ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第3話

フェアレディ

「あなた、言葉が通じないんじゃ生活に不便よね?

ちょっと待ってなさい。」

 

彼女は店の奥から小柄な少女を連れてきた

 

小柄なウマ娘

「レディさん、遅くてごめんなさい。

私まだ倉庫の整理が済んでなくて…」

 

フェアレディ

「いいのいいの。他の子にやらせるから、あなたには新しい仕事をあげるわ。

彼の付き人よ。

常にそばに居て助けてあげなさい。」

 

小柄なウマ娘

「付き人ってことは…''また''レースに挑むんですか!?」

彼女は小さくて、声も震えていて、

でも目だけは、妙に真っ直ぐだった。

 

“また”レースに挑むんですか?

その言葉に、微かな怯えが混じっていた気がする。

 

「''何度''でも出るわよ。」

フェアレディの声は軽い。

けれど、その軽さが逆に重い。

 

俺は二人の会話を理解できない。

けれど――

自分が“駒”として扱われていることだけは、

言葉が分からなくても伝わった。

 

―それでも。

胸の奥が、わずかに高鳴る。

また走れる。

それが罠だと、分かっているのに。

 

小柄なウマ娘は恐る恐る俺の方に近づき

お辞儀をする

「タイニィって呼ばれてます。よろしくお願いします。えっと、少しなら日本語、分かります。」

 

フェアレディはニヤリと俺に笑いかけた

「困ったら彼女に頼みなさいな。

通訳が必要でしょ?

あと、幼く見えるけど、この子、

この街じゃ立派な大人だから、

そのつもりで扱ってあげてね。」

 

とても厄介なことに首を突っ込んでしまった。

そんな気がした。

 

――

朝日が、海面を橙に染める。

潮の匂い。

冷たい空気。

肺が澄んでいく。

 

ここがどこだろうと関係ない。

走るという行為だけは、俺のものだ。

 

足裏の感覚。

呼吸のリズム。

一定に刻む心拍。

 

榊原さんから貰ったメニューは、

紙が擦り切れるほど見返してきた。

 

あの頃――

覆面をつけ、人目を避け、

ただ“速くなる”ことだけを夢見ていた日々。

 

あの時間を、無かったことにはしたくない。

だから、今日も同じように走る。

 

「はぁ、はぁ……! これ、あとどれくらい続けるんですか!?」

後ろからタイニィの声。

 

振り向くと、小柄な体で必死に食らいついている。

足取りは乱れているのに、

離れようとしない。

俺は少しだけペースを落とす。

「……もう少し」

それだけ言って、また前を見る。

 

本当は。

限界まで。

自分が壊れる直前まで。

そう言いかけて、飲み込んだ。

 

太陽が真上に来るころ、

地面からの熱が足裏に返ってくる。

汗で前髪が張りつく。

 

タイニィは膝に手をついて息を整えていた。

そのとき。

 

視界の端に、影が落ちる。

昨日、店にいた連中だ。

笑っていない。

でも怒っているわけでもない。

ただ、値踏みする目。

 

タイニィの肩が小さく跳ねる。

短い言葉が交わされる。

低く、乾いた声。

タイニィは唇を噛んでから、こちらを見上げた。

「……ブルーバードさんが、話があるって……」

少し間を置いて、

「……従ったほうが、いいです」

その“いいです”に、諦めが混じっている。

 

俺は周囲を見る。

逃げ道はある。

走れば振り切れる。

 

でも――

逃げたら、追われる。

それは昨日、もう学んだ。

「分かった」

それだけ答えて、歩き出す。

 

取り巻きの背中を追う。

潮の匂いが、さっきよりも重い。

タイニィが小走りで隣に並ぶ。

 

小さな手が、袖をぎゅっと掴む。

「……あの人、機嫌がいいときほど、怖いんです」

ゼロは何も言わない。

ただ前を見る。

心拍は、レース前よりも静かだった。




※タイニィは本名ではありません。
小柄なので、そう呼ばれています。
年齢はゼロと同じくらい。

フェアレディは、タイニィを大人として扱ってあげてと言いましたが、ちょっと含みのある言い方です。

ゼロがそれに気づくことはないかもですけどね。
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