ライトストーンを押し付けられたあたしは8番道路へと向かう。
勝手に決められる目的地。
生贄にされるまでの時間がもう残り少ない事は分っている。
それでも……あたしは進むしかない。
トウコに体を奪われて生贄にされるか、あたしが自分から生贄になるか。
あたしに残された選択肢はそれしかないんだ。
「マリネット!!」
「なんだよ……またイベントか。
ああ……鬱陶しいな、ホント……」
セッカシティの北から進める8番道路の出口にあるゲート。
その手前で、どうやって追いかけて来たのか……ベルがあたしの邪魔をする。
「最近ね、あたしいろいろ考えるんだ。
旅をして自分がなにができるか、なにをやりたいかなんだけどお。
カミツレさんのようなステキなモデルもあこがれるし、アララギ博士のようにポケモン研究もしてみたいなって思うし……。
でもそれにはやっぱりポケモンに詳しくないとね、というわけで勝負して」
「……死ねよ、お前。ホントさ……死んでくれないかな! マジで!!」
最後の最後まで、こいつは自分の身勝手な都合だけを押し付けに来たらしい。
そういうラジコンだって分かってる以上怒るだけ無駄なんだろうけど、それでもあたしは言わざるを得なかった。
この怒りすらも失ったら、もうあたしには何も残らない。
「ムーランド!」
「行けデンチュラ!」
……ベルの先発を見ただけで分かる。ハチクよりも強い。
これでもこいつは「わたしはあんまり強くないからあ」とか寝ぼけたことを言いやがるのか。
「マリネットとチェレンが何とかしてくれるから!」とか言いやがるのか!!
「『ボルトチェンジ』!」
「『ふるいたてる』!」
先発にして戦わせてるけど、弱いデンチュラでは勝てない。
鍛えてもらったポケモンでやらないと。
「へえ! その技を選ぶんだ!」
「流石ラジコン……何も感じないんだろうな」
あたしのムーランドは、それでもベルのポケモンより強い。
「『かいりき』!」
「あっ……次! ジャローダ!」
「交代! エンブオー!」
即座に交換、エンブオーで叩き潰す。
あたしのやることは変わらない。
敵は叩き潰す。それだけだ。
(ちょっと、自分がポケモンにつけたニックネーム忘れるのは酷くないですか?
確かポークでしたよね?)
「黙れ寄生虫……ニックネーム? そんな物、もうどうだっていいんだよ……」
ニックネームなんか、何の意味も無い。
こいつらはあたしと同じ。
あたしがトウコやアルセウスのラジコンなら、こいつらはあたしのラジコンだ。
あたしの手持ちなんかになってしまったから、あたしと一緒に生贄に捧げられる……そんなポケモン。
「ジャローダ『とぐろをまく』!」
「『かえんほうしゃ』!」
ジャローダが燃え尽きてベルが次のポケモンを出す。
あたしは迷わずデンチュラを出す。
出て来たヒヤッキーに即座に攻撃を叩き込む。
「死ね!『10万ボルト』!」
「ヒヤッキー、戻って! ムシャーナ!」
「『シグナルビーム』で叩き潰せ!」
しぶといけど、それだけだ。
あたしのポケモンに攻撃するよりも準備を優先してくる奴。
準備が整う前に、叩き潰せば終わる。
あたしが負けるわけがない。
あたしは勝つように出来てるんだから……。
シナリオがそう決めてるんだから……恐らく負けたくても負けられない。
「うん! マリネットはすごい!
あたしものすごーく感動したからこれあげるね」
何が感動したのかさっぱりだが「かいふくのくすり」を渡してきた。
イベントなんだろ? どうしてラジコンがそう思うのかは理解できない。
返事の必要もない、何を言っても響かない。
あたしと同じように人間の形してるけど、ラジコンは人間とは違う生き物なんだから。
「……あたし、ヒウンシティでだいじなポケモンをプラズマ団に奪われたことがあるでしょ。
だからすごくわかるの!!」
「……ああ、そうか。お前ら人間じゃなくてラジコンだから、シナリオの設定通りにプラズマ団って言うのか……。
なるほどな……あの強盗の正体もプラズマ団だって……。
トウコの言葉が正しかったって事か……」
目の前のラジコンが語るのがこの世界のシナリオの台詞。
つまり……あたしが戦わされたヒウンシティの強盗がプラズマ団だって、答え合わせしてやがるのかこいつ。
「プラズマ団がムリヤリポケモンを解放したら悲しむ人ばっかりだよ!
マリネット! プラズマ団をとめて!!
ポケモンが大好きな人からポケモンを奪われないようにして。
それがマリネットが求める真実とか理想だとおも」
「いつもいつも!! あたしの都合も考えずに勝手な事ばっかりッッ!!!
いい加減にしろッッ!!! 死ねッッッ!!!!!」
ラジコン相手なら殴っても問題ないんだろう。
そう思うと、勝手な願いばっかり押し付けるベルに対してもう抑えが利かなかった。
気づいたら……あたしはベルの顔を思いっきり殴り飛ばしていた。
けど……殴り飛ばされたベルは、何事も無かったように立ち上がる。
全力で殴った筈の顔にも、傷1つついていない。
「それがマリネットが求める真実とか理想だとおもう……。
ごめんね……大変なのにわざわざこんなこといいにきて」
(貴方正気ですか……? ベルを全力で殴り飛ばすなんていくら何でもやりすぎです。
ここがセッカシティとリュウラセンの塔から近くて、アルセウス様の力に満ちているから何事も無く終わって良かったものの……。
こんな場面誰かに見られたらどう言い訳するんです?)
「……やっぱり、人間じゃ、ないのか」
殴られたベルは痛いとも何とも口にしないし反応すらしない。
殴られたこと自体分からない、というより殴られた時の反応が存在すらしないようだった。
やっぱり……人間じゃないんだな。こいつらは……。
「……狂ってやがる。本気で顔面殴ったのに無反応かよ……。
そっか、人間は……あたししかいないのか……」
「本当はマリネットのことリラックスさせるつもりだったのに……でもマリネットならだいじょうぶだよ。
うん! 絶対に大丈夫! あたしが保証してあげる!
だからうん……うまくいえないけどバイバーイ!!」
ベルは……いや、ベルの形をしたラジコンは何事も無かったようにあたしの前から立ち去っていく。
さっきまでベル相手に抱いていた抑えきれない怒りも何もかも、全て消えてしまっていた。
アルセウスのラジコン……人間そっくりの化け物の不気味さへの恐怖心だけが、残る事になった……。