第一部第一話 無敵ヒロインのアスカさん!!
「ありがとう。僕を好きだと言ってくれて。僕も、アスカが好きだったよ…」
精神世界でもいいから、せめてこれだけは言っておきたかった。
『無敵ヒロインのアスカさん!!』
好き、だった…?」
遠ざかろうとする、14年恋焦がれた、飛びきりバカな奴の背中を私はだんだんと冴えゆく視覚で追っていた。
そっか、好きだった…か…。あーあ、だった、ね…。
そうだよね。
そうだよねぇ…。
シンジがそういうやつだってわかってて、私も「好きだった。」なんて言ってしまった。
私は、シンジに過去形にして伝えた。もう私は大人になってしまった…、そう言って彼から離れた。
何が大人になっちゃった、だ…。何が…
この精神世界の中に入って、シンジに起こされるまでに、私は様々な世界を見た。
とてもじゃないがいい世界はなかった。
ある世界では、私(正確には私のオリジナル)の精神が崩壊し、エヴァに乗れなくなった後、シンジのオカズにされ(ここ重要。別にいやってわけじゃないわよ)、挙句やっと復活したと思ったとたんにSEELEの差し金の白いエヴァに弐号機もろとも捕食された。それがトリガーとなり人類補完計画が実行され、サードインパクトが起きた。
気が付けば真っ赤になった海辺にシンジと二人っきり。
そこで私はシンジに首を絞められた。
気持ちはわからんでもない。あの場面では絶望しかなかった。
周りには何もない。生きる希望?そんなものどこにもない。
いっそのこと、とでも思ったんだろう。事実、私は嬉しかった。
素直になれなかった私。でも私しか見てほしくなかった私。
あの時ばかりは私だけを見ていた。
歪んでいるがそう思えた。
でも、あいつも私も子供だった。
結局すべてに踏ん切りがつかなくて、どちらも死にきれなかった。
すべて輪廻の輪に戻っていった。
そのほかの世界でもすべからく私たちは傷つき、傷つけあい、そして…恋に落ちた。
ろくな未来は残っちゃいないっていうのにね。
でも、そんな惚れて惚れられての繰り返しも今日で終わり。
もう、終わりなのね…。
どうしてだろう。エヴァがなくなる世界なら幸せになれるはずなのに、ちっともうれしくない。
どうして、もうあいつと会えない気がするんだろう。
「あいつも、大人になったってことか…。」
あのガキシンジが、大人になったってのに、なんでこんなに、なんでこんなに、
悲しいんだろう…。
「ってしっとり別れが来るとでも思ったかバカシンジ!!」
なんとここまで物思いにふけっていた時間は1秒足らず。14歳で大学を卒業した天才アスカにはそれくらい造作もないことである。
むくりと起き上がると脱兎のごとくシンジに向って駆け出した。
「どぅおりゃぁぁぁ!!」
飛び蹴りをお見舞いする。
「お見舞いするぞぉ!!」
「アスカ急な大泉洋やめて!」
「うるさい!軍隊上がりなめんじゃねえ!!」
「あぁ!痛い痛い顔はやめて顔は!いったそばから顔殴らないで!」
「ふん!これで終わると思うなよぉ!」
腹いせ交じりにアスカはシンジに馬乗りになった。
「あ!ちょっと!精神世界だからって手足をちょうちょ結びしようとしな…ぎゃぁぁぁ!!」
「精神世界なんだからなんてことないでしょう!!もう一発!!」
「ちょっと勘弁して!さすがに意識が飛ぶって!このままだと世界を再構築できなくなる!!」
ここでアスカはようやく手を止める。ただ馬乗りになったままだが…。
「ふん!あんたえらくなっちゃったものね!世界を再構築とか…私の気持ちも知りもしないで…。ほんっと気持ち悪い。」
そうしてシンジの喉元に手を置き、おもいきり首を絞めた。
「うぐぅっ…。」
それでもお互いにまっすぐと相手を見ることをやめない。
おもむろにアスカは手を放した。
「あんたねえ、私の心もわからないのに世界を作ることなんてできると思ってるわけ!?…思ってるわけぇ?」
さっきまでの威勢はどこへやら、シンジの胸へ顔をうずめる。
「アスカ…」
「こっち見ないで…。好きな人にこんな汚い顔見せられない。」
「好きって…。」
「好きに決まってるじゃない!!そうじゃなきゃ好きだったなんていって出撃しないわ!!」
アスカはより深くシンジの胸元に顔をうずめた。
「あたし素直になれないのよ。できる限り頑張ってあれだったのよ。もう会えないってわかってたから…。」
「僕ももうアスカには会えないと思って…だからせめて好きだということを伝えようと思って…でも過去形にしなきゃ僕に未練のこっちゃうかなと思って。」
「あんた…あんたばかぁ!どうやったって好きな相手に未練は残るにきまってるじゃない……。」
「でも、僕とのかかわりを覚えていたら…。この後僕は戻ってこれないかもよ…。それなのに僕に未練があったら…、僕のこと覚えていたらそれが引き金となって今までの最悪な世界を思い出してしまうかもしれない。それじゃ、幸せになれないよ…。」
「それならそうであんなあいまいな風に伝えるんじゃないよ!これだから日本人はぼやぼやしてんのよ!」
相変わらず胸元でじたばたと暴れる始末である。
「無茶言わないでよアスカ…そんなこと言ったら君まで迷惑をかけてしまう。」
「もうかけられているわよ!!そもそも人を好きになった時点でめんどくさいことになることは割り切っているのよ!!」
ようやく顔を上げたアスカ。まっすぐとシンジの顔を見つめる。
「いつだったか、あんたに言ったよね…。シンジのすべてが私のものにならないのなら…」
「私何もいらない、だっけ。」
「ん。シンジ、あんたがいなきゃ私生きてる意味ないってこと。たとえ命でさえもね。まああれは惣流のほうが言ったらしいけど。」
まっすぐ見つめる青い瞳の中に一寸の曇りもない。
「お願いシンジ。あんたが犠牲にならなきゃいけないなら私も一緒に連れてって…。」
その時シンジは悟った。この瞳を拒絶するのは不可能だ…。惚れてしまったのだから。
「ほんとに後悔しない?」
「するわけないでしょう!好きなやつと思いが通じ合えたなら、もう離したくないもの…。おねがい…。」
「わかった。本当にいいんだね…?」
その問いにアスカは答えず思いのたけをすべて口づけに託した。
「あちゃー、まるっきり二人の世界ね…。」
遠く離れたところから二人を見ているのは、シンジの面影がある女性、すなわち母親の碇ユイだ。
もともと自らを身代わりにシンジたちは全員エヴァのない平和な世界に返すつもりだった。
シンジの望み通りかかわった人たちの記憶からシンジのこと、今までの世界のことは消してしまうつもりだった。ただ一人を除いて…。
「ありゃー、ワンコ君たち盛大にラブコメしてるにゃあ。」
そうコネメガネこと真希波・マリ・イラストリアスである。
「私ができなかった母親の代わりをマリにしてもらうつもりだったんだけどねえ…。」
「ユイさんが気にすることじゃないにゃ。大体このシーン本編にないから。主の創作だから。」
「そういうメタい発言してるとろくすっぽラブコメ見せないまま元の世界に送り返すわよ。」
「うっ、それは困るにゃあ。」
そんな二人にかまわずラブコメは展開される。
「みんなはシンジと出会って…エヴァのある世界で出会って幸せだったのかしら。」
「その答えが今目の前で広げられているんじゃないかにゃあ。世界は間違っていたとしても、出会いまで否定されることはないよ。」
「ふっ…そうね。じゃあ、出会いを授けてあげましょう。また出会えた時にきずなが感じられるように…。」
「シンジ君にアスカ…お待たせ!」
そうして新たな世界への旅立ちを迎えたのだった。
「だーれだ?答えれなかったらわかってるわよね?」
「わかるよ。スタイルがよくて…」「うんうん」
「強いだけじゃなくて本当は優しくて…」「うん…うん!?」
「僕と相思相愛になってくれたかわいいアスカ、だろ?」「…!!」
そこには確かにアスカが茹でだこのごとく真っ赤になって立っていた。
「もう、シンジのバカぁ…。」
「はははは!ごめんって。でも本当に思ってるよ。」
昔のアスカだったらここで平手の1発でも飛んでいただろう。
そうずーっとずーっと前にも思える、でも実はそう遠くない昔。
みんながみんな、何かのために戦い、傷つき、失い、無に帰したその世界。
でも、その中でできた絆はそう簡単に切れるものではない。
「ありゃ、姫に先を越されちゃったみたいだにゃあ。」
「げ、コネメガネ。あんたまで覚えてる必要はないのよ。」
「姫はひどいにゃあ。せっかく世界に連れ戻してあげたのに。」
「ふ、ふん!それについては感謝してるわよ…。」
「あれぇ?姫らしくもない素直さだにゃあ。さてはワンコ君を手に入れ…」
「いいじゃない細かいことは!」
「そういえばなんだけど、アスカはアスカなんだろうけど、どちらの名前で呼べばいいんだい?」
「そうねえ、今の私、すべての世界の記憶があるからどちらとも取れないのよねえ。」
「そんな時は身分証を見てみればいいにゃあ。財布にでもなんか入っているでしょ?」
そうしておもむろに自らが持っていたカバンの中をガサゴソとあさり始めた。
「あった!マイナンバーカード!どれどれ…ふぇぇ!?」
そこには『碇・アスカ・ラングレー(旧姓惣流)』の名が刻まれていた。
「ありゃあ、ユイさん。とんでもない置き土産おいってったにゃあ。」
あまりに突然の結婚に理解が追い付かずまたも茹でだこになる2人。
「まあでも、二人とも異存はないでしょ?」
「そ、そりゃあ…。」「う、うん…。」
「ほいじゃあ、なんも問題ないじゃない。ほら、夫婦の誓いってやつをやっちゃいなさいな。」
「アスカ…。」
想い人に見つめられさらに顔が真っ赤になるアスカ。しかし、シンジもこうなったら引き返せない。心の準備が云々とか言っている場合ではないのだ。
「アスカ。僕たち何度も世界をやり直して、傷ついて、傷つけて、失って、途中で自棄になったり、本当に大切なものを失ったりして、でもどの世界でも僕がずっと思ってたことを言うね。」
「どの世界でも、アスカを愛してた。それは今も変わらない。」
「僕と、ずっと一緒にいてください!お願いします!」
「あんたばかぁ?もちろん……もちろんいいに決まってるじゃない!!」
「今後も…」
「一生…」
「「よろしくお願いします!!」」
そう言って、誓いのキスが交わされた。
ユイさん、あなたの自慢の息子さんはいま、最愛の人を見つけて幸せの真ん中にいますよ…。
メガネが濡れるほどの涙を流しながら、祝福の時を見つめた。
「そうと決まったなら、結婚式あげましょ!新婚旅行にも行きたいなあ!」
「ええ!?アスカいくらなんでも気が早すぎない!?いったんさ、周りのことをもう少し見てみようよ。この世界がどんなふうに前と変わったのかも知りたいし…。」
そう言っている間にも、シンジの最愛の人は駅の階段を上り始めていた。
「ほらぁ!早く早く!!」
「アスカったら…。」
そういって追いかけていくシンジ。
常夏が終わりを迎えようとしていた。
第一話 終劇