ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
俺はゲートに入る。
1番外側のゲート。
足の痛みは軽い。
けれど、どこか体に重りがついたような違和感がある。
深呼吸をひとつ。
潮風の匂いが胸に入ってくる。
そのとき――
観客席がざわめいた。
グロリアが、スカートの裾を少し持ち上げて観客席にお辞儀をしていた。
金色の髪が風に揺れ、光を弾く。
観客
「綺麗……」
「耳付きは強敵だろ?」
「なんであんなに落ち着いていられるんだ?」
黄色い歓声が波のように広がる。
グロリアは片手を胸の前で軽く振り、
そのまま優雅にゲートへと歩いていった。
まるで、
このレースが自分の舞台であることを疑っていないように。
―
タイニィ
「ゼロさん……」
彼女は消え入りそうな声でつぶやき、
胸の前でそっと両手を組もうとした。
その手を、フェアレディが素早く掴んだ。
フェアレディ
「祈ってはダメ。
やるべきことをやったのなら、
もう見届けるしかないの……」
その声は驚くほど力強かった。
迷いも、弱さも、そこにはなかった。
タイニィは目を見開き、
掴まれた手をそっと見つめる。
フェアレディの手は温かい。
けれど、その温かさの奥には、
ゼロに賭けた者だけが持つ“覚悟”があった。
一斉にゲートが開く。
まずは三馬身、抜け出した。
前を見る。
俺の走りは変わらない――はずだった。
だが、足がついてこない。
確かに痛みはある。
けれど、恐れはない。
それなのに……
体のどこかに重りをつけられたような違和感が、
一歩ごとにじわりと広がっていく。
俺の横を、ウマ娘たちが次々と通り過ぎていく。
風が巻き上がる。
砂が舞う。
視界の端で、色とりどりの勝負服が流れていく。
グロリアは先頭集団の中央にいた。
抜け出さない。
焦らない。
まるで“勝つべき位置”を知っているかのように。
俺は――
最後尾に沈んでいった。
落ち着け。
目の前には誰もいない。
まだ俺の進路は開けている。
……おかしい。
シッポに力が入らない。
まるで血が通っていないように、
感覚がどこか遠い。
いつものようなスパートがかけられない。
目を閉じる。
思い出せ。
走る理由。
自分を追い込むんだ。
きっとそうすれば――力が湧く。
俺は歯を食いしばった。
実況
「先頭集団、向正面に入りました!
グロリアは四番手の好位置!
抜け出す隙を伺っているのか?」
「対して、ゼロバンゲート……どこにいるのか?」
「……いた、最後尾十八番手!
どうした!?
昨日のアクシデントを引きずっているのか!!?」
観客
「……なんかつまらなくないか?」
「ああ、なんでだろな」
「普通のレースだ」
ゼロに賭けていた客が、
馬券を破り、席を立っていく。
紙が破れる音が、
砂の上に落ちる足音よりも冷たく響いた。
―VIPルーム。
セドリックはモニターを見て、
口元を歪めた。
セドリック
「もう決まったな♪
親父、ちょっと早いが余興は終わりだ。
店を用意してある。祝杯と行こう」
プレジデント
「黙れ。最後まで見ろ」
その声は低く、重かった。
スカイライン
「……動くぞ」
彼女の瞳が、
ゼロの走りの“何か”を捉えていた。
このレースに負けたら、
八百長を認めることになる。
ブルーバードの愛した街が汚される。
どれも正解で、
どれも自分には当てはまらない。
そうじゃない。
俺が走るのは――
誰かのためなんかじゃない。
実況
「第3コーナー!
グロリア、加速!
先頭へ抜け出した!
このままゴールラインを割るか!」
「ゼロバンゲート、
もはや着順争いにも加われません!」
観客
「耳付き!真面目に走れよ!」
俺の堂々巡りを切り裂くように、
観客が怒鳴り、飲み物のビンを放り投げた。
目の前で、硬い音が鳴る。
その音で――
俺はやっと理解した。
負ける。
それなのに、
レースの後のことを考えていた。
負けられない理由があるから勝てる
それは追い込まれた人が考えるご都合主義なんです
では、勝つにはどうすればいいのでしょうか?
ゼロは答えを見つけられるのか。
次回、いよいよ最終話です。