4月の中旬、上城渚は私立
すると、周囲が騒がしくなってきた。近くにいたやる気のない男性2人がその光景を見て確認のように声を出した。渚もつられて見ると、先ほど彼が己刮学園高校の正門近くで見かけた少女のようだった。何かを諦めたような表情で駅の近くのビルの屋上に立っていたのだ。これから彼女の行う行動を思い浮かべたのか、苦い顔をしながら女性が飛び降りるのではないかと話す。
「…ん、なんだあれ?」
「屋上に…人?」
「やだ… もしかして、飛び降り?」
その後、彼女は飛び降りた。不幸中の幸いというべきなのか、ビル自体が小さかった為、生命を奪うまでには至らなかった。しかし、それを目撃した駅の人々の反応は軽々しいものだった。
「…あーあ」
「まぁ…けど、あの高さなら助かるんじゃね?」
「でも気持ちわかるー、生きててもイイことないし…」
「つか、動画撮っときゃよかった…」
彼らの反応には、「違和感」があると渚は感じていた。とても恐ろしく奇妙なものとして心に残ったのだ。それと同時にこの世界そのものへの「違和感」がすべて
あの子のことは自分には何もできないだろう
そんな考えが頭に浮かんだ。あまりにショッキングな場面に出くわしたからか頭痛を感じた渚は、早く家に帰ろうと電車に乗り込もうと足を進める。途中、どこからか少年のような、少女のような誰かの声が聞こえた。
「『盗られて』いながらも己の意志に疑問を抱くことができる、か。フフ……見つけたぞ」
瞬間、上城渚の脳内に溢れ出した────
『お願い!あたしの「コーチ」になって!』
『行ってくるね、コーチ!』
『未来のあたしが、全力で野球を楽しむには…まず、みんなが幸せな未来が必要なの!』
『か、からかってるわけじゃ…ない、んだよね…!?……えっと、その……、嬉しい』
『私とデートしてくれない? 今から』
『だって、私にとって貴方は…。 …ねえ、貴方は…私の口から言わせたい言葉ってある?』
『キミ…、上城渚くん?ここの花屋にバイトで新しく入った子だよね。…ああ、やっぱり。ボクもここでバイトしてるんだ。』
『今日の勝負で確信した。お前は俺の求めていた実験体だ。 俺の実験に協力してくれ。相応の見返りは用意するつもりだ。』
『渚さんのこと、今度から「お兄様」って呼んでいいですかぁ?』
『キミ、モクテルの試飲してくれないかな?』
『危ないことは…してないよね?渚くんに何かあったら、私…』
『答えろ、明石!オマエの言う「あの人」とは何者なのだ!?』
『今夜こそ煮卵とチャーシューが…じゅるり。いいか、必ずワシも連れていけよ。忘れるでないぞ、渚!』
『自分で餌を用意して、コソコソ隠れて他者を貪ることしかできない貴方なんかに…これ以上人の心を食わせない。これ以上、人の欲望を奪わせないっ!!』
『キミのこと、忘れたくない!!』
『喜びたまえ、加納駿クン!君はたった今「公式ファントム認定」された!味もわからないくせに、難癖をつけて回る炎上暴力少年ってね!あははははは!』
『ファン…トム…、俺が…?』
『オマエ、まさか…ワシらには見えない何かが「視えて」いるのか?』
「やっぱりオマエでよかったんだな…」
渚は自身の目の前の席に止まるフクロウ…ルフェルを静かに見やる。
「約束通り、会いに来てやった」
渚はスマートフォンを起動させ、すぐに顔を顰めた。今朝消したはずの赤い目が特徴的なアプリが存在していたからだ。
「ひとつ忠告してやるが…」
ルフェルに目を向けつつ、
「見えてないってことと、元々備わっていないこととは別モノだ」
「ワシにはお前が前者であってほしいと願う欲望がある」
瞬間、電車内にサングラスとマスクで顔を隠し、自転車で猛スピードで突っ込んで来た青年──素性を隠した担任の片山久美、暴走ライダーとして公式ファントム認定がされている──がこちらへ向かってきた。
渚は慌てたフリをして、意図的に赤い目のアプリを起動させた。異世界に入る中で、渚は1人、覚悟を決める。
もう、誰も殺させるものか。このループを終わらせる方法を探らなければ。