ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
観客席に座っていたタイニィは、
椅子を弾くように立ち上がった。
握りしめた拳が、怒りで震えている。
フェアレディはその袖を掴んだ。
フェアレディ
「……堪えなさい」
タイニィ
「どうして……どうして行かせてくれないんですか!?
ゼロさんは、レディさんのために走って……
あんな風にされてるんですよ!!」
声が震えている。
怒りだけじゃない。
悔しさと、悲しさと、無力さが混ざっている。
フェアレディは何も言わない。
ただ、袖を掴む指先が――
小さく、小さく震えていた。
その震えは、
タイニィの怒りを止めるための力ではなく、
自分自身を必死に抑え込むための震えだった。
――
痛い……!?
足に鋭い痛みが走る。
ねじったのか、打ち付けたのか。
意識がはっきりしている分、痛みも鮮明だった。
砂の匂い。
観客のざわめき。
遠くで誰かが叫んでいる。
視線を落とすと、
足元にオーラが倒れていた。
……笑っている?
頭を打ったのか?
状況が掴めないまま、
俺は駆けつけてきた救急隊員に手を伸ばした。
ゼロ
「……あっちを……先に……!」
オーラを先に運べと、
痛む腕で必死に指示する。
救急隊員は一瞬だけ驚いた顔をしたが、
すぐにオーラの方へ駆け寄った。
俺の足はまだ激しく痛む。
でも――
それよりも先に助けるべき相手がいると思った。
フィガロ
「オーラ! しっかりして!
オーラ!!」
フィガロは涙を流しながら、
担架に乗せられたオーラに必死に声をかけていた。
その姿を見て、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
――可哀想に。
親友が怪我したんだもんな。
俺は自分で立ち上がろうとした。
だが、足が悲鳴を上げる。
痛い……!
足に力が入らない。
歯を食いしばっても、
痛みは容赦なく押し寄せてくる。
結局、
俺にできるのは痛みに耐えることだけだった。
視界の端で、
フィガロがオーラの手を握りしめて泣いている。
その涙が、
本物なのかどうか――
俺には分からなかった。
---
―医務室にて。
セドリックが手を叩きながら入室してきた。
セドリック
「いやぁ、最高のパフォーマンスだった!
完璧な仕事だよ、君たち」
フィガロ
「……ふん!」
オーラ
「出てってくれ。
今はあんたの顔は見たくない」
オーラは目を合わせようともしない。
そんな彼女の態度を見て、
セドリックはあからさまに不機嫌な顔を作る。
セドリック
「実は少し肝が冷えたぞ。
次はもう少し早く仕事を片付けてもらいたいな」
吐き捨てるように言い残し、
乱暴にドアを閉めて出ていった。
静寂が落ちる。
オーラ
「……耳付き、速かったな」
その声は、悔しさでも怒りでもなく、
ただ事実を認めるような、静かな響きだった。
フィガロ
「どうしたの?
”仕事”の後に相手のことを言うなんて、
あなたらしくもない」
鼻で笑ったあと、
フィガロは小さく呟いた。
フィガロ
「……まぁ、走ってる時、楽しかったけどね」
オーラ
「私もだ……」
二人の声は、
誰にも聞かれたくない秘密のように小さかった。
―
―別の病室。
痛み止めが効いてきたようだ。
足の指は動かせる。
二度と走れないというわけではなさそうだ。
胸の奥で、ほっと息が漏れた。
その時、
勢いよくドアが開いた。
タイニィ
「ゼロさん……!
大丈夫ですか!?
えーっと、大丈夫ではないことは見てわかるんですけど!
その……ゼロさんの気持ちとか、色々な面で……大丈夫ですか……!」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、
タイニィがベッドに駆け寄ってくる。
その隣にはフェアレディ。
表情は冷静に見えるが、
握りしめた手がわずかに震えていた。
俺はタイニィの手をそっと握った。
その手は温かくて、
さっきまでの怒りはもう消えているようだった。
ゼロ
「……大丈夫」
そう言って、笑ってみせた。
タイニィはさらに涙をこぼしながら、
安心したように俺の手を握り返した。
フェアレディは何も言わない。
ただ静かに俺の足を見つめ、
その視線の奥に、
言葉にできない感情が揺れていた。
いよいよ最終話に向けて、
登場人物達の感情が張り詰めていきます