ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第16話

今夜のレースに向けて、

ウォーミングアップをかねて走る。

 

痛み止めは効いている。

あとは、どこまで走れるかだけだ。

 

タイニィは心配そうな顔で、

少し距離を空けながら後ろをついてくる。

 

潮風の匂い。

頭によぎるブルーバードの歌声。

 

腕に付けられた爪痕の方が、

足の痛みよりも鮮明に思い出される。

 

気がつくと俺は、

ブルーバードが歌っていた店の前に立っていた。

 

タイニィ

「またブルーバードさんのことを考えてたでしょ……?」

 

呆れたように言うけれど、

その表情に怒りはない。

むしろ、どこか優しい。

 

ゼロ

「あ、いや、その……」

 

タイニィ

「男の人って……。

 でも、わかる気がします。

 私もゼロさんが来てから、

 この街を歩くのが楽しいんです♪」

 

潮風が吹き抜ける。

その一言が、胸の奥に静かに落ちた。

 

―カフェ。

 

グロリア

「座って」

 

フェアレディの姿を見つけると、

彼女は微笑みながら椅子を引いた。

その所作は、育ちの良さが滲み出ている。

 

グロリア

「今夜ね。

 やっとあなたを解放してあげられる」

 

フェアレディは静かに耳を傾けている。

その表情からは、もう迷いが消えていた。

 

グロリア

「ゼロだっけ?

 耳付きの彼、災難だったわね。

 まぁ、この街のレースにトラブルは付き物だし」

 

その一言で、

フェアレディの表情がわずかに曇った。

 

――昨日、レース場にいなかったのに。

ずいぶん耳が早いわね?

 

フェアレディ

「……」

 

グロリア

「……!」

 

一瞬で空気が変わった。

グロリアの笑顔が固まる。

まるで“安全圏”から覗いていたつもりが、

思わぬところで足を滑らせたように。

 

フェアレディは何も言わない。

ただ、静かにグロリアを見つめている。

 

その沈黙が、

グロリアにとっては何より痛かった。

 

フェアレディ

「ゼロは本気で走るわよ?

 大丈夫なのね?」

 

グロリア

「ええ。もちろん。

 私もそのつもりよ。

 レースであなたの信頼を取り戻して見せるわ」

 

フェアレディ

「……期待してるわよ」

 

それだけ呟き、

フェアレディは店を後にした。

 

ドアが閉まる音が、

妙に冷たく響く。

 

グロリア

「私はもう勝っている。

 走るだけ……」

 

そう言いながら、

カップを持つ指が震えていた。

 

自信の言葉とは裏腹に、

胸の奥に広がるのは不安か、嫉妬か、

それとも――

届かない誰かへの想いだった。

 

観客

「メインレースの出走ウマ娘、グロリアだって?」

「ほら、あのブルーバードにあと一歩まで迫ったグロリア」

「でも耳付きの兄ちゃんはブルーバードに勝ったんだろ?」

「いや、怪我してるって話だ」

「今夜の馬場は荒れるぞ……」

 

ざわめきが波のように広がっていく。

期待と不安と、少しの好奇心が混ざった声。

 

――そのすべてを、

セドリックはVIPルームから見下ろしていた。

 

セドリック

「上々だ。

 掛け金は過去最高、客も満員。

 どうだ、親父。

 これが俺の手腕だ」

 

“親父”と呼ばれた男・プレジデントは、

グラスを揺らしながら静かに笑った。

 

プレジデント

「ほぅ……。結果が楽しみだな。

 お前はどうみる? “スカイライン”」

 

スカイラインと呼ばれたウマ娘はターフの方を一瞥し、返事をした

「……。

 勝負になるのか?」

 

その声は低く、

どこか迷いを含んでいた。




登場人物はそれぞれ『この街が好き』と言っています。
このフレーズは、有名なミュージカルを意識しています。
ご存知の方いらっしゃいますか?
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