ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第4話

扉を開けた瞬間、

熱気と音が押し寄せた。

 

笑い声。グラスの触れ合う音。

そして――歌。

ステージの中央。

 

スポットライトを浴びて立つブルーバードは、昨日のあの荒々しい女とは別人だった。

 

背筋は真っ直ぐ。

指先まで神経が通った所作。

透き通るような声が、店内を包む。

 

観客は彼女の所作一つ一つに歓声を上げる。

黄色い声が飛ぶ。

「ブルー!」「最高!」

昨日の啖呵も、睨みも、

ここにはない。

 

この街の歌姫。

そんな言葉が、自然と浮かぶ。

 

――強い。

走りだけじゃない。

この街そのものを、掌で転がしている。

俺は、気づけば見入っていた。

 

タイニィが小さく囁く。

「……この時間は、誰も逆らえません」

 

最後の音が伸びる。

店内の空気が震える。

ブルーバードは目を閉じたまま、

ほんの一瞬だけ俺を見た。

 

その視線は――

挑発でも、怒りでもない。

どこか、寂しそうだった。

 

拍手が爆発する。

歓声が渦を巻く。

 

彼女は深く頭を下げ、

ゆっくりとマイクを握る。

「みんな、ありがと」

 

歓声がまた上がる。

 

「今日はね、特別なお客さんが来てるの」

 

ざわめき。

 

観客の何人かが振り返る。

俺に気づいた顔が、露骨に歪む。

“よそ者”を見る目。

 

ブルーバードは、ステージの上からまっすぐ俺を見る。

「昨日、この街に現れた“挑戦者”」

 

空気が変わる。

熱が冷える。

 

「面白いでしょ?

 私の庭に、

土足で踏み込んできたんだから」

笑う。

でも目は笑っていない。

 

「ねぇ、耳付き。あんた――」

名前を呼ばれた瞬間、

視線が一斉に突き刺さる。

「覚悟はできてる?」そう聞かれた気がした。

 

ブルーバード

「昨日ね、ちょっとだけ走ったのを見た。

 面白い子だったから……」

 

「今夜、正式に“歓迎”してあげようと思って」

歓声が上がる。

意味を理解した客たちが、興奮で騒ぎ出す。

 

''歓迎''

この街での“歓迎”が何を意味するのか、

空気が教えてくれる。

ブルーバードの瞳は、もう切なくない。

 

澄んだ戦闘の目。

この観衆の前で、

この街の中心で、

私が負けるはずない。

 

そう言っている。

俺の背中に、無数の視線が刺さる。

 

逃げれば、笑い者。

受ければ、処刑。

 

タイニィの手が震えている。

「……断れません」

小さな声。

でも。

胸の奥が、静かに燃えている。

――最高だ。

そう思ってしまった。

 

沈黙の間が重たい

俺はタイニィにたずねた

「受けて立つってなんて言うんだ?」

 

タイニィは少し考えてから、ブルーバードの前に立ち、腰に手を当てて言い放った

 

「「''調子に乗るな!!''」」

 

店内が、凍る。

グラスを持ったまま、誰も動かない。

 

ブルーバードの瞳が、ゆっくり細くなる。

「……今、なんて?」

 

タイニィはハッとする。

顔が一気に青ざめる。

「ち、違うんです! えっと、その、あの、えっと――」

 

俺は意味が分からない。

でも空気だけは分かる。

やらかした。

 

観客のざわめきが、怒号に変わりかける。

「ナメてんのか!?」「よそ者が!」

ブルーバードはマイクを強く握る。

骨ばった白い指に、力が入る。

 

―数秒。

その沈黙が、やけに長い。

 

そして――

彼女は、ふっと笑った。

乾いた笑い。

「あはは……」

笑っているのに、目は冷たい。

 

「いいじゃない」

 

一歩、ステージの端まで歩み出る。

「そのくらい強気じゃなきゃ、潰し甲斐がない」

 

歓声が爆発する。

怒りが、期待に変わる。

 

ブルーバードは宣言する。

「今夜。メインレース。

 あたしとあんたの一騎打ちよ」

観客は完全に火がついた。

 

タイニィは震えている。

「ご、ごめんなさい……!」

 

俺はようやく察する。

たぶん、宣戦布告は済んだ。

しかも最悪の形で。

 

でも。

胸の奥が、笑っている。

これでいい。

中途半端じゃない。

完全な敵になった。

 




ブルーバードはこの街のカリスマです。
実力、人気、そしてショーマンシップ。
あの一瞬の視線だけが、少しだけ異質でした。
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