ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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最終話

 

俺は背負うとダメだな。

 

そう思った瞬間、

激痛が走った。

 

足じゃない。

ブルーバードの爪痕からだ。

 

――あんなつまらないやつに負けたら許さない。

 

そう言われた気がした。

 

まだ出来ることがあるはずだ。

 

呼吸が深くなり、視界が狭まっていく。

世界がゆっくりと動き始める。

 

足の動かし方。

手の振り方。

今なら全部、思い通りになる。

そんな全能感が、胸の奥から湧き上がってくる。

 

芝を蹴る強さは――これくらいが、ちょうどいい。

前傾姿勢は――この位置だ。

 

こうやって走りたい。

 

それが、ひとつに繋がった瞬間だった。

 

誰かに腕を引っ張られ、

俺の体は前へと飛び出した。

 

---

 

グロリアは背後に、

ただ者じゃない気配を感じ取った。

しかし、振り返らない。

 

振り返ってしまったら――

もう認めてしまうことになる。

 

――自分は勝負から逃げている、と。

 

目前のゴール。

当然のように走り抜けるだけ。

それだけを考えればいい。

 

それなのに、心臓が早鐘を打つ。

呼吸が浅くなる。

 

グロリア

「もう少し……もう少しの辛抱……

 ここまで我慢してきたんだから、

 報われないなんておかしい……」

 

あと数百メートル。

 

その時だった。

 

風が通り抜けた。

 

黒い影だけを残して、

それは一瞬で過ぎ去った。

 

グロリア

「えっ?」

 

---

 

フェアレディ

「やっと追いついたわね」

 

タイニィは口を抑え、涙をこぼしていた。

声を出そうとしても、気持ちに体が追いつかない。

そんな表情だった。

 

俺はグロリアの背中を捉えた。

 

不思議と、焦りも緊張もない。

 

道路の障害物を避けるように、

ただ自然に、彼女の存在を追い抜く。

 

ああ、そうだ。

 

今まで俺は――

誰かに走らされてきた。

 

でも、もうその必要はない。

 

走りたい時に、走りたいように走る。

 

それだけだった。

 

実況

「……!

 申し訳ございません!

 私、言葉を失ってしまいました!」

 

「ゼロバンゲート、最後尾から――

 一気に先頭に躍り出た!

 何が起きたのか、もはや分かりません!」

 

観客席に熱狂が戻る。

誰かが叫び、誰かが泣いている。

 

アルコールの瓶が投げられ、

投票券が紙吹雪のように舞った。

 

真っ先に肩を落としたのは、

VIPルームのセドリックだった。

 

彼は肩を落とし、

呆然とモニターを見つめていた。

 

プレジデントはゆっくりと立ち上がり、

スカイラインに顎をしゃくる。

 

プレジデント

「お前は……客がシラケてるのが分からなかったのか?」

 

その声は怒りでも叱責でもない。

ただ、事実を告げるだけの冷たさだった。

 

セドリック

「ち、違うんです……!

 俺は……!」

 

プレジデント

「もういい。

 そこそこ楽しめた。

 ご苦労だったな」

 

セドリックの膝が崩れ落ちる。

誰も彼を見ない。

誰も助けない。

 

街はもう、

ゼロの走りに夢中だった。

 

 

”俺はまだこの街で走ることが出来る”

 

気がつけばゴールラインの先に立っていた

 

グロリアは2着でゴールした後、

フェアレディの方を見つめた

 

フェアレディはタイニィの頭を撫でながら

そっと目を伏せた

 

グロリア

「さようなら…”マイ・フェアレディ”」

 

彼女もまた二度と目を合わせようとしなかった

 

 

また港町に朝日が昇る。

 

鳥のさえずりを聴きながら走る。

潮風が肌に触れて、胸の奥が軽くなる。

 

船着場。

 

また飛び出して行こうかな。

次はどこでレースできるんだろう。

この足があれば、どこにでも行ける気がする。

 

そう思っていた。

 

タイニィ

「ゼロさん!

 またどこかに行こうとしてましたね!」

 

……そうだ。

金はタイニィが握ってる。

 

でも今、船に飛び乗れば雑用でもなんでもして、次の港までいけるかな?

 

そんなイタズラ心が芽生えていた時だった

 

???

「お前がゼロバンゲートか」

 

見慣れないウマ娘が立っている。

その視線はまっすぐで、迷いがない。

 

スカイライン

「スカイラインだ。

 思ってたより小さいな……」

 

タイニィ

「あの…私はタイニィですよ?」

 

スカイラインは一瞬だけ瞬きをした。

だが、表情は変わらない。

 

スカイライン

「……じゃあ、そっちがゼロバンゲートか」

 

ようやくゼロの方を見る。

 

スカイライン

「ご託はいい。勝負だ。

 埠頭を一周してここに戻ってくる。

 いいな?」

 

タイニィ

「勝負したいらしいです」

 

俺は問題ないが、賭ける金もない。

どうすればいい?

 

タイニィ

「ただ純粋な勝負がしたいみたいですけど…」

 

そういうことなら――

俺は首を縦に振った。

 

---

タイニィの合図と共に、俺はスタートを切った。

 

視界が細くなり、世界が止まる。

 

いい。

この感覚、しっかり掴んだ。

 

誰にも邪魔されない。

ただ走るだけの空間。

 

俺はその感覚の中、駆け抜ける

 

そして、そのままタイニィが引いたゴールラインを踏んだ。

 

しかし――

 

スカイライン

「……遅いな」

 

あれ?

 

タイニィ

「ゼロさんは遅くないです……

 でも、あなたはもっと早い!」

 

スカイライン

「また来る。

 もっと腕を磨いておけ」

 

腰が抜けた。

その場で尻もちをつく。

 

空がまた青い。

 

俺はまだ、この街で走っていられると思った。

 

END




これでゼロの物語は最後になります。

男のウマ娘なんておかしな設定でしたが、
ゼロがいなければ物語は走り出すことができませんでした。

午年の到来と共に降り来てくれた彼の行方を最後までおつきいただき本当にありがとうございました。

またお会いできる日を楽しみにしています。
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