ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
フェアレディ
「タイニィ、ちょっとおいで」
突然の呼び出しに、
タイニィは肩を跳ねさせた。
フェアレディ
「最近、ゼロとギクシャクしてるみたいね」
タイニィ
「えっ……
そ、それは……その……」
フェアレディ
「ちょうどいいわ。
もう彼から離れなさい」
タイニィの目が大きく見開かれる。
フェアレディ
「私、セドリックと組むことにしたから」
タイニィ
「……!
じゃあ、ゼロさんはどうなるんですか!?
あの人はまだ、この街で走ることを楽しみにしているんですよ!!」
フェアレディ
「そうね。それって何か問題?」
淡々とした声。
感情の温度がまるでない。
フェアレディ
「走りたければ機会は与えられるわ。
どう判断するかは彼次第だけど」
タイニィの唇が震える。
フェアレディ
「とにかくタイニィ。
もう接触は禁止。
いいわね」
タイニィ
「……はい」
その返事は、
今にも消え入りそうだった。
――
教会の扉が勢いよく開き、
静寂を破るようにセドリックが入ってきた。
セドリック
「グロリア! 良いニュースだ!」
グロリアは呆れたように眉をひそめ、
指先で口元を押さえた。
グロリア
「静かに。場所をわきまえなさい」
セドリック
「ああ、すまない。
それより、次のレースが決まったぞ」
彼は嬉しそうに身を乗り出す。
セドリック
「君が最終レースで、あの耳付きの野郎を負かす。
フェアレディも快諾してくれたよ」
グロリア
「……そう」
その声は薄く、温度がなかった。
セドリック
「どうした?
もっと喜ぶと思ったけれど」
グロリア
「もちろん嬉しいわ。
この前、フェアレディに会って話をしたところだから」
セドリック
「予想通りってわけか。
まぁ、こんなにも順調にことが運ぶとは思わなかったけどな。
俺にも運が向いてきた!」
グロリアはふっと視線を落とし、
小さく息を吐いた。
グロリア
「一つだけ、気になってるの。
いえ……気に入らないって言うべきかしら」
セドリック
「あの耳付き野郎か。
そっちならもう手を回してある。
安心してくれ、グロリア。
次の女王は君だ」
その言葉に、
グロリアは微笑んだように見えた。
けれど、その瞳はどこか遠かった。
――
オーラ
「で、私らにわざと負けて、耳付きの掛け金を釣り上げろって?
しかも、上手いこと怪我までさせろって言うのか」
フィガロ
「いいんじゃない?
タダで負けてやるのもつまらないし」
セドリックは満足げに頷いた。
セドリック
「君らにしか頼めないことさ。
やってくれるよな?」
オーラ
「あんたの親父がそうしろって言うんだろ。
反対する余地はない」
フィガロ
「しっかし、まぁ、随分積極的ね。
女王から逃げ回ってた時が嘘みたい♪」
その言葉に、
セドリックの笑顔がわずかに歪んだ。
セドリック
「そろそろ君たちも口の利き方を学んだ方がいい。
もうすぐこの街の支配構造は入れ替わる」
一瞬で空気が冷える。
セドリック
「俺の言葉は、親父の言葉と同じだと思った方が身のためだぞ?」
人の良さそうな笑顔は完全に消え、
その奥に潜んでいた冷徹な表情が覗いた。
フィガロとオーラは、
その変化を見て肩をすくめるしかなかった。
―レース当日。
いつもなら、
ドアをノックする音と一緒に
「ゼロさん、起きてください!」
という声が聞こえるはずだった。
けれど今日は、
部屋は静まり返っていた。
机の上には、
今日のお小遣いと、小さく折りたたまれたメモ。
― レース場には1人で向かってください
― 私は観客席から見守ってます。
― ご飯はちゃんと食べてくださいね。
タイニィ
ゼロ
「……やっぱり怒ってるんだな」
声に出すと、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
でも、
その痛みを押し込むようにして
ゼロはバッグの紐を握り直す。
ゼロ
「今日のレースは……負けられない」
荷物の入ったバッグを背負い直し、
ゆっくりと部屋を出た。
その背中には、
いつもより少しだけ重い影が落ちていた。
皆さんお気付きかと思いますが、
登場する人物のネーミングには法則があります。