ゼロバンゲート re:スタートライン   作:茶坊主(ぽんぽん)

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第9話

フェアレディはワインを飲み干し、

静かに返事をした。

 

フェアレディ

「わかった。考えといてあげる。

 場所を教えて。

 後で私が直接、返事をしに行くわ」

 

セドリック

「そう言ってくれると思ってたよ!

 じゃ、ここ。

 できれば早く返事してくれよ!」

 

セドリックは紙切れをそっと差し出し、

そのまま横柄な態度で店員を呼びつけた。

 

―― 一方その頃。

 

俺はタイニィに手を引かれ、通りを歩いていた。

 

ゼロ

「何か食べたいものある?

 お金、もらったでしょ?」

 

タイニィは黙ったまま。

返事をしない。

その沈黙が、妙に胸に刺さる。

 

そんな時だった。

 

通りの先に、ウマ娘が二人。

道を塞ぐように立っていた。

 

???

「あー、あなた、噂の耳付きでしょ?

 私、フィガロっていうの。こっちは――」

 

???

「オーラだ。

 どんな凶悪なやつかと思ったら……

 なかなかどうして、可愛い顔してるじゃないか」

 

フィガロ

「オーラ、そっちのおチビじゃなくて隣のお兄さんな。

 ねぇ、今から私たちと遊ばない?」

 

挑発的な笑み。

軽い口調。

けれど、その奥には隠しきれていない”匂い”があった。

 

――間違いない。

さっきセドリックが言っていたウマ娘たちだ。

 

タイニィの手が、ぎゅっと俺の袖を掴んだ。

その指先は震えていた。

 

---

フィガロと名乗ったウマ娘は、

胸元の大きく開いた服をわざと見せつけるようにして、

挑発的な笑みを浮かべた。

 

フィガロ

「ねぇ、速いんだって?

 どれくらい“やれる”のか、興味あるんだけど」

 

オーラ

「おいおい、昼間から飛ばすなよ。

 長い付き合いになるんだ。

 まずは挨拶だけでいいだろ?」

 

止めるように見えて、

オーラの顔もどこかニヤついている。

 

二人の言葉の意味はよく分からない。

けれど、

何か下品なことを言われている

ということだけは、はっきり感じた。

 

タイニィに通訳してもらうべきか迷っていると――

 

タイニィ

「アンタたち……最低!!」

 

怒号が響いた。

 

俺でも分かる。

タイニィが今まで一度も使ったことのない、

強い言葉だった。

 

フィガロとオーラは目を丸くする。

 

フィガロ

「は……?」

 

タイニィは肩で息をしながら、

二人を睨みつけていた。

その瞳は、怒りと悔しさで潤んでいる。

 

オーラ

「こりゃ、やられたな。

 耳付きよりも、このおチビちゃんの方が強そうだ」

 

フィガロ

「ふん! つまんない!

 まぁいいわ。レースで会いましょ!」

 

二人は踵を返し、軽い足取りで去っていった。

 

――俺は、タイニィに守られた?

 

ゼロ

「……タイニィ?」

 

タイニィは震える声で言った。

 

タイニィ

「ゼロさん、あなたも最低です」

 

胸に刺さる言葉だった。

 

タイニィ

「女の子にチヤホヤされたら、嬉しいんですか。

 男の人ですもんね」

 

その声は怒っているようで、

でもどこか泣きそうだった。

 

タイニィ

「レースではすごい人だと思いましたけど……

 見込み違いでした!」

 

言い終えると、彼女はぎゅっと拳を握りしめた。

肩が震えている。

怒りだけじゃない。

悔しさと、悲しさと、

そして――”何かに”気づいてくれないことへの寂しさ。

 

俺は何も言えなかった。

自分が何をして、何をしていないのかすら分からないまま、

ただ立ち尽くすしかなかった。

 

どうやら、タイニィの機嫌を直すには――

レースで挽回するしかなさそうだ。

 

言い訳も、説明も、通じない。

彼女の怒りも、悲しみも、

全部まとめて受け止めるには、

俺がやるべきことはひとつしかない。

 

俺はトレーニングウェアのジッパーを、

ぐっと引き上げた。

 

胸の奥に残った痛みを押し込むように。

タイニィの言葉が刺さったまま抜けない。

でも、それでいい。

 

走るしかない。

走って、結果を出して、

それでようやく――

タイニィに向き合える気がした。




ゼロはタイニィに嫌われたくないと思っています。
しかし、タイニィが何に腹を立てているのか分かりません。

女性はおろか他者との関係も希薄だった彼にとって、
タイニィの心が何を求めているのか、
気づくのは至難の業なんです。

彼の決心がどこかズレているのは、そのためです。
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