あたしはシッポウシティに飛んできた。
正直無視したい。行きたくない。
けど……あたしに逆らう権利はない。
「……アデクさんから話は伺ったわ。
マリネット、大変なことに巻き込まれちゃったのね……」
あたしの姿を見たアララギが思ってもいないことを言ってくる。
どうせイベントだろう。そうでなくても、アララギだ。
あたしの言葉なんか求めてない。アララギが求めてるのは……自分に都合のいい返事だけ。
図鑑を押し付けられた時のあの言葉……未だに覚えてる。
『もう! わたしが聞きたいのは世界を切り開く勇気ある言葉だけなの!!
マリネット、貴方にもいろんなところにでかけ、このイッシュ地方すべてのポケモンに出会ってほしいのよッ!』
アララギは少なくとも、あたしの事を都合のいい返事を求める道具としか見てないだろう。
残りは……アララギ父、ベル、アデクと……奥からアロエが出て来た。
「これかい?」
「それって……リゾートデザートで見つかった古い石じゃあ」
アロエが見せて来たのは……かつて博物館であたしが無理矢理案内された時に見せられた「とてもキレイですので展示しております」とか言ってた古い石だった。
「ああ、そうだけど本当にドラゴンポケモンかい?」
アロエは半信半疑だ。そりゃそうだろうな。
砂漠近くで見つかったガラクタって事だったし。
「うむ……! リュウラセンの塔を調査したところ、このライトストーンと同じ時代を示す成分が含まれていたんだよ」
「……と言う事を、わたしが調べたのね」
「さすがだね」
あたしは蚊帳の外だ。
まあイベントの会話にあたしの意思は関係ないんだろうな。
「それにしてもお、あの時プラズマ団がその古い石に気づかなくて良かったですねえ」
「そうだね。今考えるとあいつら、伝説のドラゴンポケモンを復活させるつもりでドラゴンのホネを奪おうとしたんだね」
会話の中身はあたしには一切関係ない。
そのはずだった。
「じゃあマリネット、これを……」
「は? まさか……あたしに押し付けるつもりかよ?」
アロエは、よりによってあたしにライトストーンを渡そうとしてきた。
ライトストーンとか言ってるけど……間違いなく、あたしを英雄に祭り上げるための呪物だ。
要らない、受け取るなんて絶対に嫌だ。
(……ここまで来ておいて今更何を。必須イベントですよ?
……まあ、そこまで嫌ならば、言うだけ言えば良いじゃないですか。無駄ですけどね)
トウコの声が、言うだけ無駄だと冷淡に告げてくる。
……体を奪って無理やり受け取るくらいやってきそうなものなのにな。
どうせ結末が決まってるから無駄な足搔きを見てあたしの事笑ってやろうって事か?
「ちょっと待つんだマリネット!
そのライトストーンを手にするという事はわしになにかあったときNと戦うという事だぞ。
それでいいんだな?」
「良くねえよ! あたしはこんなもの要らねえ!
英雄になるなんて御免だ!」
その瞬間、ここに居る連中の目が変わったような感じがした。
驚愕なのか失望なのか怒りなのか……そんなもの知るか!
そんなこと今のあたしにはどうでもいい!
「では、Nの望む世界……ポケモンとトレーナーとが切り離される世界を待つのか?」
「勝手にすればいいだろ、そんなもの! あたしにばっかり押し付けるな!
あたしばっかり巻き込むな!
あたしは……お前らの都合のいい暴力装置じゃねえんだよッ!!」
後の事も何もかもどうでもいい!
どうせあたしの体はいつだってトウコが奪える。
もうあたしには未来なんか無いんだ!
自由だってどこにも無い!
だったら! 言いたい事滅茶苦茶にぶちまけたっていいだろ!?
お前らなんか! アルセウスのシナリオに沿って操られてるだけのラジコンなんだから!
「それでも……それでもだ! 頼む!
いざ! というときのためストーンを受け取ってくれい!」
「嫌だよ! 何度だって言ってやる!」
「それでも……それでもだ! 頼む!
いざ! というときのためストーンを受け取ってくれい!」
「都合が悪くなったらすぐそれか! あたしが頷くまで何度でも繰り返すってか!?
お断りだよ! 勝手に倒されるなら倒されちまえ! あたしはそんなことどうだっていいんだ!
どいつもこいつも! アルセウスのシナリオのラジコンだからってあたしの事好き勝手に使いやがって!」
誰が言うこと聞くか!
誰が頷いてやるか!
(……無限ループになるだけなのに。あまり時間をかけるなら、体を奪ってでもはいと言わせますよ?)
「煩い寄生虫が! あたしの中から勝手に体奪えるからって偉そうに!
外に居るならお前の事ぶっ潰してやれたのに!」
(……何ですか貴方? ようやく素直に言う事を聞いたと思ったらいきなり言いたい放題ぶちまけたり……。
頭冷やした方が良いですよ?)
黙れ寄生虫! 誰がお前の話なんか聞くかよ!
そんなにこの石取らせたいならお得意の力であたしの体奪えばいいじゃねえか!?
(……どうしようもなくなれば、仕方ありませんね)
「マリネット! この石は人とポケモンが手を取り合う未来を守るための石なのよ!
それを受け取らないなんてどういうつもりなのッ!」
(……え? アララギ博士が説得を?
こんなシーンは……無限ループでアデクが延々とさっきの台詞を……異常が?)
「だったらチェレンにでも渡せよ! それともあたしが渡してやろうか!?
あたしは!! こんなもの持って人とポケモンの未来を守るための生贄になる役目なんてお断りだ!!」
あたしは英雄でもなんでもない!
毒電波が! 毒電波を操るアルセウスのシナリオが!
勝手にそう決めただけなんだ!
「マリネット……本当にそれがお前さんの本心なのか?
お前さんだって、本当は人とポケモンが共に暮らす未来を守りたいと思ってるのではないかね?」
「あたしの考えを勝手に決めつけるな!!
あたしは! 自由に生きたかっただけなんだ!
それを! お前等シナリオのラジコン共が!
権力と力と通行止めで!!
無理矢理従わせてきただけだろうがッッ!!!」
この旅の中にあたしの自由なんてどこにも無かった!
あたしの行動は全部管理されてて、余計な所に行けないように徹底的に塞がれて!
少しでも逆らえば無理矢理従わせる!
その上最後はあたしの体も奪われるんだ!
仮にラジコンとしてその人とポケモンが共に暮らす未来とかいうのを守ってやったところで!
あたしには! その世界で自由に生きる資格も権利もない!
用済みになったあたしはトウコに体だけ奪われて一生幽閉されるんだからな!!
「マリネット落ち着きな! さっきから聞いてればアルセウスのシナリオのラジコンとかわけのわからないことを……。
アンタは一体何の話をしてるんだい?」
「今更人間のフリしたって無駄なんだよシナリオのラジコンが!
よくも人間のフリしてあたしの事無理矢理従わせてくれたな!?
あたしは、セッカシティとリュウラセンの塔で思い知ったよ!
この世界であたしが人間だと思ってたものは全部!
全部!! 全部ッ!!! 全部ッッ!!!!
シナリオに作られた言葉しか話さない!
シナリオ通りのメッセージしか言わない!
シナリオ通りのリアクションしか取らない!
そもそもあたしの言葉は一切通じないラジコンだったってな!!!
今更慌てて人間のフリしてもな……あたしはもう騙されねえ!」
あたし以外は全部作り物だったんだ!
あたしの親も! こいつらも!
出会った人間全員……!
全員、人間のフリしてあたしの事を都合よく操るために監視してやがるんだ!!
あたしがこの一本道から逃げ出さないように!
あたしがお前等とシナリオにとって都合のいい暴力装置として働くように、ずっと監視してやがった!
「……マリネット、お前が何を知っているのかは分からん。
だが今必要なのはお前がライトストーンを受け取り、わしが万が一Nに負けた時に最後の希望を繋ぐことなのだ。
例えわしが負けたとしても……人とポケモンが共に暮らす未来を、プラズマ団に奪わせるわけにはいかん。
だからこそ、お前にライトストーンを託すのだ」
「だから、なんでそこであたしなんだよ……!
チェレンじゃ駄目なのか!?
あの毒電波の妄言を真に受けて、あたし以外じゃ駄目だって決めつけてるのかよ!!
偉そうな事言ってるくせに、結局毒電波やプラズマ団の言いなりになってんじゃねえか!!」
毒電波があたしを指名したからとか言うつもりかよ!
だからあたし以外では使えないってか!?
「……チャンピオンとして情けない事を言っているのは十分承知している。
だが、わしはイッシュのチャンピオン。
イッシュを守るために、出来る限りの手を尽くさねばならんのだ。
それが……Nやプラズマ団……。敵の言葉を真に受けて信じ切るような情けない保険であろうとも……。
Nはマリネットならばレシラムに認められて英雄になれると言っておった。
それはつまり、マリネット以外ではたとえライトストーンを持っていたとしてもレシラムを目覚めさせられないということではないかね?」
「だから、それもこれもアルセウスのシナリオでそう決まってるからで……!!」
シナリオでそう決まってるから。
だからあたし以外では仮にライトストーンを押し付けられてもレシラムを目覚めさせられない。
英雄になれないからNに勝てず、プラズマ団の理想が実現する。
そう言いたいのかよ……!!
「……結局あたしは、シナリオ通りのラジコンになって生贄になるしかないってことかよ」
馬鹿馬鹿しい。最初から決まってるんだ。
だからトウコは「無駄ですけどね」と言いやがった。
どう抗っても、生贄以外の選択肢はあたしには許されていない……。
ああ……そうかよ……。
あたしは……この呪物を受け取らない選択肢は、選べない……。
「潰れちまえ、こんな世界。
お前等もトウコも邪神も何もかも……。
あたしを苦しめるためだけに存在するイッシュなんか……滅茶苦茶になっちまえばいいんだ……」
抵抗するのを諦めたあたしは大人しく呪物……ライトストーンを受け取る。
せめて……あたしの願いが呪いになって実現してくれないかと無駄な祈りを込めつつ。
「……すまぬ、押し付ける形になって。
みんなとポケモンが共に暮らせる世界……いざ、という時は守ってくれ!」
「……そうか。このライトストーンはいざと言う時にあたしらとポケモン達の真実の未来を守るんだね。
マリネット、大事にしておくれよ」
「無理矢理押し付けておいて、何がいざと言う時は守ってくれだ……大事にしておくれだ……」
この世界の真実は……あたしが生贄として捧げられる事が確定しているろくでもない世界だよ。
真実の未来? はっ……あたしの屍の上にお前等だけ仲良く楽しく暮らしましたみたいなハッピーエンドでも期待してんのかよ。
一人残らず死んでしまえ、ラジコン共。
「……で、どうすればストーンからドラゴンポケモンが目覚めると言うのかね?」
呪物さえあたしに押し付けたら後はイベントだからってか、淡々と話が切り替わる。
「そうだよ! あいつらが居るじゃないか」
「そうか、あいつらがおったな。マリネット! ソウリュウシティに向かうぞ。
あの街のジムリーダーはドラゴンポケモンの使い手、何か知っているかもしれぬ。
先に行って待っておるぞ! ではな!」
そして、勝手にあたしの行き先も決められる。
満足か? あたしの事を徹底的に苦しめられて。
「そっか! ソウリュウのシャガさんなら何かご存じかも!」
「マリネットよ、お前さんのすぐ隣にはいつもポケモンが居る事忘れるんじゃないよ」
「ドラゴンポケモンがどのような存在なのか、めざめさせる方法があるのか調べるため、わたし達は研究所に戻るわね……」
イベントは終わりだ、とばかりに皆退場していく。
さっきまでの事は無かったように。
「安心しな! アンタに何かあればあたし達が駆け付けるからさ!」
来なくても変わらねえよ。
どうせこの世界はイベントで結果が決まってるんだ。
あたしの体は必ず勝つんだろ?
あたし以外要らないじゃないか。
「……なんだか大変そうって事しかわからなかったんだけどお。
マリネット、ソウリュウシティは分かる?
セッカシティからシリンダーブリッジを渡った先にあるんだって。
今の説明で良く分からなかったらタウンマップを見てね……」
ベルを無視して、あたしはセッカシティに飛んだ。
旅の終わりが、あたしが英雄として生贄に捧げられる時が、刻一刻と迫ってくる。