ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
レース場に作られた特設ステージ。
照明が眩しく瞬き、音楽が鳴り響く。
セドリックの差し向けたウマ娘――
フィガロとオーラがステージ中央で踊っていた。
足の出た短いスカート。
胸元の大胆に開いた衣装。
二人の動きに合わせて、
観客の視線が吸い寄せられる。
ざわめきが熱に変わり、
ステージ前はすでに人だかりだ。
フィガロ
「みんなありがと〜♪
これから私たち、駆けっこするんで応援よろしくー♪」
その声に、
客席から歓声が上がる。
オーラは軽くウインクして、
ステージの端で足を組み替えた。
オーラ
「今日は派手にいくから、見逃さないでよ」
観客はさらに沸き立つ。
だが――
その華やかさの裏で、
二人の視線は一瞬だけ鋭く交差した。
“今日の仕事”を忘れていない目だった。
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ステージが終わり、
フィガロとオーラは控え室へ戻ってきた。
さっきまでの笑顔も、
観客を煽るような明るさも、
すっかり消えている。
衣装のまま椅子に腰を下ろしたフィガロは、
ふぅっと長い息を吐き、
俺の方へゆっくり顔を近づけてきた。
距離が近い。
息がかかるほど。
フィガロ
「ねぇ、耳付き〜?」
指先で俺の胸元を軽くつつく。
フィガロ
「分かる?
負・け・て・あ・げ・る」
一文字ずつ区切って、
まるで子どもに教えるみたいに囁く。
フィガロ
「ここ。この場所で抜いて?
分かる?」
その目は笑っているのに、
奥の方はまったく笑っていなかった。
オーラは壁にもたれながら、
無言でこちらを見ている。
その視線もまた、
“仕事”の目だった。
この国の言葉にも、
少しずつ慣れてきた。
多分、
レースの内容のことを言っているんだと思う。
位置取りを指定している……?
でも、承諾するわけにはいかない。
タイニィが見ている手前、
無様な走りはできない。
俺は本気で走る。
そのつもりで、ゆっくりと首を横に振った。
フィガロ
「……あーもう!」
突然、声のトーンが跳ね上がる。
フィガロ
「頭悪いの?
客の手前、わざとらしいとシラケるから
ちゃんと説明してあげてるのに!!」
彼女は俺の目の前で指を突きつける。
フィガロ
「いい?
こ・こ・まで!
こ・こ・まで先頭で は・し・ら・せ・て!!」
ジェスチャーはどんどん荒くなり、
指先が俺の胸元すれすれを何度も切る。
オーラは壁にもたれたまま、
呆れたようにため息をついた。
オーラ
「フィガロ、落ち着きなよ。
耳付きは本気で分かってないだけ」
フィガロ
「だからムカつくのよ!!
こっちは“仕事”してんの!!」
控え室の空気が一気に張り詰めた。
オーラは壁から背を離し、
ゆっくりと真っ直ぐに立った。
オーラ
「フィガロ、もういい。
私がやる。
アンタは好きに走れ。
耳付き、お前もな」
その声は低く、
さっきまでの軽さが完全に消えていた。
フィガロ
「……ふん!」
露骨に不機嫌なのが見て取れる。
足を鳴らしてそっぽを向いた。
控え室の空気が、
さっきまでとはまるで違う。
俺は思わず考えてしまう。
女性と話すのに慣れていないと、
こんなにもイラつかせるものだろうか……?
オーラはそんな俺の戸惑いを見透かしたように、
ほんの少しだけ口角を上げた。
オーラ
「耳付き。
あんたは本気で走るんだろ。
なら、それでいい」
その言葉は優しさではなく、
“覚悟を確認する声”だった。
フィガロは仕事に対してかなり真面目です。
ゼロの認識はズレていますが、
彼女は、レースに入る客を大事に思っています。