ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第1話

実況

「謎のウマ娘、圧倒的な逃げ! 今、ゴールイン!!

後続に6馬身差!!

なんだこの走りは!!」

どよめきが遅れて押し寄せる。

 

観客

「おいおい、あの耳付きの兄ちゃんナニモンだ?」

「飛び入り参加で勝ちやがったぞ!」

ざわめきは熱狂というより、困惑に近い。

すぐに記者たちが雪崩れ込む。

 

マイクが突き出され、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

 

何を言っているのか、正直わからない。

ここは異国の地だ。

だが、たぶん――

名前を聞かれている。

 

―俺の名前。

なんて名乗るべきだ?

 

存在しなかったウマ娘。

トレセン学園のヴィラン。

騒動の中心。

 

それでも――

恩師が、恩人が、呼んでくれた名前。

喉の奥が、わずかに震える。

「……ゼロバンゲート」

一瞬、空気が止まる。

 

記者

「ゲートナンバー“ゼロ”!?」

ざわめきが、嘲りに変わる。

「ゼロ?」

「ハハ、ずいぶんクールな名前だな」

笑い声。

だが、俺は視線を逸らさない。

 

ゼロは、始まりだ。

少なくともそう思わないと立っていられなかった。

 

――

秋川理事長からは引き止められた。

「あなたが去る必要はない」と。

 

それでも、俺は

トレセン学園を去ることにした。

 

あの人達の厚意にすがって生きていけば、

きっと安泰だった。

 

守られて、許されて、

帰る場所もそのまま残されて。

でも――

走りたい。

その衝動だけは、どうしても抑えられなかった。

 

何より。

 

榊原トレーナーに教えてもらった走りを、

絶やしたくなかった。

あの人がくれたのは、名前だけじゃない。

 

姿勢。

覚悟。

逃げ切る勇気。

それを守るには、

自分で立つしかなかった。

 

だから俺は、海を渡った。

あてもなく。

辿り着いたのが、この港町だ。

 

潮の匂いと酒の匂いが混じる、

毎日レースが行われる享楽的な街。

 

勝てば歓声。

負ければ沈黙。

名前なんてすぐ忘れられる。

だからここでは、俺は――

“耳付きの兄ちゃん”。

それでいいと思っていた。

ゼロである必要は、ないと。

 

――

 

「ゼロ〜?」

色っぽい女性の声が、ざわめきを割った。

「アンタ、こっちに来てるなら声くらいかけなさいよ。

ホントに無愛想なんだから」

 

日本語。

その瞬間、心臓が一拍遅れる。

 

記者たちをかき分けながら、長い髪の女性が歩み寄る。

「記者の方々、ちょっとごめんなさいね。

この子、私の親戚なの。シャイボーイだから、許してあげて?」

 

流暢な現地語も混じっている。

記者たちがどよめき、少しずつ引いていく。

 

親戚?

俺は目を瞬かせる。

知らない顔だ。

 

日本人。

いや、少なくとも日本語話者。

 

しかし向こうは迷いがない。

俺の腕にするりと自分の腕を絡める。

 

柔らかい香水の匂い。

「行くわよ、ゼロ」

 

ゼロ、と。

当たり前のように呼ばれる。

「……?」

首を傾げた瞬間、強引に引っ張られた。

 

フラッシュの残光が遠ざかる。

港の喧騒を抜け、路地へ。

 

どこへ連れていかれるのか。

 

この人は誰なのか。

 

さっぱり分からない。

ただひとつ分かるのは――

俺の名前を、迷いなく呼んだことだけだった。




この街のレースは競馬ですが、参加資格はウマ娘である必要はありません
速ければヒトも走っていいですけれど、
まず誰も挑戦しませんね。

そこへゼロの登場というわけです。

速い男、しかもウマ耳としっぽが生えている
これは注目の的になります
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