装を解除した。
その場に残される2人の女。
そして
「……桐谷裕子さん。何故あなたがタケハヤの宇宙警察証で電装できたんですか?」
当然のクシナダの問い。
それに対し
「それは……」
裕子は説明した。
7年前に当時中学生だった弟が行方不明になったことを。
そしてタケハヤを最初見たとき、弟の面影を感じたことを。
タケハヤ自身の過去の話で、彼がアブダーの元拉致被害者であることを知ったことを。
そこから「タケハヤは裕司かもしれない」という疑いを持ち、そこから「双子なら胎紋認証をクリアすることが出来るのではないか?」という推測をしたことを。
「……そうだったんですね」
話を聞き終えたクシナダは、何だか感慨深げな表情をしていた。
自分の婚約者の血縁者を見つけられたことが嬉しいのかもしれない。
そして
「ええと、これからは裕子姉さんと呼んだ方がいいのでしょうか?」
そんなことをおずおずと言ってくる。
だが裕子は首を左右に振り
「もう、7年前の話で。私の弟はそのときにいなくなったんです」
タケハヤは言っていた。
自分はアブダーに記憶を消されたと。
そしてその記憶は絶対に戻ることはないと。
ならばもう、実質死んでしまったのと同じだ。
タケハヤは裕司では無い。
元の肉体が裕司の肉体だからDNAが同じであるだけだ。
だから
「7年前の人間関係は無視して下さい。タケハヤさんもそう言うはずです」
そう、言葉にしたとき。
何故だか裕子は心が軽くなった気がした。
裕司はもういないのだ。
悲しいが、生まれ変わってしまった。
自分が裕司を想い、立ち止まることはタケハヤへの要らない重い荷物を背負わせるようなものだ。
タケハヤは1人の宇宙刑事として存在し、将来を誓い合った女性までいるのだ。
戻らない過去に囚われるべきではない。
その言葉を聞いたとき。
クシナダの彼女を見る目が変わった。
どこか他所の人という線を引いていた関係性から
まるで身内のような関係性を見る目に。
そして
「……裕子さん。いえ、裕子姉さん」
クシナダは裕子をそう呼んだ。
裕子は「だからそれは」と言おうとした。
しかしクシナダは
「私がそう呼びたいんです。……愛しい人のお姉さんだった人なんです。それに」
淡々とそう言って。続けて
「私の方が年下ですよ? ……言いましたよね。タケハヤとは元々義兄妹だったって」
そう言って、クスリと笑った。
「これからどうするか、ですけど」
クシナダは手にビニール袋を持っていた。
そこには、人間の指が入っている。
……ムラクモの指である。
ムラクモが撤退したのは、メタルスーツを電装した裕子の剣で、両手の指をほぼ全損してしまったからである。
両手がまともに使えない状態で、中身が素人とはいえ完全武装のブレイバーの相手は分が悪い。
きっとそう思ったせいだ。
「だから今、彼は再生医療を受けるのが急務です」
クシナダはムラクモを彼と呼んだ。
彼女はもう、ムラクモの真実を知っている。
裕子が教えたのだ。避けられない情報共有であったから。
言ったとき、彼女は。
とても辛そうな表情を一瞬浮かべたが……
それに対して裕子は何も言うことが出来なかった。
そしてそのまま、今に至るのだが。
今の彼女は冷静に見えた。
だから裕子もそこを踏まえ
「……そうですね」
クシナダの心境は脇に置き、現実の問題を考える。
ムラクモは再生医療を受けた後。
どうするつもりなのか。
もう一度クシナダを攫い、記憶を消すような真似をしてくるかもしれない。
今日あった出来事を無かったことにするような。
……アブダーには人間の記憶を完全に消してしまえる技術があるのは確実なわけであるし。
(どうすればいいんだろうか)
アブダーはこれまで以上に手段を選ばなくなるかもしれない。
一番隠しておきたい情報が開示されてしまったわけだから。
そう思い、裕子の気持ちが沈んだとき
クシナダは言った。
「裕子姉さん。これはチャンスです」
(え?)
裕子は顔を上げた。
そう言ったクシナダの顔は……
勝利への糸口を掴んだ者の表情であった。