ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
街の外れ。
小さな教会の裏手に、陽の光を浴びた花畑が広がっていた。
金髪のウマ娘は、
その花々にそっと水をやりながら、
静かな時間を過ごしていた。
フェアレディ
「……グロリア!」
その声が届いた瞬間、
グロリアと呼ばれたウマ娘は、
手にしていたジョウロを取り落とした。
口元を手で押さえ、
叫び出しそうになるのを必死に堪えている。
振り返った瞳は、
驚きと、喜びと、痛みが混ざったように潤んでいた。
グロリア
「……フェアレディ……?」
その声は震えていた。
まるで、ずっと会いたかったのに、
会ってはいけないと思い込んでいた相手を前にしたような――
そんな複雑な響きだった。
フェアレディ
「少し話せるかしら?」
グロリア
「ええ!もちろん……!
ちょっと待って!」
グロリアは花畑を大きく跨ぎ、
スカートを押さえながらフェアレディのもとへ駆け寄った。
その動きは昔と変わらず、
どこか無邪気で、眩しい。
――
キッチンではティーポットから湯気が立ちのぼり、
お揃いのカップに紅茶が注がれていく。
グロリア
「お酒じゃなくてごめんなさいね。
その……何から話そうかしら」
指先が落ち着かない。
フェアレディの前だと、昔の癖が出る。
グロリア
「えっと……そう!
聞いたわ。ブルーバードを抜いて1位になった子がいるって!」
その声は明るいのに、
どこか“無理に明るくしている”ようにも聞こえた。
フェアレディの胸の奥で、
何かが静かに軋む。
彼女はカップにそっと口をつけ、
紅茶の香りを吸い込むようにして、
長く息を吐いた。
その仕草だけで、
グロリアは何かを悟ったようだった。
瞳がまた潤み、
唇が震える。
グロリア
「……ごめんなさい!
怒ってるのよね?」
声が裏返る。
グロリア
「私……あなたがくれた、ブルーバードとの対戦の機会から逃げた……。
そんなの、許されるはずがないわよね……」
言葉を絞り出すようにして、
グロリアは視線を落とした。
その肩は小さく震えている。
後悔と、罪悪感と、
そして“会いたかったのに会えなかった年月”が全部混ざっていた。
フェアレディは、
その姿を静かに見つめていた。
怒りではない。
軽蔑でもない。
ただ――
胸の奥に沈んでいた“あの日の痛み”が、
ゆっくりと浮かび上がってくるような感覚だった。
グロリア
「楽しかったわよね……?
二人でお金を稼いで、この街から抜け出そうって。
レースのたびに、思いを確かめあって……」
その声は、懐かしさと後悔が混ざったように震えていた。
フェアレディは、
カップを両手で包み込むように持ちながら、
ただ黙ってグロリアの言葉に耳を傾けていた。
紅茶の湯気がゆらりと揺れる。
その静けさが、かえって二人の距離を際立たせる。
グロリアは続けようとして、
一度唇を噛んだ。
グロリア
「……あの頃の私たち、
本当にどこへでも行けると思ってたのにね」
フェアレディの表情は変わらない。
けれど、その沈黙には
“あの頃の気持ちを忘れたわけじゃない”
という重さがあった。
グロリアの瞳がまた潤む。
「でも、聞いて……。
また、二人で夢を叶えられるの。
今度の仕事、首尾よく運べば、
あなたを胴元なんてきな臭い仕事から足を洗わせてあげる。
二人でまた暮らしましょ。
私があなたを“守って”あげられるの」
その言葉は甘くて、優しくて、
けれどどこか歪んでいた。
フェアレディは、
カップをそっと置き、
静かに問いかけた。
フェアレディ
「一つだけ聞かせて。
グロリア……あなたは、ブルーバードと戦うつもりはあった?」
グロリア
「え……?
もう“そんなこと”どっちでもいいじゃない?
回り道をしたけれど、やっと二人の夢が叶うのよ!」
その瞬間、
フェアレディの瞳の奥で、
何かが静かに、確かに、崩れた。
フェアレディ
「……素敵ね。
わかった。セドリックと話をつけてくる」
立ち上がりながら、
ほんの少しだけ微笑んだ。
フェアレディ
「グロリア、会えて嬉しかったわ……」
その声は優しいのに、
どこか遠かった。
フェアレディは教会を出て、
石畳の上で一度だけ深く息を吸った。
そして、
震えを押し殺すようにタバコに火をつけた。
火がついた瞬間、
その横顔から“さっきまでのフェアレディ”がすっと消える。
街の胴元としての顔に戻るのではなく、
もっと奥にある――
誰にも見せない、本当の彼女が浮かび上がる。
吐き出した煙は、
まるで胸の奥に溜まっていた何かを
少しだけ外に逃がすように揺れた。
グロリアは元フェアレディが担当していたウマ娘です。
爆発力はありませんが、堅実な走りで勝利を重ねてきた実力者です。
1度負けたら掛け金が逃げるこの街では、
確実に着順掲示板に入るのは素晴らしいことなのです。
しかし、その事をグロリア自身がどう捉えていたか
それは後々語られるかもしれません