ゼロバンゲート re:スタートライン 作:茶坊主(ぽんぽん)
俺が誘導されたのは――
宿命なのだろうか。
大外、最外周のゲート。
ブルーバードは俺を一瞥し、
舌をちろりと出してみせた。
挑発でも、余裕でもない。
“勝つ側の人間”の仕草。
そして彼女は、当然のように最内周のゲートへ入っていく。
この街の女王が立つべき場所。
誰も異を唱えない。
耳が痛くなるほどのファンファーレが鳴り響く。
観客の熱が、波のように押し寄せてくる。
ここが――
俺のデビュー戦の舞台だ。
実況の声が響き、
ゲートが一斉に開いた。
――はずだった。
俺のゲートだけ、動かない。
「……っ!?」
一瞬の静止。
その刹那が永遠のように長い。
遅れて、金属が悲鳴を上げるように開いた。
タイミングを完全に失った俺は、
倒れ込むように前へ飛び出す。
芝が跳ね、視界が揺れる。
体勢を立て直す間もなく、
ブルーバードの背中は――
もう、はるか彼方に消えていた。
タイニィ
「ゼロさん!?
レディさん、ゲートがおかしいです!
やり直しですよ、やり直し!」
フェアレディ
「黙って!」
その声は鋭く、観客席のざわめきすら断ち切った。
フェアレディ
「ゼロ、この街のレースはあなたを歓迎しない。
さて――どう走る?」
祈るような声だった。
けれど、その祈りは“助け”ではなく、
“覚悟を問う声”だった。
実況
「先頭はブルーバード!
後続より大きく差を広げています!
勝敗は決したか!?」
――油断。
いや、そんな甘い言葉じゃない。
想像すらしていなかった。
俺はこの街じゃ、完全に“敵”だった。
同じ土俵に立てる保証なんて、最初から無かった。
諦めが胸に広がった、その瞬間。
視界が――クリアになる。
まだだ。
まだ終わっていない。
外ラチは完全に開けている。
俺の得意なコース。
誰にも邪魔されない、ただの一本道。
そうだ。
前だけを見て走れる。
実況
「ブルーバードの後方――
ゼロバンゲートが仕掛けてきた!!」
――
ブルーバード
「生意気ね。
せっかく負けた時の“言い訳”を与えてあげたのに……!」
奥歯を噛み締める音が聞こえるほどだった。
俺はブルーバードの背中を捉えた
まだ追える。
いや――追い抜く。
実況
「ブルーバード、どうした!?
ゼロバンゲートがすぐ後ろに迫っている!
レースは残りわずか!
女王対挑戦者、デッドヒートです!」
ブルーバード
「勝負……!?
こんなやつと、私が“互角”に競ってるですって?
冗談じゃない!」
喉の奥で噛み殺した声。
プライドが軋む音が聞こえる。
――何も持たない奴が、開き直って全力で向かってくる。
そういう連中を踏み台にして、
自分はここまで来た。
昼間は優雅な歌姫。
夜はレースの女王。
これは夢物語じゃない。
自分が血で勝ち取った“現実”。
なのに――!
実況
「ゼロバンゲート!
ものすごい勢いで二番手に追いついた!!」
ブルーバードの視界に、
ゼロの影が――ついに飛び込んできた。
ブルーバードの目が大きく見開かれる。
挑戦者を見下ろす目じゃない。
強敵を真正面から捉える――勝負師の目だ。
俺には彼女の表情までは分からない。
けれど、横に並んだ瞬間、
彼女のまとう空気が“変わった”のだけは分かった。
ブルーバード
「気が変わった。
――遊んであげる」
その一言と同時に、
彼女は足を“解放”した。
地面が揺れた。
踏み込みの衝撃が、空気ごと震わせる。
世界が――遅くなる。
風の流れが変わる。
音が遠のく。
視界の端で、ブルーバードの身体がしなる。
まるで、
ここからが本当のレースだと言わんばかりに。
刺すような気配。
背筋を撫でるような圧。
そして、恐ろしい…俺にとって覚悟を迫るほどの魅力。
来た――まただ、この感覚。
しっぽが、そそり立つ。
実況
「未だハナを走るのはブルーバード!
ゼロバンゲート苦しいか!?
最後の直線――ここで勝負が決まる!!」
ブルーバード
「目障りなのよ!沈みなさい!」
その声は、叫びではない。
命令だ。
女王が挑戦者に下す、絶対の宣告。
次の瞬間、
彼女は“最後の脚”を解放した。
地面を砕くような踏み込み。
脚がしなるたび、空気が震える。
――もう立てなくなってもいい。
そんな覚悟が、走りに宿っていた。
儚く、脆く、そして美しい。
まるで燃え尽きる寸前の炎のような末脚。
夜のレースの女王が、
自分のすべてを賭けて走っている。
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ゴールラインを――踏み抜いた。
会場が、街が、沈黙する。
一瞬の静寂。
世界が息を止めた。
実況
「ブルーバード……破れた!
最後に差し切ったのは――ゼロバンゲート!!!」
タイニィ
「ウソ……!?」
フェアレディ
「期待通り……ね」
次の瞬間、
興奮した観客がターフへ雪崩れ込んでくる。
観客
「すげぇぞ! 耳付きの兄ちゃん!!
こいつは奇跡だ!」
「女王に砂をつけやがった!!」
「祝杯だ!!」
歓声が爆発し、
夜の街が揺れる。
ゼロの勝利が、
この街の“物語”を変えた。
ブルーバードの実力ですが、かなり上位に設定しています。
この街の歌姫でありながら、
勝ち続けることで支配もしていた。
敗れた彼女はこのあと、どうなるのでしょうか?
そして、ゼロの運命は?